聖獣降臨 ―セントポル奪還戦―
スタンピードを乗り越えたと思った矢先、セントポルの街中に複数のキメラが出現しました。
休む暇もなく始まる新たな戦い。
街を守るため、エリス達は二手に分かれて迎撃へ向かいます。
そして人々の前に、ついにあの存在が姿を現します。
それでは本編をお楽しみください。
セントポル騎士の報告を受け、その場に衝撃が走った。
ようやく戦いが終わったと思った矢先だった。
今度は街の内部に複数のキメラが出現したという。
誰もが表情を険しくする。
特にミリアとマリンは厳しい状況だった。
二人ともスタンピードとの戦いで大量の魔力を消耗している。
このままでは十分に戦えない。
その時だった。
「こちらをどうぞ」
セレフィーナが小瓶を差し出した。
中には淡く青白い液体が入っている。
「エーテル……!」
ミリアが目を見開いた。
高級回復薬。
魔力を大きく回復させる貴重品だ。
マリンも驚いていた。
「こんな高価なもの……」
受け取るのを躊躇う二人。
しかしセレフィーナは優しく微笑む。
「セントポルのために戦っていただいているのです
ラインハルト辺境伯家として当然のことですわ」
二人は顔を見合わせる。
そして頭を下げた。
「ありがとうございます」
エーテルを飲み干す。
すると失われていた魔力が一気に戻ってくる。
「すごい……」
マリンが驚く。
ミリアも感心したように息を吐いた。
「さすがね」
一方、エリスはレオネリア達へ向き直った。
「レオネリア
メルキオラ
力を貸してほしいの」
だが二人は即答した。
「最初からそのつもりです」
「エルシア様のお力になります」
エリスは頷く。
そして腕輪へ視線を向けた。
「セラ」
『任せて』
白い光が溢れる。
巨大な白銀の狼が姿を現した。
レオネリアとメルキオラは目を見開く。
「聖獣……!
なるほど……」
メルキオラが感嘆する。
「女神に選ばれたという話は本当だったのですね」
レオネリアも僅かに微笑んだ。
「流石です、エルシア様」
その頃、ルシアンは既に地図を広げていた。
「キメラが複数出現している以上、核も複数ある可能性が高い」
全員が頷く。
「戦力を二つに分ける」
ルシアンは素早く指示を出した。
第一隊。
クラリス。
ガルド。
ミリア。
マリン。
第二隊。
エリス。
セラ。
レオネリア。
メルキオラ。
「それぞれ別のキメラを担当してくれ
俺とカイルは騎士団と連携しながら避難誘導を行う」
ガルドが頷く。
「了解だ」
すると、その時だった。
帝国兵達が前へ出る。
代表の兵士が頭を下げた。
「お願いがあります」
ヴァルディスが見る。
「何だ?」
兵士は真っ直ぐ答えた。
「俺達にも避難誘導を手伝わせてください
街を襲った責任は消えません
ですが、せめて今は人々を守りたい」
周囲が静まり返る。
ヴァルディスはしばらく兵士達を見つめた。
そして静かに頷く。
「分かった
頼む」
帝国兵達は深く頭を下げる。
こうしてセントポルを守るため、人間も魔族も関係なく、それぞれが持ち場へ向かっていくのだった。
⸻
エリスはルシアンへ向き直った。
「セラがいるから、私達は遠くまで移動できるよ」
『任せて!』
セラが自信満々に胸を張る。
エリスは続けた。
「レオネリアとメルキオラもいるし、私達が遠くのキメラを担当した方がいいと思う」
ルシアンは地図を見ながら頷いた。
「そうだな」
そして地図の一点を指差す。
「なら、お前達は大聖堂だ」
さらに別の場所へ指を動かす。
「その後は噴水広場へ向かってくれ」
「分かった」
エリスが頷く。
するとセラが身体を低くした。
エリス。
レオネリア。
メルキオラ。
三人がその背に飛び乗る。
『しっかり掴まっててね』
次の瞬間。
セラは地面を蹴った。
白銀の身体が一気に加速する。
まるで風のような速さで街の中を駆け抜けていった。
⸻
それを見送ったルシアンはクラリス達へ向き直る。
「クラリス達は大通りだ
その後、市場へ向かってくれ」
クラリスが頷く。
その時だった。
セレフィーナが前へ出る。
「でしたら、この馬車を使ってください」
差し出されたのは辺境伯家の豪華な馬車だった。
クラリスは少し困ったような顔をする。
「流石にそれは……」
だがセレフィーナは首を横に振った。
「一刻を争う状況です
少しでも早く現場へ着いていただきたいのです」
その言葉にクラリスは苦笑した。
「分かりました
お借りします」
全員が馬車へ乗り込む。
馬車はすぐに大通りへ向けて走り出した。
⸻
移動中。
クラリスは仲間達へ作戦を説明する。
「報告通り三つ首のキメラなら、今まで戦ってきたものと同じ可能性が高いわ」
ミリアも頷く。
「普通の魔物ではないでしょうね」
「ええ」
クラリスは真剣な表情になる。
「魔族が作ったキメラだと考えた方がいいわ」
これまで戦ったキメラ達。
そして体内から見つかった黒い魔石。
あれらと同じなら、核が一つとは限らない。
「だから四重核を想定して動きましょう」
三人が頷く。
クラリスは順番に指示を出した。
「左の頭はミリア
右の頭はマリン
中央の頭はガルド
腹部の核は私が担当するわ」
ガルドが腕を組む。
「つまり俺に合わせろってことか」
クラリスは小さく笑った。
「そういうことね」
するとガルドが肩をすくめる。
「足が遅くて悪かったな」
その言葉に馬車の中で小さな笑いが起きる。
張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
⸻
やがて馬車は大通りへ到着した。
そこには報告通り巨大な三首のキメラがいた。
周囲には破壊された建物。
逃げ惑う市民達。
キメラは咆哮を上げながら暴れ回っていた。
「行くわよ!」
クラリスが馬車から飛び降りる。
ガルドも続く。
二人は一直線にキメラへ向かって駆け出した。
後方ではミリアとマリンが魔法を展開する。
「ホーリーランス!」
「フレイムランス!」
光と炎の槍がキメラへ突き刺さる。
キメラが怒りの咆哮を上げた。
その隙にクラリスとガルドは懐へ飛び込む。
鋭い爪が振り下ろされる。
だがクラリスは紙一重で回避し、ガルドは盾で受け止めた。
「今よ!」
クラリスの声が響く。
その瞬間。
全員が同時に動いた。
ミリアの魔法が左の頭部を貫く。
マリンの炎が右の頭部を撃ち抜く。
ガルドの大剣が中央の頭部へ叩き込まれる。
そして――
クラリスの剣が腹部を深々と貫いた。
パリンッ!
四つの核が同時に砕け散る。
次の瞬間。
キメラの身体は黒い霧となって崩れ始めた。
やがて完全に霧散する。
「まず一体ね」
クラリスは剣を軽く振って構え直す。
周囲の市民達から安堵の声が上がった。
だが、まだ終わりではない。
「次は市場よ」
クラリスの言葉に全員が頷く。
セントポルを守る戦いは、まだ続いているのだから。
⸻
一方――
エリス達はセラの背に乗り、大聖堂へ向かっていた。
『もうすぐだよ』
セラが速度を緩める。
大聖堂が見えてきた。
その時だった。
避難していた市民達から悲鳴が上がる。
「ま、また魔物だ!」
「こっちへ来るぞ!」
だが、その直後。
大聖堂の神官の一人が空を見上げて目を見開いた。
「あれは……!」
神官は震える声で叫ぶ。
「聖獣フェンリル……!」
周囲の神官達も空を見上げた。
白銀の毛並み。
神々しい姿。
教会の聖典に描かれている聖獣そのものだった。
「本当に存在したのか……」
「聖獣様だ!」
「助けに来てくださったんだ!」
避難していた市民達から歓声が上がる。
その声を聞きながら、セラは大聖堂前へ降り立った。
エリス達も背中から飛び降りる。
するとセラがキメラを見つめながら言った。
『核は四つだよ』
やはり――
エリスは予想が当たったことを確信する。
『場所も前と同じ』
「分かった」
エリスはすぐに頷いた。
そして仲間達へ視線を向ける。
「レオネリアは右の頭
メルキオラは左の頭
セラは中央の頭をお願い
私はお腹の核を壊す」
三人は迷いなく頷いた。
「御意」
「承知しました」
『任せて!』
だが、キメラもただ待っているわけではなかった。
三つの頭が同時に咆哮を上げる。
次の瞬間。
中央の獅子の口から灼熱の炎が吐き出された。
「来る!」
エリス達は素早く左右へ飛ぶ。
炎は大地を焼きながら通り過ぎていった。
続けて右の頭が口を開く。
黒紫色の毒液が飛び散る。
石畳が溶け、白煙が上がった。
『当たったら面倒だね』
セラが呟く。
さらに左の頭も風の刃を放つ。
キメラは今までの個体より明らかに凶悪だった。
だが――
エリス達は怯まない。
「今よ!」
エリスの声が響く。
全員が同時に動いた。
レオネリアが右の頭へ飛び込む。
鋭い剣閃。
メルキオラは魔法で左の頭を撃ち抜く。
セラは中央の獅子へ一直線に突進した。
そしてエリスは地面を蹴る。
狙うのは腹部。
隠された最後の核。
次の瞬間――
四つの攻撃が同時に命中した。
パリンッ!
核が砕ける音が重なる。
キメラは悲鳴を上げる暇すらなかった。
巨体は黒い霧へと変わり、その場で崩れ始める。
やがて完全に霧散した。
「倒した……」
避難していた市民達から歓声が上がる。
だがエリスは気を緩めなかった。
「次に行こう」
まだ噴水広場にもキメラがいる。
エリス達は再びセラの背へ飛び乗り、次の戦場へ向かうのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
今回はセントポル防衛戦の第二幕となりました。
スタンピードの次はキメラの同時襲撃という、まさに休む暇のない展開です。
また、今回はセラが本格的に人前へ姿を現しました。
これまでエリス達しか知らなかった聖獣ですが、大聖堂の神官や市民達から見れば、まさに伝承の存在そのものだったと思います。
一方で、クラリス達も長年培ってきた連携でキメラを撃破しました。
ベテラン組と若い世代、それぞれの強さが見える回になったのではないでしょうか。
ですが、まだキメラは残っています。
セントポルを巡る戦いは、いよいよ佳境へと突入します。
次回もお付き合いいただければ嬉しいです。
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次回の更新は、6月23日18時を予定してます




