ベルハイムの歓迎 ― 白銀の剣姫、再び名を轟かせる ―
王都への旅を続けるエリス達は、予定を変更して小さな街ベルハイムへ立ち寄ることになります。
目的は、道中で捕らえた盗賊達を冒険者ギルドへ引き渡すこと。
しかし、その街では既にセントポルでの活躍が伝わっており、一行は思いがけない歓迎を受けることになります。
そして、新たな出会いもまた、彼女達を待っていました。
エリス達は馬車の異空間で朝を迎えた。
いつもなら窓から差し込む朝日で目を覚ます。
だが、この異空間には外の景色はない。
それでも、寝る前に消した照明の魔道具が朝になると少しずつ明るさを増し、まるで朝日が昇るように部屋を優しく照らし始めた。
そのおかげで自然と目が覚める。
「ふぁ……」
エリスがゆっくりと身体を起こすと、隣ではマリンも目を覚まそうとしていた。
「おはよう、マリン」
「おはよう、エリス」
二人は笑顔で朝の挨拶を交わす。
身支度を整え、リビングへ向かうと、そこには既にクラリス、ミリア、レオネリア、メルキオラの姿があった。
「おはよう」
「おはようございます」
挨拶を交わす頃には、朝食の準備もすっかり整っていた。
昨日残った野ウサギの肉で作ったスープ。
そして、オーブンで焼き上げられた焼きたてのパン。
香ばしい匂いがリビングいっぱいに広がっていた。
「今日も美味しそう!」
マリンが嬉しそうに席へ着く。
しばらくすると、ルシアン達男性陣も起きてきた。
全員が揃ったところで朝食が始まる。
食事をしながら、ルシアンが地図を広げた。
「今日の目的地はベルハイムだ
このまま順調に進めば昼頃には着くだろう」
全員が頷く。
「本当に便利ね」
エリスは周囲を見回した。
水は魔道具からいつでも取り出せる。
火はキッチンのコンロを使えばいい。
水汲みや薪拾い、火起こしをする必要もない。
旅の負担は今までとは比べものにならないほど軽くなっていた。
朝食を終え、全員で後片付けを済ませる。
「それじゃあ出発しましょう」
クラリスの声に全員が頷いた。
今日の移動距離はそれほど長くない。
さらにベルハイムも近いことから、御者台はルシアンとカイルが担当することになった。
そして今日は人目もあるため、異空間は使わず、全員が馬車の荷台にある長椅子へ腰掛ける。
やがて馬車は静かに動き始めた。
ベルハイムまでは、あとわずか。
新たな出会いを胸に、一行は再び街道を進み始める。
ベルハイムへ向かう馬車の中
エリスとマリンは馬車の長椅子に並んで座り、これから向かうベルハイムの話で盛り上がっていた。
「ベルハイムってどんな街なんだろうね?」
「小さい街みたいだけど、スイーツのお店はあるかな?」
「あるといいなぁ」
そんな二人の会話を聞いていたクラリスとミリアは顔を見合わせ、苦笑した。
「あなた達ねぇ……」
クラリスが呆れたようにため息をつく。
「街へ行くなら、観光する場所とか、お店とか、他にも気になることがあるでしょう?」
「そうそう。可愛い服を売っているお店とか、雑貨屋さんとかね」
ミリアも続ける。
だが二人は顔を見合わせると、同時に首を傾げた。
「でも、やっぱり一番気になるのはスイーツ屋さんだよね?」
「うん!」
息ぴったりに頷く二人を見て、クラリス達は思わず笑ってしまった。
「まぁ、あなた達らしいわね」
和やかな空気の中、馬車は街道を進んでいく。
メルキオラが改良した馬車は今日も快適だった。
道を走っているとは思えないほど揺れが少なく、まるで滑るように進んでいく。
そんな中、ルシアンが前方を見つめた。
「見えてきたぞ」
その言葉に全員が幌の隙間から外を覗き込む。
街道の先には一つの街が姿を現していた。
ベルハイム――。
交易都市アルフェリアへ向かう途中にある小さな街だ。
大きさはリンデンと同じくらいだろうか。
街全体は赤茶色の煉瓦造りの城壁に囲まれていた。
街の入口では検問が行われている。
セントポルほど人は多くないが、それでも旅人や商人達が列を作っていた。
ルシアンは馬車を列の最後尾へつける。
しばらく待つと、やがてエリス達の順番がやって来た。
「ギルドカードの提示をお願いします」
衛兵の言葉に、ルシアンとカイルが最初にカードを見せる。
「Aランク冒険者……?」
衛兵が思わず目を見開いた。
続いてレオネリアとメルキオラがカードを提示する。
「こちらもAランク……」
セントポルでの功績により、二人もAランク冒険者となっていた。
さらにクラリスとミリアがカードを差し出す。
衛兵はクラリスのカードを見ると、一度カードへ視線を落とし、次にクラリス本人の顔をまじまじと見つめた。
「まさか……白銀の剣姫……」
思わず小さく呟く。
その後、ガルド、マリンと確認が進み、最後にエリスがギルドカードを差し出した。
衛兵はカードを見るなり動きを止めた。
「こ、これは……」
カードとエリスの顔を何度も見比べる。
(また偽装とか思われたのかな……)
エリスはリンデンでの出来事を思い出し、内心苦笑した。
だが次の瞬間、衛兵はハッとしたように姿勢を正す。
「失礼いたしました!」
そう言うと深々と頭を下げた。
「セントポルより皆様のことは報告を受けております」
さらに周囲の衛兵達も一斉に姿勢を正した。
「聖女様、白銀の剣姫様御一行をベルハイムへお迎えできますことを、心より歓迎いたします」
予想もしなかった歓迎に、エリスとクラリスは思わず顔を見合わせた。
「もう話が伝わってるんだ……」
エリスが驚いたように呟く。
「随分早いわね」
クラリスも苦笑する。
こうして一行は、ベルハイムの人々に迎えられながら街の中へと入っていった。
「まずは冒険者ギルドだな」
ルシアンの言葉に全員が頷き、一行は冒険者ギルドへ向かった。
道中、エリスとマリンは通りに並ぶ店を興味深そうに眺めていた。
「ねぇエリス、あのお店見て!」
「こっちにもあるよ!」
二人の視線は、自然とスイーツ店へ向いてしまう。
店先に並ぶケーキや焼き菓子、そして行列のできている店までしっかり確認していた。
「後で絶対行こうね」
「うん!」
そんな二人の様子を見て、クラリス達は苦笑するしかなかった。
やがて一行は冒険者ギルドへ到着する。
ルシアンは受付へ向かい、若い受付嬢へ声を掛けた。
「盗賊を三十人ほど捕らえた。引き渡したいんだが」
受付嬢は目を丸くした。
「三十人……ですか?」
「ああ」
「その盗賊の方々はどちらに?」
ルシアンは苦笑する。
「どこへ連れて行けばいい?」
受付嬢は少し考えると答えた。
「それだけの人数でしたら、裏手の演習場までお願いします」
「分かった」
ルシアンは受付を離れ、メルキオラへ声を掛ける。
「メルキオラ、演習場に盗賊を出してくれ」
「承知しました」
メルキオラは静かに頷いた。
一行は演習場へ向かう。
そこには受付嬢のほか、数人のギルド職員と冒険者達も集まっていた。
「こちらです」
職員の案内で広い演習場の中央へ進む。
メルキオラは静かに手をかざした。
「異空間、開放」
空間が揺らぎ、一枚の扉が現れる。
それを見た職員達は目を見開いた。
「な……」
扉が開く。
すると拘束された盗賊達が一人、また一人と姿を現した。
「そんな……」
「三十人も……」
演習場にいた冒険者達も息を呑む。
誰もが目の前で起きている光景を信じられなかった。
全員を出し終えると、メルキオラは静かに扉を閉じる。
異空間への入口は跡形もなく消え去った。
ルシアンは職員へ向き直る。
「以上だ。三十人全員引き渡す」
「た、確かにお預かりいたします」
ギルド職員は慌てて他の職員へ指示を出す。
拘束された盗賊達は次々と地下牢へ連行されていった。
演習場には、まだ驚きの空気だけが残っていた。
演習場の騒ぎを聞きつけ、一人の老紳士が姿を現した。
白髪混じりの髪に落ち着いた雰囲気を纏った人物だった。
「何事ですか?」
老紳士が近くにいたギルド職員へ尋ねる。
「ギ、ギルドマスター! 大変です!」
職員は慌てた様子で駆け寄る。
「この方達が、何もないところから三十人もの盗賊を突然出してきたんです!」
「落ち着きなさい」
老紳士は穏やかな口調で諭した。
「慌てても状況は変わりません。まずは順を追って話しなさい」
その一言で職員もようやく冷静さを取り戻した。
老紳士は改めてルシアン達へ視線を向ける。
すると、ふと表情が変わった。
「おや……」
さらにルシアンの後ろに立つクラリスの姿を見た瞬間、その目が大きく見開かれる。
「まさか……」
老紳士は静かに歩み寄ると、一礼した。
「失礼しました。私はベルハイム冒険者ギルドでギルドマスターを務めております、ローガンと申します」
ルシアン達も軽く頭を下げる。
ローガンはクラリスを見つめながら口を開いた。
「もし私の見間違いでなければ……
そこにおられるのは、『白銀の剣姫』の二つ名を持つクラリス殿ではありませんか?」
クラリスは静かに頷いた。
「ええ、そう呼ばれていたこともありました」
その返事を聞いたローガンは感慨深そうに息を吐く。
「やはり……
では、ルシアン殿、カイル殿やミリア殿も……。白銀の聖剣団の方々がいらっしゃるとは」
ルシアンは苦笑しながら答えた。
「それは昔の話ですよ
今の俺達は『新たなる星座』のメンバーです」
ローガンは何度も頷いた。
「失礼いたしました
もしお時間をいただけるのであれば、盗賊を捕らえた時の詳しいお話を伺いたいのですが……」
特に断る理由もない。
ルシアンは仲間達へ目を向ける。
全員が頷いた。
「分かりました」
「ありがとうございます」
ローガンは嬉しそうに頭を下げた。
「では、応接室へご案内いたします」
そう言って一行をギルドの応接室へ案内するのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございます
今回はベルハイム到着から、盗賊の引き渡し、そしてギルドマスター・ローガンとの出会いを描きました。
ローガンは元Bランク冒険者で、若い頃から「白銀の聖剣団」に憧れていた人物です。そのため、クラリス達を前にした時の驚きはひとしおだったことでしょう。
また、メルキオラの異空間魔法は初めて見る者にとっては常識では考えられない力です。ベルハイムでも、その実力は大きな衝撃を与えることになりました。
次回はローガンとの会話を通して、盗賊討伐の経緯やベルハイムの現状、そして王都へ続く旅路について描いていきます。
引き続き、第六章「王都への道 ― 新たなる星座の旅路 ―」をお楽しみいただければ幸いです。
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次回の更新は、7月10日18時を予定してます




