第34話 労力に見合う
ただ、水を飲もうとしただけなのに。
俺は上手く川の水を掬えなかったが為に、セルグに笑われた。
……その後も、彼のやり方を思い出しつつ頑張ったのだが、結局摂取できた水分は僅かなものだった。
「────よっ……と。よし、オメガちゃんはこっちを持ってくれるかな? 重いから気を付けてね」
川に来た本来の目的を果たす為、セルグは木の桶を傾ける。
自分の持っていた分に、並々水を入れ。
その後、今度は俺の持ってきた桶にも、同じようにした。
そして、それをこちらに渡してくる。
……その量は、男の方に入っていたのと比べ、少し少なかった。
その分桶の重さも軽く、恐らくセルグの方が重いのだろう。
……確か、彼はこの水を『料理』に使うと言っていた。
料理とは、要するに食する物を作る行為だ。
────ということは。
持っていく水が少ない分、こちらの摂取できる食事の量が少なくなる、ということだろうか……?
「──。……要求。それ、私が持つ」
そう考えた俺は、たった今セルグが片手で持ち上げた方の桶を、指差した。
仮に、労働の質、量で得られる食事が変わるのなら。
……恐らく、俺がそっちを持った方が良い気がするのだ。
「え? ……いやいや、大丈夫だよ。こっちの方が重いし、これは私が持つからね……君は、今持っているそれを運んでくれたらいいから」
「……否定。……重い、から。私が持つ」
珍しく、俺は食い下がってしまった。
しかし、あの食事に対する対価、それにこの”水を汲む”という行為が含まれるのであれば……より多くの、労力を働かなければならない。
「────。……オメガちゃん……君は、優しい子なんだね」
──だが。そう思っていた俺に、何故かセルグはそう言って、微笑んだ。
優しい……誰が?
俺が?
……。
……何を言っているのか、意味が分からない。
今の、一連の対話の、一体何処に。
自分が優しかったなどという、要素があったのだろうか。
────。
「……分かったよ。ここはオメガちゃんの優しさに免じて──半分こ、にしないかい?」
セルグはそう言うと、俺の手から、持っていた桶を優しく奪い取った。
そして、その中に自分の持っていた桶の水を少量注ぎ、中身を共有する。
──そうする事で、二つの桶の水量は、ほぼ同じくらいになった。
「ほら……これならどうだろう? さっきよりもっと重いと思うけど、気を付けて運んでね」
再び、男はこちらに桶を差し出してきた。
……それを、俺は素直に受け取る。
これならば、まあ──少なくとも、自分だけが食事量が少なくなることも無いだろう。
「……さっ、小屋に戻ろうか。早くしないと、そろそろ暗くなってしまうからね」
セルグはそう言って、先程自分たちが来た道を、再び辿り始めた。
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僅かに開かれただけの、獣道。
その中を、水の入った桶を持ったまま、進んだ。
道中、変わらず危なげな足取りではあったが、それでも桶を持っているという事実による差異は、あまり感じなかった。
……想像していたより、水は重たくなかった。
それよりも、それを持っているが故に両手が塞がっていたことの方が、支障があると思った。
「──ふぅ……お疲れ様。凄いんだね、オメガちゃんは……これ、結構重かったよね?」
セルグは、自分が持っていた桶をドンッと、地面に下ろした。
それに倣い、俺もその近くに、持っていた桶を置く。
「……質問。……次は、食事の用意?」
恐らく、これにてセルグの言っていた『水汲み』は完了であろう。
そして、彼はそれが終わった後に、『一緒に食事の用意をしよう』と言っていた。
ということは、次の行動は……。
「うん、そうだね。……今日の夜ごはんはどうしようかな。本当ならもう一匹くらい得物が獲れれば良かったんだけど……オメガちゃんは、何か食べたいものはあるかい? あまり難しいものは用意できないけど……」
「──。」
食べたい……もの?
……。
そんなの、何でも良い。
食べられればいい、栄養になればいい。
……。
……!
……まあ、でも。
そういう観点で、言うなら──
「──要求。……パンが、食べたい。さっきの」
「え?」
俺は、”安易に摂取できるから”、という理由でそれを選んだ。
味も悪くなかったし。
……しかし、自分から聞いてきたはずのセルグが、何故か驚いたような反応を示した。
「……疑問。……どうして、驚くの?」
「えっ……あぁ、いや、すまないね……珍しいと思ったからさ、真っ先にパンが出てくるなんて……。でも、分かったよ。パンなら今朝作ったばかりだからまだ沢山あるし──それに合わせるなら、煮込み系のスープにしようか。外で食べるのにもちょうどいいし」
セルグは、そう言うと片方の桶を再度持ち上げて、小屋の方へと向かった。
「……あっ、オメガちゃんもこっちに来て。手伝ってくれるかい?」
……男の、そんな手招きにより。
再び、俺はセルグの後ろをついて行った。




