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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第五章:迫り来る影 ー 魔族の策謀と水都の試練 ー

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鳴り響く警鐘 ―スタンピードの影―

教会で無事に紹介状を受け取ったエリス達。


セレフィーナに案内され、セントポルで一番人気のカフェテリア「ドルチア」を訪れることになります。


束の間の休息を楽しむ一行でしたが、その平穏は長くは続きませんでした。


それでは本編をどうぞ。


エリス達は、セレフィーナを先頭にドルチアの中へ入っていった。

店内は多くの客で賑わっていたが、店員達はセレフィーナの姿を見ると慣れた様子で頭を下げる。


「セレフィーナ様、お待ちしておりました」


店員に案内され、一行は一般客席ではなく奥へと進んでいった。

やがて案内されたのは、貴族専用と思われる個室だった。

部屋へ入った瞬間、エリスとマリンは思わず足を止める。


「わぁ……」


「すごい……」


上品な装飾が施された壁。

大きな窓から差し込む柔らかな光。

高級そうな椅子や調度品。

カフェというより貴族の応接室のような空間だった。

その様子を見たセレフィーナが微笑む。


「驚いたかしら?」


「はい……」


エリスが正直に答える。

するとセレフィーナは楽しそうに笑った。


「実は私、このお店がとても気に入っているの

 そのせいで時々お忍びで来るようになってしまってね」


そう言いながら部屋を見渡す。


「だから特別に、この部屋を作ってもらったのよ」


「えっ?」


エリスとマリンが同時に声を上げる。


「もちろん費用は辺境伯家持ちだけれどね」


セレフィーナは悪びれもせず言った。

エリスとマリンは顔を見合わせる。

確かに辺境伯夫人ともなれば、気軽に一般席へ座るわけにはいかないだろう。

お忍びとは言っても、安全面や周囲への配慮を考えれば専用の部屋が必要になるのも納得だった。


やがて全員が席に着く。


部屋の中央には大きな円卓が置かれていた。

かなりの人数が座れるようになっており、今日のように大人数で来ても余裕がある。


すると店員が人数分のメニューを運んできた。


「ごゆっくりどうぞ」


店員が下がると、エリスとマリンは早速メニューを開く。


しかし――


「えっと……」


「なにこれ……」


二人は固まった。


書かれている名前のほとんどが初めて聞くものばかりだった。


ガトー・ドゥ・ルミエール。

ミルフィーユ・フロランタン。

パルフェ・ドゥ・リュンヌ。


名前を見ても何が出てくるのか全く想像できない。


そんな中――


「あっ!」


エリスがある名前を見つけた。


「ガトー・オ・フリュイだ!」


マリンも身を乗り出す。


「本当だ!」


リンデンのカフェで食べたショートケーキ。

二人にとっては思い出の味だった。


「これなら分かるね」


「うん!」


だが、それ以外はほとんど分からない。

二人はメニューと睨めっこを始める。

そんな様子を見ていたセレフィーナは微笑んだ。


「迷っているみたいね」


「はい……」


「どれも美味しそうなんですけど、名前だけじゃ分からなくて……」


マリンが困ったように言う。

するとセレフィーナは慣れた様子でメニューを開いた。


「それなら私のおすすめを教えてあげるわ」


そう言うと、いくつかの品を指差していく。


「まずはこちら。ドルチア名物のフルーツパフェ

 それから、このチーズケーキも人気ね

 甘いものが好きなら、こちらの焼き菓子もおすすめよ」


次々と紹介される料理に、エリスとマリンの目はどんどん輝いていく。


「全部美味しそう……」


「むしろ余計に迷う……」


その言葉に、セレフィーナは楽しそうに笑うのだった。


「それと――」


セレフィーナは少し得意げな笑みを浮かべた。


「私の一番のおすすめはモンブランよ」


「モンブラン?」


エリスとマリンが同時に聞き返す。

聞いたことのない名前だった。

セレフィーナは頷く。


「栗を使ったケーキなの

 栗の風味がとても良くて、甘さも程よく抑えられているわ

 甘いだけじゃない、大人っぽい味わいなのよ」


その説明を聞くだけで美味しそうだった。

エリスとマリンは顔を見合わせる。


「じゃあ、それにしようか」


「うん!」


二人はすぐに決めた。

クラリスとミリアは相談した結果、チーズケーキを注文する。

そしてセレフィーナは当然のようにモンブランを注文した。

注文を終えると、しばらく雑談をしながら待つ。


やがて店員達が戻ってきた。


「お待たせいたしました」


次々とテーブルへ運ばれてくるケーキ。

エリス達の前には、モンブランが置かれた。


「わぁ……」


エリスが思わず声を漏らす。

モンブランは柔らかな茶色をしていた。

細く絞られた栗のクリームが山のように重ねられている。


店員が説明を続ける。


「土台にはメレンゲを焼いて固めたものを使用しております

 中には生クリームも入っておりますので、お楽しみください」


店員が下がると、エリスとマリンは目を輝かせながらケーキを見つめた。

まるで宝物でも見るかのようだった。


「……」


「……」


その様子を見ていたクラリスとミリアは顔を見合わせる。


「本当に好きね」


ミリアが苦笑する。


「子供の頃から変わらないわね」


クラリスも呆れたように笑った。

そんな母親達の言葉など耳に入っていない。

エリスとマリンは早速フォークを手に取った。


一口。

口へ運ぶ。


その瞬間――

二人の表情が固まった。


「おいしい……」


エリスが思わず呟く。

栗の豊かな香り。

滑らかなクリーム。

そしてメレンゲの軽やかな食感。

さらに僅かに感じる芳醇な香り。


「これ……ラム酒?」


マリンが驚いたように言う。

セレフィーナが満足そうに頷いた。


「ええ

 少しだけ使っているのよ」


それが栗の風味をより引き立てていた。

甘さは控えめ。

だが濃厚で奥深い。

まさに大人の味わいだった。


「すごい……」


「こんなケーキ初めて……」


エリスとマリンは夢中になって食べ進める。

クラリス達もそれぞれのケーキを楽しんでいた。


穏やかな時間。

誰もが笑顔だった。


だが――

その時だった。


ゴォォォォォォン!!


突然、重く響く鐘の音が街中へ鳴り響いた。

ドルチアの店内が一瞬で静まり返る。


二度。

三度。


警鐘は止まらない。

客達の顔色が変わる。


セレフィーナも表情を引き締めた。


「この音は……」


ヴァルディスの城で聞いたものと同じだった。

緊急事態を知らせる警鐘。


エリス達も立ち上がる。

すると次の瞬間。


外から慌ただしい声が聞こえてきた。


「魔物だ!」


「スタンピードだ!!」


その言葉に、エリス達の表情が一変したのだった。


「スタンピードですって……?」


セレフィーナの表情から笑みが消えた。

辺境伯夫人として、その言葉の重みを誰よりも理解している。

外では警鐘が鳴り続けていた。

ドルチアの店内も騒然となっている。

セレフィーナはすぐにクラリスへ向き直った。


「クラリス」


その声は真剣だった。


「どうか、白銀の剣姫の力を貸していただけませんか」


クラリスは一瞬だけ考える。

そしてエリス、マリン、ミリアを見る。

誰も反対する様子はない。

むしろ全員が既に戦う覚悟を決めていた。

クラリスは静かに頷いた。


「分かりました

 私達も協力します」


その言葉にセレフィーナは安堵したように息を吐く。


「ありがとうございます」


だが次の瞬間には辺境伯夫人としての表情へ戻った。


「では、城壁へ向かいます」


全員が席を立つ。

店の外へ出ると、護衛騎士達も既に集まっていた。

セレフィーナは即座に指示を飛ばす。


「城壁付近に住む住民の避難誘導をお願いします

 特に子供と高齢者を優先してください」


「はっ!」


騎士の一人が敬礼する。


「直ちに向かいます!」


騎士は馬に飛び乗ると、そのまま街中へ駆け出していった。

他の騎士達もそれぞれの任務へ散っていく。

セレフィーナ達は急いで馬車へ乗り込んだ。


「急ぎましょう」


御者が頷き、馬車が勢いよく走り出す。

窓の外では住民達が避難を始めていた。

兵士達も武器を手に城壁へ向かっている。

街全体が慌ただしく動き始めていた。


その時だった。


『エリス』


頭の中にセラの声が響く。


『上を見て』


エリスは窓から空を見上げた。

そして息を呑む。

遠くの空に無数の黒い影が見えた。

最初は小さな点にしか見えなかった。

だが確かに羽ばたいている。


『鳥型の魔物だよ』


セラが言う。


『しかも結構な数いる』


エリスの表情が険しくなった。


(本当にスタンピードなんだ……)


『この規模だと人手が足りない』


セラは続ける。


『僕も出るよ』


エリスは小さく頷いた。

確かにセラの力は必要だ。

特に飛行型の魔物がいるなら尚更だった。

だが問題が一つある。


マリンは既に知っている。

しかしクラリス達にはまだ話していない。

エリスは周囲を見る。


クラリス。

ミリア。

そしてセレフィーナ。


(今しかないよね……)


エリスは決意すると口を開いた。


「みんなに話したいことがあるの」


突然の言葉に三人の視線が集まる。


「どうしたの?」


ミリアが尋ねる。

エリスは腕にはめた腕輪を見つめた。


「実は、この腕輪なんだけど……」


そう言いながら腕輪に手を添える。


『やっと出番だね』


セラの楽しそうな声が聞こえた。

そしてエリスは、これまで一部の人にしか話していなかった秘密を打ち明けることにしたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


今回はドルチアでの甘いひととき……のはずだったのですが、ついにセントポル編の大きな事件が動き始めました。


レオネリアの警告。

女神達の忠告。

そして鳴り響く警鐘。


ここまで積み重ねてきた不穏な空気が、ようやく表に出てきた形になります。


次回はスタンピードとの戦い、そしてエリスが隠していた聖獣セラの存在が明かされる予定です。


白銀の剣姫クラリス達と聖獣セラがどのように戦うのか、楽しみにしていただければ幸いです。


よろしければ感想や評価をいただけると励みになります!


次回の更新は、6月17日18時を予定してます

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