ミネアヴィレッジへの道 ― 盗賊の残したものと仲間からの報告 ―
レオネリアとメルキオラが帝国へ向かった後も、エリス達の旅は続いていました。
魔族の姿は見えず、どこか不気味な静けさが漂う街道。
しかし、その静寂は長くは続きません。
新たな盗賊との遭遇、そして仲間から届く一通の通信。
エリス達の旅は、少しずつ新たな局面を迎えていきます。
それでは、第六章の続きをお楽しみください。
時間は少し遡る――。
レオネリアとメルキオラが帝国へ向けて旅立った直後。
エリス達は予定通り、交易都市アルフェリアを目指して馬車を進めていた。
これまでの旅では幾度となく魔族の襲撃やキメラとの戦いがあった。
しかし今回は、魔物こそ現れるものの、魔族の姿は一度も見当たらない。
エリスは御者台から前方を見つめながら、小さく呟いた。
「やっぱり……。」
隣で手綱を握るマリンが首を傾げる。
「どうしたの?」
「今までなら、もう何度か魔族が仕掛けてきてもおかしくないのに……。
何もないのが逆に気になる。」
エリスは少し俯いた。
「それに、レオネリア達も心配なの。
帝国へ向かったばかりだから……。」
マリンは優しく笑った。
「大丈夫だよ。
レオネリアさん達、すごく強いし。
それに、もしもの時は異空間へ転移して戻って来られるんだから。」
「そうだね。」
エリスも安心したように微笑んだ。
「私が心配し過ぎなのかもしれないね。」
その時だった。
『エリス。』
セラの声が頭の中へ響く。
『少し先に人が隠れてる。
数は……四十くらい。
盗賊だよ。』
エリスの表情が引き締まる。
「マリン。」
「うん。」
「盗賊。」
マリンもすぐに理解した。
エリスは通信機で異空間にいる仲間へ連絡を入れる。
「みんな、盗賊よ。
戦闘準備。」
『了解。』
ルシアンの短い返事が返ってきた。
⸻
一方、その頃。
街道脇の林には四十人近い盗賊が潜んでいた。
御者台には若い少女が二人。
荷台にも護衛の姿は見えない。
「また良い獲物が来たな。
今日の宴は豪勢になるぞ。」
盗賊達は勝利を疑っていなかった。
「行け!」
合図と同時に馬へ跨った盗賊達が一斉に飛び出した。
数人は馬車へ並走し、そのまま馬へ向かって剣を振り下ろす。
しかし――。
キィン!
剣は馬へ届くことなく、見えない壁に弾かれた。
「なっ!?
なんだこれは!」
驚く間もなく、今度は別の盗賊が火矢を放つ。
だが、それも馬車へ届く寸前で防護結界に阻まれ、火花を散らして消えた。
「馬車にも結界だと!?」
盗賊達が動揺した、その瞬間だった。
「マリン!」
「任せて!」
マリンは前へ手を突き出す。
「ウインドウォール!」
突風が盗賊達へ向かって吹き荒れる。
馬上で体勢を崩した盗賊達は次々と馬から叩き落とされた。
それを合図に、馬車の幌が開く。
異空間からクラリス達が次々と姿を現した。
「行くわよ!」
クラリスとエリスが同時に駆け出す。
盗賊達が立ち上がる暇も与えない。
剣の腹や柄で急所を正確に打ち抜き、次々と気絶させていく。
後方ではカイルが弓を引いた。
放たれた矢は盗賊達の腕や脚だけを正確に射抜き、反撃する力を奪っていく。
さらにミリアが魔法を放つ。
「ホーリーランス!」
光の槍が盗賊達の足元へ突き刺さり、その衝撃で武器を弾き飛ばした。
ルシアンとガルドも加勢し、盗賊達を次々と制圧していく。
戦いは数分も掛からなかった。
四十人もの盗賊は、新たなる星座の前では何もできず、全員が地面へ倒れ伏していた。
「終わったわね。」
クラリスが周囲を見回す。
エリスは馬車へ戻ると、メルキオラから預かっていた異空間と繋がる魔道具を取り出した。
魔力を流し込むと、小さな扉が静かに現れる。
「これならメルキオラがいなくても大丈夫ね。」
ルシアンが頷く。
盗賊達を一人ずつ拘束し、異空間へ収容していく。
こうして四十人もの盗賊は、一人の逃亡者も出すことなく全員が捕らえられたのだった。
盗賊達を全員異空間へ収容し終えると、エリスは周囲を見回した。
「……そういえば。」
エリスの視線の先には、盗賊達が乗っていた馬がいた。
全部で二十頭ほどいる。
「この子達、どうしよう……。」
マリンも馬達を見つめる。
「流石にこのまま放っておくのは可哀想だよね。
野生の馬じゃないし、人に飼われていた馬だから、自分達だけでは生きていけないと思う。」
エリスは静かに頷いた。
「うん。近くの街まで連れて行こう。」
ルシアンも賛成した。
「それがいいだろう。
盗賊達の証拠にもなるし、街で保護してもらえば馬達も助かる。」
ガルドとカイルが手分けして馬を集める。
馬同士を数頭ずつ縄で繋ぎ、その先頭を馬車へ結び付けた。
これなら馬車が進めば自然と後ろをついて来る。
準備を終えると、ルシアンは地図を広げた。
「近くの街は……ミネアヴィレッジか。
ここからなら、明日の夕方頃には着けそうだ。」
全員が頷く。
こうして一行は予定を変更し、ミネアヴィレッジへ向かうことになった。
その話を聞いたエリスとマリンは顔を見合わせる。
「新しい街だね。」
「うん!」
「スイーツ屋さん、あるかな?」
「きっとあるよ!」
先程まで盗賊と戦っていたとは思えないほど、二人はすっかり次の街のスイーツに期待を膨らませていた。
◇ ◇ ◇
夕方になると、一行は野営をするため平坦な場所を探した。
今回は二十頭もの馬もいるため、近くに川が流れている場所を選ぶ。
まずは全員で馬達を川へ連れて行き、水を飲ませる。
喉を潤した馬達は安心したように鳴き声を上げていた。
その間に、ルシアン、カイル、ガルドは馬の餌になりそうな草を刈り集める。
クラリスとミリアは異空間のキッチンで夕食の準備を始めた。
やがて馬達への世話も終わり、全員で夕食を囲む。
今日も温かい料理と焼きたてのパンが並び、旅の疲れを癒やしてくれた。
食事を終えると、それぞれ温かい飲み物を片手にくつろぎ始める。
ルシアンがふと口を開いた。
「今日だけで四十人もの盗賊に襲われた。
明日も同じような連中が現れるかもしれんな。」
その言葉に皆も頷く。
するとマリンが冗談交じりに笑った。
「いっそのこと、セラが馬車を引けば盗賊なんて誰も襲って来ないんじゃない?」
『えっ!?』
突然名前を呼ばれたセラが驚いた声を上げる。
エリスは苦笑しながら首を横に振った。
「それじゃあ逆に目立ち過ぎちゃうよ。」
「それもそうか。」
マリンは照れ笑いを浮かべた。
その場は穏やかな笑いに包まれる。
その時だった。
ピピッ……
通信機から呼び出し音が鳴り響いた。
エリスが通信機へ魔力を流す。
「はい、エリスです。」
『エルシア様、お疲れ様です。』
メルキオラの声だった。
「メルキオラ!」
「そっちは大丈夫?」
『はい。』
『今、私たちは国境近くの街、ローレンツにいます。
現在分かっている限りでは、帝国軍は戦争の準備を進めているように見受けられます。
ですが、その目的まではまだ判明していません。
明日ビザを受け取り次第、帝国へ入り詳細を調査する予定です。
それと、帝国へ潜入するにあたり、一時的に女性三人組の冒険者パーティと行動を共にすることになりました。』
「そうなの?」
『はい。
相手からお誘いをいただきました。
リーダーはリディアというAランク冒険者です。』
メルキオラが通信を終える。
しばしの静寂。
その中で、クラリスが驚いたように小さく呟いた。
「……リディア?」
クラリスが小さく呟く。
全員がクラリスを見る。
「どうしたの?」
エリスが尋ねると、クラリスは少し考え込むような表情を浮かべた。
「昔、私の部下にもリディアという子がいたの。
もちろん同じ人物とは限らないけれど……。
少し気になっただけよ。」
そう言って微笑んだものの、その表情にはどこか懐かしさが滲んでいた。
通信を終えた一行は、それぞれ明日に備えて部屋へ戻っていく。
クラリスだけは、しばらく夜空を見上げながら、一人の少女の面影を思い浮かべていた。
最後まで読んで頂きありがとうございます
今回は、エリス達の視点へ戻り、盗賊との戦いからミネアヴィレッジへ向かうことになるまでを描きました。
盗賊達を倒した後も、残された馬達を見捨てず保護しようとするエリス達らしい一面を書けた回でもあります。
また、レオネリアとメルキオラからの通信によって、帝国での動きが少しずつ見え始める一方、クラリスにとって懐かしい「リディア」という名前が再び登場しました。この偶然が何を意味するのかは、今後の物語で明らかになっていきます。
次回は、エリス達がミネアヴィレッジへ到着します。新たな街ではどのような出会いや出来事が待っているのか、ぜひ楽しみにしていただければ嬉しいです。
次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。
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次回の更新は、7月21日18時を予定してます




