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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第五章:迫り来る影 ー 魔族の策謀と水都の試練 ー

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祝福の宴 ― 栄誉市民の称号 ―

スタンピードは終息した。

多くの犠牲を出しながらも、セントポルは守り抜かれた。


人々を救った冒険者達。

命を懸けて戦った騎士達。

そして奇跡を起こした一人の少女。


その功績を称えるため、セントポルでは盛大な祝勝会が開かれることとなる。

レオネリアとメルキオラが新たに仲間へ加わったことで、客室がもう一部屋用意された。

本来であれば二人はその部屋を使う予定だったが、今はエリス達の部屋へ集まっていた。


セレフィーナとの話し合いを終えたばかりということもあり、皆どこか安堵した表情を浮かべている。


クラリスはレオネリアとメルキオラへ視線を向けた。


「さて、今のうちに聞いておきたいことがあるわ」


二人も真剣な表情になる。


「魔界の現状について教えてもらえるかしら」


レオネリアとメルキオラは顔を見合わせると静かに頷いた。

そして知っている情報を語り始める。


キメラを作り出しているのは、グリムヴァルという研究者であること。

シャドウウォーカーの配下にはノクスを含めた四人の斥候がおり、各地で監視や情報収集を行っていること。

そして現在の魔界ではゼルヴァークが新たな魔王として君臨し、ディアゼルが軍勢を率いていること。


話を聞くにつれ、その場の空気は重くなっていった。


「やはり魔族側も本格的に動いているのね……」


ミリアが険しい表情を浮かべる。

するとメルキオラが口を開いた。


「ただ、一つ気になることがあるの」


全員の視線が集まる。


「本来なら次はサントス国への侵攻が計画されていたはずなの

 でも今回の件で、その計画は大きく狂ったはずよ」


レオネリアも頷く。


「目標を変更した可能性があります

 どこを狙うかまでは分かりませんが……」


エリスは静かに考え込んだ。

ゼルヴァーク達が何を考えているのか分からない。

だが確実に動いている。

それだけは間違いなかった。


しばらく沈黙が続いた後、クラリスが口を開く。


「この話は後でルシアン達にも共有しましょう

 夕食にはセントポルの貴族達も来るでしょうし、今この場だけの話にしておいた方がいいわ」


レオネリアも同意した。


「その方が良いでしょう

 私達のこともありますから」


メルキオラも頷く。


「余計な混乱は避けるべきね」


そうして一旦話は終わった。


その時だった。

コンコン。

部屋の扉がノックされる。


「どうぞ」


クラリスが声を掛けると、侍女が姿を現した。


「お風呂の準備が整いました

 ご自由にお使いください」


エリス達は立ち上がる。


だがレオネリアとメルキオラだけは首を傾げていた。


「お風呂?」


「湯浴みのことですか?」


その反応にマリンが驚く。


「え? 二人とも湯船に入ったことないの?」


レオネリアは少し考えながら答えた。


「身体は洗いますが、大勢で同じ湯に浸かる習慣はありませんね

 魔法で済ませることも多いですし」


メルキオラも頷く。


「魔界ではあまり見ない文化ね」


マリンの目が輝く。


「じゃあ初めてなんだ!」


エリスも思わず笑った。


「せっかくだし入ってみようよ」


そうして女性陣は浴場へ向かった。


広々とした浴場にレオネリアとメルキオラは目を丸くする。


「大きいですね……」


「本当に池みたい」


だが、そのまま湯船へ入ろうとしてマリンに止められた。


「待って待って!

 先に身体洗うんだよ!」


「そういう決まりなの?」


「うん!」


エリスとマリンは笑いながら入浴の仕方を教えた。

身体を洗い終えると、全員で湯船へ浸かる。

温かなお湯が全身を包み込んだ。


レオネリアは思わず目を閉じる。


「……なるほど

 これは良いですね」


メルキオラも肩まで浸かりながら微笑む。


「疲れが溶けていくみたい

 今まで知らなかったのが勿体なかったかもしれないわ」


その言葉にエリスとマリンは笑った。


戦いの疲れも少しずつ癒されていく。

こうして女性達は束の間の休息を楽しんだ。


風呂から上がり部屋へ戻ると、しばらくして再び侍女がやって来た。


「皆様

 夕食の準備が整いました」


クラリスが頷く。


「ありがとう」


侍女は一礼した。


「本日の夕食は祝勝会も兼ねております

 辺境伯様とセレフィーナ様がお待ちです」


その言葉に一同は顔を見合わせる。

どうやら少し賑やかな夕食になりそうだった。


エリス達は身支度を整えると、侍女の案内に従って食堂へと向かうのだった。

食堂へ向かう途中、エリス達は少し不思議に思っていた。

昨日案内された食堂とは向かう方向が違う。


「昨日とは違う場所なんですね?」


エリスが侍女へ尋ねる。

侍女は微笑みながら答えた。


「本日は祝勝会も兼ねておりますので、大広間でのお食事となります

 立食形式の予定です」


「へぇ……」


マリンが感心したように声を漏らした。

やがて一行は大きな扉の前へと到着する。

そこには別の侍女が待機していた。

侍女が一礼すると、重厚な扉がゆっくりと開かれる。


その瞬間――


「おぉ……」


マリンが思わず声を漏らした。

広間には既に大勢の人々が集まっていた。


豪華な衣装に身を包んだ貴族達。

騎士団の幹部達。

商会の代表者達。


セントポルを支える有力者達が一堂に会していた。


広間の中央には豪華な料理が並べられている。


肉料理。

魚料理。

果物。

スイーツ。


見渡す限りのご馳走だった。


だが、一行は侍女に案内されるまま広間の奥へと進んでいく。

そこには既にヴァルディスとセレフィーナが待っていた。


「皆さん、お待ちしていました」


セレフィーナが笑顔で迎える。

その隣でヴァルディスも頷いた。


そして二人は広間の奥に設けられた一段高い場所へ手を向ける。


「どうぞ、こちらへ」


その瞬間。

クラリスは全てを察した。

思わず苦笑する。

ルシアンも小さく肩を竦めた。


「なるほどな」


だがエリスとマリンは事情が分からない。


「?」


「どうしたの?」


首を傾げながら言われるままに上がっていく。

やがて全員が並ぶと、ヴァルディスが前へ出た。

そして広間全体へ向けて声を響かせる。


「静粛に」


その一言で広間が静まり返った。

ヴァルディスはゆっくりと全員を見渡す。


「本日はお集まりいただき感謝する

 皆も知っている通り、セントポルは未曾有の魔物の襲撃を受けた」


広間の空気が引き締まる。


「だが、我々はそれを退けた

 市民達の勇気

 騎士達の奮闘

 そして冒険者達の活躍によってな」


大きな拍手が起こる。

ヴァルディスは続けた。


「その中でも特に大きな功績を残した者達を紹介したい」


そして壇上に並ぶ一行へ振り返る。


「まずはこの女性」


クラリスへ手を向ける。


「白銀の剣姫、クラリス」


その名前が出た瞬間、広間がどよめいた。


「白銀の剣姫だと!?」


「本物か!」


「まだ現役だったのか!」


ヴァルディスは微笑む。


「続いて、蒼導のルシアン」


ルシアンが軽く頭を下げる。


「そして、鷹の目のカイル」


カイルも短く会釈した。


「白銀の魔女ミリア

 重騎士ガルド」


それぞれ紹介される度に歓声が上がる。

ヴァルディスは続けた。


「そして若き魔法使い、マリン」


マリンは緊張しながら頭を下げた。


「さらに、今回共に戦ってくれたレオネリアとメルキオラ」


二人も静かに礼をする。

広間の人々は興味深そうに二人を見ていた。


そして――

ヴァルディスは最後にエリスへ視線を向けた。


「最後に」


広間が静まり返る。


「今回、最も大きな功績を残した人物を紹介しよう」


エリスは嫌な予感がした。


「え?」


ヴァルディスは堂々と宣言する。


「スタンピードの最前線で戦い

 数多くの市民を救い

 そして大聖堂では、誰も救えないと思われた命を救ってみせた

 白銀の剣姫の娘で若き剣士のエリス」


大司教アウグストが静かに前へ出る。


「私も証言いたします」


広間の視線が集まった。


「エリス殿は本日、多くの命を救いました

 失われた右腕すら取り戻してみせたのです」


広間が騒然となる。


「腕を!?」


「そんな馬鹿な!」


「本当なのか!?」


アウグストは力強く頷いた。


「私はこの目で見ました

 彼女はまさしく聖女と呼ぶに相応しい存在です」


ざわめきがさらに大きくなる。

そしてヴァルディスは高らかに宣言した。


「よって私はここに宣言する

 エリス殿をセントポル栄誉市民として迎える!」


一瞬の静寂。


そして――

割れんばかりの拍手と歓声が広間を包み込んだ。


「聖女様!」


「エリス様!」


「万歳!」


「セントポルの英雄だ!」


歓声はいつまでも止まらない。

セレフィーナも笑顔で拍手を送っている。

クラリスは誇らしげに娘を見つめた。

ミリアも嬉しそうに微笑む。

ルシアン達も自然と拍手を送っていた。


ただ一人――

当の本人だけは。


「えぇぇぇぇぇ!?」


状況についていけず、完全に固まっていたのだった。


ヴァルディスは満足そうに頷いた。


「さて、紹介も終わったことだ」


近くに置かれていたグラスを手に取る。


「皆、グラスは持ったか?」


会場の人々も次々とグラスを手にした。

ヴァルディスは高く掲げる。


「セントポルを守り抜いた全ての者達へ――」


そして力強く宣言した。


「乾杯!」

「乾杯!!」


広間中に声が響く。

グラスの触れ合う音が一斉に鳴り、祝勝会が始まった。

すると早速、多くの人々が新たなる星座のメンバーの元へやって来た。


「白銀の剣姫にお会いできるとは!」


「蒼導のルシアン殿、貴方のご活躍は聞いております」


「鷹の目のカイル殿もお見事でした」


かつて名を馳せた白銀の聖剣団の面々は、貴族達から次々と声を掛けられていた。

しかし、それ以上に人が集まっていたのはエリスだった。


「聖女様!」


「娘を助けてくださり、本当にありがとうございました!」


「息子の命の恩人です!」


中には涙を浮かべながら頭を下げる者までいる。

エリスは慌てながら対応していた。


「い、いえ! 私は当然のことをしただけで……

 そんなに頭を下げないでください!」


だが感謝の言葉は途切れない。

次から次へと人がやって来る。

その様子を少し離れた場所から見ていたマリンは頬を膨らませた。


「うぅ……」


視線の先には豪華な料理が並んでいる。


ロースト肉。

焼き魚。

果物。

スイーツ。


どれも美味しそうだった。

だが人が多すぎて近付けない。


「食べたい……」


小さく呟く。

すると隣にいたミリアが苦笑した。


「我慢しなさい」


「でもぉ……」


「あと少しよ」


マリンは恨めしそうに料理を見つめる。

一方、レオネリアとメルキオラも人族の祝勝会というものを興味深そうに眺めていた。


「随分と賑やかなのね」


メルキオラが呟く。

レオネリアも頷いた。


「魔界の宴とはまた違いますね

 ですが悪くありません」


そんな会話を交わしながら、二人も勧められた飲み物を口にする。

やがて挨拶も一段落した。

ようやく人の波から解放されたエリスが席へ戻ってくる。


「疲れたぁ……」


「お疲れ様」


クラリスが苦笑する。

その瞬間だった。

マリンが勢いよく立ち上がる。


「今だっ!」


まるで戦場へ突撃するかのような勢いで料理の方へ向かっていった。


「マリン!?」


ミリアが思わず声を上げる。

だが既に遅い。

マリンは満面の笑みで料理を皿へ盛り始めていた。

その姿に周囲から笑いが起こる。

エリスも思わず笑ってしまう。


こうしてようやく一行は食事を楽しむことができた。

料理はどれも絶品だった。

肉料理も魚料理も素晴らしい。

デザートも豊富に用意されている。


レオネリアとメルキオラも人族の料理を存分に堪能していた。


「美味しい……」


「これは確かに人気がある理由が分かります」


特にマリンは終始幸せそうな顔をしていた。


やがて夜も更けていく。

祝勝会は盛況のまま幕を閉じた。

帰り際には多くの人々から再び感謝の言葉が送られる。

それに応えながら、エリス達は大広間を後にした。


そして、それぞれの客室へ戻る。

激動の一日だった。


スタンピード。

聖女と呼ばれた奇跡。

レオネリアとメルキオラの受け入れ。

様々な出来事があった一日も終わりを迎える。

明日から何が待っているのか。

それはまだ誰にも分からなかった。

最後まで読んで頂きありがとうございます。


今回はスタンピード編の締めくくりとして、祝勝会のお話でした。

エリスはセントポル栄誉市民として表彰され、人々からは聖女として称えられることになります。


ですが、当の本人はまったく慣れておらず、周囲との温度差が相変わらずですね。

また、レオネリアとメルキオラも少しずつ人族の生活に馴染み始めました。

セントポルでの騒動は一段落しましたが、魔族側も確実に動き続けています。


次回の更新は、7月1日18時を予定してます

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