第47話 剥けた姿
血を抜いて。
腹を割き、その中身を露出させた後。
セルグの行動は、早かった。
腹の前に刃物を構えて、上と下と、その他一部に切り込む。
……すると、中から袋や管の肉の塊が、わらわらと零れてきた。
────モチャ、っと。
「……疑問。……それは、何?」
「ん? これは──『内臓』、だよ。血を抜いた後は素早くこの部分を取り除かないと、肉がダメになってしまうからね」
「……。」
内臓、つまり臓器というわけだ。
なるほど、これがそうなのか。
……なら、本物の。
生の臓器が、体内に収まっていたところを、俺は初めて見たかもしれない。
「質問。これ、取ったやつは……どうするの?」
「うーん、そうだねぇ……こっちの小さいやつと、この横に膨らんでいるのは食べられるから、後で料理するかな。他の部分は食べられないことも無いけど、美味しくないからそれ以外に利用したりするんだが……」
男は、零れ出た内臓を木の器に移してから、そう説明していた。
ぶよぶよと揺れる器の中に、指を入れ、これは……これは……と、俺に用途を教えてくれる。
──しかし、そんなセルグの指は、内臓の血で赤く染まっていた。
それを見た俺は、あぁこんな事ばかりをしているから、あんなに手袋が汚れていたんだなと思ってしまった。
「……まあ、今回のは比較的小さな得物だったし、後で森に返してくるかな。内臓は腐ると強い匂いが出るから、野生動物が小屋に近づかないように遠くに捨ててくるんだよ」
セルグはそう言いながら、臓器の一部を取り出して。
その残りを、吊るされた得物の下の、桶に入れていた。
……先程、この子から零れた血を溜めていた、その桶の中に。
「──さて、それじゃあ次だ。こうして内臓を取り出した後は、血や泥で汚れてしまった部分を軽く洗って……皮を、剥いでいく」
男は、数十時間前に一緒に汲みに行った川の水を、手で掬って。
それを得物に掛けながら、所々汚れていた部分を洗っていた。
……そして、先程血を抜くために入れた首元の傷口を、更に広げる。
しかし、それはただ深くしたのではなく……どちらかと言えば、伝わせていた。
その子の首の周りを、軽く一周。
一本の線で繋がるように、切り込みを入れていた。
「……。」
俺は、セルグのその工程を、静かに見ていた。
男は続けて、手足の先にも、同じような切り込みを入れる。
そして、その後──喉元に作った傷口の端を持って、その子の体表を剥がし始めた。
「──!」
それは、思っていたよりも、勢いのあるものでは無かった。
傷口の端に沿って、男は毛皮を引っ張る。
すると、白い糸のようなものが伸びて、身から皮が離れた。
……そしてセルグは、その線を切るように刃を入れて、また少し皮を引っ張る。
────ペリッ。
────ビッ。
────スゥー。
────ペリっ。
そんな工程を、男はただ繰り返す。
首から、胸にかけて。
少しずつ、少しずつ、剥がしていく。
時々刃を立てて、必要なだけ切り込みを入れて、ゆっくり丁寧に。
俺は、それを見て……こうした行為は、もしかしたら毛皮を傷つけない為の、セルグなりの工夫なのかもしれないと思った。
男が毛皮を剥くのが、遅い理由。
それは、彼の技術が乏しいからではない。
寧ろ、きっとそれなりに高いものなのだろう、それだけ手先に迷いがない。
そして、その毛皮には、この後に別の用途がある。
だからこそ、皮も、身も、どちらも傷つけないように。
その為に、セルグは慎重に事を進めているんだ。
「……。」
俺は、そんなことを考えながら。
引き続き、男の手の動きを見ていた。
……すると、ものの十数分。あっという間に、その子の体表は全て剥けていた。
「──賞賛。……凄い、綺麗」
吊るされた得物は、完全にずる剥けていた。
それを見て、俺は素直にそんな感想が漏れる。
……それは、セルグ自身の技術に対するものが、半分。
そして、もう半分は。
毛皮が無くなり、その内側を露出された、その子に対する感想であった。
──得物の身は、綺麗な赤色をしていた。
所々、薄い桃色があって。
そして毛皮の下の皮や、膜のようなものが覆っているが。
それは、正しく──美しく剥けた、”肉”であった。
「え? ……あー、えっとー……それは手際、の事かな? まあね。なんせ長年、これだけを取り柄にやって来たから」
「……。」
俺は、吊るされた肉を見つめていた。
すると、セルグが隣で、何かを言った。
……しかし、今の俺には、そんな言葉は届かなくて──。
────只々、ほっそりとしてしまったソレに、見惚れていた。




