第12話 詠唱
俺は問うた。
その、突然現れた異変分子に対して。
何故、そんな不利益な行動を取ったのかと。
すると、その者は至極真っ当な疑問とでも言いたげに──
「──お前……!! どうして、エルフ語を話せる!」
などと、意味の分からないことを口にしていた。
『エルフ語』。
……どうやら、先程この女が口にしていた幾つかの言葉は、そう呼ばれているものらしい。
そんな言語、今までに聞いたことがないが……。
しかし、それを踏まえた上でも、この者の言動は理解が出来なかった。
自分からそのエルフ語とやらで話しかけてきて、『何故話せる!?』と疑問が湧くのはおかしいだろう。
意味が通じないのを前提に、あれだけ声を張り上げていたのか。
はたまた、他に扱える言語が無く仕方なくそれを使っていたのか。
或いは、そんな些細なことを気に掛ける余裕すらないほどに、この女が切羽詰まっていたのか。
──どの道、向こうから先に危害を加えてきたことに変わりはない。
「……再、質問。……何故、私を攻撃してきた?」
「っ!!」
再度、俺は先に投げたものと同じことを問う。
その際、軽く身を返した。
言葉を発する為に。
そして、質問相手の方を確実に振り返り、その女の様子を伺う為に。
……すると、その者はこちらの挙動に反応し、持っていた弓を更に引き絞った。
「動くなっ! ……答えろ、貴様は何者だっ! ここで一体何をしているっ?!」
そこから動くな、そして近づくな。
そんなことを言いたげに、女は声を張り上げた。
しかも、その剣幕はあまりに迫真的で、僅かな刺激でもその左手で引いた矢を離してしまいそうである。
「──っ、……ふ、ぅ……」
「……?」
……だが、そう怒鳴り声を上げた後、どういう訳かその者は小刻みに息を吐き出していた。
いや、それだけではない。
先程は気付かなかったが、この女。よく見れば随分と顔色が悪いようであった。
息を切らし、血の気の引いたような青白い肌で、額には油汗が滲んでいる。
絶えずこちらを睨んではいるが、その焦点はどこか揺らいでいて定まっていない。
──それはまるで、高熱か何かにでも侵されているような面持ちであった。
「疑問。……体調でも、悪いの?」
「ッ……!?」
これは、心遣いではない。
ただ、そんな正気かも怪しい状態で、どうしてこちらに干渉してきたのかという素朴な疑問であった。
しかも、こんな夜の森の中で。
「たっ……体調、だとッ……? そんなの、こんな異様な”瘴気”に当てられてたら、誰だって────」
思えば、女のその険悪な態度には怒りや警戒も確かにあった。
しかし、同時にその身体の異常を耐え忍ぶ為でもあるようだった。
そして、この者は言った。
自分がここまで苦しんでいる、その理由は”異常なモノ”に晒されているからだと。
それは、今も尚この空間に満ちている──
──『瘴気』、であると。なるほど。
一瞬、俺の思考の中にその単語が留まった。
ここで目覚めてから、俺はそれに類似する言葉を一度しか目にしていない。
つまり、これは……。
「────ノ・ファイ。ディクス=ブレイズ、ウガ。──『ファイ=ブレイズ』っ!!」
そんなことを考えていると、またしても別の誰かの声が響いた。
それは、俺と目の前の耳を尖らせた女、その側方から聞こえた。
朽ちた森、黒変した葉、その先から。
──そして、轟々と燃える鮮やかな橙色の揺らぎが、こちらに迫って来ていた。




