第1話 逆恨み
────俺は、世界に名立たる【鷲司財閥グループ】の御曹司だった。
富・名声・権力、その全てを持ち合わせ、それらを支配する父親の息子であった。
だからこそ、俺は生まれながらに縛られていた。監視され、制限され、抑圧され、命令され、これをしろあれをしろと、”人生を蝕まれた”存在だった。
……だから、俺はそんな自分の生を諦めていた。
何故なら、そんな父に抗うことはあまりにも不合理で、不効率で、無意味なことであるから。
言われた通りのことを学び、言われた通りの学校に通い、言われた通りの友とつるむ。
言われた通りの職に就き、言われた通りの仕事をこなし、言われた通りの相手と結婚する。
そうすることが俺にとっての幸せで、それこそが俺の幸せだと決められていた。
……そんな人生に、俺は従っていた。
全てを受け入れ、肯定し、倣って────俺は今、この”挙式の場”に立っている。
──なのに、何故、なのだろう。
俺は、何故、この名前も知らない男に、心の臓を刺されているのだろうか。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ──!! お前が、お前さえいなければ……僕が、この子と……!!!」
背後から、体重を掛けられた一刺しだった。
致命傷、きっと助からないだろう。
一体、こいつは誰だ。
ただ俺は、父親に紹介された通りの女とこれから婚姻を結ぶだけのはずだったのに。
女の恨み、というやつか?
或いは、父親の権力により何もかもを失った男の末路か。
どっちにしたって、俺にとっては逆恨みでしかない。
何故この男は、そんな非効率的な動機で行動しているのだろうか。
「お、おいっ! 離せっ! 僕はただ、この子と幸せになりたかっただけで────」
幸せ……幸せ、か。
なるほど、それはまあ随分とご立派な志だ。
これまでにも、その言葉は幾らでも聞いてきた。幸せになりたい、夢を叶えたい、金持ちになりたい、と……俺には、その気持ちが分からない。
どうして人間とは、そんなものの為に人生を捧げられるというのだろう。
そんなものを手に入れて、人々は一体何をしたいというのか。
──そんなことを考えながら、俺はゆっくりと重たい瞼を閉じていった。
周囲が騒がしい。
顔も名前も覚えていないような、男と女たちが、我関せずのまま騒ぎだけ立て続けている。
全く、少しは静かにして欲しい。
何をそこまで、事を大きくする必要がある。
────ただ、父親に効率的に運用されていただけの男が、一人死んでいくだけだというのに……。




