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異質なその者は、世界の常識を改変する。  作者: 久米鱈 鯛子


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第43話 睡眠


 ────。



 ……。



 ……。



 ……。


 ──意味も、無く。


 ……本当に、全く無意味に。


 俺は、『睡眠』という行為に集中していた。


 明かりの無くなった、真っ暗な部屋。


 ほんの僅かな耳鳴りがするだけで、特に音もしない。


 そんな中、俺はベッドの上で横になり、布団を掛けて──ただ、目を閉じている。


 眠っている……という感覚は、全く無い。


 意識はハッキリしていて、常に聴覚や触覚から周囲の情報が送られ続けている。


 脳が……休息というものを、必要としていない。


 ────。


 ──いや、それとは少し違う気がした。


 脳みそや、それを含めた身体機能が、休息では無く────睡眠を用いた、休みを必要としていなかった。


 身体が、補給や休みといった、その類を必要だと言っていない。


 訴えかけてこない。


 ……何故なら、それは──少し前に、”既に行ったから”である。


 エネルギー補給なら、活動のために必要な栄養源なら、先程()()にて行った。


 ……故に。

 今の俺に、睡眠も……このベッドも、必要では無い。


「……思案。……眠れない」


 変わらず、ずっと目を瞑ったまま、俺はそう思っていた。


 必要の無い休息、故に眠れない。


 そして、眠ることも出来ないのにベッドに横になるという行為は、あまりに非生産的であった。


 ……それに、暇でもある。


 さて、どうしたものか……。



 ────ガチャ。



 ……?


 ……たった今、どこかで……音が聞こえた気がした。


 それは、まるで何かを開けたような……扉を開けた音?


 しかし、音の反響的に、この部屋の扉では無かった。


 という事は──今のは、隣の部屋から聞こえたのだろうか。



 ──カタン。



 続けて、どこかに何かを置いたような音が聞こえた。


 それは少し軽く、それでいてどこかにぶつけた様な響き。


 ……何か硬い物を、床に置いた?


 ……。


 ……。



 ……?



 ……音が、しなくなった。


 何だったのだろう、さっきの音は。


 ──隣の部屋に、今も誰かが居るのは分かっている。


 人の気配がしているし、そもそも最初に扉が開いて以降誰も部屋から出ていない。


 ……恐らく、その正体はセルグだと思う。


 しかし、では一体何をしているのか。


 確か……隣の部屋は、彼の趣味用の作業部屋だと言っていた。


 ……。


 ……。


 ……まあ、いいか。


 居るのは分かっていても、今は特に音もしなくなった。


 気分が悪いものでも無いし、自分に干渉してくる事案でも無い。


 であれば、これは特に気にすることでも無いだろう。


 ……それよりも、早く。出来うる限り────睡眠という行為に、努めなければ……。


 ******



 ──。



 ──。



 ──。



 ──今、また扉の開く音が聞こえた。



 しかし、それは隣の部屋からでは無い。


 今のは、恐らく……音の遠さから、この小屋自体の出入り口の扉だったと思う。


 これで、扉の開閉の音が聞こえたのは、全部で()()()のことだった。


 最初は、俺がベッドに横になってから直ぐに、隣の部屋から聞こえた。


 それから、大体一時間か二時間後に、同じく隣の部屋から音が聞こえた。


 ──そして、それ以降は暫く静かな時間が続いていたっけ。



 ……いや、正確には静かな時間では無かったか。


 扉の音が聞こえたのとは、別の隣……恐らくは()()の方から、ずっと音が響き続けていた。


 それは、セルグの声。

 否、正しくは彼の大げさすぎる呼吸音だった。


 その音は、ガァー、ゴォーと、一晩中聞こえていた。


 正直、かなり煩かったと思う……。



 しかし、それもある時を境に、ぱたりと止まった。


 あれは、部屋の窓の隙間から、僅かに光が漏れ始めた頃。


 居間の方から、ガサゴソと誰かが動く気配があった。


 そして、その後しばらくして三度目の扉を開ける音が聞こえ、たった今四度目の音が聞こえた。


 ……という事は、つまり──()()()()()()()()()()セルグが、帰ってきたということだろうか?


「──思考。……そろそろ、起きてもいいのかな?」


 そう思った俺は、ゆっくりと目を開いた。


 外へ出ていたらしいあの男が、小屋に戻って来た……それはつまり、彼にとっては既に活動を開始している時間にあるという事。


 であれば、俺もこうしていつまでも無駄な休息を取っている必要も無いだろう。


 ……結局、一睡もしなかった。


 それどころか、視界を遮っていたために寧ろその他の感覚が鋭くなり、余計に体力を消耗した気さえする。


 ……ダメだな、これでは。


 どうにかして、この睡眠という行為と向き合わないと、この先ずっと無駄な行動をし続けることになる。


「……思考。……そのうち、解決しよう」


 しかし、まあだからと言って、今すぐに回答を出さなければいけない問題でもないか。


 俺はそう判断し、横になっていた上体を起こした。


 そして、そのままベッドから降りて、地に足を付ける。


 ──取り敢えずは、睡眠によって失われたエネルギーを、補給しに行こう。



 俺はそんなことを考えながら、寝室の扉に手を掛けたのだった。


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