プロローグ
──私は、お腹が空いていた。
何時間も森を彷徨った挙句、獣を狩ることも、果物や野草を採ることもままならなかった。
当然、それは私がそれらのことに挑戦しなかったから、という怠惰のせいではない。
居なかったのだ、目に見える生物が。枯れていたのだ、草木が軒並み。
何か悪いものに汚染されたようなその森には、食べられそうなものが何もなかった。
木々が生えており、天を覆うほどではないにしろ辛うじて葉っぱはついている。
しかし、それでも現在進行形で”瘴気”に侵食されるその森には、生命と呼べそうなものが殆ど存在していなかった。
──お腹が空いた。
およそ、生命と定義されるかすら怪しい存在であるはずの私の頭を支配するのは、それだけだった。
……そして、私はふと足元に落ちていた『岩の欠片』が目に付いた。
あぁ、もしこれが食べ物であったなら、私にとっては得も言えぬほどの幸福であっただろうに……。
そんなことを考えながら、私はその岩片を手にした。
……。
…………。
…………なぜだろう。
どういうわけか、私にはこの小石がとても”美味しそう”なものに感じる。
ほのかに甘い、パンの焼けたような香り。
硬く冷たいはずなのに、どこか好感を持てる肌触り。
そして、食欲をそそるようなこの見た目。
おかしい。私は確かに、どこにでも落ちているであろう赤子の拳サイズの石ころを持っていた筈なのに、今やそれがこの世のものとは思えないほど美味なものであると信じて疑わないのだ。
────。
意を決し、私はそれを自身の口元に近づけて見た。
もしかしたら、この世界では石は食べられるものなのかもしれない。そんな、常人では理解しがたい希望を抱きながら。
「────摂取可能。……おいしい」
どれ程振りか分からぬその食事に、私はそんな言葉が零れた。




