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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第六章:王都への道 ― 新たなる星座の旅路 ―

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旅の夜、深まる絆 ― 魔導具が紡ぐ安心と信頼 ―

ローレンツを出発したレオネリア達は、リディア達と共に帝国を目指して旅を続ける。


旅の途中ではゴブリンの群れを退け、その圧倒的な実力にリディア達は驚かされることとなった。


そして迎えた初めての野営。


そこでもメルキオラが作り出す数々の魔道具が、冒険者達を再び驚かせることになる。

レオネリア達を乗せた馬車は、帝国を目指して街道を進んでいた。

先ほどゴブリンの群れを討伐して以降、大きな魔物と遭遇することもなく、旅は順調に続いている。

やがて西の空が赤く染まり始めた。


「そろそろ野営の準備をしましょうか。」


レオネリアが手綱を握りながら周囲を見渡す。


「この辺りで良さそうね。」


街道脇には大きな岩が点在し、木々も程よく茂っている。

すると、リディアが慌てて声を掛けた。


「ちょっと待って!」


レオネリアは首を傾げる。


「どうしたの?」


「野営する場所はちゃんと選ばないと危ないよ。

 見通しが悪かったり、魔物が身を潜めやすい場所だったりすると、不意打ちを受けることもあるから。」


ソフィアも頷いた。


「戦いはあんなに強いのに、こういうところは意外と無頓着なのね。」


レオネリアは少し苦笑する。


「そう言われれば……そうかもしれないわ。」


そのやり取りを聞いていたメルキオラは、小さく「あっ」と声を漏らした。


「失礼しました。

 私達にとっては当たり前になっていましたね。」


「当たり前?」


リディア達が不思議そうな顔をする。


メルキオラは微笑みながら答えた。


「ええ。

 むしろ、このように大きな岩がある場所の方が都合が良いんです。」


三人は顔を見合わせた。


「どういうこと?」


メルキオラは懐から小さな魔道具を取り出す。


「ご覧ください。」


魔力を流した瞬間だった。

ゴゴゴゴゴ……

低い地鳴りと共に、馬車を中心に半球状の結界が展開される。

すると、その結界の表面はみるみる岩肌へと変化していき、馬車全体を包み込んだ。


数秒後。


そこには先ほどまで馬車があったとは思えないほど巨大な岩が鎮座していた。


「えぇっ!?」


リディア達は思わず声を上げる。


「馬車が……消えた?」


ソフィアは巨大な岩をぐるりと見回した。


「入り口がない……。

 本当にただの岩にしか見えないわ。」


スピカも近付き、岩肌へそっと手を触れる。


「硬い……。

 幻術じゃない。

 本物の岩みたいです。

 結界の上から岩に偽装しているんですか?」


メルキオラは満足そうに頷いた。


「その通りです。

 これは野営用の防護結界です。

 外からは巨大な岩にしか見えません。

 もちろん防御結界も兼ねていますので、普通の魔物程度では破ることはできません。」


リディアは感心したように巨大な岩を見上げた。


「でも……。

 入り口がないなら、中にはどうやって入るの?」


メルキオラは岩へ近付き、静かに手を添える。


「こうします。」


魔力を流すと、岩肌の一部が静かに左右へ開き、人が通れる入口が現れた。


「うわぁ……。」


スピカは思わず感嘆の声を漏らす。


「登録した魔力を流せば、このように入口が開きます。

 外へ出る時は自由ですが、中へ入るには登録された魔力が必要です。」


「つまり鍵ということですね。」


「はい。

 登録された方なら、どなたでも出入りできます。」


スピカの瞳が輝いた。


「それなら、私でも魔力を登録すれば使えるんですか?」


「もちろんです。」


「登録していただければ問題ありません。」


「すごい……。」


スピカは感心したように何度も頷いた。


「こんな魔道具があれば、野営がものすごく安全になります。」


少し迷ったように口を開く。


「お願いがあります。」


メルキオラは優しく微笑む。


「何でしょう?」


「私達にも同じ物を作っていただけませんか?

 もちろん、お代はお支払いします。」


メルキオラは少し考えた後、静かに首を振った。


「材料さえ揃えていただければ、お代は必要ありません。

 製作自体は、それほど難しいものではありませんので。」


「そんなわけにはいきません!」


スピカは慌てて両手を振る。


「それでは私達の気が済みません。

 次の街へ着いたら、ぜひ夕食をご馳走させてください。」


メルキオラは困ったようにレオネリアを見る。

レオネリアは小さく笑った。


「そこまで言ってくれるなら、ご厚意に甘えてもいいんじゃない?」


メルキオラは再びスピカへ向き直る。


「分かりました。

 そこまで仰るのでしたら、お言葉に甘えます。」


「ありがとうございます!」


スピカは満面の笑みで頭を下げた。

その様子を見ていたリディアは苦笑する。


「戦いだけでも驚かされたのに、こんな魔道具まで作れるなんて……。

 本当に二人とも底が見えないね。」


ソフィアも苦笑しながら頷いた。


「正直、今まで見てきた魔道具師とは次元が違うわ。」


レオネリアは肩をすくめる。


「買いかぶり過ぎよ。

 私達にもできないことはたくさんあるわ。」


その言葉にソフィアは思わず吹き出した。


「その台詞だけは信じられないわ。」


全員から笑い声が上がる。

和やかな空気の中、五人は野営の準備を進め、

それぞれのパーティごとにテントを張り始めた。


五人はそれぞれのパーティごとに手際よくテントを張っていく。旅慣れた冒険者達だけあって作業は早く、ほどなくして二張りのテントが完成した。


「それじゃあ、水を汲んでくるね。」


リディアが木桶を手にすると、メルキオラが声を掛けた。


「その必要はありませんよ。」


「え?」


メルキオラは鞄から手のひらほどの魔道具を取り出した。

地面へ置き、魔力を流す。

すると小さな台座のような形へ変化した。


「こちらへ手を触れてください。」


リディアが恐る恐る手を触れる。

次の瞬間。

チョロチョロ……

透明で澄んだ水が勢いよく流れ始めた。


「えっ!?」


リディアは思わず木桶を差し出す。

あっという間に木桶いっぱいの水が溜まった。


「もう一度触れると止まります。」


言われた通りに手を触れると、水はぴたりと止まった。

三人は呆然とその魔道具を見つめる。


「こんな物まで……。」


ソフィアが思わず呟く。

スピカは目を輝かせていた。


(これも欲しい……。

 でも、さっき野営用の結界をお願いしたばかりなのに……。)


流石に立て続けに頼むのは気が引ける。

そんなスピカの様子を見たメルキオラは、優しく微笑んだ。


「こちらも、材料さえご用意いただければお作りしますよ。」


「えっ?」


スピカは驚いて顔を上げる。


「でも、それでは申し訳ありません。」


メルキオラは少し考える素振りを見せると、穏やかに言った。


「それでしたら……。

 次の街で、一晩分の宿代をご負担いただくというのはいかがでしょうか。」


その言葉を聞いたリディアとソフィアは顔を見合わせる。


「その程度でいいなら喜んで!」


「それなら遠慮なくお願いするわ!」


二人は即答した。

メルキオラは嬉しそうに微笑む。


「では、そのようにいたしましょう。」


一方その頃。

レオネリアは馬車の荷台から干し肉や調味料を取り出していた。


「ごめんなさい。

 料理はあまり得意じゃないの。

 よければお願いしてもいいかしら?」


リディアは笑顔で頷く。


「もちろん!

 任せて。」


ソフィアも腕まくりをする。


「料理なら私達の担当ね。」


三人で手際よく調理を進めると、香ばしい匂いが辺りへ広がっていく。


やがて温かな夕食が完成した。

五人は焚き火を囲み、夕食を楽しみながら自然と会話に花を咲かせる。


「そういえば。」


リディアが尋ねた。


「レオネリアさん達は料理が苦手みたいだけど、今まではどうしてたの?」


レオネリアは少し懐かしそうに笑う。


「仲間の中に料理がとても上手な人がいたの。

 だから、いつも任せっきりだったわ。

 今は少し事情があって、その仲間とは別行動をしているの。

 私達は帝国のダンジョンの状況を調べるために来ているのよ。」


事情をぼかしながら答える。

そして少しだけ笑った。


「その仲間達は、私達なんて足元にも及ばないくらい強い人達ばかりだったわ。」


「えぇっ!?」


リディア達は思わず声を揃えた。


「二人より強い人がいるなんて……信じられない。」


リディアは焚き火を見つめながら、小さく笑う。


「私にも昔、憧れの人がいたの。

 私は元々騎士団に所属していてね。

 その人に憧れて、必死についていった。」


少し遠くを見るような目になる。


「でも、それもずいぶん昔の話だけど。」


その言葉にレオネリアは静かに頷いた。


「私達も同じです。

 憧れというより……尊敬する人がいました。

 心から敬い、その人のためなら命も惜しくないと思えるような方でした。

 だから、あなたの気持ちは少し分かります。」


リディアは優しく微笑んだ。


「そうだったんだね。」


焚き火の火が静かに揺れる。

五人は他愛のない話を続け、笑い声は夜空へ溶けていった。

やがて食事も終わり、それぞれ片付けを済ませる。

リディアが口を開いた。


「見張りはどうしようか?」


するとメルキオラは首を横に振った。


「必要ありません。

 この防護結界には警戒機能も備わっています。

 何者かが侵入しようとした場合は警告音が鳴りますので、ご安心ください。」


「そこまで付いてるの!?」


スピカは驚きを隠せなかった。

リディアとソフィアも苦笑する。


「本当に便利な魔道具ばかりね。」


「もう驚くのにも疲れてきたわ。」


その言葉に全員が笑い合う。

こうして五人は安心して眠りにつき、翌日に控えた帝国への入国に備えるのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は戦いの後の野営を中心に、リディア達とレオネリア達が少しずつ打ち解けていく様子を描きました。


メルキオラの魔道具はまだまだこれだけではありません。


次回はいよいよ帝国へ入国します。

しかし、その前に野営で使用するテントにも、メルキオラならではの秘密が隠されています。


帝国編の幕開けとなる次回も、ぜひお楽しみください。

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次回の更新は、7月28日18時を予定してます

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