表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第五章:迫り来る影 ー 魔族の策謀と水都の試練 ー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
68/74

聖獣、天空を駆ける ―スタンピードの真実―

セントポルでの目的を果たしたエリス達。

人気店ドルチアで一息つく一行でしたが、女神達の警告は確実に近付いていました。

そしてついに、セントポルを揺るがす大事件が動き始めます。


それでは本編をどうぞ。

エリスはしばらく黙り込んでいた。

やがて意を決したように顔を上げる。


「みんな、驚かないで聞いてほしいの」


突然の言葉に、クラリス達は不思議そうな顔をした。


「実は私、今まで話していなかったことがあるの」


エリスはそう言いながら、自分の腕にはめられた腕輪へ視線を落とした。


「この腕輪なんだけど……」


そして、女神セレネから託されたこと。

聖獣が宿っていること。

その聖獣が今も腕輪の中にいることを説明した。

話を聞いたセレフィーナとミリアは驚いていた。

だが、エリスは続ける。


「セラ、出てきてくれる?」


『やっと僕の出番だね』


楽しそうな声が響いた。

次の瞬間。

白い光が馬車の中に溢れる。


そして現れたのは――

白銀の毛並みを持つ狼だった。

馬車の中ということもあり、大きさは普通の狼ほどしかない。

しかし、その神々しい雰囲気は隠しようがなかった。


「まさか……」


ミリアが目を見開く。


「聖獣……!?」


セレフィーナも驚きを隠せない。

大聖堂の伝承や教会の書物でしか見たことがない存在が、目の前にいるのだから当然だった。

一方でクラリスは小さく息を吐く。


「なるほど……」


どこか納得したような表情だった。


「最近のエリスは何かを隠している気がしていたけれど、これだったのね」


エリスは苦笑する。


「ごめんなさい

 話すタイミングがなくて……」


「気にしなくていいわ」


クラリスは優しく微笑んだ。


するとセラが胸を張る。


『ちなみに今は小さくなってるだけだからね

 本来はもっと大きいんだ』


エリスも頷いた。


「大きな魔物くらいの大きさにはなれるの」


セレフィーナ達は改めてセラを見る。


聖獣。


それだけでも十分驚きなのに、さらに巨大化もできるらしい。


セラは窓の外へ視線を向けた。


『上空の魔物は僕がやるよ』


その声は先程までの無邪気なものではない。


聖獣としての威厳を感じさせるものだった。


エリスは頷く。


「セレフィーナ様

 騎士団にもセラのことを伝えてもらえますか?

 味方だと分からないと混乱すると思うので」


セレフィーナはすぐに頷いた。


「分かったわ

 直ちに伝令を出しましょう」


その返事を聞くと、セラは満足そうに笑った。


『じゃあ、行ってくる!』


次の瞬間。

馬車の扉が開く。

セラは外へ飛び出した。


そして――

眩い光に包まれる。


その身体はみるみる大きくなり、やがて巨大な白銀の狼へと姿を変えた。

街中にいた人々が思わず足を止める。


「なんだ……?」


「白い狼……?」


「いや、あれは……」


誰かが息を呑んだ。

その姿はあまりにも神々しかった。

白銀の毛並み。

巨大な身体。

神聖な光を纏う姿。

人々の脳裏には、大聖堂のステンドグラスに描かれていた存在が浮かぶ。


「聖獣様だ……」


誰かが呟いた。

その言葉は瞬く間に広がっていく。

セラはそんな声を背に受けながら、大きく跳躍した。

空を駆けるように飛び上がり、そのまま鳥型の魔物達へ向かっていく。

セントポルの空に、白銀の聖獣が舞い上がったのだった。


セラは空を駆けながら、次々と鳥型の魔物へ襲い掛かった。


鋭い爪。

圧倒的な身体能力。


そして聖獣としての力。


鳥型の魔物達は為す術もなく撃ち落とされていく。

その姿を見た街の人々から歓声が上がった。


一方――


エリス達を乗せた馬車は城壁へ到着していた。

馬車を降りたエリス達は、その光景に息を呑む。


城壁の向こう側

そこには無数の魔物が押し寄せていた。


ゴブリン。

オーク。

ウルフ系の魔物。


さらに空には鳥型の魔物達。

視界の果てまで魔物の群れが続いている。


「こんな数……」


マリンが思わず呟く。

クラリスの表情も険しくなった。

だが動揺している暇はない。


「ミリア」


「ええ」


長年共に戦った相棒同士。

言葉は少なくても通じる。

クラリスは城壁の一角を指差した。


「あそこなら広範囲を巻き込めるわ

 まずは数を減らしましょう」


ミリアは頷いた。


「任せて」


続いてマリンを見る。


「マリン」


「はい!」


「ミリアの補助をお願い

 あなたの火魔法も十分戦力になるわ」


マリンは力強く頷く。


「分かった!」


そして最後にエリスを見る。


「エリス」


「うん」


「あなたは騎士団の援護に回りなさい」


クラリスは前線を見つめた。

既に何ヵ所か押され始めている。


「苦戦している場所を優先して助けてあげて」


「分かった」


エリスも頷いた。

その時だった。


「間に合ったな」


聞き慣れた声が響く。


振り向くと、ルシアン達が走って来るところだった。


「ルシアン!」


「ルシアンさん!」


カイルとガルドも一緒だ。

どうやら警鐘を聞いて急いで駆け付けたらしい。

ルシアンは城壁の状況を一目見て理解した。


「かなりの規模だな」


クラリスは小さく頷く。


「ルシアン

 指揮をお願いできる?」


「もちろんだ」


即答だった。

こういう状況で最も適任なのはルシアンである。


元Sランク冒険者。

そして幾度となく死線を潜り抜けてきた策士。


ルシアンはすぐに状況確認を始める。

カイルも高所へ向かい、射撃位置を確保した。

ガルドは騎士達のいる前線へ向かう。


準備は整った。


クラリスは腰の剣へ手を掛ける。

久しぶりの大規模戦闘。

だが不思議と不安はなかった。


「それじゃあ行ってくるわ」


そう言い残し、クラリスも前線へ駆け出した。


その姿を見たセレフィーナは頷く。


そして近くにいた騎士へ命じた。


「全軍に伝えなさい!」


騎士が振り返る。


「白銀の剣姫が共に戦っていると!」


その言葉は瞬く間に城壁全体へ伝わった。


ざわめきが広がる。


「白銀の剣姫だって!?」


「本物か!?」


「伝説の……!」


疲弊していた騎士達の目に光が戻る。

王国最強の剣士の一人。

その存在だけで士気が上がっていた。


セレフィーナは小さく頷く。

これで少しは持ち直せるはずだった。


そしてエリスも前線へ向かう。


押されている騎士達を助けながら戦っていた、その時――


ふと違和感を覚えた。


「……?」


エリスは足を止める。

魔物の群れを見る。


何かがおかしい。


魔物達の気配に混じって――

人の気配があった。


それも一人や二人ではない。


「なんで……?」


エリスの表情が険しくなる。

魔物の群れの中に人間がいる。


その事実は、このスタンピードがただの自然発生ではない可能性を示していた。


その時だった。


『エリス!』


聞き慣れた声が頭の中に響く。


空を見上げると、セラがこちらへ戻って来るところだった。

どうやら上空の鳥型の魔物をある程度片付けてきたらしい。

セラはエリスの隣へ降り立つと、真剣な表情を浮かべた。


『あの人達、様子がおかしい』


「え?」


エリスは眉をひそめる。


『魔物の中にいる人間達だよ

 頭の中に妙なものがある』


「妙なもの?」


『うん』


セラは魔物の群れの向こうを見る。


『魔術で作られた何かだと思う

 僕も詳しくは分からないけど、普通じゃない』


エリスは先程感じた違和感を思い出す。

やはり気のせいではなかった。

魔物達の中にいる人間。

しかも、その様子は明らかに異常だ。


「あの人達のところまで行けば分かるかもしれない」


『その方が早いね』


エリスは頷いた。


そして次の瞬間――


地面を蹴った。

一気に魔物の群れへ突っ込んでいく。


行く手を阻むゴブリン。

オーク。

ウルフ型の魔物。


だが今のエリスを止められる者はいなかった。


剣が閃く。

魔物が倒れる。


さらにセラも横を駆け抜ける。

巨大な爪が魔物達を吹き飛ばしていく。

二人はまるで一本の槍のように魔物の群れを切り裂いていった。


そして――


ついに目的の人物へ辿り着く。

鎧を身に纏った戦士だった。


しかし、その様子は明らかにおかしい。


目に光がない。

表情も乏しい。

まるで操り人形のようだった。


「これは……」


エリスが思わず息を呑む。


『やっぱりだ』


セラが唸る。


『後頭部の辺りにある

 魔術で作られた何かの痕跡だ』


エリスは意識を集中させる。

すると確かに感じた。

人の気配とは別の異質なもの。


その戦士の中に、本来存在してはいけない何かが入り込んでいる。


(これ……)


その瞬間、エリスの脳裏に一つの光景が浮かぶ。

瀕死だったカイル。

全身を傷だらけにし、命の灯火が消えかけていたあの日。

あの時、自分は傷を治したわけではない。


ただ――


「治って」


そう願った。


すると傷は消え、血は失われる前の状態へと戻った。

まるで時間を巻き戻したかのように。

まるで本来あるべき姿へ戻したかのように。


(そうだ……)


(私の力は治癒じゃない)


(本来あるべき状態へ戻す力……)


エリスは目の前の戦士を見る。

その人の中には、本来存在してはいけない異物が入り込んでいる。


ならば――


それを消せばいい。

エリスは戦士へ手を伸ばした。


そして意識を集中する。

消すのは人ではない。

この人を縛っている異物だけ。

そう強く念じる。


「……消えろ」


静かな声だった。


次の瞬間。

戦士の中にあった異質な気配が揺らぐ。


パリン――


まるで何かが砕けるような感覚が走った。

そして、その異物は跡形もなく消え去った。

戦士の身体が大きく揺れる。


「うっ……!」


頭を押さえ、その場に膝をつく。

しばらく苦しそうに呼吸を乱していたが、やがてゆっくりと顔を上げた。

その瞳には先程までなかった光が戻っている。


「ここは……?」


戦士は周囲を見回す。


「俺は……何を……」


明らかに正気を取り戻していた。

エリスとセラは顔を見合わせる。

成功した。


「やっぱり……」


エリスは小さく呟く。


カイルを助けた時と同じだった。

ただ今回は傷ではない。

人の中に入り込んだ、本来存在してはいけない異物を消したのだ。

それは境界の子の力が、人を操る術に対しても有効であることを意味していた。


だが同時に、エリスは確信する。

このスタンピードは自然発生ではない。

魔物の群れに人間を紛れ込ませ、その人間達を操っている存在がいる。

エリスは険しい表情で魔物の群れの奥を見つめた。

まだ、この騒動の黒幕は姿を現していないのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます!


今回はセントポル編の大きな山場となるスタンピードがついに始まりました。


ドルチアでの穏やかな時間から一転、一気に戦闘パートへ突入です。


そして、これまで一部の仲間しか知らなかった聖獣セラも本格的に参戦しました。

セントポルの人々から見れば、まさに伝承に語られる聖獣そのものだったかもしれません。


また、エリスは戦場で不自然な人間達の存在に気付きます。

境界の子の力によって正気を取り戻した戦士。

その出来事は、今回のスタンピードが単なる魔物の暴走ではないことを示していました。


果たして誰が人々を操っているのか。

そして、このスタンピードの真の目的とは何なのか。


次回はさらに戦いが激化していきます。


引き続き応援していただけると嬉しいです。

感想や評価、ブックマークなども大変励みになります!


次回の更新は、6月18日18時を予定してます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://ncode.syosetu.com/n5658ly/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ