第17話 収納
動かなくなった二つのエルフ族の陰を見て、俺は首を傾げた。
先程、彼女達は自発的に騒いだ挙句、勝手に互いを傷つけ合って息絶えた。
その結果、辺りには所々赤いシミが飛び散っていたり、女の吐いたモノがそのまま残っていた。
仮に、誰かがこの場を見たら、ここで何かが起きたことは容易に察することが出来るだろう。
……となれば、現場をこのまま放置するのは些か気が引ける。
そうで無くとも、この女たちが俺の発していた瘴気によって気を狂わせたというのであれば、最低限の弔いくらいはしてやるべきなのだ──人間としては。
「放置……は論外として、どうしよう。埋める? 燃やす? うーん……」
女とは言え、そこそこ大きな肉の塊だ。
となると、どこかに埋めるにしてはあまりにも膨大な労力と時間がかかる。
今から道具も無しに穴を掘り、そして再び埋めるなどしていたらまた夜になってしまうだろう。
しかし、だからと言って燃やすのも大変だ。
人を炭にするまでの火力を、ただ木材を数本集めただけで生み出せるわけがない。
土葬もダメ。
火葬もダメ。
あと、今すぐに出来ることとしたら……水葬?
「……いや、それもダメ。人を流すにしては少し狭い」
近くを流れる川を見て、俺はその結論に至った。
上流下流がはっきりした辿れる川だとしても、所詮は森の中を流れる小川だ。
このまま死体を流しても、どこかに引っかかってしまうだろう。
……うーん、ではどうしようか……。
……。
……。
──あ、”持って帰る”、というのはどうだろう。
放置も出来ないし、でも弔う方法もすぐには実践できない。
なら、ここは一旦持ち帰って、後で何かしらの対処をするというのは。
「……多分だけど、何となくそれが出来る気がする。確か、光る板にそれらしいことが──」
一先ずの目途が立ったことで、俺は早速行動に移した。
少し離れたところでそれぞれ転がっていた死体のうち、川の水に浸っていた方に近づいて。
それを、もう一方の胸に矢が刺さった方へと引きずった。
重い……。
川辺から地面の上を、女の足を持ってズルズルと引っ張る。
──そうして、俺は二つの死体を横に並べた。
「……さて。それで、えーっと……確か、さっき確認したときに……」
並んだ彼女たちを前に、俺は先程気付いたあることについて思い返す。
それは、再び自分についての情報を知りたいと願い、光る板が現れた時のこと。
──オメガの『特性』の欄に、【体内収納】という記載が追加されていたのだ。
「……希望。この二人を仕舞いたい。……仕舞って」
これまでの行動と現象に倣って、俺は希望を口にした。
オメガの特性に、何かを収納する力があるのであれば。
或いは、この二人の移動を簡易化してくれるのではないかと思ったのだ。
────。
────。
──?
……しかし、特に何かが起こることは無かった。
「……? あれ、おかしいな……もう一度。二人をここから移動させたい、仕舞って」
再び、俺は願いを口にする。
今までは、これで確かに何かしらの変化が起きたのだ。
……。
──けれども、やはり何も起こらなかった。
「…………うーん……困った」
これまでとは違った現象に……いや、ある意味”正しく起こらなかった”現象に、俺は困惑した。
体内収納、とあの板には確かに書いてあった。
そして、あそこに同様に書かれていた他の情報については、実際に現実で見たり起きたりしている。
だからこそ、それらの情報は少なからず事実であると思っていたのだが……。
「……思考。もしかして、考え方が間違ってるのかな? ……収納……。……いや、ただの収納じゃなくて、”体内”収納?」
考えて、頭を悩まし、脳を動かす。
その中で、俺は一つの可能性を見出した。
「──っ! もしかして、体内になら収納できるって……こと?」
突拍子は無いけれど、俺はその結論に至って再び死体に向き直った。
そして、先程掴んで引っ張ってきた足を再び掴み、自身の腹部へと近づける。
体内って、まさか口から呑み込むとかって意味じゃないよね……?
──。
……、……。
────ッ!?
直後、持っていた足が、自分の肌に触れたところから”体中へと吸い込まれ始めた”。
お腹の表面に黒い渦を巻いて。そのままゆっくり、目の前の死体を体内へと呑み込んで行く。
──所々黒く染まり、ぐったりと血の気の引いた肉の塊を。
「…………別に、痛いとかは、無いけど────なんか、凄く、嫌」
特に感覚が無かったとはいえ、死体が身体の中へと入って行く光景には若干の嫌悪感を覚えた。
これが、不快感というやつだろうか。
少なくとも、気持ちのいいものではない。
「……まあ、でも。一応収納は出来たみたい」
見た目は最悪であったが、それでも取り敢えずは死体を一つ分体内に収める事は出来た。
しかも、それにより身体が重くなったり、違和感を覚えることも無い。
これが、体内収納という、特性なのだろうか……。
「──うん。何はともあれ、これで持ち帰れるようにはなった。…………けど、今のをもう一回やるのかぁ……」
そんなことを思いながら、俺はもう一つの死体に手を掛けたのだった。




