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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第五章:迫り来る影 ー 魔族の策謀と水都の試練 ー

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辺境伯夫人とお出かけ ― 豪華な馬車に揺られて ―

セントポルでの滞在を満喫するエリス達。


そんな中、辺境伯夫人セレフィーナから思いがけない誘いを受けることになります。

豪華な馬車に揺られながら巡る水都の景色。


束の間の穏やかな時間を、どうぞお楽しみください。

夜が明け――


セントポルで迎える最初の朝。

大きな窓から差し込む朝日が、客室を優しく照らしていた。

エリスはゆっくりと目を開けた。

見慣れない豪華な天井が視界に入り、一瞬だけ自分がどこにいるのか分からなくなる。


だが、すぐに思い出した。


(そうだ……セントポルのお城だった)


身体を起こして辺りを見渡す。

クラリスとミリアは既に起きていて、窓際のソファに座り、お茶を飲んでいた。


「おはよう、エリス」


クラリスが微笑む。


「おはよう」


ミリアも柔らかく声を掛けた。


「おはようございます、お母さん、ミリアさん」


エリスも挨拶を返す。

ふと隣を見ると、マリンはまだ布団の中だった。

だが、エリスが起きた気配に気付いたのか、もぞもぞと動き始める。


「んぅ……おはよ……」


まだ眠そうな声だった。


「おはよう、マリン」


ミリアが苦笑する。


「昨日、あれだけはしゃいでいたものね」


「だって……ご飯、美味しかったんだもん……」


マリンは布団の中で小さく呟いた。

その言葉に、クラリスとミリアは顔を見合わせて笑った。

四人は身支度を整えると、今日の予定について話し始めた。


「まずは教会ね」


ミリアが口を開く。


「教皇猊下への紹介状の件を確認しないと」


「そうね」


クラリスも頷いた。


「王都へ向かうなら、先に済ませておいた方がいいわ」


エリスとマリンも頷く。


「私達も一緒に行くよ」


「うん。特に予定もないしね」


するとマリンが、急に身を乗り出した。


「でも、用事が終わったら観光したい!」


「私も!」


エリスもすぐに同意する。

昨日は城へ来て、そのまま会談や夕食になってしまった。


せっかくの大都市なのだ。

街を見て回りたい気持ちは強かった。


その様子を見て、クラリスは苦笑する。


「観光が本命じゃないでしょうね?」


「ち、違うよ?」


エリスが慌てて答える。

だが、あまり説得力はなかった。


ミリアも楽しそうに笑う。


「まあ、いいじゃない。私達も急ぎの予定があるわけじゃないし」


クラリスも微笑んだ。


「そうね。用事が済んだら、みんなで街を見て回りましょうか」


「やった!」


「楽しみ!」


エリスとマリンは顔を見合わせて喜んだ。

そんな話をしていた、その時だった。


コンコン――


部屋の扉を叩く音が響く。

四人は同時に扉へ視線を向けた。


「こんな朝から……?」


マリンが首を傾げる。

クラリスが静かに立ち上がった。


「私が出るわ」


そう言って扉へ向かい、静かに扉を開いた。

クラリスが扉を開けると、そこには侍女が立っていた。


「おはようございます」


侍女は丁寧に一礼する。


「朝食の準備が整いましたので、ご案内いたします」


「分かりました」


クラリスが頷く。

四人は身支度を整えると、侍女の案内で部屋を後にした。

城の廊下を歩き、昨日の夕食会が開かれた食事の間へ向かう。

部屋へ入ると、既にヴァルディスとセレフィーナが席についていた。


「おはようございます」


クラリス達は挨拶をする。


「おはよう」


セレフィーナが笑顔で迎える。


「昨夜はよく眠れたかしら?」


「ええ、おかげさまで」


クラリスが答える。


「それは良かったわ」


そう話していると、程なくしてルシアン達も姿を現した。


「おはようございます」


ルシアンが挨拶し、カイルとガルドも続く。

全員が席に着くと、朝食が運ばれてきた。

エリスとマリンは目を丸くする。


テーブルには焼きたてのパン、スープ、卵料理、肉料理、果物などが並び、朝食とは思えないほど豪華だった。


「すごい……」


エリスが思わず呟く。


「朝からこんなに食べるの?」


マリンも驚きを隠せない。

セレフィーナは楽しそうに笑った。


「遠慮しなくていいのよ」


「いただきます」


そうして朝食が始まった。

どの料理も美味しく、エリスとマリンは自然と笑顔になっていた。

食事も一段落した頃。

セレフィーナがクラリスへ視線を向ける。


「ところで、今日は何か予定があるのかしら?」


クラリスは軽く頷いた。


「教会へ行く予定です」


「教会?」


「教皇猊下への紹介状の件を確認しなければなりませんので」


その説明を聞くと、セレフィーナは即座に言った。


「それなら私も一緒に行くわ」


「え?」


クラリスが思わず聞き返す。


「セレフィーナ様がですか?」


「ええ」


まるで当然のような返事だった。

クラリスは少し困った顔になる。


「いえ、それは流石に……」


だが、セレフィーナは引かない。


「どうせ私も街へ出る予定だったの

 それに、久しぶりにあなたと話したいもの」


さらに畳み掛けるように続ける。


「紹介状の件も気になるし、ちょうどいいでしょう?」


クラリスは助けを求めるようにミリアを見る。

しかしミリアは面白そうに笑っているだけだった。

ルシアンも肩を竦める。

カイルに至っては完全に他人事だった。

クラリスは小さくため息を吐く。


「……分かりました」


その返事を聞いて、セレフィーナは満足そうに微笑んだ。


「ありがとう」


そして席を立ちながら言う。


「それじゃあ三十分後に出発しましょう

 準備が整ったら侍女を迎えに行かせるわ」


そう言い残してセレフィーナは部屋を後にした。

ヴァルディスも苦笑しながら立ち上がる。


「妻は一度決めると譲らなくてな」


その言葉に、クラリスも苦笑するしかなかった。


朝食を終え、それぞれ席を立つ。

出発の準備をするため、一行は客室へ戻ることになった。

城の廊下を歩きながら、クラリスはふと思い出したようにルシアン達へ声を掛ける。


「そういえば、あなた達はどうするの?」


ルシアンは少し考えてから答えた。


「俺達は今日はのんびりさせてもらうつもりだ

 城の中を少し見て回るくらいだな」


ガルドも頷く。


「久しぶりに何も気にせず休めるからな」


カイルも短く答えた。


「たまにはこういう日も必要だ」


その返答にクラリスは頷く。


「そう」


そして近くにいた侍女へ視線を向けた。


「申し訳ありません

 セレフィーナ様にお伝えいただけますか?」


「はい」


侍女が一礼する。


「教会へ向かうのは私達四人だけになるとお伝えください」


「かしこまりました」


侍女は再び頭を下げた。

そのやり取りを聞いていたエリスとマリンは顔を見合わせる。

そして不思議そうに首を傾げた。


「ねぇ、お母さん

 どうして人数なんて言うの?」


エリスが尋ねる。

マリンも頷く。


「そうそう。四人だろうが七人だろうが関係なくない?」


クラリスは一瞬だけ口元を緩めた。

だが答える前に――


「ふふっ」


ミリアが笑った。

どこか悪戯を思いついた子供のような笑顔だった。


「それはね」


エリスとマリンが身を乗り出す。

だがミリアは人差し指を立てた。


「後のお楽しみ」


「えぇー!?」


二人の声が綺麗に重なる。


「教えてよ!」


「気になるじゃない!」


しかしミリアは楽しそうに笑うだけだった。


「そのうち分かるわよ」


「絶対面白がってる……」


エリスが頬を膨らませる。


「面白がってるわね」


マリンも断言した。


そんな二人を見て、クラリスとミリアは顔を見合わせる。

そして小さく笑った。


どうやら、まだ二人は気付いていないらしい。

セレフィーナが「一緒に行く」と言った時点で、教会へ向かう人数は四人では済まないことに。


その事実に気付くのは、もう少し後のことだった。



暫くして――


コンコン。


客室の扉を叩く音が響いた。

クラリスが扉を開けると、そこには侍女が立っていた。


「ご準備が整いました」


侍女は丁寧に一礼する。


「セレフィーナ様がお待ちです。こちらへどうぞ」


「分かりました」


クラリスが頷くと、一行は侍女の案内について行った。

広い廊下を進み、階段を降りる。

やがて案内されたのは、城の正面玄関――大手口だった。

そこでエリスとマリンは思わず足を止める。


「えっ……」


「うそ……」


二人の視線の先には、一台の豪華な馬車が停まっていた。

白と金を基調とした美しい車体。

側面にはレインハルト家の家紋が刻まれている。

それは間違いなく、セレフィーナを助けた時に乗っていた馬車だった。


「まさか……」


マリンが呟く。


「これに乗って行くの?」


すると後ろから聞き慣れた声がした。


「ええ、そのつもりだけれど?」


振り返ると、セレフィーナが楽しそうな笑みを浮かべて立っていた。


「せっかくですもの」


そう言いながら馬車へ向かう。


「皆さんもどうぞ」


セレフィーナは慣れた様子で乗り込んだ。

それを見てクラリスとミリアも続く。


「行きましょうか」


「そうね」


二人は特に驚いた様子もなく馬車へ乗り込んでいった。


一方――

エリスとマリンは顔を見合わせる。


「本当に乗るんだ……」


「乗るしかないよね……」


完全に緊張していた。

だが置いていかれる訳にもいかない。

二人は意を決して母親達の後を追った。

馬車の中へ足を踏み入れた瞬間――


「わぁ……」


エリスが思わず声を漏らす。


内装は想像以上だった。

ふかふかの座席。

精巧な装飾。

美しく磨かれた木材。

小さなテーブルまで備え付けられている。

まるで部屋そのものが移動しているようだった。


「すごい……」


マリンも感嘆の声を漏らす。


「これが上級貴族の馬車……」


リンデンの宿よりも豪華に見える。

二人は緊張しながら席に腰を下ろした。

そんな様子を見ていたセレフィーナは、どこか楽しそうに微笑んでいる。


「気に入ってもらえたかしら?」


「は、はい!」


「すごいです!」


二人は慌てて答えた。

その反応にセレフィーナは満足そうに頷く。


やがて全員が乗り込むと、御者へ合図が送られた。

馬車がゆっくりと動き始める。


窓の外では城門が開き、街の景色が流れ始めた。

こうしてクラリス達を乗せた馬車は、セントポルの大聖堂へ向かって進み始めるのだった。



お読みいただきありがとうございます。


今回は戦いや陰謀から少し離れた、セントポル観光のような一話となりました。

普段は旅人として街を歩くことの多いエリス達ですが、貴族の馬車から見る景色はまた違ったものだったのではないでしょうか。


また、セレフィーナも単なる貴族夫人ではなく、エリス達を気に掛けてくれる優しい人物として描いてみました。

ですが、穏やかな時間が続く一方で、水面下では少しずつ不穏な動きも広がり始めています。


次回の更新は、6月15日18時を予定してます

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