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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第五章:迫り来る影 ー 魔族の策謀と水都の試練 ー

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未来へ繋ぐ備え ― セントポルの守り ―

スタンピードは終息し、セントポルには平穏な朝が戻っていた。


だが、誰もが理解していた。

今回の脅威が終わったわけではないことを。


再び魔族が動けば、同じような危機が訪れるかもしれない。

だからこそ今、未来のための備えが必要だった。

前日の騒動が嘘だったかのように、セントポルには静かな朝が訪れていた。

窓から差し込む朝日が部屋を照らしている。


レオネリアとメルキオラは既に目を覚ましていた。

二人は用意された客室で向かい合って座る。


昨日は激動の一日だった。

魔族であることを明かし、人族の街へ受け入れられた。

今こうして人族の領主城で朝を迎えていることが、未だに不思議だった。


「不思議なものね」


メルキオラが小さく笑う。


「まさか人族の街で朝を迎える日が来るなんて」


レオネリアも静かに頷いた。


「ですが悪くありません」


二人に後悔はなかった。

むしろ長年探し続けていた主の元へ戻れた安堵の方が大きい。

しばらく沈黙が流れる。

やがてレオネリアが口を開いた。らのことを考えなければなりませんね」


メルキオラも表情を引き締める。


「ええ

 ゼルヴァークが今回で諦めるとは思えないわ」


それは二人とも確信していた。

エルシアの存在を知った以上、魔界が動かないはずがない。


「問題はエルシア様が王都へ向かわれた後ね」


メルキオラが窓の外を見る。


「セントポルが襲われても、ここから離れていたら対応が遅れるわ」


レオネリアも頷く。


「転移魔法陣を設置しておくべきでしょう

 何かあればすぐに戻れるようにしておけば安心です」


「それが良さそうね」


さらにメルキオラは続けた。


「それと、セレフィーナにも通信手段を渡しておきたいわ」


「エルシア様へ渡している通信機と同じものを作れれば、緊急時にも連絡が取れる」


レオネリアは少し考えた。


「確かに必要ですね

 セントポルは今後も重要な拠点になるでしょう」


だがメルキオラは肩を竦める。


「どちらもすぐには無理だけどね

 素材も必要だし、調整にも時間が掛かるわ」


レオネリアは立ち上がった。


「まずはエルシア様へ相談しましょう」


勝手に決めるべき話ではない。

メルキオラも頷く。


「そうね

 エルシア様もきっと賛成してくださると思うわ」


身支度を整えると二人は部屋を出た。

そして静かな廊下を歩きながら、エルシア――いや、エリス達の部屋へと向かうのだった。



エリス達も目を覚まし、朝の支度を終えると皆で部屋に集まっていた。

話題は自然と昨日のスタンピードについてになる。


「昨日は何とか防げたけど……」


マリンが真剣な表情で言う。


「また同じことが起きたらどうするのかな」


その言葉に皆も考え込む。

ガルドが腕を組んだ。


「俺達がいればいい

 だが、王都へ向かった後だったら話は別だ」


クラリスも頷く。


「そうね

 私達がいない時に同じようなことが起きたら、セレフィーナ様達だけで守り切れるかは分からないわ」


部屋の空気が少し重くなった。

その時だった。


コンコン。

部屋の扉がノックされる。


「はーい」


エリスが扉を開く。

そこにはレオネリアとメルキオラが立っていた。


「エルシア様」


レオネリアが頭を下げる。


「ご相談したいことがあります」


エリスはすぐに頷いた。


「みんなも一緒でいい?」


「もちろんです」


二人は部屋へ案内された。

席につくとレオネリアが切り出す。


「実は先ほど、私達も今後について話していました」


そして二人は考えていた案を説明する。

セントポルに転移魔法陣を設置すること。

そして通信機を増設すること。

話を聞いた全員が驚いた。


「転移魔法陣?」


マリンが目を丸くする。

ガルドも驚いていた。


「そんなものが存在するのか」


するとルシアンが真っ先に反応する。


「待て」


全員の視線が集まる。


「それが可能なら敵も使えるのか?」


レオネリアが頷いた。


「理論上は可能です

 ですが座標固定や認証を組み込めば使用者を制限できます」


その説明を聞き、ルシアンは納得したように頷く。


「なるほど

 なら防衛拠点としては有効だな」


続いてメルキオラが説明する。


「何かあった時、エルシア様達がすぐ戻れるようになります

 セントポルは今後も重要な場所になるでしょうから」


クラリスも感心したように頷いた。


「確かに良い案ね」


するとガルドが別の言葉に引っ掛かった。


「通信機?

 何だそれは?」


エリスは少し気まずそうな顔をした。


そしてポケットから小さな魔道具を取り出す。


「これ」


全員が固まった。


「え?」


マリンが目を瞬かせる。


「何それ?」


エリスは苦笑した。


「実はレオネリア達とはこれで連絡を取ってたの」


部屋が静まり返る。

真っ先に反応したのはルシアンだった。


「なるほどな

 連絡手段があるとは思っていたが、それか」


エリスは少し驚く。


「気付いてたの?」


「何となくだ」


ルシアンは肩を竦めた。

そして興味深そうに通信機を見る。


「メルキオラ

 これを人数分作ることは可能か?」


メルキオラは少し考える。


「魔石があれば可能よ」


その答えにルシアンが頷いた。


「なら全員が持った方がいい

 先々を考えても役立つ」


クラリスも賛成した。


「そうね

 離れて行動することもあるでしょうし」


メルキオラも微笑む。


「私もそう思うわ」


するとレオネリアが続けた。


「それと、セレフィーナ様にも一つ渡してはどうでしょうか」


全員がそちらを見る。


「セントポルで何か起きた時、すぐ連絡が取れます」


クラリスは感心したように頷いた。


「それは良い案ね」


エリスも賛成する。


「うん

 セレフィーナ様なら大事に使ってくれそう」


話はまとまった。


「じゃあ朝食の時にでも相談してみようか」


エリスの言葉に全員が頷く。

新たな備えが、少しずつ形になろうとしていた。


その時だった。


コンコン。

部屋の扉を叩く音が響く。


「はーい」


マリンが立ち上がり扉を開けた。

そこには侍女が立っていた。


「皆様、朝食の準備が整いました

 ご案内いたします」


エリス達は頷き、侍女の後について部屋を出た。

案内された先は昨日の朝食と同じ食堂だった。

長いテーブルの上には朝とは思えないほど豪華な料理が並んでいる。


焼きたてのパン。

スープ。

卵料理。

果物。

香ばしい肉料理まで用意されていた。


既にヴァルディスとセレフィーナは席についている。


「おはようございます」


エリス達が挨拶をすると、二人も笑顔で迎えた。


「おはようございます」


「皆様、昨夜はよく眠れましたか?」


セレフィーナの問いかけに、皆がそれぞれ頷いた。


「はい、とてもよく眠れました」


「おかげさまで疲れも取れました」


「久しぶりにぐっすり眠れた気がします」


和やかなやり取りが交わされた後、全員が席につく。

するとヴァルディスが改めて頭を下げた。


「昨日は本当にありがとう

 皆のおかげでセントポルは守られた」


セレフィーナも微笑む。


「私からも感謝いたします」


クラリスは苦笑しながら答えた。


「昨夜は盛大な祝勝会まで開いていただきました

 もう十分過ぎるほどのお心遣いをいただいております」


セレフィーナは思わず笑みを浮かべた。

相変わらずクラリスらしい。


だがヴァルディスは真面目な表情のままだった。

どうやらまだ礼が足りないと思っているらしい。


そんな中、クラリスが話題を変える。


「実は今後についてご相談があります」


ヴァルディスとセレフィーナが真剣な表情になる。


「昨日のようなことが再び起きる可能性があります

 私達がセントポルにいる間なら対応できます

 ですが王都へ向かった後はそうはいきません」


ヴァルディスも頷いた。


「確かにその通りだ」


「そこで二つ提案があります」


クラリスはメルキオラを見る。

すると、メルキオラが前へ出た。


「一つ目は通信機です」


当然ながら二人は首を傾げる。


「通信機?」


聞き慣れない言葉だった。


「見ていただいた方が早いですね」


エリスが通信機を取り出す。

そしてメルキオラにも同じ物を持たせた。

二人は少し離れた場所へ移動する。


すると――


『聞こえますか?』


突然、メルキオラの声が通信機から聞こえてきた。

ヴァルディスとセレフィーナが目を見開く。


「なっ!?」


『こちらはメルキオラです

 問題なく聞こえていますか?』


エリスも返事をする。


『うん、ちゃんと聞こえてるよ』


二人は顔を見合わせた。

信じられないという表情だった。


「離れていても会話ができるのか……

 そんな魔道具が存在するなんて……」


驚きを隠せない。

クラリスが続ける。


「そして二つ目ですが――

 転移魔法陣の設置です」


今度はさらに二人が驚いた。


「転移だと?」


「まさか、あの転移ですか?」


クラリスは頷く。


「ええ

 セントポルと別の場所を繋ぐ魔法陣です

 設置には少し時間が掛かりますが、完成すれば緊急時に即座に移動できます」


そう説明しながらクラリスはメルキオラへ視線を向けた。

転移魔法陣の構築も得意としているのは彼女だ。


メルキオラも小さく頷く。


「設置から運用、調整までこちらで行いますのでご安心ください」


ヴァルディスは思わず唸った。

もしそれが実現するなら、セントポルの防衛力は大きく向上する。

セレフィーナも感心したように呟く。


「まるで伝説の魔法ですね……」


クラリスは微笑んだ。


「これらをセントポルへ提供したいと考えています」


その言葉にヴァルディスは首を横に振る。


「いや、それは流石に受け取れない

 昨日助けてもらったばかりだ

 その上、このような貴重な物まで無償では頂けない」


するとメルキオラが口を開いた。


「でしたら材料費だけいただければ十分です

 それに、私達もこちらで生活していく以上、ある程度の資金は必要になります

 そのための対価として受け取らせていただければ十分です」


ヴァルディスはしばらく考え込んだ。

やがて笑みを浮かべる。


「分かった

 それなら正式に依頼させてもらおう」


レオネリアとメルキオラも頷いた。

こうしてセントポルへ新たな備えが加わることになったのだった。

最後まで読んで頂きありがとうございます


今回は戦いではなく、その後の備えについてのお話でした。

レオネリアとメルキオラも正式に仲間となり、エルシア様――エリスを支えるために動き始めます。

通信機や転移魔法陣は、今後の物語でも重要な役割を果たしていくことになるでしょう。


また、ヴァルディスやセレフィーナとの信頼関係もさらに深まりました。

セントポル編は一つの山場を越えましたが、魔族側も確実に動いています。


引き続き応援していただけると嬉しいです。

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次回の更新は、7月2日18時を予定してます

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