決別の時 ―新たなる仲間―
セントポルを襲う未曾有の危機。
街を守るため、エリス達は最後のキメラとの戦いへ挑みます。
しかし、その敵はこれまでのキメラとは大きく異なる存在でした。
そして戦いの果てに、隠されていた真実が明かされることになります。
エリス達は合流すると、すぐに状況確認を行った。
「核の場所は分からないわ」
クラリスが言う。
「ただ、あの龍みたいな頭から炎を吐いてくるの」
「迂闊に近付けないわね」
エリスは頷く。
するとセラが前へ出た。
『ちょっと待って』
黄金色の瞳がキメラを見つめる。
『核を探してみる』
全員がセラを見る。
数秒後。
セラが不思議そうな顔をした。
『あれ?』
「どうしたの?」
『核は一つしかない』
その場にいた全員が驚く。
四重核でもない。
移動核でもない。
『しかも動いてないよ』
セラは首を傾げた。
『お腹の辺りにある』
その言葉を聞いた瞬間。
ミリア。
マリン。
メルキオラ。
三人が同時に魔法を放った。
「ホーリーランス!」
「フレイムランス!」
「アビススピア!」
三つの魔法がキメラの腹部へ直撃する。
轟音が響いた。
誰もが終わったと思った。
だが――
キメラは倒れない。
むしろ怒り狂ったように咆哮を上げる。
ゴォォォォォッ!!
三つの龍頭から炎が放たれた。
「っ!」
全員が回避する。
エリスは目を見開いた。
「どうして……?」
核は壊したはずだった。
今までなら終わっていた。
だがキメラは平然と動いている。
セラも困惑していた。
『おかしい……』
再び探知を行う。
『核がない』
壊れたから見つからない。
それなら説明はつく。
だがキメラが動いている説明にはならない。
『地面の下?』
セラはさらに探る。
だが見つからない。
『違う……
どこにもない……』
その言葉に重苦しい空気が流れる。
今までの常識が通じない。
キメラを倒す方法が分からない。
全員の表情が曇る。
その時だった。
セラが何かに気付いた。
『待って』
セラの顔から笑みが消える。
『もっと広く探してみる』
探知範囲を広げる。
キメラ。
周囲の建物。
避難中の市民。
騎士達。
全てを探る。
そして――
『あった』
セラが呟く。
エリスが振り向く。
「本当?」
だがセラの表情は暗かった。
『見つかったよ
でも……』
珍しく言い淀む。
その様子に全員が嫌な予感を覚えた。
クラリスが静かに尋ねる。
「どこなの?」
セラはしばらく黙り込む。
そして重たい口を開いた。
『核は……
あそこで避難誘導をしている騎士の中にある』
その瞬間。
その場にいた全員が言葉を失った。
核を壊せば騎士は助からないかもしれない。
その考えが全員の脳裏をよぎった。
だが、核を放置すればキメラは止まらない。
どうするべきか。
誰も決断できずにいた。
その時だった。
「私に任せて」
エリスが静かに言った。
全員が振り返る。
「エリス……?」
クラリスが不安そうに娘を見る。
だがエリスの表情に迷いはなかった。
「きっと助けられる」
そう言うとエリスは騎士の方へ向かって歩き出す。
そして振り返った。
「レオネリア
メルキオラ
私が終わるまでキメラをお願い」
二人は即座に頷いた。
「お任せください」
レオネリアは剣を構える。
「エルシア様が頼ってくださったのです
ここで役に立たずにどうするというのですか」
メルキオラも微笑む。
「当然です
時間くらい稼いでみせます」
そう言うとメルキオラは杖を掲げた。
「アビスバインド」
黒い鎖が地面から飛び出す。
キメラへ絡み付き、その動きを封じた。
完全に止めることはできない。
だが、その巨体の動きを大きく鈍らせるには十分だった。
レオネリアも飛び出す。
鋭い剣閃が走る。
龍の頭が切り落とされる。
だが、すぐに再生する。
それでもレオネリアは怯まない。
再生する度に切り落とす。
少しでも時間を稼ぐためだった。
⸻
その頃。
エリスは騎士の元へ辿り着いていた。
「少し話を聞いてください」
突然現れた少女に騎士は困惑する。
エリスは事情を説明した。
キメラの核が体内にあること。
それが原因でキメラが消えないこと。
だが騎士自身には全く心当たりがなかった。
「そんな……
私の中に……?」
騎士は青ざめる。
当然だった。
だがエリスは真っ直ぐ見つめる。
「信じてください
必ず助けます」
騎士はしばらく迷った。
だが、その視線は自然とセラへ向く。
白銀の聖獣。
教会の聖典に描かれた存在。
その聖獣がエリスの傍にいる。
それだけで十分だった。
騎士は静かに頷く。
「分かりました
お任せします」
エリスも頷いた。
そして騎士へ手を伸ばす。
目を閉じる。
感じ取る。
体内に埋め込まれた異物。
本来そこにあるはずのないもの。
エリスは静かに願った。
⸻
「元に戻って」
⸻
境界の子の力が発動する。
騎士の体内にあった核が淡い光に包まれた。
そして――
まるで最初から存在しなかったかのように消えていく。
いや。
消えたのではない。
本来あるべき状態へ戻ったのだ。
⸻
その瞬間だった。
アビスバインドによって拘束されていたキメラの身体が大きく震えた。
「!?」
レオネリアが剣を構え直す。
メルキオラも警戒する。
だが次の瞬間。
龍の頭が霧となって崩れ始めた。
「成功したのですね」
メルキオラが小さく呟く。
続いて胴体も崩壊を始める。
拘束していた黒い鎖の隙間から黒い霧が溢れ出した。
巨大な身体はみるみるうちに崩れていく。
やがて全身が黒い霧へと変わり――
完全に消滅した。
⸻
静寂が訪れる。
誰もがキメラのいた場所を見つめていた。
そして。
「終わった……」
誰かがそう呟いた。
長かった戦い。
スタンピード。
帝国兵の襲撃。
そして街中に現れたキメラ達。
その全てが、ようやく終わったのだ。
クラリスは大きく息を吐く。
ミリアも肩の力を抜いた。
ガルドはその場に座り込む。
マリンも安堵したように胸を撫で下ろしていた。
レオネリアとメルキオラもエリスの元へ戻ってくる。
「流石です、エルシア様」
「お見事でした」
二人は嬉しそうに微笑んだ。
エリスは少し照れながら笑う。
そして周囲を見渡した。
壊れた街。
疲れ切った騎士達。
避難していた市民達。
それでも――
皆、生きている。
その光景を見たエリスは、今度こそ本当に終わったのだと思うのだった。
その時だった。
メルキオラとセラが、ほぼ同時に何かの気配を察知した。
「……っ!」
少し遅れてエリスとレオネリアも異変に気付く。
次の瞬間――
メルキオラの姿が消えた。
転移魔法。
一瞬で気配の主の前へ現れる。
「見つけたわ」
メルキオラは冷たい声で言った。
「お前が操っていたのね」
同時に闇の鎖が地面から伸びる。
『アビスバインド』
気配の主を拘束した。
現れたのは――ノクスだった。
「……裏切り者め」
ノクスは低く吐き捨てる。
しかし次の瞬間、懐から一枚の呪符を取り出した。
「っ、まずい!」
メルキオラが声を上げる。
呪符が光り、ノクスの姿が歪む。
そして――消えた。
転移だった。
「逃げられた……」
メルキオラは悔しそうに拳を握る。
レオネリアも静かに目を伏せた。
ノクスに見られた以上、もう魔族領へ戻ることはできない。
だが――後悔はなかった。
二人はエリスの元へ戻り、事情を説明する。
するとそこへ、クラリス達も駆け付けてきた。
クラリスはレオネリアとメルキオラを見つめながら言う。
「さっきから見ていたけれど……あなた達、エリスと知り合いみたいね」
その問いに、エリスは少しだけ考えた。
隠そうと思えば隠せる。
だが、これから先を考えれば、いずれ話さなければならない。
エリスは決意したように口を開いた。
「みんなに話しておきたいことがあるの」
全員の視線が集まる。
「この二人は――私の前世の頃の知り合いなの」
「前世?」
ミリアが目を瞬かせる。
エリスはゆっくり頷いた。
「私が魔族の女王だった頃の側近」
その場が静まり返った。
「レオネリアとメルキオラ」
エリスは二人を紹介する。
「今は人間の姿をしているけど……二人とも魔族だよ」
ガルドが目を見開いた。
「魔族だと……?」
クラリスも表情を引き締める。
母として、元騎士として当然の反応だった。
しかしエリスは真っ直ぐ二人を見た。
「でも、この二人は敵じゃない
今日も私達と一緒に街を守ってくれた
それに、何度も助けてもらった」
しばらく沈黙が続く。
やがてクラリスがレオネリア達を見る。
「一つだけ聞かせて」
レオネリアは頷く。
「何でしょう」
「あなた達は、エリスの味方なの?」
迷いのない声が返ってきた。
「当然です」
レオネリアは即答した。
「私達はエルシア様――いえ、エリスをお守りするためにここにいます」
メルキオラも小さく笑う。
「今さら敵になるつもりなんてないわ」
その言葉を聞いたクラリスは静かに息を吐いた。
そして剣から手を離す。
「そう
なら、私はエリスを信じるわ」
ルシアンも肩をすくめる。
「街を守るために命を懸けて戦った相手を、今さら疑うつもりはない」
カイルも短く頷いた。
「同感だ」
こうしてレオネリアとメルキオラは、正式にエリス達の仲間として受け入れられることになった。
お読みいただきありがとうございます。
ついにセントポルでの戦いが決着を迎えました。
今回のキメラはこれまでとは異なり、核が人の体内に存在するという特殊な個体でした。力だけでは解決できない状況の中で、エリスだからこそ選べた方法を描きたいと思い、この展開になりました。
また、ノクスに発見されたことで、レオネリアとメルキオラは魔族側へ戻れなくなりました。
しかし二人に後悔はありません。
そして今回、二人は正式にエリス達の仲間として迎え入れられることになります。
前世から続く絆と、今世で築かれた新たな絆。
それらが一つになり、「新たなる星座」はさらに大きな力を得ました。
セントポルでの戦いは終わりましたが、物語はまだ始まったばかりです。
これからもエリス達の旅を見守っていただければ幸いです。
最後まで読んで頂きありがとうございます
次回の更新は、6月25日18時を予定してます




