第36話 火の作り方
セルグは、俺に焚火の作り方を教えていた。
彼が手に持っていたのは、恐らく植物の実か花で出来た……綿状の繊維。
そして、反対側の手には革袋から取り出した石と、棒状の金属片が握られていた。
「本来なら、炉の中の残り火を使うんだけど……今回はオメガちゃんに見せるために、一から火を点けてみようか」
綿を地面の上に置き、セルグは石と金属片を片方ずつに持つ。
──それは、恐らく火打石と、打金というものだろう。
「まずはこうして、硬めの石と金属の棒を手に持つ。そしてこの石を火口に近づけて、金属片で擦るように叩くと──」
セルグは口で説明をしながら、同時にこちらに見えるように、石を打ち始めた。
──カンッ。
──カンッ。
──カンッ。
……すると、男の手元で、小さな……小さな火の粉が、散っていた。
「──こうしていると、その内綿に火の粉が移って煙が出てくるようになる。そしたら、それをゆっくり持ち上げて……」
彼は、僅かに光を帯びたそれを顔の高さに持ち、下からゆっくりと息を吹き始めた。
強すぎず、弱すぎず。
その勢いづこうとしている火種を、絶やさぬように。少しずつ空気を送る。
──すると、やがてその火口は、小さな炎を上げ始めた。
「! ……よし、こうなったらすぐに他の木に火を移して、焚火の中に入れるんだ。この時、必ず細くて小さな木から順番に燃やすんだよ。……だから最初は、薪より枝とかの方が良いかもしれないね」
セルグは説明を続けたまま、火種を枝に移し、それを焚火の一番奥へと押し込む。
そして、その後も酸素の供給を絶やさぬように、空気を送り続けていた。
──すると、火も次第に勢いを増していき。
……気付けば。
あっという間に、どこかで見たことがある様な、火の灯る焚火が完成していた。
「──まあ、こんな感じだよ。最初は難しいかもしれないけど、慣れたら案外出来るようになるから……どうだったかな、オメガちゃん?」
セルグにそう問われ、俺は何と答えるべきなのか迷っていた。
何故なら、彼の火を作る過程を見て、俺が最初に抱いたのは────自分の浅はかな考えに対する、後悔であったから。
俺は湖から上がったあの時、冷えた体を温めようと火を求めた。
そして、その場にあったものを適当に集めれば、簡単に焚火を作れると思っていた。
──実際、暖をとること自体は出来ていた。
……しかし、これはそんな簡単なものでは無かった。
俺は知らなかった、『火を灯す』という行為がこんなにも難しいことを。
見ていて、何となく理屈は分かった。
だが、だからといって自分がこれらを実行したとして、上手くいくとは到底思えなかった。
──だからこそ、このセルグという男の動作には、新しく得られるものがあった。
「────賞賛。……凄かった」
……俺は、今ここで火の作り方を実際に見ることが出来て、良かったかもしれない。
新しい知識を得る事、それは生存して行く上で必要なことだ。
火や熱など、生死に関わるものなら……尚更。
……やはり、このセルグという男は、未知である。
未知で、不思議で、理解不能が溢れていて──故に、知るにはこれ以上ないほど”有効”である。
「……ははっ、そうかな。そう言ってもらえると見せた甲斐があったよ。──じゃあついでに、オメガちゃんにはこの火の番を頼もうかな」
男はそう言うと、パンと一緒に小屋から持ってきた木の板と、小さい刃物を膝の上に置いた。
「……疑問。……火の番って、何?」
「……あぁ、ええっと……焚火はね、ちゃんと薪を入れ続けないと火が消えてしまうんだよ。でも、入れ過ぎても火がきちんと燃え移らなかったり、逆に火が強くなりすぎてしまう。──だから、そうならないように見張っておくのが『火の番』だ。私は食材の準備をするから、隣に座って火を見ててくれるかな?」
セルグはそう言いながら、自分の座っていた隣をポン、ポンと叩いた。
焚火の前の、木の丸太。
そこに、こちらも座れと催促してくる。
「……理解。納得。……火、見てる」
俺はただそう答えて、彼の隣に腰を下ろした。




