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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第五章:迫り来る影 ー 魔族の策謀と水都の試練 ー

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終わりなき戦火  ―消えた脅威、新たなる災厄―

スタンピードとの戦いも佳境を迎えたセントポル。


エリス達の奮闘により戦況は少しずつ好転し始めます。

しかし、その裏では誰も気付いていない異変が進行していました。

そして、その先に待つものとは――。


それでは本編をどうぞ。

エリスが門を破壊した、その頃――


クラリス達は依然として魔物との戦いを続けていた。

次から次へと押し寄せる魔物。


倒しても終わりが見えない戦いに、流石の騎士達にも疲労の色が見え始めていた。

クラリスも剣を振るい続ける。


一体。

また一体。


迫り来る魔物を斬り伏せていく。

だが、その時だった。


「……?」


クラリスは違和感を覚えた。

魔物の数が減っている。


先程まで途切れることなく押し寄せていた魔物達が、明らかに減り始めていた。


そして――


最後の一体が倒れる。

それ以上、魔物は現れなかった。

周囲を見渡しても、新たな魔物の姿はない。


クラリスはゆっくり息を吐いた。


「終わった……のかしら」


そう呟くと、剣を腰の鞘へ収めた。

周囲の騎士達からも安堵の声が上がる。



⸻


一方――


ミリアとマリンは城壁付近の防衛を続けていた。


「フレイムバースト!」


マリンの炎が魔物達を飲み込む。

その直後。


「ホーリーレイン!」


ミリアの魔法が降り注ぎ、魔物の群れを吹き飛ばした。

だが、それでも数が多い。

二人ともかなり魔力を消耗していた。


「はぁ……はぁ……

 流石にきつくなってきたわね」


ミリアが苦笑する。

マリンも肩で息をしていた。


「もう何回撃ったか分からないよ……」


このままでは魔力が尽きる。

そう思った、その時だった。

目の前の魔物達が急激に減り始めた。


そして、やがて一匹もいなくなる。


「え……?」


マリンが呆然と呟く。

ミリアも周囲を見渡した。

魔物がいない。


本当に終わったのだ。

緊張の糸が切れた瞬間、二人はその場にしゃがみ込んだ。


「助かったぁ……」


「本当にギリギリだったわね」


二人は顔を見合わせ、小さく笑った。


⸻


その頃、ルシアンは戦場全体を見渡していた。

魔物の出現が止まったことを確認すると、即座に指示を飛ばす。


「負傷者の確認を急げ!

 重傷者を優先して運べ!

 城壁の損傷も確認しろ!」


騎士達が一斉に動き出す。

戦いは終わった。

だが後始末はまだ始まったばかりだった。


⸻


やがて、クラリス達は城壁付近へ集まった。


ルシアン。

カイル。

ガルド。

ミリア。

マリン。


そしてクラリス。


全員が無事だった。


だが――


「エリスは?」


クラリスが周囲を見渡す。

姿が見えない。


「まだ戻ってないな」


ルシアンも辺りを見る。


「最後に見たのは魔物の群れの奥だった」


ガルドが腕を組む。


「何か見つけたんじゃねぇか?」


ミリアは少し心配そうだった。


「大丈夫かしら……」


マリンも不安そうに遠くを見る。


⸻


その頃――


エリスはレオネリアとメルキオラが作った魔縛結界の前にいた。

結界の中には大勢の兵士達がいた。


二十人。

三十人。


いや、それ以上だ。


皆、先程まで操られていた者達だった。

レオネリアが最後の一人を結界へ押し込む。


「エルシア様、これで最後です」


メルキオラも頷く。


「確認した限りでは全員です」


エリスは目を見開いた。

これほどの人数を短時間で集めるとは。


「二人とも凄い……」


レオネリアは静かに首を振る。


「エルシア様のお役に立てるなら当然です」


メルキオラも微笑んだ。


「ではお願いします」


エリスは結界の中を見る。

大勢の兵士達。

全員の頭の中に異物がある。

一人ずつでは間に合わない。


なら――


まとめてやるしかない。

エリスは深く息を吸った。

そして両手を前へ伸ばす。


兵士達ではない。

その中にある異物だけをイメージする。


本来存在してはいけないもの。

あるべき状態へ戻す。

そう強く念じた。


「消えて」


次の瞬間――

結界の中に白い光が広がった。


パリン。

パリン。

パリン。


無数の何かが砕ける感覚。

そして兵士達の身体が一斉に揺れる。


「うっ……!」


「ぐあっ!」


皆が頭を押さえ、その場に膝をついた。

しばらくして、一人が顔を上げる。


「ここは……?」


続いて二人。

三人。


次々と正気を取り戻していく。


成功した。

エリスは安堵の息を吐いた。


⸻


それからしばらくして。

エリスはセラ、レオネリア、メルキオラと共に城壁へ戻ってきた。

遠くからその姿を見つけたマリンが声を上げる。


「エリスだ!」


クラリス達も振り向く。

そこには無事なエリスの姿があった。


だが――


その後ろには見知らぬ二人の女性がいる。

クラリス達は顔を見合わせた。


「……あの二人は?」


ルシアンが静かに呟く。

そしてエリス達は、城壁で待つ仲間達の元へ向かうのだった。


⸻


エリス達が城壁へ戻ってくると、その場にいた全員の視線が集まった。

無事なエリスの姿を見て、クラリス達は安堵する。


だが、その後ろにいる二人の女性を見て首を傾げた。

誰だろうか。

見覚えがない。


それ以上に皆の目を引いたのは、その後方から続いてくる兵士達だった。


かなりの人数がいる。


しかも――

その鎧はセントポルの騎士達のものではない。

ルシアンが眉をひそめる。


「帝国兵か?」


ガルドも腕を組む。


「見たことのない紋章じゃねぇな」


その騒ぎを聞きつけたのか、ヴァルディスとセレフィーナも駆けつけてきた。

ヴァルディスは兵士達を見るなり表情を険しくする。


「帝国兵……だと?」


周囲の騎士達にも緊張が走る。

しかしエリスはすぐに説明を始めた。

操られていた兵士達のこと。

頭の中に魔族が仕込んだ魔道具があったこと。

魔物達と共にセントポルを襲撃させられていたこと。

そして、自分の力でその魔道具を破壊し、正気を取り戻したことを。


話を聞いた全員が驚いていた。

特にヴァルディスは腕を組みながら深く考え込む。

やがて口を開いた。


「なるほど……」


しばらく沈黙する。

そして決断した。


「彼らは保護しよう」


その言葉に兵士達は驚く。

帝国兵である自分達が処刑されてもおかしくないと思っていたからだ。


「事情が事情だ」


ヴァルディスは静かに言う。


「今は敵としてではなく、被害者として扱うべきだろう」


セレフィーナも頷いた。


「ええ。それが良いと思います」


兵士達の表情に安堵が浮かぶ。

ヴァルディスは近くの騎士へ指示を出した。


「彼らを保護施設へ案内しろ」


「はっ!」


騎士達が動き始める。

そして兵士達が移動を始めた時だった。

ヴァルディスの視線が、エリスの後ろに立つ二人の女性へ向く。


「ところで……

 そちらのお二人は?」


その言葉にクラリス達も改めて二人を見る。

確かに説明を聞いていなかった。

エリスは一瞬言葉に詰まる。

レオネリアとメルキオラも静かに立っていた。


どう説明するべきか――

そう考えた、その瞬間だった。


ドォォォォォン!!


凄まじい爆発音が街中から響き渡る。

地面が揺れた。


全員が反射的に音のした方向を見る。

街の中心部。

黒煙が空へ立ち上っていた。


「なっ……!?」


セレフィーナが目を見開く。


「街の中だと!?」


騎士達も騒然となる。

スタンピードは終わったはずだった。


なのに――

まだ何かが起きている。


ヴァルディスは即座に表情を引き締めた。


「状況を確認しろ!」


「急げ!」


騎士達が一斉に走り出す。

エリスも黒煙を見つめる。

胸騒ぎがした。

スタンピードは終わった。


だが――

本当の戦いは、まだ終わっていなかった。


⸻


その頃――

セントポル中心街。

突如として大地が激しく揺れた。


次の瞬間。

轟音と共に石畳が砕け散る。


「きゃああああっ!」


「な、何だ!?」


悲鳴が響く。


人々が振り返った先――

そこには巨大な魔物が立っていた。


三つの頭を持つ異形の魔物。

キメラだった。


だが、それだけではなかった。

別の場所でも地面が崩れる。


さらに別の場所でも。

商業区。

噴水広場。

大通り。


街の各地で地面が割れ、その中から次々とキメラが姿を現した。


「魔物だ!」


「逃げろ!」


「キメラだぁぁぁ!」


街中は一瞬でパニックに陥る。

逃げ惑う市民。

泣き叫ぶ子供。

転倒する老人。

誰もが必死だった。


しかし、スタンピード対応のため兵士の大半は城壁へ配置されている。

市中にはほとんど兵士が残っていなかった。


避難誘導を行う者も足りない。

統率の取れた避難などできる状況ではなかった。

キメラ達は咆哮を上げながら建物を破壊し始める。


石造りの壁が砕ける。

店が崩れる。

人々の悲鳴がさらに大きくなった。


そんな中――

中心街にある大聖堂では鐘が鳴り響いていた。


「こちらへ!」


「急いでください!」


神官達が市民達を誘導している。

大聖堂は門を全て開放し、逃げ遅れた市民を受け入れていた。

次々と人々が駆け込んでいく。

だが、それにも限界があった。

街全体から見れば避難できる人数はごく一部。

まだ多くの市民が街中に取り残されていた。


⸻


一方、その報告を受けた騎士が城壁へ全速力で戻っていた。


「辺境伯様!」


騎士は息を切らしながら叫ぶ。

ヴァルディスが振り返った。


「報告しろ!」


騎士は唾を飲み込む。


「街の各所で地盤崩落が発生しました!」


その場にいた全員の表情が険しくなる。

騎士はさらに続けた。


「崩落した地面の中から大型の魔物が出現しています!」


「大型だと?」


ルシアンが眉をひそめる。

騎士は震える声で答えた。


「確認できているだけで五体!

 全てキメラです!」


その言葉に、その場にいた誰もが言葉を失った。

ようやくスタンピードを乗り越えたと思った矢先だった。


しかも出現した場所は城壁の外ではない。

市民が大勢いる街の内部。

全員の脳裏によぎる。


これは偶然ではない。

最初から仕組まれていたのだと。

重苦しい空気がその場を包み込んだ。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


今回はスタンピードの終結、操られていた帝国兵達の救出、そしてセントポルを襲う新たな危機までを描きました。


特に今回から、境界の子の力が「消す力」だけではなく、「本来あるべき状態へ戻す力」でもあることがより分かりやすくなってきたのではないかと思います。


また、ようやくレオネリアとメルキオラも本格的に物語へ関わり始めました。


しかし、安心する暇もなく街の内部に現れた複数のキメラ。

スタンピードは本当に前座だったのかもしれません。


次回はいよいよセントポル編の大きな山場に突入します。

引き続き応援していただけると嬉しいです。


次回の更新は、6月22日18時を予定してます

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