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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第五章:迫り来る影 ー 魔族の策謀と水都の試練 ー

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信じるという選択 ― 新たな居場所 ―

スタンピードは終息した。


しかし、その戦いによって新たな問題も生まれていた。

魔族であるレオネリアとメルキオラ。

二人はもはや魔族領へ戻ることはできない。


人と魔族。

本来なら相容れない存在。


その二人を受け入れるかどうか――

一つの決断が迫られていた。

エリスは、その後も重傷者を中心に治療を続けていた。


失われた手足。

深い傷。


普通の治癒魔法では救えない負傷者達。

それでもエリスは一人一人を助けていく。


その姿を見た人々は、次第に確信していた。

目の前にいるのは聖女なのだと。


やがて運び込まれてくる負傷者もいなくなり、救護活動はようやく一段落した。


そこで問題となったのはレオネリアとメルキオラだった。

二人は既に魔族領へ戻れない。

ノクスに見られた以上、魔族側には裏切り者として認識されているはずだ。

新たなる星座の仲間達は二人を受け入れてくれた。


しかし今はセントポル領主城に滞在している身である。

勝手に住人を増やす訳にもいかなかった。


エリスがどうするべきか悩んでいると、クラリスが口を開いた。


「私がセレフィーナ様に話してみるわ」


「え?」


エリスは思わず顔を上げる。


「大丈夫かな?」


するとクラリスは微笑んだ。


「絶対とは言えないけれど、あの方なら事情を聞いてくださると思うわ

 昔から優しい方だったもの」


その言葉にエリスも少し安心した。


「ありがとう、お母さん」


「気にしなくていいのよ」


そうして一行はレオネリアとメルキオラを連れ、セントポル領主城へと向かった。

領主城へ到着すると門番達が敬礼する。

だがすぐに視線は見慣れない二人へ向けられた。


「クラリス様、そのお二人は?」


門番が尋ねる。

クラリスは落ち着いた様子で答えた。


「私達の知人よ

 事情があって、しばらく一緒に行動することになったの」


門番は少し考え込む。


しかし目の前にいるのは白銀の剣姫クラリス。

さらにスタンピードを鎮圧した英雄達でもある。

門番は頷いた。


「承知しました

 皆様でしたら問題ないでしょう」


そうしてレオネリアとメルキオラも無事に領主城へ入ることができた。


二人は顔を見合わせる。

魔族領ではない場所。

人間達の城。


本来なら決して足を踏み入れることのない場所だった。


だが今は違う。

エリスの隣こそが、自分達の居場所なのだと感じていた。



城へ入ると、クラリスは近くにいた侍女へ声を掛けた。


「セレフィーナ様にお話ししたいことがあるのだけれど、お時間をいただけるかしら?」


侍女は丁寧に頭を下げる。


「確認して参ります」


そう言うと足早に去っていった。

一行はひとまず借りている客間へ戻ることにした。

部屋へ入ると、張り詰めていた空気も少し和らぐ。

ソファへ腰を下ろしたマリンが、興味津々な顔でレオネリアとメルキオラを見た。


「ねえねえ!

 エリスの前世ってどんな人だったの?」


エリスは嫌な予感がした。


「ちょっ、マリン!?」


しかしマリンは気にしていない。

レオネリアとメルキオラは顔を見合わせる。

そして少しだけ微笑んだ。


「そうですね……」


レオネリアが懐かしそうに目を細める。


「とても強いお方でした

 魔界でエルシア様に敵う者はいなかったでしょう」


ガルドが思わず感心したように唸る。


「やっぱり魔王だったんだな……」


だがメルキオラは首を横に振った。


「強いだけじゃないわ

 誰よりも優しい人だった」


その言葉にエリスは少し照れたような顔をする。


「もう、その話はいいよ……」


しかし二人は止まらない。


「魔族と人族が争わずに済む道を本気で探していたのよ

 そんなことを考える魔王なんて、あの方くらいだったわ」


メルキオラは懐かしそうに笑う。

クラリスとミリアも興味深そうに耳を傾けていた。


今まで知らなかった娘の一面。

いや、前世の姿と言うべきか。


「へぇ……」


マリンは感心したように頷く。


「なんだか今のエリスと変わらないね」


その言葉にレオネリアとメルキオラは同時に頷いた。


「ええ、まったく変わりません」


エリスは顔を赤くした。


「だから、そんなに褒めなくていいから!」


その様子を見て部屋に笑いが広がる。

重苦しかった空気が少しだけ和らいだ。


そんな時だった。

コンコン。

部屋の扉が叩かれる。


カイルが立ち上がり扉を開く。

そこには先程の侍女が立っていた。


「お待たせいたしました

 セレフィーナ様のご準備が整いましたので、お越しくださいとのことです」


クラリスが立ち上がる。


「分かったわ」


侍女は丁寧に一礼した。


「では、ご案内いたします」


一行は顔を見合わせる。

これからレオネリアとメルキオラの今後が決まる。


侍女の案内のもと、クラリスを先頭に一行はセレフィーナが待つ部屋へと向かった。


やがて、セレフィーナが待つ部屋の前に着き侍女がノックをすると、扉が開いた。

部屋へ入ると、そこにはセレフィーナだけでなく、ヴァルディス・レインハルト辺境伯の姿もあった。

二人の前まで進むと、一行は足を止める。

するとヴァルディスとセレフィーナが立ち上がった。

ヴァルディスは穏やかな表情で一同を見渡す。


「まずは、そちらの話を聞く前に伝えたいことがある」


その言葉に全員が耳を傾けた。


「今回の件、本当に感謝している」


ヴァルディスは真っ直ぐな眼差しで続ける。


「皆がいなければ、セントポルはどうなっていたか分からない

 スタンピードを食い止め、市民を守り、戦いの後は負傷者の救護まで行ってくれた

 領主として心から礼を言う」


深く頭を下げるヴァルディスに、一同も慌てて頭を下げた。


「もちろん、その働きに見合う報奨も用意させてもらう

 特にエリスさんには感謝してもしきれない」


ヴァルディスはエリスへ視線を向けた。


「スタンピードの討伐だけではない

 本日、大聖堂前で起きた奇跡の話も聞いている」


エリスは少し気まずそうに視線を逸らした。


「その功績を称え、私はエリスさんをセントポルの栄誉市民として迎えたいと思っている

 さらに王都へも報告し、正式な褒賞を国へ進言させてもらうつもりだ」


その言葉にエリスは固まった。


「え……?」


しばらく理解が追い付かない。


「えええっ!?」


ようやく状況を理解したエリスが声を上げた。

セレフィーナが思わず口元を押さえる。

クラリスは小さくため息を吐きながら前へ出た。


「辺境伯様、そのようなお言葉をいただき光栄です

 娘には勿体ないほどのお話です」


ヴァルディスは笑みを浮かべる。


「いや、それだけの働きをしてくれた」


するとクラリスは続けた。


「それと報奨金についてですが、前回セレフィーナ様をお助けした際にも十分すぎるほどいただいております

 ですので、私達への報奨は不要です」


ヴァルディスが眉をひそめる。


「しかし、それでは領主として示しがつかない」


当然の反応だった。

功績に対して正当な報酬を与えるのも領主の務めである。

するとクラリスは静かに微笑んだ。


「でしたら、受け取った後に全額を復興費用として寄付させていただきます」


部屋の空気が一瞬止まった。

ガルドが苦笑する。

ミリアも「クラリスらしいわね」と肩をすくめた。

ヴァルディスはしばらく黙っていたが、やがて苦笑を浮かべる。


「……分かった

 そこまで言われては断れんな」


クラリスは丁寧に頭を下げた。

話が一区切りすると、ヴァルディスが姿勢を正した。


「さて、本題を聞こう」


クラリスも真剣な表情になる。


「はい」


そしてレオネリアとメルキオラを見た。


「まず、この二人についてお話しします」


ヴァルディスとセレフィーナの視線が向けられる。


「二人は今回のスタンピードで私達と共に戦い、多くの市民を救ってくれました

 負傷者の救助にも尽力しています」


ヴァルディスは頷いた。

それについては既に報告を受けている。

クラリスは続けた。


「ですが、この二人には一つ秘密があります」


部屋の空気が少し張り詰めた。


「レオネリアとメルキオラは魔族です」


ヴァルディスが目を見開く。

さすがに予想外だった。

しかしクラリスは言葉を止めない。


「そして、この二人がエリスに協力している理由にも関係します

 以前お話しした通り、エリスは境界の子です

 ですが、それだけではありません」


クラリスは一度エリスを見る。

エリスも静かに頷いた。


「エリスは転生者です」


「前世では魔族の女王――エルシアでした」


流石のヴァルディスも言葉を失った。


セレフィーナも驚きを隠せない。


クラリスは落ち着いた口調で続ける。


「エルシアは魔族と人族が争わずに共存できる世界を目指していました

 そしてレオネリアとメルキオラは、その頃から仕えていた側近です

 実は先ほどの戦いの最中、この街を監視していた魔族の斥候を発見しました

 その者に二人がエリスへ協力していることを知られてしまったのです

 既に魔族側には裏切りが伝わっているでしょう」


クラリスは頭を下げた。


「できれば、二人の滞在を認めていただけないでしょうか」


沈黙が流れる。

ヴァルディスは腕を組んだ。


魔族。

その言葉の重みは大きい。

簡単に決断できる話ではなかった。


その時だった。


「あなた」


セレフィーナが静かに口を開いた。


「私は今日、このお二人の活躍を見ています」


ヴァルディスが妻を見る。


「市民を守り、負傷者を助けていました

 少なくとも私には、人々を害する存在には見えませんでした」


そして優しく微笑む。


「それに――

 エリスさんが信頼しているのでしょう?

 ならば私も信じたいと思います」


ヴァルディスはしばらく考え込んだ。

やがて深く息を吐く。


「……そうだな」


レオネリアとメルキオラを見る。


「二人の滞在を認めよう」


レオネリアとメルキオラが目を見開く。

だがヴァルディスは続けた。


「ただし、市民には魔族であることは伏せてもらう

 無用な混乱は避けたい」


二人は同時に頭を下げた。


「ありがとうございます」


「感謝いたします」


ヴァルディスは頷く。


「歓迎しよう

 セントポルへ」


その言葉にエリスは大きく安堵した。


こうしてレオネリアとメルキオラは、正式にセントポルでの滞在を認められたのだった。


最後まで読んで頂きありがとうございます


今回はレオネリアとメルキオラの今後についてのお話でした。


二人は魔族でありながら、人々を守るために戦い、救助活動にも尽力しました。

その姿を見たヴァルディスとセレフィーナは、種族ではなく行動を見て判断する道を選びます。

これはエルシアが目指していた「人と魔族の共存」へ繋がる、小さくも大きな一歩なのかもしれません。


そしてエリスには、セントポル栄誉市民という思いもよらない話が持ち上がりました。


次回の更新は、6月29日18時を予定してます

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