第30話 生き物の生皮
俺は、小屋の前で張られていたソレ。
『動物の皮』の端を紐で括ったその”木枠”に、視線が向いていた。
「ん? ……どうしたんだい、オメガちゃん?」
俺は、それを見て──こうすることに、一体どんな意味があるのだろうと思った。
動物の革。これらは加工され、衣類や袋などに使われる……という、使用用途は分かる。
だが、今のソレはそうするにはあまりにも固く、少し乾いただけの動物の生革だ。
……それに、独特な匂いもしてくる。
獣臭?肉の臭い?
……いや、それらとは少し違う。
なんと、例えればいいか────そう。まるで、濡れた小動物のような匂い。
そんな状態のこの皮を、こうして張っていることに、一体どんな意味があるのだろうか。
そして、この後どのようにすれば、滑らかな”革”になるのだろうか。
……それを、俺は知りたかった。
「……疑問。……あれは、何?」
観察。
そして、数秒の考察。
……結果、自分の中にはその答えが無いと察し、早急に回答を求めた。
「ん……あぁ、あれが気になっていたのか。──アレはね、動物から採れた皮を乾かしているんだよ。ああして紐で括って張っていないと、生皮は縮んでしまうからね」
「……うーん……」
しかし、その質問に対して返ってきた答えは、俺の求めていた内容では無かった。
否、全てを網羅していたわけでは無かった。
何となく、あのように皮を張っている理由は分かっていた。
小さくならないように、縮まらないように、無くならないように……張るのだ、大きく。
そうすることで、既に息絶えた生物の一部を、この世に繋ぎ止めることが出来る。
……けれど、その皮のその後についてを、男は教えてくれなかった。
俺は、そこまでを────この先を、一番知りたいのに。
「──もしかしてオメガちゃん、動物の解体や加工に興味があるのかい?」
セルグは、少々気の上がった声でそう言った。
何故、そんなに意外そうに言ってくるのか……。
現状知らない事。
でも、知ろうと思えば知れる環境にある。
──であれば、それを探求しない理由など無い。
知って。
理解して。
学んで。
それらを、使えるようになって……初めて。自分にとって必要か、そうで無いかを、判断できるというのに。
「……肯定。……動物が、どうやったらソレみたいになるのか……知りたい」
俺はそう言いながら、男が腰に着けていた”小さな革袋”を指差した。
それも、恐らくはセルグ自身が作った代物である。
綺麗な丸では無く、少々歪な楕円を無理矢理紐でふん縛っただけの、小袋。
この大きな皮が、カラカラで硬くなったこの元生物のガワが、どうやったらこうなるのか……知りたいのだ。
「っ……おぉ、そうかい。……いや、すまないね。少々意外だったからさ。普通君のような女の子なら、こういうのを怖がったり気持ち悪がったりするものだと思っていたから……勿論、色々教えてあげるよ。そのうち動物を狩って、それを解体して……興味があるなら、革の加工や肉の処理についてもね」
セルグは……何故か、喜びを表現する顔をしていた。
嬉しそうに、こちらに歩み寄り、ニッコリと両頬を吊り上げている。
……どうして、そんな反応をするのだろうか。
俺はただ、セルグがここで生きている術を、技術を、知りたいと言っただけなのに。
──むしろ、拒否されるかもしれないとすら、思っていた……。
「……うん」
そう感じた俺は、ただ静かに頷いた。
自分のやり方を聞かれ、自分の生き方を知られる……それは、あまりにも気分が良いものではない。
俺なら、絶対に御免だ。関わりたくない。
……やはり、このセルグという男は理解できないな。




