旅立ちの朝 ― 新たな仲間との同行 ―
ローレンツでの準備を終えたレオネリアとメルキオラは、リディア達と共に帝国へ向けて出発します。
新たな仲間との旅が始まる中、メルキオラが手掛けた魔導馬車の性能、そして二人が秘める実力が早くも明らかになります。
それでは、第六章の続きをお楽しみください。
一方その頃――。
エリス達がミネアヴィレッジで新たな日々を迎えていた頃、国境の街ローレンツでは、もう一つの旅が始まろうとしていた。
レオネリアとメルキオラは早めに目を覚ますと、宿『安らぎの里』で朝食を済ませた。
荷物を馬車へ積み込み、帝国へ向かう準備を整える。
「それじゃあ、行きましょうか。」
「ええ。」
二人は馬車へ乗り込み、待ち合わせ場所である冒険者ギルドへ向かった。
やがてギルドが見えてくる。
その前には既に三人の女性が待っていた。
リディア、ソフィア、そしてスピカである。
レオネリア達が遅れたわけではない。
約束の十分前には到着していた。
それでも、リディア達の方がさらに早く来ていただけだった。
「おはよう!」
リディアが笑顔で手を振る。
レオネリア達も馬車を止めて近付いた。
するとリディアは馬車を見て少し驚いた表情になる。
「えっ、二人は馬車を持ってるの?
すごいね。」
レオネリアは苦笑した。
「そんな大したものじゃないわ。
旅を少しでも楽にしたかっただけよ。」
メルキオラも静かに頷く。
「野営道具も積めますし、長旅には便利ですから。」
「なるほどね。」
リディアは感心したように馬車を眺めた。
そこで、ふと何かを思い出したように手を叩く。
「あっ、そうだった。
紹介がまだだったね。」
リディアは隣に立つ二人へ手を向けた。
「こっちが前衛の剣士、ソフィア。
それで、こっちが後衛の魔術師兼回復役のスピカ。
二人とも私と同じパーティの仲間だよ。」
ソフィアは軽く頭を下げた。
「よろしく。」
スピカも微笑む。
「よろしくお願いします。」
レオネリアも笑みを浮かべ、一歩前へ出た。
「改めて自己紹介するわ。
私はレオネリア。
剣士をやっているわ。」
続いてメルキオラも一礼する。
「メルキオラです。
魔術師をしております。それと、魔道具作りも少々。」
ソフィアは驚いたように目を見開く。
「魔道具師でもあるの?」
メルキオラは控えめに微笑んだ。
「はい。
旅の間に必要な物を作る程度ですが。」
リディアは納得したように頷いた。
「だから通信機なんて珍しい魔道具を持ってたんだね。」
「これからよろしく!」
「こちらこそ、よろしく。」
お互いの自己紹介を終えると、五人は改めて握手を交わし、レオネリアはリディア達へ声を掛けた。
「それじゃあ、荷物を馬車へ積んで。
出発しましょう。」
「ありがとう!」
リディア達は礼を言いながら荷物を積み込んだ。
「馬車があると助かるね。」
「これからの移動も楽になりそう。」
ソフィアとスピカは嬉しそうに顔を見合わせた。
その様子をレオネリアとメルキオラは微笑ましく見守る。
準備を終えると、御者台にはレオネリアとメルキオラが座った。
リディア達三人は荷台へ乗り込む。
やがて馬車はローレンツを出発し、帝国国境の街サンテスへ向かって走り始めた。
しばらく進んだ頃だった。
スピカが不思議そうに首を傾げる。
「……あれ?」
「どうかした?」
リディアが尋ねる。
「この馬車……全然揺れません。
街道なのに。」
リディア達も改めて意識してみる。
確かに街道は石や轍で凹凸があるはずなのに、馬車はまるで滑るように進んでいる。
スピカは御者台へ声を掛けた。
「メルキオラさん。
ひょっとして、この馬車もメルキオラさんが作られたんですか?」
メルキオラは少し振り返った。
「どうしてそう思われたのですか?」
「普通の馬車なら、こんなに静かに走れません。
全く揺れないので。」
メルキオラは小さく微笑んだ。
「よくお気付きになりましたね。
ええ、この馬車は私が改良しました。
長距離の移動でも疲れにくいよう、揺れを抑える魔道具を組み込んであります。」
「やっぱり!」
スピカは感心したように目を輝かせた。
「こんな魔道具、初めてです。」
レオネリアも笑みを浮かべる。
「私も最初は驚いたわ。
一度これに乗ると、普通の馬車には戻れないもの。」
御者台で手綱を握るレオネリアの隣で、メルキオラがふと口を開く。
「この馬車には、まだまだ仕掛けがあるんですよ。」
「えっ、本当ですか?」
スピカは目を輝かせながら荷台の中を見回した。
座席の下や荷物の周囲まで確認してみるものの、それらしい魔道具は見当たらない。
「何もないように見えるんですけど……。」
メルキオラは意味ありげに微笑んだ。
「すぐに分かりますよ。」
その言葉を聞いたレオネリアも小さく笑う。
「そうね。
この先にゴブリンがいるから。」
「えっ?」
リディア達は一斉に前方へ視線を向けた。
レオネリアは街道の先を見据えたまま続ける。
「数は三十体ほど。
その中には魔術特化の個体も混ざっているわ。」
メルキオラは静かに頷いた。
「この馬車の仕掛けは、実戦になれば一番分かりやすいですから。」
その直後だった。
街道脇の茂みが大きく揺れる。
「ギャァァッ!」
「ギギッ!」
約三十体のゴブリンが一斉に飛び出してきた。
剣や棍棒を持つ個体が前へ出る。
その後方では、杖を持った魔術特化のゴブリン達が魔力を練り始めていた。
「来る!」
リディアとソフィアは素早く剣を抜き、スピカも魔法を放つ準備を整える。
しかし、魔術ゴブリン達は前衛を飛び越え、最初から馬と馬車を狙っていた。
「ギャッ!」
一斉にファイヤーボールが放たれる。
複数の炎の球が一直線に馬車へ迫った。
「迎撃する!」
リディアが飛び出そうとした、その時だった。
「ご安心ください。」
メルキオラは落ち着いた口調で言う。
「そのまま見ていてください。」
リディア達は戸惑いながらも動きを止めた。
ファイヤーボールは勢いよく馬車へ迫る。
そして、命中する寸前――。
ブォンッ!
馬車全体を包む透明な防御壁が淡く輝いた。
轟音と共にファイヤーボールは防御壁へぶつかる。
しかし、防御壁はびくともせず、炎は弾かれて四散した。
馬にも馬車にも傷一つ付いていない。
「す、すごい……。」
スピカは思わず声を漏らした。
「こんな魔道具、初めて見ました。
これなら馬を狙われても安心ですね。」
「ええ。」
メルキオラは静かに頷く。
「旅では馬が最も狙われやすいですから、
馬と馬車を守る防御結界を組み込んであるんです。」
「なるほど……。」
スピカは感心したように何度も頷いた。
「こんな発想、思いつきもしませんでした。
だから『すぐに分かる』と仰っていたんですね。」
「はい。」
メルキオラは穏やかに微笑む。
「実際に見ていただくのが一番早いと思いましたので。」
そう言うと、メルキオラは静かに右手を前へ差し出した。
「──アビスバインド。」
黒い魔法陣が街道一帯へ広がる。
次の瞬間、無数の漆黒の鎖が地面から飛び出し、ゴブリン達の身体へ一斉に絡み付いた。
「ギャッ!?」
「ギギギッ!!」
暴れようとしても誰一人として動くことができない。
その瞬間には、レオネリアの姿は御者台から消えていた。
「えっ!?」
リディアが目を見開く。
気付けばレオネリアは既にゴブリン達の目前へ踏み込んでいた。
銀色の剣が閃く。
一閃。
また一閃。
さらに一閃。
流れるような剣技で、拘束されたゴブリン達を次々と斬り伏せていく。
抵抗する暇すらない。
ものの数十秒で、三十体いたゴブリンは一体残らず討伐されていた。
レオネリアは剣に付いた血を軽く払うと、静かに鞘へ納める。
そのまま何事もなかったかのように御者台へ戻った。
「終わったわ。」
その一言に、リディア達は呆然と立ち尽くしていた。
最初に口を開いたのはソフィアだった。
「……これ、本当に私達の出番がなかったわね。」
スピカも苦笑しながら頷く。
「馬車を守るどころか、魔法を使う暇すらありませんでした……。」
リディアは倒れたゴブリン達を見渡し、静かに息を吐く。
「メルキオラさんの拘束魔法も凄いけど、それを一瞬で殲滅するレオネリアさんも凄すぎる。
二人とも、息がぴったりだ。
長年一緒に戦ってきた人にしかできない連携だよ。」
ソフィアは苦笑する。
「私達もAランクだけど、正直、ここまでの実力差があるとは思わなかった。」
スピカも深く頷いた。
「帝国へ向かう道中だけでも、たくさん勉強させてもらえそうですね。」
レオネリアは少し照れたように笑う。
「そんな大げさなものじゃないわ。」
メルキオラも穏やかに微笑む。
「旅は始まったばかりです。これからもよろしくお願いします。」
「こちらこそ!」
リディア達は力強く頷いた。
こうして五人を乗せた馬車は、帝国国境の街サンテスへ向けて再び走り始めた。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
今回は、レオネリア達がローレンツを旅立ち、リディア達との共同行動が本格的に始まる様子を描きました。
リディア達にとっては、メルキオラが開発した魔導馬車や、レオネリアとメルキオラの息の合った戦いを間近で目にする、驚きの連続だったのではないでしょうか。長年共に戦ってきた二人だからこその連携を感じていただけたら嬉しいです。
そして、五人を乗せた馬車はいよいよ帝国国境へと近づいていきます。
次回も引き続きレオネリア達の物語です。帝国目前ですがメルキオラの魔道具は馬車だけには止まりません。どのような魔道具が出てくるのか,ぜひ楽しみにしていただければ幸いです。
次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。
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次回の更新は、7月27日18時を予定してます




