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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第六章:王都への道 ― 新たなる星座の旅路 ―

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旅路の先に見えるもの ― 帝国を巡る新たな動き ―

ベルハイムで束の間の休息を終えたエリス達は、次なる目的地である交易都市アルフェリアへ向けて再び旅立ちます。


快適になった馬車での旅は順調そのもの。しかし、その裏では少しずつ気になる変化も現れ始めていました。

魔族の動きがあまりにも静か――その違和感が、新たな行動へと繋がっていきます。


それでは、第六章の続きをお楽しみください。

エリス達はベルハイムを離れると、しばらく街道を進んだ。

人目も少なくなったところで、一行はいつもの旅の体制へ戻ることにする。

御者台には最低限の人数だけが残り、それ以外のメンバーは馬車の異空間で過ごすことになった。


ただ今回は少しだけ変更があった。

ルシアン達男性陣から、「一人だと話し相手もいなくて退屈だ」という意見が出たためである。

なので男性陣三人一緒にした。

しかし、御者台には二人しか座れないため、残る一人は幌の中に用意された椅子へ座ることにする。


話し合いの結果、順番はこれまでと同じように決まる。


最初はエリスとマリン。

次にクラリスとミリア。

その次がレオネリアとメルキオラ。

最後はルシアン、カイル、ガルドの三人で担当することになった。


最初の御者を務めるエリスとマリンは御者台へ座り、馬車は交易都市アルフェリアへ向けてゆっくりと走り始めた。


「今日は何も起こらないといいね。」


「うん。この前みたいに盗賊が出てこないといいな。」


そんな話をしながら街道を進んでいく。

幸い、周囲は穏やかで、魔物や盗賊が現れる様子もなかった。

やがて最初の休憩時間となり、一行は馬を休ませることにした。

メルキオラの魔道具によって馬車は軽くなっているとはいえ、馬への負担がなくなるわけではない。

だからこそ、余裕を持って早め早めに休憩を取るようにしていた。

馬達に水を飲ませながら、全員が外へ出て軽く身体を動かす。

周囲を警戒しつつ、それぞれが景色を眺めて現在地を確認していた。


「ベルハイムからアルフェリアまでは、比較的平坦な街道が続くわ。」


クラリスが地図を見ながら言う。

ルシアンも頷いた。


「ただ、途中で何度か森の中を通る。

 酒場で聞いた話だと、その辺りは特に注意した方がいいらしい。」


「盗賊や魔物が身を潜めるには十分な場所ですからね。」


カイルも静かに周囲へ視線を向けた。

全員が情報を共有すると、再び馬車へ戻る。

今度はクラリスとミリアが御者台へ座り、馬車を走らせる番だった。

それを見送ると、エリス達は異空間へ入っていく。

異空間のリビングでは、早速マリンがメルキオラの隣へ座った。


「ねぇ、メルキオラ。

 スイーツを長く保存できる魔道具って、本当に作れるの?

 どんな仕組みなの?

 いつ完成するの?」


次々と飛んでくる質問に、メルキオラは困ったように苦笑した。


「それは完成してからのお楽しみです。」


「えぇ~、少しくらい教えてくれてもいいじゃない。」


それでも食い下がるマリン。

すると、その様子を見ていたエリスが二人の間へ入った。


「もう、マリン。

 今知らなくてもいいじゃない。

 完成してからのお楽しみに取っておこうよ。」


エリスにそう言われると、マリンは少しだけ考えた。


「う~ん……。」


納得しきれない様子ではあったが、やがて小さく頷く。


「分かった。

 完成するのを楽しみに待つことにする。」


「ありがとうございます、エルシア様。」


メルキオラは安心したように微笑んだ。

そのやり取りを見守っていたレオネリアも、小さく笑みを浮かべる。


「やはりエルシア様です。」


「一言で場を丸く収めてしまわれるのですから。」


その言葉にエリスは照れくさそうに笑った。

異空間には穏やかな笑い声が響く。

その頃、馬車は順調に街道を進み、少しずつ交易都市アルフェリアとの距離を縮めていくのだった。



馬車は交易都市アルフェリアへ向け、順調に街道を進んでいた。

先ほど二度目の休憩を終え、現在はレオネリアとメルキオラが御者を担当している。

出発前、ルシアンからは、


「この先は森の中を通る。盗賊だけじゃなく魔物にも注意してくれ。」


と言われていた。


森へ入ってしばらくすると、レオネリアが静かに目を細めた。


「……いるわね。」


メルキオラも気配を探る。


「ええ。二十体ほど。」


「人じゃないわ。」


「この気配……ゴブリンかしら。」


「たぶんそうね。」


群れを作ってこちらの様子を窺っている。

レオネリアは静かに頷いた。


「この程度なら、エルシア様達を呼ぶまでもないわね。」


「そうね。」


メルキオラも小さく微笑む。


「じゃあ、いつも通りお願い。」


「任せて。」


メルキオラは森へ向けて静かに手をかざした。


「アビスバインド。」


漆黒の魔法陣が森の中へ広がる。

次の瞬間、無数の黒い鎖が地面から飛び出し、ゴブリン達を次々と拘束した。

突然の出来事に暴れ出すゴブリン達。


しかし、鎖はびくともせず、一体も逃がさない。


「行ってらっしゃい。」


「すぐ終わるわ。」


レオネリアは軽く笑うと御者台から飛び降りた。

一瞬でゴブリン達との距離を詰める。

銀色の剣閃が森の中を駆け抜けた。


一体、また一体と、ゴブリン達は悲鳴を上げる暇もなく倒れていく。

拘束されているため反撃すらできない。

ものの数分で二十体いたゴブリンの群れは全滅した。


やがて魔物の身体は黒い霧となって消え去り、その場には黒く濁った魔石だけが残る。

レオネリアは慣れた手つきで魔石を拾い集めると、再び御者台へ戻った。


「終わったわ。」


「お疲れさま。」


メルキオラは笑顔で迎える。


「この程度なら準備運動にもならないわね。」


「相変わらずね。」


二人は小さく笑い合うと、何事もなかったかのように再び馬車を走らせた。

馬車はメルキオラの魔道具によってほとんど揺れない。

さらに異空間は完全に切り離されているため、外の気配や戦闘音は中まで届かない。

そのため異空間でくつろいでいた仲間達は、外で戦闘があったことにまったく気付くことはなかった。

こうして馬車は速度を落とすことなく、交易都市アルフェリアへ向けて進んでいくのだった。



日が傾き始め、空が茜色に染まり始めた頃、一行は今日の野営地を決めることにした。

普通であれば、野営に適した場所を探し、周囲の安全を確認してから準備を始める。

しかし、エリス達にはその必要がなかった。

メルキオラが開発した魔道具によって、馬車全体を覆う防護障壁を展開し、外からは大きな岩にしか見えないよう擬装できるからだ。

そのため、平坦な場所さえ見つかれば、どこでも安全に野営を行うことができた。

馬車を停めると、メルキオラが魔道具を起動する。

淡い光が馬車全体を包み込んだかと思うと、次の瞬間には巨大な岩がそこにあるようにしか見えなくなっていた。


異空間へ入ると、クラリスとミリアが早速夕食の準備を始める。

今日の夕食は、セントポルで大量に頂いた保存食を活用した献立だった。


水は魔道具からいくらでも取り出せる。

火は備え付けのコンロで自由に使える。

以前のように薪を集めたり、水汲みに行ったりする必要もない。


旅は驚くほど快適になっていた。

今日の夕食は、干し肉をじっくり煮込んだスープと、焼きたてのパンだった。

オーブンから漂う香ばしい香りに、自然と全員の表情も緩む。


「野営で焼きたてのパンが食べられるなんて、本当に贅沢ね。」


クラリスが微笑むと、ミリアも頷いた。


「これじゃあ宿に泊まっているのと変わらないわ。」


皆で夕食を囲みながら、穏やかな時間が流れていく。

食事を終え、お茶を飲みながらくつろいでいると、ルシアンが静かに口を開いた。


「一つ、気になることがある。」


全員の視線がルシアンへ向く。


「セントポルを出てから、魔族側の動きがまったくない。

 盗賊や魔物とは遭遇したが、魔族からの襲撃は一度もない。

 ……それが逆に気になる。」


クラリスも頷く。


「確かにそうね。

 これまでなら何かしら仕掛けてきても不思議じゃないわ。」


少し考え込んでいたメルキオラが静かに口を開いた。


「あくまで推測ですが……。

 魔族側が戦略を変更した可能性があります。」


「戦略を?」


ルシアンが聞き返す。


「はい。」


「サントス国への干渉を一旦止め、別の国へ戦力を集中させているのかもしれません。

 例えば……ヴァルガディア帝国です。」


その言葉に、その場の空気が少しだけ張り詰める。


「ですが、一つ気になる点があります。」


メルキオラは続けた。


「帝国は魔族領と陸続きではありません。

 ですから、簡単に侵攻できるとは思えません。

 とはいえ、その可能性を否定することもできないでしょう。」


ルシアンは腕を組みながら考え込む。


「帝国の状況が分かれば一番いいんだが……。」


すると、レオネリアが静かに口を開いた。


「それでしたら、私とメルキオラで帝国の様子を見て参りましょう。

 もし魔族が帝国侵攻を考えているのであれば、何らかの痕跡が残っているはずです。

 それを調べて参ります。」


ルシアンが頷く。


「それは助かる。

 だが、馬車は進み続ける。どうやって合流する?」


メルキオラが答えた。


「異空間を転移先として登録した転移魔法陣を設置すれば問題ありません。

 馬車が移動していても、異空間へ直接転移できます。」


「なるほど。」


ルシアンは納得したように頷いた。


「もし可能なら頼みたい。」


「分かりました。

 では、明日の朝に出発しましょう。」


その時、エリスが疑問を口にした。


「でも、帝国まではどうやって行くの?」


レオネリアは優しく微笑む。


「エルシア様、私達は魔族の姿へ戻ることができます。

 移動の間だけ元の姿に戻れば飛行できますので、帝国まで短時間で向かえます。」


メルキオラも続ける。


「もちろん、アビスシャドーで気配を消しながら移動します。」


「見つかる心配はありません。」


「そういうことだったんだ。」


エリスは安心したように頷いた。

こうして翌朝から、レオネリアとメルキオラが斥候として帝国へ向かうことが決まった。

その裏で何が起きているのか――。

その答えが、まもなく明らかになろうとしていた。



最後まで読んで頂きありがとうございます。

今回はベルハイムを出発し、アルフェリアへ向かう旅の様子を中心に描きました。


メルキオラが作った馬車や魔道具のおかげで旅は以前より快適になりましたが、その一方で、レオネリアとメルキオラの実力や、二人がすっかり仲間として旅に溶け込んでいる様子も描くことができました。


また、今回の終盤では、魔族の動きについて新たな推測が生まれ、レオネリアとメルキオラが帝国偵察という新たな役目を担うことになります。


次回は、二人による帝国偵察が始まります。帝国では何が起きているのか、そして魔族はどのような行動を取ろうとしているのか。エリス達の旅と並行して描いていきます。


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

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次回の更新は、7月17日18時を予定してます

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