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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第六章:王都への道 ― 新たなる星座の旅路 ―

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街道に潜む影 ― 盗賊達の誤算 ― 

セントポルを旅立ったエリス達。

新たな仲間と共に、王都グランヴェイルへ向けた旅が始まります。

異空間を備えた魔導馬車によって快適になった旅路。

しかし、平和な街道の裏では、彼女達を獲物と勘違いする者達もいました。

旅の始まりに訪れた最初の事件。

果たして盗賊達の運命は――。

セントポルを出発してしばらくした頃。


エリス達は街道脇で最初の休憩を取ることにした。

目的は馬を休ませることと、今後の移動方針を確認するためだ。


馬車を停めると、ルシアンとカイルが馬の様子を確認し始める。


その時だった。

メルキオラが馬の首へ何かを取り付けていることにエリスは気付いた。

小さな首飾りのような魔道具だった。


「メルキオラ、それは何ですか?」


エリスが尋ねる。

メルキオラは振り返り、恭しく答えた。


「馬を守るための防御結界の魔道具です、エルシア様」


「防御結界?」


「はい。盗賊や魔物に襲われた際、自動で魔法障壁を展開するようにしてあります」


その説明に一同は納得した。

確かにエリス達自身は戦える。

だが、馬が倒されてしまえば馬車での旅は続けられない。

移動手段を守ることも重要だった。


「なるほどな」


ガルドが腕を組む。


「人間より先に馬を狙われる可能性もあるからな」


「その通りです」


メルキオラは頷いた。


「馬を失えば移動速度も大きく落ちてしまいますから」


「そこまで考えていたのね」


クラリスが感心したように言う。


「ありがとうございます」


メルキオラは少し嬉しそうに微笑んだ。

防御結界の確認を終えると、今度は今後の旅についての話し合いが始まる。

周囲を見回したレオネリアが口を開いた。


「エルシア様。この辺りまで来れば人目を気にする必要もないかと思います」


周囲に人影はない。

街道を行き交う旅人の姿も見当たらなかった。

エリスは頷く。


「そうね。異空間を使っても問題なさそう

 せっかく作ったんですから使わないともったいないよ」


マリンが笑う。


「そうね。その方が快適だもの」


クラリスも賛成した。

こうして移動中は異空間の部屋を利用することが正式に決まった。

ただし、誰かが御者台に乗り周囲を警戒する必要がある。

そこで交代制を採用することになった。


話し合いの結果、

女性陣は二人一組。

男性陣は一人ずつ。

という形に決まる。


順番は――

最初がエリスとマリン。

次がクラリスとミリア。

三番目がレオネリアとメルキオラ。

その後はガルド、カイル、ルシアンの順となった。


「最後が俺か」


ルシアンが苦笑する。


「一番経験豊富だからじゃないかしら?」


クラリスが笑った。


「なるほど。それなら納得だな」


ルシアンも肩を竦める。

さらに馬への負担も考え、一時間ごとに休憩を取ることも決まった。


「急ぐ旅でもないしな」


カイルが馬の首を優しく撫でる。


「無理をさせる必要はない」


「そうですね」


エリスも頷いた。


「これから長い旅になりますし、馬達にも頑張ってもらわないといけませんから」


全員がその意見に賛成した。

こうして今後の移動方針が決まる。

休憩を終えた一行は再び馬車へ乗り込んだ。

メルキオラが異空間へ繋がる扉を開く。


クラリス、ミリア、レオネリア、メルキオラ、ガルド、カイル、ルシアンは異空間へ入っていく。


そして最初の当番であるエリスとマリンは御者台へと向かった。


「それじゃあ出発しよう」


エリスが言うと、マリンも元気よく頷く。


「うん!」


やがて馬車は再び動き始めた。

王都グランヴェイルへ続く長い街道。

新たなる星座の旅は、ここから本格的に始まるのだった。



エリスとマリンが御者台に座ってからしばらく経った。

馬車は何事もなく街道を進んでいる。


「王都にはどんなスイーツがあるのかな?」


マリンが楽しそうに言った。


「どうだろうね」


エリスも少し楽しそうに笑う。


「セントポルのお店もすごかったし、王都ならもっとたくさんありそう」


「絶対あるよ!」


マリンは身を乗り出した。


「王都だよ? ケーキもパフェもいっぱいあるに決まってる!」


「また食べることばっかり考えてる……」


「エリスだって楽しみにしてるでしょ?」


「うん。それは否定できないかな」


二人は顔を見合わせて笑った。

天気は快晴。

心地よい風が吹き抜ける。

街道の両脇には木々が立ち並び、その向こうには広大な平原が広がっていた。

王都へ続く主要街道だけあって道幅も広い。

のどかで平和な旅路だった。


――その時だった。


『エリス』


セラの念話が響く。


『どうしたの?』


『何かがこっち見てる』


エリスの表情が少しだけ引き締まる。


『どこ?』


『あっち』


セラが示した方向へ意識を向ける。

すると林の陰に微かな人の気配を感じた。

普通の旅人なら隠れる必要はない。

それだけで十分怪しかった。



その頃――

林の奥では一人の盗賊が望遠鏡を覗いていた。


「へへっ……当たりだな」


視線の先には大型の幌馬車。

御者台には少女が二人。

だが荷台には人影が見当たらない。


「護衛もいねぇ」


盗賊はニヤリと笑った。

絶好の獲物に見えた。

盗賊は手を上げて合図を送る。

すると森の奥や茂みの中から次々と人影が現れた。

総勢三十人近い盗賊達だった。


「大型の商人馬車だ」


「荷物も期待できそうだな」


「荷物がなくても女を売れば金になる」


下卑た笑いが広がる。


だが――

彼らはまだ知らない。

自分達が狙った相手が、普通の少女ではないことを。



再びエリス達。


『エリス』


セラが再び念話を送る。


『人が増えたよ』


『何人くらい?』


『三十人くらい』


エリスは小さく息を吐いた。

もう間違いない。

盗賊だ。

エリスは通信機を取り出した。


「お母さん、聞こえる?」


『聞こえるわ』


クラリスの声が返ってくる。


「盗賊っぽい人達がいるの。いつでも出られるようにしておいて」


『何人くらいかしら?』


「三十人くらいかな」


その報告を聞いた瞬間。

異空間の中ではミリアが吹き出していた。


『ふふっ……馬鹿ね』


「ミリアさん?」


『三十人程度で襲おうだなんて。エリスとマリンだけでも十分なのに』


呆れたような声だった。

その横ではレオネリアが腕を組んでいる。


『エルシア様を襲うとは……』


声が低い。


『万死に値します』


『また始まったわね』


メルキオラが苦笑する。


『レオネリア。エルシア様はきっと殺してはいけないと仰いますよ?』


『ぐっ……』


レオネリアは言葉に詰まった。


『確かにエルシア様ならそう仰るでしょうが……』


不満そうに唸る。

その様子に異空間の中から小さな笑い声が漏れた。

一方でエリスは前方を見据える。

盗賊達はまだこちらが気付いていることを知らない。


「どうする?」


マリンが楽しそうに尋ねた。


「とりあえず全員捕まえる?」


エリスも少しだけ笑う。


「うん。そのつもり」


盗賊達にとっては不運だった。

彼らが狙った相手は、決して襲ってはいけない相手だったのだから。



盗賊達視点


盗賊達は、もう簡単に金になる獲物を手に入れたと信じて疑わなかった。

これから自分達に訪れる恐怖など知る由もない。


「まずは馬を止めろ!」


盗賊の一人が叫ぶ。

数本の矢が馬へ向かって放たれた。

馬を倒せば馬車は止まる。

後は囲んでしまえばいい。

誰もがそう思った。


だが――

次の瞬間。


「なっ!?」


盗賊達は目を疑った。

放たれた矢が馬へ届く寸前――消滅したのだ。

砕けたのでも弾かれたのでもない。

まるで最初から存在しなかったかのように消えた。


「何が起きた!?」


誰も状況を理解できない。

混乱が広がる。

そして、その混乱はさらに大きくなる。

馬車の中から次々と人が現れたのだ。


「なっ……!?」


「馬車の中には誰もいなかったはずだろ!?」


確かに望遠鏡で確認した。

御者台には少女が二人。

荷台には誰もいなかった。


それなのに、

一人。また一人。さらに一人。


次々と現れる。

どこに隠れていたのか。

全く理解できない。


そして――


新手が現れた。

そう理解した時にはもう遅かった。

気付けば目の前まで迫られていたのだから。



エリス達視点


盗賊達の数が増えたのを確認していた時だった。

突然、数本の矢が馬へ向かって飛んできた。


「馬を狙ってる!」


マリンが声を上げる。

反射的に魔法を使おうとした。


だが――


「大丈夫」


エリスが落ち着いた声で言う。


「え?」


マリンが首を傾げた瞬間。

矢は馬へ届く寸前で消滅した。


「消えた!?」


マリンが驚く。

メルキオラが馬へ取り付けた防御結界の魔道具が発動したのだ。

その瞬間だった。

矢が放たれたことを合図に、異空間の扉が開く。

クラリス達が次々と姿を現した。

先頭にいたクラリスが剣を抜く。

そのすぐ後ろからレオネリアも飛び出した。


「エルシア様へ刃を向けるとは……」


レオネリアの瞳が鋭く細められる。


「覚悟してください」


次の瞬間。

二人の姿が消えた。


瞬足。

盗賊達が反応する間もなく懐へ潜り込む。


ゴッ!

鈍い音が響く。

クラリスの剣の柄が盗賊の鳩尾を正確に捉えた。

男は白目を剥いて崩れ落ちる。

その隣ではレオネリアも次々と盗賊を気絶させていた。

殺してはいない。

だが、容赦もしていない。

盗賊達は何が起きたのか理解できないまま倒れていく。


一方――

後方ではメルキオラが静かに魔法を発動していた。


「アビスバインド」


黒い影のような拘束具が地面から伸びる。

盗賊達の足に絡み付き、そのまま身体を拘束していく。


「な、なんだこれ!?」


「動けねぇ!」


逃げようとした盗賊達が次々と捕らえられる。

そこへガルドやカイル、ルシアンも加わり、残った盗賊達を制圧していった。

戦闘が始まってから僅か数分。

三十人近くいた盗賊達は、全員が地面に転がっていた。

立っている者は一人もいない。


「終わったわね」


クラリスが剣を納める。


「はい」


エリスも頷いた。

盗賊達にとっては不運だった。

彼らが襲った相手は、普通の旅人などではなかったのだから。


盗賊達の制圧を終えると、一同は周囲の警戒を行った。

だが、新たな敵の姿はない。

どうやらこれで全員らしかった。


「で、この人達どうする?」


マリンが地面に転がる盗賊達を見ながら言った。


「流石にこのまま放置はできないわね」


クラリスが答える。


「かと言って連れて歩くのも大変だぞ」


ガルドが眉をひそめた。

三十人近い盗賊だ。

普通なら管理するだけでも一苦労である。

エリスは少し考えると、メルキオラへ視線を向けた。


「メルキオラ、お願いできる?」


「もちろんです、エルシア様」


メルキオラはすぐに頷いた。


「以前の帝国兵達と同じように拘束しておきます」


「お願いね」


「お任せください」


メルキオラが魔法を発動する。

黒い影が地面から伸び、気絶した盗賊達を次々と拘束していく。

さらにそのまま異空間の一角へと転送されていった。

盗賊達が目を覚ましても逃げ出せないよう、拘束用の結界も展開される。


「これで大丈夫です」


メルキオラが報告した。


「ありがとう」


エリスは微笑みながら頷く。


「次の街に着いたら衛兵さんか冒険者ギルドに引き渡そう」


「それが良いでしょうね」


クラリスも賛成した。

盗賊だからといって勝手に裁くつもりはない。

然るべき場所へ引き渡すべきだ。

こうして盗賊達の処理を終えた一行は再び馬車へ戻る。


「結局、あっという間だったね」


マリンが苦笑する。


「そうだね」


エリスも肩をすくめた。


「もう少し平和な旅になると思ってたんだけど」


「それは無理じゃない?」


マリンが笑う。

二人の会話に周囲からも小さな笑いが漏れた。

やがて全員が異空間へ戻る。

再び御者台に残ったのはエリスとマリンだけだった。

街道の先には王都へ続く長い道が伸びている。

だが、その旅路はまだ始まったばかりだった。



その様子を遠くから見つめる者がいた。

気配を悟られないよう十分な距離を取り、魔道具を使ってエリス達の様子を観察している。

ノクスだった。


「……やはり、あの馬車には何かある」


盗賊達が確認した時には、御者台には少女が二人しかいなかった。

それにもかかわらず、戦闘が始まると次々と仲間が姿を現した。


「人を隠せる空間……いや、空間魔法の類か」


ノクスは静かに考察する。

盗賊達には理解できなかった現象も、ノクスは冷静に分析していた。


「それに戦力も予想以上だ」


エリスだけでも十分に脅威だ。

さらに元女王親衛隊長のレオネリアと、魔道具師であり魔法使いでもあるメルキオラが加わった。

以前とは比較にならない戦力となっている。

セントポルでキメラが討伐された戦いを思い返しても、このまま同じ手を繰り返すだけでは返り討ちに遭うだけだろう。


「弱点を探るしかないか……」


ノクスは小さく呟く。

力押しでは勝てない。

ならば情報を集め、隙を見つけるしかない。

そう結論づけると、再び気配を消し、エリス達の後を追うのだった。



最後まで読んで頂きありがとうございます

第六章最初の戦闘回でした。


盗賊達から見れば、少女二人が御者をしている大型の商人馬車は格好の獲物に見えたのでしょう。

ですが実際には、馬車の中には新たなる星座の仲間達が勢揃いしていました。


特にレオネリアとメルキオラは加入後初めて本格的に戦闘へ参加する場面となりました。


また、異空間や馬を守る防御結界など、メルキオラが作り上げた魔道具も今後の旅で重要な役割を果たしていきます。


次回は盗賊騒動の後、再び王都への旅路が続いていきます。

引き続きお楽しみいただければ幸いです。


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次回の更新は、7月8日18時を予定してます

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