第48話 解体完了
吊るされていたその子は、随分と小さくなってしまった。
最初は、まだ微かに息があったのに、ビーンと縦に伸びて、細かった。
そこから血を抜いて、全体的にもっと細く……と言うより、内部に余白がある様になった。
そして今度は、毛皮を剥がして、得物は益々小さくなった。
──そんな工程を経て、露出された肉は……それはもう、綺麗だった。
ぷるぷるで、つやつや。
俺には、その表面が光っていると錯覚するほどに、輝いて見えた。
「……よし。ここまでくれば、後は簡単だ。身体を部位ごとに分けて……」
そう言いながら、セルグは吊るし台からその子を下ろした。
そして、隣の台の上に寝かせて、大型刃物を持ち出す。
……まずは、頭からだった。
────ダンッ。
男は大きく振りかぶり、それを振り下ろす。
切る、というよりは。
まるで叩くとか、打ち付けるような、そんな感覚。
それを、まだ少し皮の残っていた頭部と、胴体とを、断ち切る為に行った。
すると、頭と胴は、いとも容易く……とはいかなかったものの、一応は分かれた。
「頭を落とした後は、こっちの胴体だね……」
切り分けた頭部を、上を向くように台の上に置き直し。
今度は、切り離した胴体の方に、男は手を伸ばした。
……まずは、ソレの後ろ脚を両側に引っ張る。
その内の片方は、セルグが力任せに引っ張った結果。
ゴリッという音と共に、離れていった。
しかしもう片方は、ある程度引っ張っても分かれなかったようで。
途中で、刃物を振り下ろし、強引に切り離していた。
「……。」
そして、最後に男は、前足を引っ張った。
だが、こちらは両方とも、力任せにすることは無かった。
右側を軽く張ってから、その根元に切り込みを入れる。
胴側から見て、ハの字になるように。
それを両側で行うことで、胴の部位は遂に、五つの肉塊に分かれていた。
「──とまあ、今はこんな所かな。残りは、実際に食べる時に切ろうか」
セルグはそう言って、手に持っていた刃物を、腰に収めた。
──そして、彼の前には。
たった今分解された、得物の死体が、並んでいた。
器に残った、内臓の一部。
まだ少し肉や、所々白いものが残った、血の付いた毛皮。
天を向いて、立てられた頭部。
そして、前足、後ろ足、胴体の五つに分かれた、肉塊。
……どれくらいの時間が経ったのかは、分からない。
しかし、この男は確かに、あっという間に解体を完了させたのだった。
「────。」
俺は、目の前に置かれたそれらを見て、何と言葉を発せばいいのか分からなかった。
綺麗だったし。
触ってみたかったし。
凄かったし。
変な匂いがしたし。
珍しかった。
俺は今、生まれて初めて、生きていた状態の生き物を、ここまで解体する過程を目の当たりにした。
それらは総じて、興味深く、自分には直ぐには真似出来ない芸当だった。
セルグがこの場所で、長く生きてきたからこそ出来る、所作であり。
まだ自分には理解できなかった工夫も、あったのだと思う。
……。
……。
……。
……しかし、だけれど──。
「どうだったかな? オメガちゃん。初めて見た解体の感想は?」
セルグは、桶の水を掬い、それを手に掛けていた。
きっと、血や土で汚れてしまった手を、洗っていたのだろう。
……そう思いながら俺は、彼の方を見たが。
既に、桶の中の水は、殆ど残っていなかった。
また、あの川の水を、汲みに行かなければいけないのかもしれない。
「……感想……凄い、と思った」
俺は、少しばかり────弱めの声音で、答えた。
何故なら、俺がそう思った事に対する自信が、まだ無かったから。
確証がなかった。
「! おぉ、そうかい。君みたいな子が動物の解体を初めて見て、そんな感想を抱いてくれるなんてね……あっ、そうだ。もしオメガちゃんが良かったら、次得物が捕れた時は、少し解体をやってみるかい?」
「……うん……」
──だが、やはりどうしても、思ってしまうのだ。
得物を捕り、血を抜いて。
一つ一つ工程を踏み、解体をして。
血や、内臓や、皮や、肉などを、それぞれの用途に合わせて使う。
……それらの用途先を、俺はまだ食べること以外では、感覚でしか知らないが──。
……。
……。
────やはり。”凄い”労力の無駄では、無いのかと。




