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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第六章:王都への道 ― 新たなる星座の旅路 ―

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ベルハイムのもてなし ― 郷土料理に舌鼓 ―

セントポルを旅立ち、最初に立ち寄ることになった小さな街ベルハイム。

当初は通り過ぎる予定でしたが、道中で捕らえた盗賊達を引き渡すため、一行はこの街へ足を踏み入れます。

そこで待っていたのは、思いがけない歓迎と、新たな出会い。

そしてベルハイムならではの温かな料理が、旅の疲れを優しく癒やしてくれます。


それでは、第六章の続きをお楽しみください。

応接室は決して豪華ではなかった。

だが、室内は隅々まで掃除が行き届き、机や棚の上もきちんと整理されている。

ベルハイム冒険者ギルドらしい、質実剛健な雰囲気の部屋だった。

中央には大きなテーブルが置かれ、その周囲にはソファが並んでいる。

しかし、一行全員が座るには少し手狭だった。

そこでクラリスとルシアンが代表してソファへ腰掛け、他の仲間達は二人の後ろへ並んで立つ。

ローガンも向かいのソファへ腰を下ろした。


「まずは、街道を荒らしていた盗賊達を捕らえてくださったこと、ベルハイム冒険者ギルドを代表して感謝いたします」


そう言って深々と頭を下げる。


「それにしても、三十人もの盗賊をこの人数で制圧するとは……。さすが白銀の剣姫がおられる一行ですな」


クラリスは静かに首を横へ振った。


「私一人では無理でした。

 ここにいる皆がいたからこそ、盗賊達を制圧できたのです」


ローガンはルシアン、ミリア、カイルへと順番に視線を向ける。

そして感慨深そうに頷いた。


「なるほど……

 元白銀の聖剣団の皆様が揃っておられるのでしたら、それも納得です。

 私がまだ冒険者だった頃、皆様は多くの冒険者達の憧れでしたから」


ルシアンは少し照れくさそうに笑った。


「それは昔の話ですよ。

 今は新しい仲間達と旅をしています」


ローガンは笑みを浮かべながら頷いた。

そして視線はエリスへ向けられる。


「それと、ギルドにもセントポルから報告が届いております。

 あなたが聖女様……エリスさんですね」


そう言われると、エリスは少し困ったような表情を浮かべた。

その様子を見たローガンは穏やかに微笑む。


「ご安心ください。

 私から聖女様であることを言いふらすようなことはいたしません」


「ありがとうございます」


エリスは安心したように頭を下げた。


「それと、もう一つお聞きしたいことがあります」


ローガンは表情を引き締めた。


「あの盗賊達を収納していた空間です。

 長年冒険者をしてきましたが、あのような魔法は見たことがありません。

 もし差し支えなければ、お教えいただけないでしょうか」


その言葉にメルキオラが口を開こうとした。

だが、それより一瞬早くルシアンが話し始める。


「申し訳ありません。

 あれは私達が譲り受けた特殊な魔道具によるものです。

 譲り受ける際に条件がありまして、この魔道具は私達以外へ貸し出したり譲渡したりしてはいけないと言われています。

 仮に私達以外の者が使おうとしても、魔道具そのものが機能しなくなるようになっているそうです。」


ローガンは静かに頷いた。


「そうでしたか……

 それなら無理にお聞きするわけにはいきませんな」


元冒険者だからこそ分かる。

強力な魔道具ほど、簡単には明かせない事情があるものだ。


「失礼いたしました。」


ローガンは素直に頭を下げ、それ以上この話題に触れることはなかった。

話を一区切りつけると、机の引き出しから革袋を取り出した。


「必要なお話は伺えました。

 それでは、盗賊討伐の報酬をお渡しいたします」


そう言って革袋をテーブルへ置く。


「盗賊一人につき金貨一枚。

 三十人で金貨三十枚です。」


ローガンは続ける。


「さらに、これだけの人数を逃がすことなく、無事にギルドまで引き渡していただきました。

 通常であれば護送にも人手が必要になりますので、その功績を評価し、特別報酬として金貨二十枚を加算いたします。

 合計、金貨五十枚です。」


「ありがとうございます」


クラリスが代表して受け取った。

その様子を見ていたエリスとマリンは、こっそり顔を見合わせる。


「ねぇ……」


「うん……」


二人は小さく頷き合った。


(これならスイーツ巡りの軍資金は十分だね。)


そんなことを考えていた二人だったが、その企みが後に仲間達へ知られることになるとは、この時はまだ思ってもいなかった。

ローガンは微笑みながら尋ねる。


「皆様は、この街にはどれくらい滞在されるご予定ですか?」


ルシアンが答えた。


「明日にはベルハイムを出発する予定です。」


「そうでしたか。」


ローガンは少し残念そうに頷いた。


「それでしたら、一泊だけでも『トリプルツリー』という宿をおすすめします。

 冒険者達からの評判も良く、食事も美味しい宿ですよ。」


「ありがとうございます。」


ルシアンは礼を言った。

ローガンも笑顔で立ち上がる。


「短い滞在ではありますが、ベルハイムを楽しんでいってください。」


一行は立ち上がり、ローガンへ一礼する。

応接室を後にし、そのまま冒険者ギルドを出た。

向かう先は、ローガンおすすめの宿――

『トリプルツリー』だった。



トリプルツリーへ向かう途中、エリスとマリンは馬車の中から通りの店を熱心に眺めていた。


「あのお店、美味しそうじゃない?」


「でも、こっちのお店も気になるよ」


「それなら全部行ってみる?」


「いいね!」


楽しそうに相談する二人。

その会話を聞いていたクラリスとミリアは、呆れたように顔を見合わせた。


「本当にスイーツのことばかりね」


「まあ、元気でいいじゃない」


そんな話をしているうちに、馬車は目的の宿へ到着した。

トリプルツリー。

ローガンが薦めるだけあって、外観は立派だった。

冒険者向けの宿とはいえ、建物は清潔で、入口も広い。

ルシアンが馬車を停める場所を確認し、指定された場所へ馬車を移動させる。

馬には餌と水を与え、一行は宿の中へ入った。

受付のある広間は明るく、よく手入れされていた。

ルシアンが受付へ向かう。


「九人だ。できれば部屋を四つ取りたい」


受付の男性は宿帳を確認して頷いた。


「ちょうど空いております。二人部屋が一泊銀貨十枚。三人部屋は少し広めの部屋になりますので銀貨二十枚です」


部屋割りを考えると、二人部屋が三つ、三人部屋が一つ。

合計で銀貨五十枚だった。

ルシアンは金貨一枚を差し出す。

受付はすぐに銀貨五十枚を釣り銭として返した。

部屋割りはすぐに決まった。


ルシアン、カイル、ガルドの三人。

クラリスとミリア。

エリスとマリン。

レオネリアとメルキオラ。


それぞれ鍵を受け取る。


「昼食はここで食べられるか?」


ルシアンが尋ねる。

受付の男性は申し訳なさそうに首を横へ振った。


「当宿は冒険者のお客様が多いので、食事は朝と晩のみとなっております

 昼食は近くの食堂をご利用ください」


「おすすめはあるか?」


「何を召し上がりたいですか?」


ルシアンは少し考えた。


「せっかくだから、ベルハイムらしい料理が食べたいな」


受付の男性はすぐに頷く。


「それでしたら、すぐ近くにある『ベルヒラ』という食堂がおすすめです

 地元の料理を出す店で、冒険者にも評判ですよ」


「助かる」


ルシアンは礼を言い、一行はひとまず荷物を部屋へ運ぶことにした。



エリス達は荷物を部屋へ置き終えると、受付のある広間へ集まった。

全員が揃ったところで、先ほど宿の受付で教えてもらった食堂『ベルヒラ』へ向かう。

昼食の時間は少し過ぎていたようで、店内にはまだ多くの客がいたものの、幸い九人がまとまって座れる席が空いていた。


「運が良かったね」


エリスがそう言いながら席に着く。

一行はテーブルに置かれていたメニューを眺め始めた。


「どれも美味しそう……」


エリスが呟くと、隣のマリンも大きく頷いた。


「決められないよ……」


しばらく悩んでいると、店員が注文を取りにやって来た。


「おすすめはありますか?」


クラリスが尋ねると、店員は笑顔で答えた。


「ベルハイム名物でしたら、まずは『ベルハイムシチュー』ですね。牛肉と人参、玉ねぎ、じゃがいも、それにマッシュルームを、濃厚なミルクでじっくり煮込んだ人気料理です」


続いて二品目を紹介する。


「こちらは『ベルハイムステーキ』です。厚切りの牛肉を焼き上げ、ガーリックソースや赤ワインソースで召し上がっていただきます」


さらに三品目。


「『ベルチーズフォンデュ』も人気ですよ。この街の牧場で作られたチーズに、季節の野菜やキノコ、燻製肉を付けてお召し上がりいただきます」


最後に店員は付け加えた。


「どのお料理にも、『ハニーバターパン』を一緒に召し上がるのがおすすめです」


「俺はステーキだな」


ガルドが即決する。


「俺もそれにする」


カイルも頷いた。


「では私もステーキをいただこう」


ルシアンも続く。

クラリスは少し考えてから口を開いた。


「私はシチューにするわ」


「私もシチューにしようかしら」


ミリアも微笑む。


「では、私も同じものをお願いします」


レオネリアが丁寧に言う。


「私もシチューをいただきます」


メルキオラも頷いた。

そしてエリスとマリンは顔を見合わせる。


「チーズフォンデュにしよう!」


「うん!」


二人はほぼ同時に答えた。

もちろん、全員がハニーバターパンも注文した。

しばらくすると、次々と料理が運ばれてくる。

目の前に置かれたベルハイムステーキは、想像以上に厚みがあり、香ばしい香りを漂わせていた。


「これは食べ応えがありそうだな」


ガルドが満足そうに笑う。


「赤ワインソースもいいが、ガーリックソースも捨てがたいな」


ルシアンが楽しそうに言う。


「どっちも試せばいい」


カイルも静かに頷いた。

ベルハイムシチューには、大きく切られた牛肉がごろごろと入っていた。

濃厚なミルクの香りが食欲をそそる。


「優しい味だけど、しっかりコクもあるわね」


クラリスが感心する。


「本当に身体が温まるわ」


ミリアも笑みを浮かべた。

レオネリアもシチューを一口食べ、静かに頷く。


「とても美味しいです。牛肉も柔らかく、丁寧に煮込まれていますね」


メルキオラも嬉しそうに微笑んだ。


「旅の途中で、これほどのお料理をいただけるとは思いませんでした」


一方、エリスとマリンの前には、湯気を立てるベルチーズフォンデュが置かれていた。

焼きたてのパンや燻製肉、パプリカ、さつまいも、キノコなどが彩りよく並べられている。

エリスはパプリカをチーズへくぐらせ、一口食べた。


「甘い!」


「本当だ!」


マリンも目を輝かせる。

続いてさつまいもを口に運ぶ。


「これも美味しい!」


濃厚なチーズと野菜本来の甘みが絶妙に合わさり、二人は夢中になって食べ進めた。

そして焼きたてのハニーバターパンは、外は香ばしく、中はふんわりとしている。

ほんのり甘い蜂蜜とバターの風味は、シチューにもステーキにも、チーズフォンデュにもよく合っていた。


「どれも美味しいね」


エリスが嬉しそうに言うと、マリンも満面の笑みを浮かべた。


「うん! ベルハイムに寄って正解だったね!」


その言葉に、皆も笑顔で頷いた。

ベルハイムの郷土料理は、一行の期待を裏切らない味だった。

最後まで読んで頂きありがとうございます。


今回はベルハイムへの到着から、ギルドマスター・ローガンとの出会い、そしてベルハイムの名物料理をご紹介しました。

ローガンは、かつて冒険者だった頃に白銀の聖剣団へ憧れていた人物です。そのため、クラリス達との出会いは、彼にとっても感慨深いものになったのではないでしょうか。

また、ベルハイムは大きな街ではありませんが、旅人や冒険者を温かく迎えてくれる、人情あふれる街として描いています。


次回はベルハイムでの滞在がさらに続きます。エリス達はこの街でどのような出来事に出会うのか、ぜひ楽しみにしていただければ嬉しいです。


今後とも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

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次回の更新は、7月13日18時を予定してます

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