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異質なその者は、世界の常識を改変する。  作者: 久米鱈 鯛子


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第18話 色彩


 その後、簡単に現場の掃除をした俺は、引き続き川を辿ることにした。


 その足取りは、何故だか以前にも増して軽かったように感じる。


 もしかして、先程まで大量に放出していた瘴気を抑え込んだおかげなのだろうか。


 元々、ここに至るまでも水分補給と食事以外に、全く休憩を取らずに歩いてきた。


 だが、今ではその回数すら明らかに少なくなっていた。



 ……けれども、それに反して進行による環境の変化は、乏しいものであった。


 昨晩にあの湖を出発し、一晩中川を辿って、ようやく初めてあの二人のエルフに出会えた。


 しかし、彼女たちが静かになる頃には日の光が見え始め、その後収納やら片づけをしていたら、すっかり太陽が昇り切っていた。


 そこから、俺は更に川を下り始めて────またしても、()()()()()()()している。


 不慣れな山道を歩いていたということは、確かにあった。


 それに、少女の身体でほぼ無休で動き続けていたというのも、考慮しなければならない。


 ……だが、それら全てを加味しても。

 あの女達との邂逅以降、特別な変異が何も起こっていなかったのだ。



 ……。



 ……。



 ──あ。


 いや、たった今一つ変化を見つけた。


 黒く朽ちた森、濁った川。


 そんな静かすぎる周辺環境を前に、これまでは”生命”の反応をこれっぽっちも感じることは無かった。


 ……けれど、それは唐突に破られた。


 夕暮れ時、ふと空を見上げると()が飛んでいた。


 両翼を大きく広げ、宙を飛んでいる。


 色は……恐らく、黒っぽいと思われる。



 ──いや、白色だったかもしれない。


 ハッキリとは分からないのだ。


 今尚、その鳥が頭上を通っているのだが……下から覗くように見ているため、陽の陰に入ってしまいその姿形が定かではなかった。


「……驚き。──でぇー……っかい」


 無論、それは自身の立っている位置や視点の問題ではなかった。



 ────天を覆うほど”巨大な鳥”が、ゆっくりと自分の上を通過していったのだ。



 その大きさは、恐らく今の俺が……果たして、何人居れば足りるだろうか。


 幸い、そこそこ高い位置を飛んでいる且つ羽ばたいていないから、風を感じたりすることは無いが……。



 ……もしかして、この森にはあんな体躯の生き物が普通に生息しているのだろうか。


 ******


 俺は、更に一晩森を進んだ。


 その結果、浮かんだ月はそのまま動き続け、再び沈もうとしている。


 けれど、それで実際に進めたのがどれほどの距離だったのか……俺には見当が付かなかった。


 単に川を辿ると言っても、その道中は曲がり、くねり。


 岩場で歩きづらく、また泥沼で足を取られる。


 途中二回程滝を見たこともあって、その高低差から下流に降りるのに苦労したり。


 とにかく、安易に『川を下ろう』と思い立つには、それ以上に大変な道のりであった。



 ────しかし、今この時。


 遂に、その苦労が報われる瞬間が訪れた。


「……! 色が、変わった──緑」


 それは、視界に入った景色を、そのまま表現した言葉であった。



 これまで見てきた周囲の色は、基本どこを見ても黒である。


 枯れて、朽ちて、濁って、崩れていた。


 ……だが、ここに来てその全てが変わった。


「……凄い。……ここ、から。この先の、全部……()()()()


 それは、くっきりとこれまでとの差異が見て取れた。


 川に沿って辿っていた道に、横一直線に境界が引かれている。


 今まで歩いてきた道と、その向こう側がハッキリと分かれていた。


 黒一色から……葉の緑、石の灰、木の茶など、様々な色で溢れていた。


 唯一、常に流動する川だけがさほど変化を帯びていなかったが……兎に角、明確な差がそこにはあった。


「……予想。……たぶん、ここまでが瘴気の影響を受けていた範囲だったんだ」


 それは、見れば誰にでも明らかであった。


 という事は、つまりここから先は『瘴気』の影響を受けていない可能性がある。


「……期待。今度こそ、情報を得られるかも」


 僅かに見えた足掛かりを頼りに、俺は再び歩き出したのだった。


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