ミネアヴィレッジに到着 ― 受け継がれた絆と、思わぬ歓迎 ―
ベルハイムを後にしたエリス達は、盗賊を制圧し、その馬達も保護しながら目的地であるミネアヴィレッジへと向かいます。
小さな農村と思われたその村で、一行を待っていたのは予想もしなかった歓迎と、クラリスにとって懐かしい再会でした。
それでは、第六章の続きをお楽しみください。
翌朝――。
異空間の中でも朝はやって来る。
寝る前には消していた照明の魔道具が、朝になるとゆっくりと明るさを増していく。
まるで朝日が昇るかのような優しい光が部屋を照らし始めた。
その明かりでエリスはゆっくりと目を覚ます。
隣を見ると、マリンもちょうど目を覚ましたところだった。
「おはよう。」
「おはよう、エリス。」
二人は笑顔で挨拶を交わし、身支度を整えるとリビングへ向かった。
リビングでは既にクラリスとミリアが朝食の支度を始めていた。
「「おはよう。」」
「おはよう、二人とも。」
「手伝うね。」
エリスとマリンも自然と準備に加わる。
水は魔道具から出せる。
オーブンもある。
こうした設備のおかげで、野営とは思えないほど快適な朝を迎えられていた。
しばらくすると、ルシアン、カイル、ガルドも起きて来た。
全員が揃うと朝食が並べられる。
今日の朝食は焼きたてのパンと乾燥肉を煮込んだスープという簡単なものだった。
それでも、野営中に焼きたてのパンが食べられるというだけで十分贅沢だった。
朝食を食べながら、ルシアンが今日の予定を確認する。
「今日は予定通り、ミネアヴィレッジへ向かう。」
全員が頷く。
続いてルシアンは昨日の盗賊襲撃を思い返した。
「昨日まで二度続けて、御者台にエリスとマリンだけがいるところを盗賊に狙われた。
流石に同じことを繰り返すわけにはいかない。
だから移動中の体制を見直そうと思う。」
クラリスも賛成する。
「確かに、その方がいいわね。」
ルシアンは地面へ簡単な図をそして御者台には必ず男性を一人配置する。
「そうすれば、女性二人だけで旅をしていると思われることも減るだろう。
実際には誰が御者台にいても戦力に問題はない。
だが、無駄な襲撃を減らせるなら、その方がいい。」
全員異論はなかった。
朝食を終えると後片付けを済ませ、それぞれ持ち場へ向かう。
最初の組はエリス、マリン、ルシアン、カイル。
ルシアンが御者を務め、エリスはその隣へ座る。
マリンとカイルは幌の中から周囲を警戒する。
クラリス達三人は異空間の部屋で休憩を取ることにした。
馬車は静かに街道を走り始める。
昨日とは違い、御者台に男性がいるため、すれ違う旅人達も特に気に留めることはなかった。
森を抜けても、街道を進んでも、盗賊の姿は見えない。
魔物が襲ってくることもなかった。
「効果あったみたいだね。」
マリンが小さく笑う。
「そうだね。
このまま何事もないといいけど。」
エリスも微笑んだ。
交代を挟みながら馬車は順調に進んでいく。
やがて太陽は西へと傾き始めた。
ルシアンが前方を指差す。
「あれだ。」
エリス達が視線を向ける。
街道の先には、一つの村が見えていた。
「ミネアヴィレッジ……。」
エリスは小さく呟く。
予定していた通り、夕方には到着できそうだった。
新たな出会いと出来事が待つ村へ向け、一行は静かに馬車を走らせるのだった。
⸻
エリス達を乗せた馬車は、今日は何事もなくミネアヴィレッジに向かって進んでいた。
ミネアヴィレッジへ近付くにつれ、村の全景が少しずつ見えてきた。
エリスはその景色を見つめる。
「リンドルより小さい……。」
故郷のリンドルの街と比べても、一回りほど小さく見える。
ここは街というより、一つの大きな村といった印象だった。
村の入口付近には大きな建物が二つ建っている。
一つは剣と盾が描かれた看板を掲げた騎士団の宿舎。
そしてもう一つは冒険者ギルドだった。
ギルドのすぐ隣には宿屋があり、その近くには酒場も見える。
村の中央には教会が高くそびえ立ち、その周囲には食料品店や雑貨店など、いくつかの商店が軒を連ねていた。
さらにその周囲には小さな民家が数多く建ち並び、村全体は木の塀で囲まれている。
塀の外には広大な農地や牧草地が広がっていた。
「農業が盛んな村みたいだね。」
マリンが感心したように呟く。
「そうみたい。」
エリスも頷いた。
村の入口には木造の門が設けられ、門兵が入村者の確認を行っている。
エリス達も順番待ちの列へ馬車を進めた。
幸い列はそれほど長くなく、すぐに順番が回ってきた。
クラリスが代表して冒険者ギルドカードを差し出す。
門兵はカードを受け取ると、一枚の書類を取り出し、名前を照らし合わせ始めた。
そして次の瞬間、その表情が変わる。
「……こ、これは!」
門兵は思わず目を見開いた。
慌てて近くにいた門兵を呼び寄せる。
「少し来てくれ。」
呼ばれた門兵が近寄ると、書類とギルドカードを見せながら小声で耳打ちした。
「伝令にあった『新たなる星座』の皆様だ。
至急、村長と騎士隊長へお伝えしろ。
皆様がお見えになったと。」
「了解しました。」
呼ばれた門兵は敬礼すると、すぐに村の奥へ向かって駆け出していった。
残った門兵は姿勢を正し、クラリス達へ向き直る。
「失礼いたしました。
皆様は、聖女様のパーティ『新たなる星座』の皆様でいらっしゃいますね。」
クラリスは穏やかに頷いた。
「ええ、その通りよ。」
門兵は深く一礼する。
「皆様のことは、セントポルより伝令を受けております。
お越しになられた際には、丁重にお迎えするよう申し付けられております。」
その言葉を聞いたクラリスは、小さく微笑んだ。
「……やはり、セレフィーナ様ね。」
「お母さん?」
エリスが不思議そうに尋ねる。
「あの方なら、ここまでしてくださっても不思議ではないわ。
昔から、とても行動力のあるお方だったもの。」
クラリスは幼い頃のセレフィーナを思い浮かべながら、感心したように続ける。
「まさか、本当に各地へ伝令を送ってくださっていたとは思わなかったわ。」
エリス達もようやく事情を理解し、小さく頷いた。
門兵は改めて尋ねる。
「差し支えなければ、本日はどちらへ御用でしょうか。」
ルシアンが一歩前へ出る。
「冒険者ギルドです。」
「承知いたしました。」
門兵は再び一礼した。
「騎士隊長が参られるまで、少々こちらでお待ちください。」
エリス達は頷き、その場で待つことにした。
セントポルからの伝令は、思っていた以上に大きな影響を各地へ与えていたのだった。
エリス達がしばらく待っていると、二人の男性が足早に門へやって来た。
一人は五十代ほどの落ち着いた雰囲気の男性。
もう一人は三十代前半ほどの騎士だった。
年配の男性が一歩前へ出て、一礼する。
「お待たせいたしました。
私はミネアヴィレッジ村長のアルガスと申します。」
続いて騎士がクラリスを見るなり、驚いたように目を見開いた。
「……団長。」
その一言に、クラリスも騎士の顔を見つめる。
「あら……エリック?」
「はい!」
エリックは嬉しそうに背筋を伸ばした。
「お久しぶりです。」
「新人だったあなたが、騎士隊長になるなんて。
随分立派になったわね。」
クラリスは懐かしそうに微笑んだ。
「見違えたわ。」
「ありがとうございます。」
エリックは少し照れくさそうに頭を掻く。
「セントポルでのご活躍は伺っております。
団長も相変わらず剣の腕は衰えておられないようですね。」
クラリスは苦笑した。
「私はもう団長じゃないわ。」
「昔の癖で、つい……。」
エリックも苦笑いを浮かべる。
長年尊敬してきた上官を名前で呼ぶことなど、彼にはまだ抵抗があった。
そのやり取りを見ていたアルガスは、微笑ましそうに頷いた。
「申し訳ありません。
つい再会に話が弾んでしまいました。」
アルガスは改めて姿勢を正す。
「門兵から、皆様が冒険者ギルドへ御用と伺っております。
差し支えなければ、ご用件をお聞かせ願えますでしょうか。」
ルシアンが一歩前へ出た。
「街道で盗賊四十人を捕らえました。
その引き渡しのため、冒険者ギルドへ参りました。
それと、盗賊達が乗っていた馬二十頭も保護しております。」
アルガスは馬車の後ろへ視線を向ける。
確かに二十頭ほどの馬が大人しく繋がれていた。
「なるほど。
確かに馬はおりますな。
ですが……盗賊達の姿が見当たりませんが、どちらに拘束されているのでしょうか。」
ルシアンは周囲へ視線を向けた。
門の周囲には村人や旅人の姿もあり、多くの人が行き交っている。
ルシアンはアルガスの近くへ歩み寄ると、小声で耳打ちした。
「実は、特殊な魔道具で盗賊達を異空間へ拘束しております。
ただ、この魔道具は一般的なものではありません。
できれば、あまり多くの人の前では使いたくありませんので、人目の少ない場所をご案内いただけますでしょうか。」
アルガスは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに頷いた。
「なるほど。
事情は分かりました。
それでしたら、騎士隊の演習場をお使いください。
普段は訓練に使用しておりますので、十分な広さがありますし、関係者以外は立ち入りません。」
ルシアンも頷いた。
「ありがとうございます。」
アルガスはエリックへ視線を向ける。
「エリック。
皆様を演習場までご案内しなさい。」
「承知しました。」
エリックは敬礼すると、クラリス達へ向き直った。
「皆様、こちらです。」
エリス達はエリックの案内に従い、騎士隊の演習場へ向かった。
村人達は、門を通っていく一行を不思議そうに見送るのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
今回は、ミネアヴィレッジへの到着と、クラリスの元部下であるエリックとの再会を描きました。
クラリスが騎士団長として多くの部下を率いていた時代は物語ではほとんど語られていませんが、その頃に築かれた信頼や絆が、こうして今も受け継がれていることを感じていただけたなら嬉しいです。
また、セントポルから送られた伝令によって、エリス達の存在が各地へ伝わり始めていることも分かりました。セレフィーナらしい細やかな気配りが、思わぬ形で一行を支えることになります。
次回は、騎士隊の演習場で盗賊四十人を引き渡し、ミネアヴィレッジで新たな出来事が始まります。
次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。
感想や評価、ブックマークなども大変励みになります!
次回の更新は、7月23日18時を予定してます




