最後の脅威 ―領主城に現れし龍のキメラ―
スタンピードを乗り越えたと思った矢先、セントポルの街中に現れた複数のキメラ。
エリス達は二手に分かれ、市民を守るため各地で戦いを続けます。
しかし、それは終わりではありませんでした。
街を襲う最後の脅威が、静かに牙を剥こうとしていたのです。
それでは本編をお楽しみください。
市街地へ散ったセントポル騎士達と帝国兵達は、市民の避難誘導に追われていた。
幸いにも出現しているのはキメラのみ。
他の魔物は確認されていない。
そのため騎士達と帝国兵達は、避難誘導へ戦力を集中できていた。
⸻
一方――
クラリス達は大通りのキメラを討伐した後、市場へ到着していた。
だが、そこにいたキメラは先程の三首のキメラとは様子が違っていた。
巨大な樹木のような身体。
無数の枝がうねり、まるで生きた森そのもののような姿をしている。
その姿はトレントによく似ていた。
「植物系かしら」
クラリスが呟く。
ミリアも頷いた。
「なら火が有効そうね」
マリンも杖を構える。
「任せて!」
二人は同時に魔法陣を展開した。
「「ファイヤーストーム!」」
巨大な炎の嵐が発生する。
灼熱の炎はキメラを包み込み、その巨体を焼き尽くした。
市場に熱風が吹き荒れる。
そして――
キメラの身体は崩れ落ちた。
「やった!」
マリンが声を上げる。
だが次の瞬間だった。
焼け落ちたはずの身体が蠢く。
枝が伸びる。
幹が再生する。
そして数秒後には元の姿へ戻っていた。
「なっ……!?」
ガルドが目を見開く。
「再生しただと!?」
クラリスも表情を険しくする。
「核を壊していないのかしら……」
ミリアも困惑したように言った。
「でも核らしきものは見当たらないわよ?」
その時だった。
マリンが何かを思い出したように声を上げた。
「待って!」
全員がマリンを見る。
「前にエリスと戦ったキメラに似てる!」
クラリスが振り向く。
「似ている?」
マリンは大きく頷いた。
「あの時も核が見つからなくて再生したの!
でも実は核が地面の下に隠れてたんだよ!」
その言葉にミリアが目を見開く。
「なるほど……!」
すぐに杖を構えた。
「だったら掘り返せばいいのね!」
魔法陣が展開される。
「アースブレイク!」
大地が激しく揺れた。
市場の石畳がめくれ上がる。
しかし核は見えない。
「まだ足りないわね」
ミリアはさらに魔力を込める。
「なら、もっと広く!」
再び巨大な魔法陣が展開された。
轟音と共に市場の一角が丸ごと掘り返される。
すると――
土の中から黒く濁った魔石が姿を現した。
「あった!」
マリンが叫ぶ。
その瞬間。
クラリスの姿が消えた。
瞬足。
次の瞬間には核の目の前にいた。
「これで終わりよ!」
鋭い剣閃が走る。
パリン――
核が砕け散った。
それと同時にトレント型キメラの身体が崩れ始める。
今度は再生しない。
巨大な身体は黒い霧へと変わり、やがて完全に消滅した。
市場に静寂が戻る。
クラリスは剣を鞘へ収める。
「これで市場は安全ね」
ミリアも安堵の息を吐いた。
「マリンのおかげね」
「えへへ」
マリンは少し照れくさそうに笑った。
その様子を少し離れた場所から見ていた馬車の御者台の騎士が、思わず呟く。
「流石は白銀の剣姫……」
そして、その隣でマリン達を見る。
「それに仲間達も見事だ」
騎士の声には純粋な敬意が込められていた。
キメラを倒したクラリス達は周囲を見回した。
市場は無事だ。
避難も順調に進んでいる。
「次はどこかしら」
クラリスが呟く。
その時だった。
領主城の方向が騒がしいことに気付く。
何かが起きている。
すると、一人の騎士が全力で駆け込んできた。
「白銀の剣姫殿!」
息を切らしながら叫ぶ。
「領主城付近に巨大なキメラが出現しました!」
その言葉に全員の表情が引き締まる。
クラリスはすぐに判断した。
「向かうわよ」
全員が頷く。
馬車へ飛び乗る。
そしてクラリスは御者台の騎士へ声を掛けた。
「領主城へ向かってください!」
「はっ!」
馬車は勢いよく走り出した。
⸻
一方――
エリス達は大聖堂前のキメラを倒すと、すぐにセラの背へ飛び乗った。
『次は噴水広場だね』
セラは地面を蹴る。
白銀の身体が風のように駆け出した。
その姿を見送る神官達。
誰もが目を見開いていた。
「聖獣……」
一人の神官が呟く。
「そして、あの少女は……」
聖獣と共に現れた少女。
街を救うために戦う姿。
神官達の脳裏に浮かぶ存在は一つだった。
「聖女様……」
誰かがそう呟いた。
その言葉は周囲へ広がっていく。
⸻
セラは驚異的な速度で街を駆け抜けた。
そして、あっという間に噴水広場へ到着する。
周辺では騎士達が住民の避難誘導を行っていた。
彼らは一瞬だけ目を見開く。
聖獣を間近で見るのは初めてだった。
だがすぐに気を取り直す。
今はそれどころではない。
噴水広場には新たなキメラがいた。
先程までの個体とは明らかに違う。
異様な身体。
そして不気味な魔力。
セラはすぐに探知を始めた。
『あれ?』
珍しく困惑した声を出す。
エリスが振り返る。
「どうしたの?」
『核が動いてる』
その言葉に全員の表情が変わった。
『しかも一つじゃない
二つある』
以前戦った移動核キメラ。
だが今回はさらに厄介だった。
移動する核が二つ存在している。
『場所を伝えるよ』
セラは探知した情報をエリス達へ共有する。
するとメルキオラが前へ出た。
「でしたら私が動きを止めます」
杖を掲げる。
巨大な魔法陣が展開された。
「アビスバインド」
無数の黒い鎖が飛び出す。
キメラへ絡みつく。
完全ではない。
だが動きを大きく鈍らせるには十分だった。
「今です!」
メルキオラが叫ぶ。
エリスとレオネリアが同時に飛び出す。
『右へ移動!』
セラの声が響く。
エリスは瞬時に進路を変える。
『今度は左!』
レオネリアも迷いなく反応する。
移動する核を追い続ける。
だが以前とは違った。
セラの探知。
レオネリアの探知。
そして移動核との戦闘経験があるエリス。
三つが揃った今、キメラに逃げ場はない。
「そこ!」
エリスの剣が最初の核を捉える。
パリン――
一つ目の核が砕け散った。
ほぼ同時。
レオネリアの剣閃が走る。
「はっ!」
二つ目の核も破壊される。
パリンッ!
二つの核を失ったキメラは大きく身体を震わせた。
そして黒い霧へと変わり始める。
やがて完全に消滅した。
「これで噴水広場も終わりね」
エリスが息を吐く。
だが、まだ終わってはいない。
次の戦場が彼女達を待っていた。
エリス達は噴水広場のキメラを討伐した後、周囲を見回した。
「次はどこかな?」
エリスが辺りを見渡す。
その時だった。
領主城の方向が騒がしいことに気付く。
土煙が上がっている。
さらに金属がぶつかるような音も聞こえてきた。
『あっちだね』
セラが耳を動かす。
すると、一人の騎士が全力で駆け込んできた。
「エリス殿!」
息を切らしながら叫ぶ。
「領主城付近に新たなキメラが出現しました!」
エリス達の表情が引き締まる。
「分かった!」
エリスはすぐにセラへ飛び乗った。
レオネリアとメルキオラも続く。
『掴まってて!』
次の瞬間。
セラは風のような速さで駆け出した。
目指すは領主城。
最後の戦場だった。
⸻
一方――
領主城前。
クラリス達は既に現場へ到着していた。
馬車を少し離れた場所へ止める。
全員が飛び降りた。
そして目の前の光景に息を呑む。
そこにいたのは巨大なキメラだった。
三つの頭。
巨大な身体。
一見すると先程のキメラと似ている。
だが決定的に違う点があった。
「……龍?」
マリンが思わず呟く。
三つの頭は獅子でも狼でもない。
伝説に語られる龍に酷似していた。
その異様な姿に全員が警戒を強める。
「今までのキメラと同じなら、核が複数ある可能性が高いわね」
クラリスが剣を構える。
だが問題があった。
この場には核を探知できる者がいない。
今までの傾向から推測して戦うしかない。
その時だった。
三つの龍頭が同時に口を開く。
ゴォォォォォッ!!
灼熱の炎が放たれた。
「来るわ!」
ミリアが即座に杖を振る。
「アースウォール!」
巨大な土壁が出現する。
炎が激突した。
轟音が響く。
だが土壁の表面はみるみる赤く焼けていく。
並の炎ではない。
龍の吐息を思わせる圧倒的な火力だった。
「これは……!」
ガルドが顔をしかめる。
「迂闊に近付けねぇな」
クラリスも眉をひそめた。
攻撃の隙が少ない。
しかも核の位置も分からない。
攻めあぐねていた、その時だった。
遠くから白銀の影が駆けてくる。
「来た!」
マリンが声を上げる。
次の瞬間。
セラが領主城前へ飛び込んできた。
その背にはエリス達の姿がある。
「お待たせ!」
エリスが飛び降りる。
クラリスは小さく笑った。
「ちょうど良いところに来たわね」
これで戦力は揃った。
そして何より――
核を見つけられるセラが来た。
最後のキメラとの決戦が始まろうとしていた。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
今回はクラリス達とエリス達、それぞれの戦場を描きました。
市場ではマリンが以前の経験を思い出し、地下に隠された核を見抜きました。
少しずつですが、旅を通して成長している様子が伝われば嬉しいです。
一方のエリス達は、これまでより厄介な移動核を持つキメラと戦うことになりました。
セラ、レオネリア、メルキオラとの連携も、かなり形になってきています。
そして最後に現れた龍の姿を持つキメラ。
これまでのキメラとは明らかに違う存在です。
果たしてエリス達は、この最後の敵を打ち倒すことができるのでしょうか。
次回はいよいよセントポル防衛戦の大詰めです。
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次回の更新は、6月24日18時を予定してます




