第31話 違和感
※お食事中の方は、閲覧をお控えください。
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「さて。あと他に、案内していない場所は……」
小屋の中から。
外の小屋前の敷地と続いて。
俺は、セルグに彼の生存圏の案内をされていた。
「……あ! そうだ。大事なところを忘れていたよ。……まあ、わざわざ見せるようなものでも無いけどね……」
男はそう言うと、「ついて来てくれるかい?」とこちらを手招いた。
俺はそれに素直に従って、彼の後ろに付く。
すると、セルグは脇の道から小屋の後ろ側へと回って行った。
……その途中。
小屋の外壁には、石で囲まれた”炉”があった。
恐らく、それは位置的に料理所に近い場所だと思われる。
そして、その炉の中にはまだ熱を帯びた、黒い炭が入っていた。
……そう言えば、先程セルグが料理をしていた時に、火を使っていた気がする。
それに、この小屋にはどうやら煙突があるようだ。
ということは、この炉は外からも中からも、使えるものなのかもしれない。
「……あっ、オメガちゃん! そこは熱いから不用意に触らないでね、危ないから!」
ついて来いと言われた手前、俺はその炉が気になって足を止めてしまっていた。
すると、それに気付いたセルグが振り返り、そして慌てた様子でこちらに走ってくる。
どうして、そんなに急いで戻ってくるのだろう。
ただ、少し──一部が赤く染まった、この炭が気になって。見ていただけなのに。
これは先程セルグが言っていた、薪の成れの果てだろうか。
「……否定。危なくない……見てた、だけ」
「えっ? ……あ、いや、私の早とちりだったかな……そっかそっか、すまないね。一瞬、君が炉の中に手を入れようとしていたように見えたから、思わず大声を上げてしまった」
「……。」
別に、触ろうとしたわけでは無い。
触らずともわかる、これは熱いだろう。
……。
──だが。
……何となく、何となくだ。
何故か、どういう訳か……少しだけ、気になってしまったのだ。
この、炭に灯った小さな火種が────全く、”危なくない”と、感じてしまって。
「……質問。……この、黒くて、赤いの……熱い?」
「え……えーっと、それは勿論だよ。さっき料理をするのに薪をくべたからね、火自体は出ていないが、触ったら火傷をするくらいには熱いさ」
「……そう。……なら、やっぱり……危な、い?」
火傷をする。つまりは、損傷を負う。
それは、要は危険であり、危ないという事。
ということは……火は、危ない……?
────今は、そう思わないけど。
「……理解。……案内、続き……ついてく」
「……あぁ、分かったよ。念のためもう一度言っておくけど、不用意に火に近づいてはダメだよ? オメガちゃんが火傷や怪我をしたらいけないから」
「……。」
俺は、セルグの言った事に対し、肯定も否定もしなかった。
……けれども、彼はそれを気にした様子はなく、引き続き歩き始めた。
──炉から飛んだ火の粉が、風に乗って流れる。
それは小屋の裏手、セルグが歩いていった方向へと散っていった。
距離にして、僅か数十歩程。
しかし、確実に小屋から離れたその場所には、小さな”木造の箱”が立っていた。
否、その壁の薄さから単なる敷居と表現した方が良いかもしれない。
そして、その箱には正面に扉があって────何やら独特な香りを、自身の鼻腔が感じ取っていた。
「……ここも、まあ……一応ね。案内ってわけでもないけど、使い方は教えておかないといけないから……」
セルグはそう言うと、その箱の敷居を開け放った。
──すると、中から一匹の羽虫が飛び出した。
それは、そのままゆっくり空中を旋回していた。
しかし、やがてどこかへと飛び去って。
直ぐに、その所在が分からなくなってしまった。
「……。──見ての通り、ここは便所だ。汚いところで悪いね……」
セルグは、その飛び出した虫に全く興味がないようだった。
代わりに、少々顔を歪ませながら、箱の中を覗き見ている。
……それは、人が一人入って、ギリギリの大きさだった。
手前側と、奥側で、それぞれ段差になっていて。
そして真ん中には、小さな丸い穴が空いている。
……どうやら、この異臭はその穴の中からしているようだった。
「これでも、可能な限り掃除はしているんだが……あぁそれと、使った後はその奥にある灰を掛けておいてね」
男はそう言うと、箱の中の奥、穴のすぐそばに置いてあった木の桶を指差した。
その中には、文字通り灰色の……『灰』が、入っていた。
使った後──なるほど。
セルグは言っていた、ここは『便所』であると。
つまり、ここで”排泄をした”後に、その上からあの灰を振りかけろという事か。
「……理解。わかった」
俺は、セルグの言った事に対し、そう答えた。
すると彼は、それを聞き終えた後早々に扉を閉めてしまって。
そして、再び小屋の方へと歩いていってしまった。
……。
……。
「────排……泄……?」




