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異質なその者は、世界の常識を改変する。  作者: 久米鱈 鯛子


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第20話 巨大猪


 俺は、その突如として現れた野生動物に対し、あれやこれやと観察を続けた。



 まずは、手当たり次第にソレに触れてみた。


 頭。

 顎下。

 背中。

 腹。

 お尻。

 尻尾──。


 それぞれ、撫でる場所によって感触が異なった。


 多少の差異はあるものの、主に体の腹側はやわらかい毛が多く、逆に背側は硬い質感が多かった。


 また、その中でも尻尾の毛は更に硬くて、体毛というよりは繊維のような感覚に近い。


 ……その上、この巨大猪は見た目以上に筋肉質であった。


 節々の表面が(こぶ)のように隆起し、この巨躯を支える強靭な肉体を実現している。


 見るからに野生動物であるが、野生以上に筋力が発達しているように感じた。


 こんなものに衝突されれば、普通の民家程度ならあっという間に倒壊させられるだろう。



 ──そして、その猪が最も()()とかけ離れていたのが、額の石の存在だった。


 石は、猪の頭部より少し下。その中央に食い込むようにして嵌っていた。


 更に詳しく見てみると、それは暗い紫色をしていて、石というよりは宝石に近い感じがした。


 ……最初、俺はそれが事故か何かで挟まってしまったものだと思っていた。


 だからこそ、俺は良かれと思ってそれを”取ってあげようと”したのだ。



 ──すると、その時唯一、猪が大きな反応を示した。


 額からその石が外れるのを嫌ってか、ヤツは大きく身動ぎした。


 頭を振って、まるで纏わりつく何かを振り払うように、俺がそれを取るのを嫌がった。


 こちらの存在に気付いたのではない。


 その猪は、その石がそこにあるのを当たり前であると認識し、排除されるのを嫌ったのだ。


 ……だから俺は、すぐさまその行動を止めることにした。


 そっと手を離し、それ以降その石に触れることはしなかった。


 それに……どうやらそれは、嵌っているのではなく、元々そこに存在するもののようだった。


 例えるなら、爪や牙、角のように……体の一部として、内側から生成されたもの。


 だからこそ、その猪はそれが取り除かれるのを拒んだのだ。


「……謝罪。……勝手に取ろうとして、ごめんね」


 相手に、こちらの意図が伝わっているのかは分からない。


 されど、俺は何となく罪悪感のようなものを抱いて、再びソレの頭を撫でた。


 ******


 ……時間にして、小一時間程だろうか。


 俺は、そのようやく出会えた大型生物との、接触を続けていた。



 ──しかし、それとの別れもまた、唐突に訪れた。


 俺は感触以外にも、その猪の生態等を観察していた。


 その間()()は、また軽く水を飲んでみたり、フガフガと周囲の匂いを嗅いでいるようだった。


 ……それなのに、突然何かに反応したように、バッと顔を上げた。


 しかも、森の方のある一点を見つめながら、グルグルと唸り声を上げる。


 俺がそのことに多少驚いていると、彼女はそのまま飛び掛かるような勢いで視線の先へと走って行ってしまった。


「あっ……」


 それは、本当に一瞬の出来事だった。


 これまでのっそりと、ゆっくり活動していたその生物が、いきなり俊敏な動きを見せた。


 ──刹那、彼女が見せた横顔は血相を変えたものだった。



 ……ともかく、俺はまた一人になってしまった。


 折角出会えた、この機会。


 しかし、結局思っていたよりも新しい情報が集まらずに、ただあの巨大猪について少し詳しくなっただけであった。


「……残念。……もう少し、見たかったのに」


 まだ、彼女からは知りたいことがあった。


 それこそ、もっと情報を──。


「……いや、拒否。もう過ぎたことを考えても、意味が無い」


 後悔は、その過程や結果を省みることで初めて意味を持つ。


 よって、それらに対して感傷に浸ることは、正しい過去の使い方ではない。


 今、俺が思案すべきはあの森に入って行った猪を追うのか。

 或いは、彼女を諦め引き続き川を辿るかだ。


 ──まあ。とは言っても、既に答えは出ているのだが……。


「……結論、川を下る。……あんなに速い生き物には、追いつけない」


 猪の後を追うにしても、もはやその影すら見えなくなっていた。


 であれば、俺は引き続きこの水の流れを辿るべきなのだ。



 ──そして、少しずつ。その川幅も大きくなっている。


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