国境の街ローレンツ ― 帝国潜入への準備 ―
エリス達が交易都市アルフェリアへ向けて旅を続ける一方、レオネリアとメルキオラは国境の街ローレンツで帝国へ入るための準備を進めていました。
ビザの取得や旅支度、そして帝国の情報収集。
偽装した冒険者として行動する二人は、少しずつ帝国潜入への足掛かりを築いていきます。
それでは、第六章の続きをお楽しみください。
レオネリアとメルキオラは酒場で、地図を広げながらアルカンダまでの道のりを確認していた。
もちろん、それは周囲へ聞こえるように話している。
「帝国へ入ったら、この街道を通ってアルカンダへ向かうのね。」
「ええ。そのようですね。」
すると、その会話を聞いていた一人の女性が近付いてきた。
年齢は三十代前半ほど。
腰には剣を下げ、歴戦の冒険者らしい雰囲気を纏っている。
「ごめんなさい。
話が聞こえちゃったんだけど……。
お姉さん達、アルカンダへ行くの?」
レオネリアは穏やかに頷いた。
「ええ、その予定よ。」
女性は安心したように笑う。
「良かった。
私はリディア。
サントスで活動してるAランク冒険者よ。」
そう言ってギルドカードを見せた。
「実は私達もアルカンダへ行く予定なの。
三人パーティなんだけど、ダンジョンって人数が多い方が安心でしょ?
それに、お姉さん達もAランクだって受付で見えちゃって。」
少し照れながら笑う。
「もし迷惑じゃなければ、一緒に行かない?
ちなみに私が剣士。
ソフィアも前衛の剣士。
スピカは後衛で、回復魔法も使える魔術師よ。
全員女だから、その方がお互い安心かなって思って。」
レオネリアとメルキオラは顔を見合わせ、小さく頷いた。
二人だけで帝国へ向かうよりも、冒険者パーティと一緒に行動した方が自然だ。
ダンジョンへ向かう者同士としても不自然ではない。
「分かったわ。
ご一緒させてもらうわね。」
リディアは嬉しそうに笑った。
「ありがとう!」
レオネリアは軽く自己紹介をする。
「私はレオネリア。剣士よ。
こちらはメルキオラ。
魔術師で、魔道具作りも得意なの。」
メルキオラも軽く会釈した。
「よろしくお願いします。
私達もAランク冒険者です。
普段はAランクパーティで活動していますが、今回はしばらく二人で依頼を受けながら旅をしているところなんです。」
「そうだったんだ!」
リディアは納得したように頷いた。
「それなら安心だね。
よろしく!」
「こちらこそ。」
その後、宿の話になった。
「私達は『安らぎの里』に泊まってるんだけど、そっちは?」
「私達は『ムーンライト』よ。」
宿が別だと聞き、メルキオラが考え込む。
「それだと連絡を取り合うのが少し不便ですね。」
そう言うと、小さな魔道具を取り出した。
「これを使ってください。
離れた場所でも会話ができる通信機です。」
リディアは目を丸くする。
「えっ!?」
「そんな便利な魔道具があるの?」
「試作品ですが、問題なく使えます。
必要になったらこちらから連絡します。」
「すごい……。」
リディアは大事そうに受け取った。
レオネリアも話を続ける。
「ちなみに、私達は帝国へのビザを申請中なの。
明日には受け取れる予定よ。」
「それなら出発は明後日ね。」
リディアは笑顔で言った。
「明後日の朝、冒険者ギルドで落ち合いましょう。」
「ええ。」
「よろしく。」
こうして一時的ではあるが、レオネリアとメルキオラはリディア達と行動を共にすることになった。
⸻
リディア達と別れたレオネリアとメルキオラは、すっかり日も暮れていたため、宿へ戻ることにした。
部屋へ入ると、二人は今日集めた情報を整理する。
帝国へ入るためのビザ。
帝国軍の不穏な動き。
東海へ集められている兵士達。
そして、アルカンダへ向かう予定の女性冒険者パーティとの出会い。
一通り整理を終えると、メルキオラは通信機を取り出した。
「そろそろご報告しましょう。」
「そうね。」
通信機へ魔力を流す。
しばらくすると、
『はい、エリスです。』
と元気な声が聞こえてきた。
「エルシア様、お疲れ様です。
レオネリアです。」
『レオネリア、お疲れさま。
みんなも一緒にいるよ。』
「それならちょうど良かったです。」
レオネリアは今日判明したことを順番に報告した。
「今、私たちは国境近くの街、ローレンツにいます。
現在分かっている限りでは、帝国軍は戦争の準備を進めているように見受けられます。
ですが、その目的まではまだ判明していません。
明日ビザを受け取り次第、帝国へ入り詳細を調査する予定です。」
続いてメルキオラが口を開く。
「それと、帝国へ潜入するにあたり、一時的に女性三人組の冒険者パーティと行動を共にすることになりました。」
『そうなの?』
「はい。
相手からお誘いをいただきました。
リーダーはリディアというAランク冒険者です。」
その名前を聞いた瞬間だった。
「……リディア?」
クラリスが小さく呟く。
周囲がクラリスを見る。
「どうしたの、お母さん?」
エリスが尋ねる。
クラリスは少しだけ考え込んだ。
「昔、私の部下にもリディアという子がいたの。
もちろん同じ人物とは限らないけれど……。
少し気になっただけよ。」
そう言って微笑むクラリス。
だが、その表情にはわずかな期待が浮かんでいた。
通信を終えたレオネリアとメルキオラは、明日から始まる帝国での偵察に備え、早めに休むことにした。
一方、エリス達もまた、アルフェリアへ向けて旅を続けていた。
それぞれの場所で進む二つの旅路は、少しずつ一つの大きな運命へと近づいていくのだった。
⸻
翌朝――。
レオネリアとメルキオラは朝早く目を覚ました。
身支度を整えながら、今日の予定を確認する。
とはいえ、決まっている予定は帝国ビザの受け取りぐらいだった。
その時、レオネリアがふと思い出したように口を開く。
「そういえば、このまま帝国へ入るのは少し不自然ね。」
「ええ。」
メルキオラも頷いた。
「テントや寝袋、それに馬車もありません。」
「私達、テントや寝袋はもちろん、馬車もないですね」
「普通の冒険者なら、ダンジョンへ向かうなら最低限の野営道具は持っています。」
「それなら馬と馬車を買いましょう。」
レオネリアの提案に、メルキオラも賛成した。
「本来なら必要ありませんが、徒歩よりも移動が楽で速くなりますし、
装備を積んでいれば普通の冒険者らしく見えるので都合がいいですね。」
「そうですね。」
予定が決まると、二人は宿で朝食を済ませ、まず冒険者ギルドへ向かった。
受付でビザを受け取ると、その足で馬を扱う店へ向かう。
派手な馬車では目立ってしまうため、ごく普通の冒険者が使うような小型の幌馬車を選んだ。
馬一頭と馬車を合わせても金貨二枚ほどだった。
買い物を終えると、二人はそのまま街の外へ向かった。
「この辺りなら人も来ないわね。」
レオネリアが周囲を見渡す。
「見張りは任せて。」
「お願い。」
メルキオラは馬車の前へ立つと、早速作業を始めた。
「今回は大掛かりな改造はしません。
異空間まで作ってしまうと目立ち過ぎますから。
防護結界。
振動軽減。
馬車軽量化。」
次々と魔法陣が馬車へ刻まれていく。
最後に馬へも防護結界の魔道具を取り付けた。
さらに、簡易的な盗難防止用の魔道具も取り付ける。
「私かレオネリアが魔力でロックすれば、他人は馬も馬車も動かせません。
解除すれば普通に使えるようになります。」
「これなら十分ね。」
「ええ。」
メルキオラは満足そうに頷いた。
「もし性能を聞かれても、貿易都市アルフェリアで購入した魔道具と言えば、不自然には思われないでしょう。
珍しい品も集まる街ですから。」
作業は二時間ほどで終わった。
レオネリアは完成した馬車を見回す。
「さすがね。
これなら快適に移動できそう。」
「当然でしょ。」
二人は街へ戻ると、宿の主人へ馬を繋ぐ場所を確認し、馬車を停めた。
荷物を部屋へ置くと、今度は野営用品を買い揃える。
テント、寝袋、調理器具など、本来なら異空間にあるため必要のない物ばかりだった。
しかし、人目をごまかすには必要な装備だった。
一通り買い終えると、レオネリアが言った。
「これで普通の冒険者に見えるわね。」
「ええ。」
「残るは情報収集です。」
二人は頷き合うと、再び国境の狼亭へ向かった。
帝国へ入る前に、一つでも多くの情報を集めるためだった。
店内へ入ると、昨日と変わらず多くの冒険者で賑わっている。
二人が席へ着くと、昨日出会ったリディア達三人がこちらに気付き、笑顔で近付いてきた。
「レオネリアさん! メルキオラさん!」
リディアが手を振りながら声を掛ける。
「また会えたね。」
「ええ。」
メルキオラも微笑み返す。
「ビザは無事にもらえた?」
「ええ。先ほど受け取ってきました。」
「それなら予定通り、明日の朝には出発できそうね。」
「はい。こちらの準備も整いました。」
「私達も今日は情報収集をしてるところ。」
「何か分かったら通信機で連絡するね。」
「こちらも同じです。」
「それでは、また明日。」
「ええ、また明日。」
そう言って一旦別れると、レオネリアとメルキオラは昨日と同じ席へ腰を下ろした。
帝国へ入る前に、一つでも多くの情報を集めるためだった。
レオネリアとメルキオラは席に着くと、エールを注文した。
二人はゆっくりとエールを口に運びながら、周囲の冒険者達の会話に耳を傾ける。
すると、近くの席から大きな声が聞こえてきた。
「聞いたか? セントポルでスタンピードが起きたらしいぞ。」
「ああ、それなら聞いた。
たまたまそこに白銀の剣姫が居合わせて、大活躍したそうじゃないか。」
「まだ現役だったとは驚いたよ。」
「それだけじゃない。」
別の冒険者が興奮気味に話し始める。
「セントポルから来た冒険者が言ってたんだが、聖女様まで現れたらしい。」
「しかも、白いフェンリルの聖獣を従えていたそうだ。」
「その聖女様が怪我人を次々と治して、スタンピードも鎮圧したって話だ。」
「本当にそんな聖女様がいるなら、一度会ってみたいもんだ。」
酒場のあちこちで感心する声が上がる。
その話を聞きながら、レオネリアとメルキオラは自然と顔を見合わせた。
「……もう、ここまで噂が広まっているのね。」
レオネリアが嬉しそうに微笑む。
メルキオラも優しく頷いた。
「さすがエルシア様です。」
「どこへ行っても、人々を救っておられる。」
「皆さんに慕われるのも当然ですね。」
二人の表情には、自分のことのような誇らしさが浮かんでいた。
その後も耳を傾けていたが、それ以上に帝国に関する新しい情報を話している者は見当たらなかった。
二人は今日得られた情報を胸に刻み、明日から始まる帝国での偵察に備えるのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
今回は、レオネリアとメルキオラの視点で、帝国潜入に向けた準備を描きました。
ビザの取得や馬車の購入、そして目立ち過ぎないよう最低限の魔道具だけを取り付けるなど、二人らしい慎重な行動を書いていて私自身も楽しめました。
また、酒場ではセントポルでのスタンピードや、エリスとクラリスの活躍が遠く離れたローレンツまで伝わっていることが分かりました。人々の噂話という形ですが、エリス達が少しずつ各地で知られる存在になっていることを感じていただけたのではないでしょうか。
次回は視点をエリス達へ戻し、ベルハイムを出発した一行の旅の様子を描いていきます。アルフェリアへ向かう道中では、どのような出会いや出来事が待っているのか、ぜひ楽しみにしていただければ嬉しいです。
次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。
感想や評価、ブックマークなども大変励みになります!
次回の更新は、7月21日18時を予定してます




