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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第五章:迫り来る影 ー 魔族の策謀と水都の試練 ー

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幕間 番外編 聖女のお忍びスイーツ作戦

いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。

今回は本編から少し離れた幕間・番外編です。

スタンピードを乗り越え、束の間の平和を迎えたセントポルで、エリスとマリンが「どうしても食べたかったスイーツ」を求めて街へお忍びで出掛けます。

果たして二人は、最後まで正体を隠し通せるのでしょうか?

本編では見られない、少しだけのんびりとした二人のやり取りをお楽しみください。

セントポルでのスタンピードから数日。

街には再び活気が戻り、人々の笑顔も少しずつ増えていた。


そんな昼下がり。

領主館の庭で、エリスはため息をついていた。


「どうしたの?」


マリンが尋ねる。


「この前食べられなかったスイーツ……やっぱり気になる。」


その一言で、マリンの目が輝いた。


「あっ! ドルチア!」


「うん。」


「王都へ行く前に絶対食べよう!」


「でも、そのままじゃ無理だよね。」


スタンピードの一件以来、エリスの顔は街中に知れ渡っている。

普通に歩けば、すぐ人だかりができてしまう。


「変装しよう。」


「賛成!」


二人は早速メルキオラの部屋へ向かった。

事情を聞いたメルキオラは呆れたように微笑む。


「……そのためだけに私を?」


「お願いします!」


「どうしても食べたいの!」


根負けしたメルキオラは収納魔法から魔道具を取り出した。


「こちらで髪色と瞳の色を変えられます。」


「ありがとう!」


「ですが一つだけ。」


メルキオラは真顔になる。


「能力だけは使わないでください。」


「もちろん!」


「絶対使わない!」


元気よく返事をする二人。

その背中を見送りながらメルキオラは小さく呟いた。


「……嫌な予感しかしません。」



変装した二人は無事ドルチアへ到着した。

誰にも気付かれることなく空いている席へ腰を下ろす。

店員が注文を取りに来ると、マリンは迷わず笑顔で口を開いた。


「ガトー・オ・フリュイを二つお願いします!」


ガトー・オ・フリュイは、ふわふわのスポンジ生地に口どけの良い生クリームを重ね、イチゴやキウイ、マンゴー、ブルーベリーなど、色鮮やかな季節のフルーツを中にも上にも贅沢にあしらった、この店自慢の人気ケーキである。


リンデンで初めてその美味しさを知った二人は、再び味わえると聞いて迷わず注文したのだった。


しばらくして店員がケーキを運んでくる。

皿の上には、宝石のように輝く色とりどりのフルーツが美しく飾られたガトー・オ・フリュイ。

思わず二人は目を奪われた。


「わぁ……」


「すごく綺麗!」


一口食べる。


「……美味しい!」


「これだよ!」


「王都でも絶対食べよう!」


二人は幸せそうな笑顔で夢中になっていた。



その時だった。

若い店員が紅茶を運びながら通路を歩いていた。

しかし、走ってきた子どもに気付いて足を止めようとした瞬間、体勢を崩す。


「しまっ――」


カップが宙へ舞う。

熱い紅茶が一直線に飛んでいく。

その先には、小さな女の子。


「きゃっ!」


母親が手を伸ばく。

だが間に合わない。


その瞬間――

エリスが立ち上がった。


「危ない!」


無意識に右手をかざす。


「──消えて。」


次の瞬間。

少女へ降り注ごうとしていた紅茶は、空中で跡形もなく消え去った。

残った空のカップだけが床へ落ちる。


ガシャン!


店内が静まり返る。

少女は無事だった。


「え……?」


店員は目を見開く。


「紅茶が……消えた?」


周囲の客も言葉を失っていた。


「そんな魔法……。」


「見たことがない。」


「空中から消えたぞ。」


一人の老人が小さく呟く。


「……まさか。」


その視線がエリスへ向く。


「聖女様では……。」


その一言で店内がざわつく。


「え?」


「聖女様?」


「確かスタンピードで……。」


「間違いない!」


マリンは固まる。


「エリス。」


「……うん。」


「やっちゃった。」


「やっちゃったね。」


二人は同時に立ち上がった。


「ご、ごちそうさまでした!」


代金だけ置くと、そのまま店を飛び出す。


「待ってください!」


「聖女様!」


「やっぱり聖女様だ!」


街中に声が響く。


「ばれたー!」


「だから能力は使わないって言ったのに!」


「でも、あの子が!」


「それはそうだけど!」


二人は笑いながら街を駆け抜けていく。



領主館へ戻ると、裏口にはクラリス達全員が待っていた。


「それで?」


クラリスが優しく尋ねる。

エリスは苦笑いを浮かべる。


「……ちょっと、ばれちゃった。」


「ちょっと?」


ルシアンが肩を震わせる。


「街中で聖女様って追いかけられて帰ってきたらしいぞ。」


ガルドは豪快に笑う。


「街の騎士から連絡が来ていた。」


メルキオラは額に手を当てる。


「ですから申し上げたではありませんか、

 能力は使わないでください、と。」


エリスは肩をすくめる。


「ごめんなさい……。」


するとクラリスは優しく微笑んだ。


「でも、その子を助けたのでしょう?」


「……うん。」


「なら、それでいいわ。」


その言葉にエリスも笑顔になる。

マリンもほっと胸を撫で下ろした。



翌日。


ドルチアの前には長蛇の列ができていた。

店の入口には、新しい看板が掲げられている。


『聖女様も召し上がった ガトー・オ・フリュイ』


店主は嬉しそうに忙しく働いていた。

少し離れた場所からその様子を見ていたエリスとマリン。


「もう来れないね……。」


「うん。」


二人は顔を見合わせる。


「王都では絶対に正体を隠そう。」


「今度こそ!」


そう誓い合う二人だった。


――しかし、その誓いもまた、長くは続かないのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

今回はシリアスな本編の合間に、エリスとマリンのほのぼのとした一日を書いてみました。


……とはいえ、やっぱりエリスは困っている人を見過ごせませんでしたね。変装までしていたのに、思わず能力を使ってしまうあたりが、いかにもエリスらしいところです。


そして、セントポル一番のスイーツ店『ドルチア』は、思わぬ形でさらに有名店になってしまいました。

次回からはいよいよ第六章「王都への道」が本格的に始まります。

新たな街、新たな出会い、そして魔族の思惑が再び動き始めます。エリスたちの旅がどのような展開を迎えるのか、引き続き見守っていただけると嬉しいです。


これからも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

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