第24話 食事
俺は、長らく森を歩いてきたその足を、そのまま小屋の中に踏み入れた。
部屋の中には、何かが焼けるような香ばしい香りが充満していて、無意識に口内が涎で溢れた。
いい匂い、いイ匂い、美味しそうな──匂イ。
「お! 嬢ちゃん、やっと入って来たのか。全然来ないから心配したよ、何をしてたんだ?」
小屋の中。
火の近く。
男が立っていた。
目の前には。
美味しソうな。
──肉ノ塊。
「……疑、問……ソれ、なニ……?」
「ん? これかい? これは今朝捕った鹿の肉だ。美味いぞ……って、嬢ちゃん。また涎垂らしてんのか……」
男。
人間、が。
喋った。
肉。
匂イ。
お肉。
食べタ、イ……。
「ほら、一先ずこれでも食べてなさい。他のもすぐに出来るからな」
男。
が。
ナニか。
投げた。
軽クテ。
フワフワ。
の、塊。
空中。
デ。
ゆっクり、と。
浮イテ。
「ッ────ハむッ!!」
飛び、ツいた。
ソレに。
齧ッテ、食ベテ、呑ミ込ンで……。
…………。
────パンを、食べた。
「っ……これも、美味しい……」
俺はここに来てから、今初めて、”本物のパン”というものを食した。
これまではずっと、パンに似ていただけの、石ころばかりを食べていた。
故に、俺は今初めて小麦で出来たパンを手に持って、食べているのだ。
……いや、このパンが小麦から出来ているとは限らないか。
俺はこのパンが作られるところを見ていなければ、原材料だって聞かされていない。
だから、この美味しくも得体の知れないものを、ソレと表現するのが正しいことなのかわからないのだ。
…………。
……それにしても、このパン……。
……。
────小石と、大差無いなぁ。
「ははっ。相変わらずいい食いっぷりだな、お嬢ちゃんは。……ほら、こっちも出来たよ。そこに座ってくれ」
手元のパンをもさもさと食べる俺に、男がそう言ってきた。
彼が示した先には、部屋の中央に据えられた木製の小さな机。
所々ささくれ立っていて、とても上品とは言えない作り。
しかし椅子もあり、食事をする分には困らない程度の強度がありそうだった。
「……んっ。疑、問……あむ、んぐ……それも、食べてひいの?」
口の中をパンで満たしつつ、俺は男の持っていた”皿”にも目が行っていた。
その上には茶色く焼けた肉が乗っており、そこから食欲をそそる匂いが漂ってくる。
料理が出来た、そこに座れ。……ということは、それを俺に食べさせてくれるという事だろうか。
「ああ、勿論だよ。スープもあるぞ。……直ぐに用意できるのはこれくらいだが、パンとスープならおかわりもある。好きなだけ食べなさい」
男はそう言うと、机の上の一角。二つある内の片方の椅子の前に皿を置いた。
加えて、木で出来た器に鍋から掬い上げた薄い色の液体を、注いでいる。
……よくわからないが、食べてもいいと言うのなら、そうさせてもらおう。
「肯定っ。……食べる、いっぱい」
俺は、その男に導かれるまま席に着いた。
そして、フォークやナイフが提供されるのを待つことすらもどかしくて、すぐさま目の前の肉に齧りついた。
素手でそのまま肉塊を持ち上げ、大きく口を開ける。
──がぶッ。
そのままかぶり付き、肉に歯を立てて、思いっきり引っ張る。
すると肉の繊維はギシッという音を鳴らしながら、千切れて行った。
……。
……思ったより硬いが、味は悪くない。
少々動物の臭いがするが、気になるほどではない。
栄養摂取と考えれば、十分である。
「ほら嬢ちゃん、このナイフを使って……って、そのまま食べているのか。いいさいいさ、好きなように食べれば……はい、パンのおかわりだ」
男は金属製のナイフを片手に持ち、もう片方に件のパンの乗った皿を持っていた。
おかわり……そう言えば、スープもあると言ったか。
水分補給もしなくては。
「……ずずっ……──うん。これはスープ」
薄っすら湯気の立つ木の器を、両手で持つ。
そして、そのままゆっくり顔を近づけて、器の縁に口を付けた。
これも同じ何かの肉と、あとは葉……野菜?の香りがした気がした。
啜る。啜る。
……?
……こっちは、あまり美味しくない。
でも、不味くもない。
……味がしない。薄いのか?
「……嗜好。……パンが、一番美味しい」
俺はそんなことを思いながら、再び”獣臭い肉”に、かぶり付いたのだった。




