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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第六章:王都への道 ― 新たなる星座の旅路 ―

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国境の街ローレンツ ― 帝国へ続く第一歩 ―

ベルハイムを後にしたエリス達は、交易都市アルフェリアを目指し順調に旅を続けていました。

一方その頃、レオネリアとメルキオラは、魔族の動向を探るため帝国へ向けて別行動を開始します。

まずは国境の街ローレンツで情報を集める二人。

そこで耳にした情報は、帝国で何かが起ころうとしていることを予感させるものでした。


それでは、第六章の続きをお楽しみください。

翌朝――。


朝食を済ませると、レオネリアとメルキオラは帝国へ向かう準備を始めた。

ルシアンは二人の前まで歩み寄ると、小さな革袋を差し出した。


「何があるか分からない。

 宿代や食事代、それに情報収集にも金は必要になるだろう。

 遠慮せず使ってくれ。」


革袋の中には金貨二十枚が入っていた。

レオネリアは受け取ると、静かに頭を下げる。


「ありがとうございます。

 大切に使わせていただきます。」


メルキオラも軽く頭を下げた。


「必ず有益な情報を持ち帰ります。」


二人はその場で互いに頷き合うと、本来の魔族の姿へと変わった。

漆黒の翼が大きく広がる。

突然の変化にマリンは目を見開き、思わず息を呑む。


「……綺麗。」


魔族の姿と聞けば恐ろしいものを想像していた。

しかし、目の前にいる二人からはそんな印象は受けなかった。


「本当にレオネリア達なんだね。」


「うん。」


エリスも優しく微笑んだ。

レオネリアは軽く翼を揺らしながら言う。


「それでは行って参ります。」


「気を付けて。」


エリスは二人を見送った。

翼を大きく羽ばたかせると、二人はあっという間に空高く舞い上がり、帝国の方角へ飛び去っていく。

二人の姿が見えなくなると、一行もアルフェリアへ向けて出発する。

レオネリアとメルキオラが抜けたため、御者は三交代制となる。

それでも徒歩で旅をしていた頃に比べれば、負担は遥かに少なかった。


最初の御者はエリスとマリン。

二人は御者台へ座ると、馬車はゆっくりと動き始めた。


「アルフェリアって交易都市なんだよね。」


「うん。」


「きっと今まで見たことがないスイーツもあるよ!」


「絶対あるよ!」


相変わらず二人の話題はスイーツだった。

交易都市というだけあって、各地の珍しいお菓子も集まっているのではないか。

そんな期待を胸いっぱいに膨らませながら、馬車は街道を進んでいくのだった。


◇ ◇ ◇


一方その頃――。


レオネリアとメルキオラは、サントス国最東端にあるローレンツの街近くまで到着していた。

ルシアンからは、


「帝国へ入る前に、一度ローレンツで情報を集めた方がいい。」


と言われていた。

二人は街から少し離れた場所へ降り立つと、人間の姿へ戻り、徒歩でローレンツへ向かう。

街の門では衛兵による入街確認が行われていた。

二人はセントポルで発行されたAランク冒険者のギルドカードを提示する。

衛兵は確認すると、そのまま街へ通してくれた。


「まずは冒険者ギルドね。」


「ええ。街の情報なら、まずはそこでしょう。」


二人は冒険者ギルドへ向かった。

受付へ行くと、若い受付嬢が笑顔で迎えてくれる。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


メルキオラが口を開いた。


「帝国へ入りたいのですが、何か手続きは必要でしょうか?」


受付嬢は頷く。


「はい。帝国へ入国するにはビザが必要になります。」


「目的は何でしょうか?」


レオネリアが答えた。


「帝国にあるダンジョン『アルカンダ』へ向かう予定です。」


「でしたら観光・冒険者向けの短期ビザを発行できます。

 発行には銀貨五枚必要となります。」


メルキオラはさらに尋ねる。


「冒険者でも必要なのですか?」


「はい。」


受付嬢は微笑んだ。


「帝国では帝国以外の方は皆さん必要になります。」


「そうですか。」


納得した二人は手続きをお願いした。


「ビザの発行は明日になります。」


「分かりました。」


続いてメルキオラが質問する。


「サントス国の通貨は帝国でも使えますか?」


「使えないことはありませんが、使える場所は限られます。

 こちらで帝国通貨へ両替できますので、両替されることをおすすめします。」


「ではお願いします。」


メルキオラは金貨三枚を取り出した。

冒険者向けのサービスということで手数料はなく、サントス国の金貨三枚は、そのまま帝国金貨三枚へ交換された。


「ありがとうございます。」


手続きを終えた二人は、宿について尋ねる。


「この近くでおすすめの宿はありますか?」


「でしたら『安らぎの里』がおすすめですよ。」


受付嬢に教えられた宿へ向かうと、二人は手早く受付を済ませ、荷物を部屋へ置いた。

一息つく間もなく、再び宿を後にする。

向かう先は、冒険者達が集う酒場。

帝国へ入る前に、この街で少しでも多くの情報を集めておきたかった。

街の雰囲気、帝国へ向かう商人や冒険者の話、国境周辺の情勢――。

どんな些細な情報でも、これからの行動を左右するかもしれない。


静かに、そして慎重に。

二人の偵察が、ここから本格的に始まろうとしていた。


やがて二人は、冒険者ギルドの近くにある酒場『国境の狼亭』へと足を運んだ。

ギルドのすぐ隣ということもあり、店内は昼間にもかかわらず多くの冒険者で賑わっている。

依頼を終えて酒を酌み交わす者、仲間と次の依頼について語り合う者、大声で武勇伝を披露する者。


レオネリアとメルキオラは冒険者風の服装をしているものの、その整った容姿は人目を引き、店内の視線が自然と二人へ集まった。

しかし、二人はそんな視線など気にも留めず、空いている席へ腰を下ろした。


「何か注文されますか?」


店員に勧められ、二人は軽くエールを注文する。

情報収集をするなら、まずはこの場に溶け込むことが大切だった。

しばらくすると、案の定というべきか、一人の酔った男がふらふらと近付いて来た。


「おっ、こんな美人が二人だけで飲んでるのか?

 俺も一緒にどうだ?」


メルキオラは笑顔を浮かべたまま尋ねる。


「私達、帝国へ行く予定なんですけど、何かご存じありませんか?」


「そんな難しい話は後だ後!

 まずは飲もうぜ!」


男はさらに距離を詰めようとする。

レオネリアはため息を一つつくと、男へ歩み寄った。


「あなた、少し飲み過ぎじゃない?」


そう言った次の瞬間。

誰にも見えないほどの速さで、みぞおちへ軽く拳を打ち込む。


「ぐっ……。」


男は声も出せず、その場へ崩れ落ちた。


「あらあら。

 飲み過ぎはよくないわね。」


レオネリアは何事もなかったかのように男を抱え上げ、元いた席へそっと寝かせた。

その様子を見ていた周囲の冒険者達は、一瞬静まり返る。


「……あの姉ちゃん、ただ者じゃねぇ。」


そんな小さな声が聞こえてきた。

すると今度は、一人の中年の冒険者がジョッキを片手に近付いてきた。


「さっきの兄ちゃんと違って、俺はちゃんと情報を持ってる。

 帝国へ行くつもりなんだろ?」


メルキオラは頷く。


「はい。」


男は笑った。


「その代わり、一杯奢ってくれ。」


「それくらいなら。」


メルキオラは店員を呼び、男へエールを一杯頼んだ。


「悪いな。」


男は一口飲むと話し始める。


「この前、帝国の難攻不落のダンジョン『アルカンダ』へ行ってきたんだ。

 その時、ちょっと気になるものを見た。」


二人は真剣な表情になる。


「帝国の騎士団が妙に慌ただしかった。

 今にも戦争でも始まるんじゃねぇかってくらいにな。

 理由までは分からねぇ。

 だが、兵士達が『東海』と呼ばれる海岸の方へどんどん移動していた。

 それに傭兵まで募集していた。

 何かが起ころうとしているのは間違いない。」


話を聞き終えたメルキオラは静かに頭を下げた。


「貴重なお話をありがとうございました。

 助かりました。」


「気を付けて行きな。」


男はジョッキを掲げると、自分の席へ戻っていった。

レオネリアとメルキオラは顔を見合わせる。


「海岸へ兵を集めている……。」


「ええ。」


メルキオラも静かに頷く。


「帝国が何かを警戒しているのか……。

 それとも、魔族側に何らかの動きがあったのかもしれないわね。」


二人は帝国へ入る前に、思いがけず重要な情報を手に入れることができたのだった。


最後まで読んで頂きありがとうございます。

今回から、レオネリアとメルキオラによる偵察編が始まりました。


二人は帝国へ入る前にローレンツで情報を集めますが、酒場という何気ない場所で思いがけず重要な情報を得ることになります。


帝国軍が「東海」と呼ばれる海岸へ兵を集め、さらに傭兵の募集まで始めている――。この動きが何を意味するのかは、まだ誰にも分かりません。


一方、エリス達はそんなこととは知らず、アルフェリアを目指して旅を続けています。離れた場所で進む二つの物語が、やがてどのように交わるのかも楽しみにしていただければ幸いです。


次回は、レオネリアとメルキオラがさらに情報を集め、いよいよ帝国へ足を踏み入れます。果たして二人を待ち受けているものとは――。


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

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次回の更新は、7月20日18時を予定してます

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