表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第五章:迫り来る影 ー 魔族の策謀と水都の試練 ー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
76/79

魔王の新たな一手 ー 動き出す魔界 ー

スタンピードは阻止された。


しかし、それで全てが終わったわけではない。


境界の子。

聖獣。

そして離反した二人の元側近。


エリス達の存在は、ついに魔王ゼルヴァーク自身を動かすまでになっていた。


一方その頃、魔界では新たな作戦が動き始めていた――。

その頃――

魔界。


黒曜石で造られた巨大な城の最深部。

重苦しい空気が漂う謁見の間に、一人の魔族が膝をついていた。


ノクスである。


全身には戦闘の痕跡が残り、衣服の一部も破れている。

辛うじて逃げ延びてきたことが誰の目にも明らかだった。

本来であれば報告相手はシャドウウォーカーだけで十分だった。


しかし――

もはや事態はその段階を超えていた。


玉座には魔王ゼルヴァーク。

その傍らには魔将ディアゼル。

さらにシャドウウォーカーとグリムヴァルも集められている。


魔界中枢の幹部が一堂に会していた。


「報告しろ」


ゼルヴァークの低い声が響く。

ノクスは頭を下げたまま口を開いた。


「はっ」


そしてセントポルで起きた出来事を順に説明していく。


境界の子――エリス。

その剣技。

そして存在そのものを消滅させる異質な力。


「消滅……か」


グリムヴァルが興味深そうに呟く。

ノクスは続けた。


「さらに、同行している少女マリン

 風と火の魔法を扱いますが、その魔力量は異常です

 少なくとも同年代の人間とは比較になりません」


ディアゼルが眉をひそめる。


「人間にしては厄介だな」


「はい」


ノクスは頷いた。


「そしてスタンピードでは、元王国騎士クラリスの存在も確認しました

 境界の子にも劣らぬ剣技を有しています」


「白銀の剣姫か」


シャドウウォーカーが呟く。

その名は魔界にも知られていた。


ノクスはさらに続ける。


「もう一つ、想定外の存在を確認しました」


「申せ」


「白きフェンリルです」


その言葉にグリムヴァルが顔を上げた。


「ほう?」


「境界の子に付き従う白銀の狼

 高位魔物ではありません

 聖獣です」


その場の空気が変わった。

ディアゼルが腕を組む。


「聖獣だと?」


「はい」


ノクスは即答した。


「高い知性を有し、人語を解します

 さらに複数のキメラの核を発見していました」


グリムヴァルの表情が険しくなる。


「なるほど

 だから核の位置を見抜かれたのか」


ノクスは頷いた。


「恐らく聖獣の能力によるものと思われます」


しばらく沈黙が流れる。


境界の子。

聖獣。

規格外の魔力を持つ少女。

そして白銀の剣姫。


想定していた以上の戦力だった。


だが――

報告はまだ終わっていなかった。


「さらに」


ノクスが言葉を続ける。


「レオネリアとメルキオラの離反を確認しました」


その瞬間。

空気が張り詰めた。

ディアゼルの目が鋭くなる。


「離反だと?」


「はい

 両名とも境界の子に協力していました」


怒気が漂う。


だが――

ゼルヴァークだけは静かだった。


まるで最初から予想していたかのように。


「……理由は一つだろう」


その言葉に全員が視線を向ける。

ゼルヴァークはゆっくりと立ち上がった。


「奴らは未だにエルシアを忘れられぬのだ」


その名が出た瞬間。

空気がさらに重くなる。

かつて魔界を統べていた女王。

既に死んだはずの存在。

シャドウウォーカーが静かに口を開いた。


「つまり……境界の子をエルシア様だと?」


「可能性はある」


ゼルヴァークの赤い瞳が細められる。


「だからこそ確認が必要だ」


そしてノクスを見下ろした。


「ノクス」


「はっ」


「引き続き監視を続けろ

 そして確かめろ」


その声には有無を言わせぬ圧力があった。


「境界の子が本当にエルシアなのかをな」


「承知いたしました」


ノクスは深く頭を下げる。

ゼルヴァークは今度はグリムヴァルへ視線を向けた。


「グリムヴァル」


「はいはい」


老人の魔族が不気味な笑みを浮かべる。


「キメラとスタンピードの失敗要因を解析しろ

 次は同じ失敗を繰り返すな」


グリムヴァルの目が妖しく輝く。


「面白いですねぇ

 境界の子

 聖獣

 規格外の魔力

 実に研究しがいがあります」


ゼルヴァークはその言葉を無視し、今度はディアゼルへ向き直った。


「ディアゼル」


「はっ」


「サントス国は後回しだ」


その言葉にシャドウウォーカーが僅かに目を見開く。

長年狙い続けてきた国だからだ。

しかしゼルヴァークは迷いなく続けた。


「先にヴァルガディア帝国を手中に収めろ」


ディアゼルの口元が僅かに歪む。


「帝国ですか」


「ああ」


ゼルヴァークは頷く。


「境界の子の周囲には想定以上の戦力が集まり始めている

 さらに聖獣まで現れた

 女神セレネも本格的に動き出したと見るべきだろう」


その言葉に全員が黙り込む。

聖獣は偶然現れる存在ではない。

神の意思が介在している証拠だった。


「ならば正面からぶつかる必要はない

 先に帝国を利用する

 帝国という巨大な駒を手に入れれば盤面は変わる」


ディアゼルは深く頭を下げた。


「必ずや」


全員への命令を終えると、ゼルヴァークは再び玉座へ腰を下ろした。


境界の子。

聖獣。

離反した二人の側近。


そして帝国。


盤面は確実に動き始めていた。


「好きに足掻くがいい」


誰にも聞こえぬほど小さく呟く。


「だが最後に勝つのは私だ」


こうして――


ノクスは監視任務へ。

グリムヴァルは新たな研究へ。

ディアゼルは帝国侵略へ。


それぞれがゼルヴァークの命を受け、動き始めた。


迫り来る新たな脅威を、まだ誰も知らなかった。



命令を受けた後。

グリムヴァルは自らの研究室へ戻っていた。

無数の魔導具と解剖台が並ぶ薄暗い部屋。

その中央で椅子に腰掛けながら考え込んでいる。


「聖獣、か……」


机の上にはキメラの設計図。

スタンピードの記録。

そしてノクスから提出された報告書が広げられていた。

指先で机を叩きながら思考を巡らせる。


「なぜ核を見つけられた?」


核の位置を知っていた。

移動核も。

地下に隠した核も。


そして四重核ですら発見された。

偶然では説明できない。


「核そのものを感知しているのか?

 魔力を見ているのか?

 それとも別の能力か?」


グリムヴァルは小さく笑う。


「面白いですねぇ」


原因を解明できなければ、どれだけ新しいキメラを生み出しても結果は同じ。

まずは聖獣そのものを理解する必要がある。


だが――


「どう調べるか、ですねぇ」


聖獣は常に境界の子の傍にいる。

生け捕りは現実的ではない。


正面からぶつかっても得られる情報は限られる。

グリムヴァルは目を閉じた。


「観察

 実験

 誘導」


次々と案が浮かんでは消えていく。

やがて口元がゆっくりと歪んだ。


「まずは情報収集から始めましょうか」


研究者の瞳が妖しく輝いていた。



一方その頃。

ディアゼルは既に行動を開始していた。


魔界軍の作戦室。

巨大な地図の前で複数の魔族達が整列している。


ディアゼルは腕を組みながら地図を見つめた。


そこにはサントス国。

そしてヴァルガディア帝国。


さらに両国を隔てる山脈や街道が記されている。


「魔王様の命令だ」


低い声が響く。


「目標を変更する」


配下達が顔を上げる。


「先に帝国を落とす」


ざわめきが広がる。

だが誰も異を唱えない。

ディアゼルは地図を指差した。


「まずは戦力の再編成だ

 侵攻軍を編成しろ

 飛行部隊長はヴァルガードがまとめろ

 魔獣部隊長はガルディオンがまとめろ

 重装部隊長はドラグザールがまとめろ

 直ぐにだ」


配下達が一斉に頭を下げる。


「はっ!」


さらにディアゼルは別の指示を出した。


「斥候部隊を帝国方面へ向かわせろ

 侵攻経路を洗い出せ

 地形

 防衛拠点

 駐屯兵力

 全て調べ上げろ」


「承知しました!」


命令を受けた斥候達は直ちに魔界を飛び出していく。

その背中を見送りながらディアゼルは呟いた。


「サントス国は後だ

 まずは帝国を手に入れる」


もし帝国を掌握できれば。


その軍事力。

国力。

人材。


全てが魔界のものとなる。


そしてその時こそ――

境界の子を討つための盤面が完成する。


ディアゼルの口元に冷たい笑みが浮かんだ。

最後までお読みいただきありがとうございます。


今回は魔族側の動きを中心に描いてみました。


スタンピードの失敗によって、ついにゼルヴァーク本人が本格的に動き始めます。

また、グリムヴァルによる新たな研究や、ディアゼルの帝国侵攻計画など、今後の展開へ繋がる伏線も多く盛り込みました。


そして魔族側は、エリスが本当にエルシアなのかという疑念を抱き始めます。

果たしてその疑念は確信へ変わるのか。


次回の更新は、6月30日18時を予定してます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://ncode.syosetu.com/n5658ly/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ