第4話 自分は何者か
水に濡れた寒さを忘れてしまうほどに、それは現実離れしていた。
水面に映る、本来は自分であるはずのそれが、全く別のものに変わってしまっている。
銀色の、まっすぐ伸びた長髪。
……元々は、少し茶の入った短い黒髪だった。
月の明かりが入ろうとも、ハイライトが全くない闇の瞳。
……流石に、死んだ目をしていると言われていた俺でも、瞳孔の区別くらいはあった。
そして何も身に着けていない、どこか生気の感じられない肌艶の女。
……少なくとも、俺の身体的特徴は男であったはず。
今、眼下に映るその全てが、俺の思っているもの、想像している映像とは全く違うものになっていた。
……一体、これは誰なんだ。
見たところ、これまでに出会ってきたどの人種にも属さない。
しかし、だからと言って国籍を問われても答えようがない。
いわば、この者は人の形をした、人類に区分されないナニカ。
……それに────”コレ”は、何だ?
観察の為水面を更によく見てみると、その者の身体から何か黒い……靄、のようなものが出ていた。
湖自体が黒く濁っているし、月明かりしかないこの状況では分かりにくいが、確かにこの者の全身からどす黒い気体が溢れ出している。
禍々しく、蠢いて、生き物のよう。
光すら飲み込むような、まるで闇のような虚ろ。
この者の、正体は……。
──いや、この者、ではない。
自分の身体だ。
水面から持ち上げた腕、見下ろした胸や腹部、それらから黒い靄が立ち込めている。
……いや、待てよ。
この黒い霧のようなもの、さっき水中に潜っていた時に薄っすら見たような……。
──それに、今この周囲の森を覆いつつある黒いモノと、どこか似ている気がした。
「この女……いや、”俺”の身に何が起こった」
思わず、そんな言葉が口をついた……その時自分の耳に聞こえてきたのは、確かに幾分か低い女の声だった。
知らぬ場所、見知らぬ女、黒い霧。
何もかもが不明のまま、こんな場所に投げ出されると困惑や驚愕を通り越し、もはや諦めが出てくる。
どうせ、何を考えても無駄だろうというものが。
「──せめて、自分が何者なのかさえ、分かれば……」
そんなことを思いながら、俺は生理現象としての瞬きを行った──。
======
Lv.0
・名前 【オメガ】
・年齢 【0歳】
・種族 【瘴気─人型】
====
……特性 【侵食】【】【】【不干渉】【】【再定義】……
====
・スキル 【なし】
======
「────……は?」
目を開けると、薄ぼんやりと光る何かが現れていた。
四角い、画面のような、映像?
とにかくそれは、唐突に、自身の目の前に浮かんでいた。




