第10話 貫く
「──希望。自分が何者なのか、知りたい……見せて」
再び、俺は自身の『希望』を口にした。
すると、世界の理が、或いは自分の中のナニカが、それに応えるように顕現する。
────ポワン。
目の前に、またしてもあの光る板のような物が姿を現した。
俺という存在……いや、【オメガ】について記されたそれが。
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Lv.0
・名前 【オメガ】
・年齢 【0歳】
・種族 【瘴気─人型】
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……特性 【侵食】【体内収納】【】【不干渉】【】【再定義】……
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・スキル 【なし】
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何度見ても、それは物理法則を無視した不可思議なものであった。
どこからともなく突然現れ、光を投射しているわけでも無いのにぼんやり紫色に光り、浮いている。
「……? ……体内……”収納”? こんなの、あったっけ?」
その板に書かれた内容を見て、俺は数刻前に確認した時との差異に気が付いた。
確か、この特性とやらの欄には文字が三つしか記されていなかったはず。
……。
……いや、これについては考えても分からない。故に、考える必要が無いものだ。
恐らく、最初の時とは違い実際に声に出し、自分がその答えを求めて願ったからこその差異なのだろう。
────ということは、やはり”俺の希望や願い”によって、何かしらの反応が起きるという事なのか?
湖での一件。
どこからともなく湧いた黒炎や、この装束。
そして、先程口にした岩片についても……俺が、オメガとして、求めた結果であるとすれば。
どういった原理なのかは、理解できない。
が、少なくともそれが事実であることは、こうして顕現した板により証明された。
今はそれさえ分かれば、一先ず問題は無い。
オメガの、特性……もしかして、コレか?。
「────【再定義】。」
定義。それは特定の概念に対し、それがそうであると名前や意味を持たせ、他の概念と区別することを意味する。
それを、再。
つまり、オメガが再度定義付けることで、そのモノの本質を変えられると。
……。
…………いや、果たして本当にそうか?
これは、本質を変えるというのとは、少し違う気がする。
なにか、もっとこう、別の────”元からそうだった”、と表現するのだろうか。
「……食べられるものは、食べられる──たぶん、そうなった、じゃなくて……」
……何となく、何となくだ。
そうなった、では無く。
そうだった、と言うのが正しい気がする。
初めから、それらはそうだった。
……きっと、そう決まっていたはず────。
「…………うん、ここまでにしよう。これ以上は、考えても何も変わらない……無意味」
そうして、俺の思考は終わりを迎えた。
初めからそうであった。なら、今はそれでいい。
幸い、検証をしていたついでに、多少の空腹感は緩和されたようだ。
であれば、今すべきは当初の予定通り、人里を目指し進むべきである。
……取り敢えず、引き続きこの川を辿ってみよう。
かなり下ってきたのだから、そろそろ何かしら変化が欲しいところだ。
────。
────。
────。
────ヒュ、────ザッ。
────。
──。
────……?
……今、視界の端で何かが横切ったような。
「…………え」
それは、ほんの僅かな違和感だった。
黒く澄んだ、朽ちた森。
生物の気配が感じられない。故に鳥や虫の鳴き声すら聞こえず、川のせせらぎだけが響くその場所。
──だからこそ、硬い物が風を切ったような、小さな音がやけに鮮明に聞こえた気がした。
「────あれ? ……なに、”コレ”」
その音がどこから聞こえたのか、その時は分からなかった。
けれど、確かに何かが動いた感覚がして、俺は周囲に視線を巡らせる。
……そして、ようやく気が付く。────自身の腹部から、矢じりが顔を出していることに。
──っ!
……、……?
……なんだ、痛くない。びっくりした。
「────Sae'liar!」
突然、森の茂みの方から声がした。
違和感の影響からか、やけに辺りが静かだった。
けれど、それに反して自分の鼓動はやけに遅く、トクン、トクンと一定に波打った。
だから、俺は、その声がした方を振り返ったのだ。
……!
──すると、そこには弓をこれでもかと引き絞った、”耳の尖った女”が立っていた。




