教皇への道 ―受け継がれた紹介状―
セントポルで一夜を過ごしたエリス達。
今日は教皇への紹介状を受け取るため、大聖堂へ向かいます。
果たして無事に紹介状を受け取ることができるのか。
そしてその後は、少しだけセントポル観光です。
それでは本編をどうぞ。
エリス達を乗せた馬車は、セントポルの中心街を進んでいた。
窓の外には活気ある街並みが広がっている。
石畳の大通り。
水路に架かる美しい橋。
道行く人々や露店。
どこを見ても新鮮で、エリスとマリンは窓に張り付くように外を眺めていた。
「あっ!」
突然マリンが声を上げる。
「見て見て! あのお店!」
指差した先には、色とりどりのお菓子が並ぶ店があった。
ショーケースには美しく飾り付けられたケーキや焼き菓子が並んでいる。
「すごい……」
エリスも思わず目を輝かせる。
「後で絶対行こうね!」
「うん!」
二人はすっかり観光気分だった。
その様子を見ていたミリアは苦笑する。
「教会が終わってからね?」
「分かってるよ!」
そう答えたものの、二人の視線は再び窓の外へ向かっていた。
セレフィーナもそんな様子を楽しそうに見守っている。
やがて馬車は街の中心部へ近付いていく。
そして――
巨大な建物が姿を現した。
「わぁ……」
エリスが思わず声を漏らす。
それはセントポル大聖堂だった。
白い石で造られた壮麗な建物。
高く伸びる尖塔。
神聖な空気を纏ったその姿は、遠くから見ても圧倒的な存在感を放っている。
馬車が正面へ到着すると、一行は順番に降りた。
近くで見ると、その大きさはさらに際立っていた。
「大きい……」
マリンも呆然と見上げる。
リンドルやリンデンの教会とは比べ物にならない。
まさに大都市の大聖堂だった。
クラリス達は正面の大扉をくぐる。
そして中へ足を踏み入れた瞬間――
エリス達は言葉を失った。
高く広がる天井。
巨大な柱。
色鮮やかなステンドグラス。
そこから差し込む光が床を照らし、まるで別世界のような光景を作り出している。
正面には女神セレネを模した巨大なステンドグラスがあり、その両脇には神聖な獣を描いた装飾が輝いていた。
静寂に包まれた空間には、自然と背筋が伸びるような神聖さがある。
「すごい……」
エリスは小さく呟く。
マリンも目を丸くしたまま周囲を見回していた。
その時だった。
一人の神父がこちらへ歩いてくる。
神父はセレフィーナの姿を見ると、すぐに恭しく頭を下げた。
「これはセレフィーナ様」
「お久しぶりです」
セレフィーナも笑顔で挨拶を返す。
「お久しぶりですね」
簡単な挨拶を交わした後、神父は尋ねた。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
するとセレフィーナは、クラリス達へ視線を向けた。
「今日は私ではなく、こちらの方々がご用なのです」
神父の視線がミリアへ向く。
ミリアは一歩前へ出た。
「教皇猊下からの紹介状の件で参りました」
その言葉を聞いた神父はすぐに頷いた。
「はい。お話は伺っております」
どうやら既に連絡は届いていたらしい。
「こちらへどうぞ」
神父は一行を案内する。
大聖堂の奥へ進み、関係者以外立ち入り禁止と思われる通路を抜けていく。
やがて、一つの扉の前で立ち止まった。
「こちらの応接室で少々お待ちください」
神父が扉を開く。
そこには来客用と思われる立派な応接室が用意されていた。
クラリス達は礼を言いながら中へ入る。
応接室へ案内された一行は、それぞれ席に腰を下ろした。
部屋は大聖堂らしく落ち着いた造りになっており、窓から差し込む光が柔らかな雰囲気を作り出している。
エリス達がお茶をいただきながら待っていると――
コンコン。
扉がノックされた。
「失礼いたします」
静かな声と共に扉が開く。
入ってきたのは、白髪混じりの老紳士だった。
年齢は六十代後半ほど。
神官服を身に纏い、その立ち居振る舞いからは長年教会を支えてきた人物特有の落ち着きと威厳が感じられる。
その姿を見たセレフィーナが立ち上がった。
「お久しぶりです、アウグスト大司教」
老紳士は穏やかに微笑む。
「これはセレフィーナ様」
軽く頭を下げると、一行へ視線を向けた。
「お会いできて光栄です」
そして柔らかな口調で自己紹介をする。
「私はアウグスト・エルバイン。このセントポル大聖堂を預かる大司教です」
その言葉に、クラリス達も立ち上がって挨拶をした。
するとミリアが代表して前へ出る。
「お忙しい中、お時間をいただきありがとうございます」
アウグストは優しく頷いた。
「事情はある程度伺っております」
「まずはお話を聞かせていただけますか」
ミリアは頷き、今回の経緯を説明し始めた
リンドルで起きた出来事。
冒険者ギルドでの適性検査。
古文書に記された境界の子の伝承。
そして――
エリスの存在。
「彼女が、その境界の子です」
ミリアがそう言うと、全員の視線がエリスへ集まる。
アウグストは静かにエリスを見つめた。
その瞳は人を見るというより、その本質を見極めようとしているようだった。
だが、しばらく見つめた後――
アウグストは小さく頷いた。
「なるほど……」
どこか納得したような表情だった。
「確かに、伝承に記されている特徴と一致しています」
エリスは少し緊張しながら姿勢を正す。
するとアウグストは穏やかな口調のまま語り始めた。
「境界の子とは、人と魔の均衡が大きく崩れた時に現れる存在です
歴代の境界の子は、その力によって世界の均衡を取り戻してきました」
エリスは黙って話を聞く。
アウグストは続けた。
「ですが、その方法は常に一つでした」
部屋の空気が少し重くなる。
「均衡を崩した側を排除すること
それが歴代の境界の子が選んだ道です」
エリスは静かに頷いた。
アテナから聞いていた話と一致している。
するとアウグストは真っ直ぐエリスを見る。
「あなたは、どのような道を選ぶのですか?」
その問いに、部屋は静まり返った。
クラリスもミリアも何も言わない。
これはエリス自身が答えるべき問いだからだ。
エリスは迷わなかった。
「私は――」
真っ直ぐアウグストを見返す。
「今までの境界の子とは違う道を選びます」
その言葉に、アウグストの目が僅かに見開かれた。
「ほう……」
「人と魔族が共に生きられる道を探します」
エリスの声に迷いはない。
「争いを終わらせたいんです」
部屋に沈黙が落ちる。
アウグストはしばらく何も言わなかった。
やがて静かに口を開く。
「それは歴代の誰も成し遂げられなかった道です
理想だけでは辿り着けません」
その声には重みがあった。
「それでも、その覚悟はありますか?」
普通の少女なら怯えてしまうかもしれない。
だがエリスは首を横に振った。
「あります」
即答だった。
そして優しく微笑む。
「確かに私一人じゃ無理です」
その言葉にクラリス達が反応する。
「でも――」
エリスは仲間達を見る。
「私は一人じゃありません」
マリン。
クラリス。
ミリア。
ルシアン。
カイル。
ガルド。
そしてセラ。
多くの仲間達の顔が浮かぶ。
「みんなと一緒なら、きっとやり遂げられると思っています」
その言葉を聞き、アウグストは静かに目を閉じた。
そして数秒後――
穏やかな笑みを浮かべる。
「なるほど」
その表情はどこか嬉しそうだった。
「歴代の境界の子にはなかった答えですね」
そう言うと、懐から一通の封書を取り出した。
教会の紋章と封印が施された特別な紹介状だった。
アウグストはそれを両手で持ち、エリスへ差し出す。
「あなたには教皇猊下とお会いする資格があります
この紹介状をお持ちなさい」
エリスは立ち上がり、
アウグスト大司教から紹介状を受け取ると、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます」
アウグストは優しく頷く。
「願わくば――」
その瞳には期待が宿っていた。
「あなたが、新しい歴史を切り開いてくださることを祈っています。」
エリスはもう一度頭を下げた。
クラリス達も礼を述べると、一行は応接室を後にする。
大聖堂の廊下を歩きながら、ミリアがほっとしたように息を吐いた。
「これで一安心ね」
「ええ」
クラリスも頷く。
「これで王都へ向かう準備は整ったわ」
セントポルへ来た目的。
教皇への紹介状。
それは無事に果たされた。
あとは王都へ向かうだけだ。
そんなことを考えていると――
「じゃあ!」
突然マリンが元気よく声を上げた。
「観光に行こう!」
エリスもすぐに賛成する。
「私も行きたい!」
二人とも既に街中で見かけた店のことが気になって仕方なかった。
だが、そこでマリンがふと足を止める。
「あ……」
「どうしたの?」
エリスが首を傾げる。
「今、私達ってセレフィーナ様の馬車で来てるんだよね?」
その言葉にエリスも固まった。
確かにその通りだった。
勝手に観光へ行く訳にもいかない。
「一旦お城へ戻ってからにしようか」
エリスがそう言うと、マリンも渋々頷く。
しかし――
「その必要はないわ」
聞き慣れた声が後ろから聞こえた。
振り返ると、セレフィーナが優雅に微笑んでいる。
「せっかくですもの」
どこか楽しそうな表情だった。
「皆さんを是非お連れしたい場所があるの」
「連れて行きたい場所ですか?」
クラリスが尋ねる。
「ええ」
セレフィーナは意味深に笑う。
「行けば分かるわ」
そう言うと、有無を言わせぬ勢いで馬車へ向かって歩き始めた。
クラリスは額に手を当てる。
「相変わらずね……」
その呟きにミリアが苦笑した。
「昔からこうだったものね」
結局、一行は再び馬車へ乗り込むことになる。
馬車は街中を進み、大通りを抜けていく。
そしてしばらくすると、一軒の建物の前で止まった。
「着いたわ」
セレフィーナが満足そうに言う。
エリス達は馬車から降りる。
目の前にあったのは、洒落た外観の大きな店だった。
白い壁に青い看板。
店の前には多くの客が並んでいる。
人気店であることは一目で分かった。
看板にはこう書かれている。
『ドルチア』
マリンが目を輝かせる。
「ドルチア?」
「聞いたことある!」
するとセレフィーナが誇らしげに言った。
「セントポルで一番有名なカフェテリアよ」
その瞬間。
エリスとマリンの目がさらに輝く。
「えっ!?」
「街で一番!?」
二人は店の窓から見えるスイーツに釘付けになった。
色鮮やかなケーキ。
美しく盛り付けられたパフェ。
甘い香りが外まで漂っている。
「行きたい……」
「絶対行きたい……」
二人の反応にセレフィーナは満足そうに頷いた。
「ふふっ
だから連れて来たのよ」
そう言って店の入口へ向かう。
すると並んでいた客達がざわつき始めた。
どうやらセレフィーナの姿に気付いたらしい。
店員も慌てて飛び出してくる。
「セ、セレフィーナ様!」
セレフィーナは微笑みながら答えた。
「予約していた席は空いているかしら?」
その言葉を聞いた瞬間、エリスとマリンは顔を見合わせた。
どうやら普通の観光では終わらないらしい。
二人は期待に胸を膨らませながら、セレフィーナの後について店へ入っていくのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
今回はセントポル大聖堂で紹介状を受け取り、ようやく王都へ向かうための準備が整いました。
アウグスト大司教との会話では、エリスが目指す「これまでの境界の子とは違う道」について改めて語られることになりました。
簡単な道ではありませんが、エリスらしい答えだったのではないかと思います。
そして後半は少し息抜き回。
セレフィーナに振り回されながらも、セントポル一番の人気店「ドルチア」へ向かうことになりました。
ですが、レオネリアからの警告や女神達の言葉もあり、平和な時間がいつまで続くのか……。
次回はドルチアでのひとときと、セントポルでの日常回になる予定です。
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次回の更新は、6月16日18時を予定してます




