第32話 気になる事
各所を辿り。
俺は「ついて来い」と言ったセルグの背中を、ずっと見つめていた。
「──とまあ、案内はこれくらいかな」
……しかし、彼は突然そう言って足を止め、こちらを振り返った。
それは再び戻って来た、小屋の前。
焚火跡や薪、動物の解体台が並ぶ、男の住処の中心であった。
「長くなってすまなかったね。……でも、オメガちゃんがしばらくここで過ごすなら、場所くらいは知っておいてもらわないといけないから」
「……。」
セルグは両手を腰に当て、明るくそう言った。
……ここで過ごすために、知っておいたほうが良いこと……か。
……。
……半分以上。
────俺がただ生きて行く上では、必要のない場所ばかりだった。
「……あっ、オメガちゃん。一応最後に聞いておくけど、何か質問とか、他に気になることはあったかな?」
「……?」
セルグにそう言われて、俺は首を傾げた。
気になる事……それは、少なからず存在したと思う。
主に、この男の趣味趣向……というよりは、”生存方法”について、気になった。
……けれども、それらについては、既にセルグに言及している。
故に、何度も口にする必要は無い。
となると、あとは質問の方だが……うーん……。
「──質問。……この後は、何をするの?」
数秒の思考の後、俺は唯一抱いた疑問を投げかけた。
……俺は男の提案により、暫くここで暮らすと決めた。
そして、同じくこの男からの持ち掛けで、小屋周辺を案内された。
──では、この後は?
また先程と同じように、セルグから何かを言われるのだろうか。
「え……あぁ、まあ、そういう意味では無かったんだけど……。……いや、そうだね。ただの案内なんて、面白いものでは無かったかな……」
「……? ……否定。おもしろかったよ?」
何故か男は、少々声のトーンが下がり、暗い顔をした。
……けれど、俺にはセルグがどうしてそんな風にしたのか、理解ができなかった。
彼の案内は、自分自身にとって意味の無いことが多かった。
だが、だからと言ってこの時間の全てが無駄だったとは思っていない。
──少なくとも、俺には”知ってもいいかもしれない”という、興味は湧いた。
故に、趣深く無かったとは、今のところ思っていなかった。
「そ、そうかい……? ……まあでも、確かに。オメガちゃんが動物の解体や加工に興味があると分かったんだし、無駄ではなかったかな。──さて、それでえーっと、この後何をするかって話だよね?」
セルグはそう言いながら、またコロッと表情を変えた。
先程まで、どちらかと言えば元気の薄い顔をしていたのに。
今は開き直ったのか、はたまた立ち直ったのか、これまでのような柔らかい表情に戻っていた。
「──あっ、もうこんな時間なのか。今から何かするにしては、もう遅いし……うん、そろそろ夜ご飯の支度を始めようか」
この後の行動について考えたらしいセルグは、空を見上げた。
それにつられて俺も上を見ると、空の彼方が薄っすら橙色を帯び始めていた。
風は落ち着き、されど陽は傾いて。ゆっくりと気温が下がりつつある──間も無く、夜が訪れる。
「……? 疑問。夜ご飯の支度って?」
「そうだねぇ……一先ず、水を汲みに行こうかな。さっき料理で使ってしまったし、オメガちゃんが増えたから今朝汲んだ分だと足りなくなりそうだから」
セルグはそう言うと、そそくさと小屋の中に入って行った。
それをなんとなく眺めていると、彼は直ぐに木製の桶を二つ手に持って、戻ってくる。
「……ほら、オメガちゃん。一つ持ってくれるかな? さっき君と初めて出会ったあの川に、汲みに行こう」
「? ……質問。もしかして、これが料理の準備の手伝い?」
先程、男は好きなように食事をして良い代わりに、その食事の準備とやらの手伝いを、俺に命じてきた。
また彼の言った『夜ご飯』というのは、その言葉通り夜に食べる食事のことだろう。
──そして、目の前には持つように言われた、一つの桶。
つまり、これらの動作に協力することが、食事を好きなだけ摂取して良い事への、対価という訳か?
「ん? ……うん、そうだね。一緒に水を汲みに行って、その後一緒に食事の用意をしよう。──あっ! そうだ。今日はオメガちゃんの歓迎会も含めて、外で食べようか」
「──。」
それは……つまり、どちらだろうか。
この水を汲みに行くという行動が、『手伝い』に該当するのか。
それとも、その後の一緒に食事の用意をするというのが、それに当たるのか……。
ちゃんと、ハッキリして欲しい。
────じゃないと。さっきのご飯が、貰えないかもしれないのに……。




