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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第五章:迫り来る影 ー 魔族の策謀と水都の試練 ー

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嵐の前の静寂  ―女神達の警告―

セントポルでの滞在は穏やかに過ぎていました。


豪華な屋敷、美しい街並み、そして久しぶりに訪れた安らぎの時間。


しかし――

平穏な日々は、いつまでも続くものではありません。


今宵、エリスは女神達から新たな言葉を告げられることになります。

風呂から上がり、それぞれ身支度を整える。

そして夕食の時間になると、従者の案内で食事の間へと向かった。


部屋へ入った瞬間――

エリスとマリンは思わず立ち止まった。


「えっ……」


「うそ……」


長いテーブルの上には、所狭しと料理が並べられていた。


挿絵(By みてみん)


肉料理。

魚料理。

色鮮やかな野菜料理。


焼きたてのパンに、香り高いスープ。


見たこともない果物や菓子まで並んでいる。


まるで祭りのようだった。


「これ……全部食べていいの?」


マリンが信じられないという顔で呟く。

近くにいた侍女が微笑んだ。


「はい。本日は皆様を歓迎するためのお食事でございます」


エリスとマリンは顔を見合わせる。

その目は完全に輝いていた。


「すごい……」


「こんなの初めて……」


一方でクラリス達は苦笑している。

もっとも、彼女達でさえ普段見るような食事ではない。

辺境伯家が、本気で客人をもてなそうとしているのが分かった。

やがて全員が席に着く。

ヴァルディスが立ち上がり、グラスを掲げた。


「改めて、セントポルへようこそ」


「そして妻を救ってくれたことに感謝する」


静かな拍手が響く。


「今宵は存分に楽しんでくれ」


その言葉を合図に、夕食会が始まった。

エリスは恐る恐る目の前の料理を口に運ぶ。


その瞬間――


「……おいしい」


思わず声が漏れた。

柔らかい肉。

口いっぱいに広がる旨味。

今まで食べてきた料理とはまるで違う。

隣のマリンも感動したような表情を浮かべている。


「これすごい!」


「こっちも美味しいよ!」


気付けば二人は次々と料理へ手を伸ばしていた。

その様子を見て、セレフィーナは楽しそうに笑う。

クラリスとミリアも、そんな娘達の姿を微笑ましく見守るのだった。



夕食を終えたエリス達は、それぞれの客室へ戻っていた。

豪華な部屋の中では、エリスとマリンがまだ興奮冷めやらぬ様子だった。


「ねぇねぇ、あのお肉すごくなかった!?」


「分かる! あんなに柔らかいお肉初めて食べた!」


「あとあのケーキ!」


「それ私も好き!」


二人はベッドに腰掛けながら、夕食の話で盛り上がっている。

その様子を見ていたクラリスとミリアは顔を見合わせた。


「楽しそうね」


ミリアが微笑む。


クラリスも小さく笑った。


「まあ、あの年頃なら仕方ないだろう」


そう言いながらも、その表情はどこか呆れている。

まるで小さな子供のようにはしゃぐ二人を見ていると、微笑ましい反面、少し可笑しくもあった。


そんな時だった。


ピッ――


微かな電子音が響く。

エリスだけが反応した。

腕輪の内側に隠している通信機が、僅かに光っていた。


(通信……?)


エリスは表情を変えないように立ち上がる。


「ちょっとお手洗いに行ってくるね」


「いってらっしゃーい」


マリンは気にも留めず手を振った。

エリスは部屋を出る。


しばらく歩き、人の気配がないことを確認すると通信機を取り出した。

光るボタンを押す。


すると聞き慣れた声が響いた。


『エルシア様』


レオネリアだった。


「レオネリア?」


エリスは思わず周囲を見回す。

誰もいないことを確認してから、小さく息を吐いた。


『手短に報告します』


レオネリアの声は真剣だった。


『シャドウウォーカー達が動いています』


エリスの表情が引き締まる。


『現在、セントポル周辺で何かを企んでいる可能性があります』


「何か分かったの?」


『まだ詳細までは掴めていません

 ですが、普段とは明らかに動きが違います』


レオネリアは続ける。


『私達でも調査を進めていますが、しばらくは警戒してください』


「分かった」


エリスも真剣な表情で頷いた。


『新しい情報が入り次第、再び連絡します』


「ありがとう」


『お気を付けください、エルシア様』


そこで通信は途切れた。

静寂が戻る。

エリスは通信機を握りしめたまま考え込む。


(シャドウウォーカー達が……)


せっかく穏やかな時間を過ごしていたのに。

胸の奥に嫌な予感が広がる。

皆に話した方がいいのだろうか。

だが、レオネリアやメルキオラの存在をどう説明すればいいのか分からない。

何より、まだ情報が少なすぎる。

下手に話して無用な不安を与えるのも違う気がした。


(もう少し様子を見よう……)


そう決めて部屋へ戻る。


部屋の中では相変わらずマリンが夕食の話で盛り上がっていた。


「エリス! あのケーキまた食べたいよね!」


「え? あ、うん……」


思わず返事が遅れる。


「どうしたの?」


マリンが不思議そうな顔をした。


「ううん、なんでもないよ」


エリスは慌てて笑顔を作った。


だが、その胸の中にはレオネリアからの警告が残り続けていた。

シャドウウォーカー。

セントポル。

不穏な動き。

それらが頭の中で何度も繰り返される。


そしてその夜――

豪華なベッドに横になったエリスは、しばらく眠れずにいた。


レオネリアからの警告。

シャドウウォーカー達の不穏な動き。

セントポルで何かが起ころうとしている。

考えれば考えるほど、不安は大きくなっていく。


だが、旅の疲れもあったのだろう。

いつしか意識はゆっくりと沈み――

眠りへと落ちていった。


……はずだった。


ふと気が付くと、周囲の景色が変わっていた。

真っ白な世界。

どこまでも続く光の空間。

見覚えのある場所だった。


「ここは……」


エリスが呟いた瞬間。


「久しぶりですね、エリス」


優しい声が響く。

振り向くと、そこには二人の女性が立っていた。


一人は女神セレネ。

そしてもう一人は、元勇者であり先代の境界の子――アテナだった。


「セレネ様……アテナさん……」


エリスは少し驚きながら二人を見る。


言われてみれば、本当に久しぶりだった。

旅に出てから様々なことがありすぎて、こうして会う機会もなかった。

セレネは穏やかに微笑む。


「元気そうで安心しました」


アテナも微笑みながら頷いた。


「頑張ってるみたいね」


そして少し羨ましそうな顔になる。


「一緒にいてくれる仲間がいるのは良いものね」


その言葉にエリスは首を傾げる。

アテナは苦笑した。


「私には、そういう人達はいなかったから」


どこか寂しそうな笑顔だった。

エリスは少しだけ考える。

確かに今の自分には仲間がいる。


マリン。

ルシアン。

カイル。

クラリス。

ミリア。

ガルド。


そしてセラ。


皆が支えてくれている。

それがどれほど幸せなことなのか、改めて実感した。


しばらく近況を話した後――

セレネの表情が少し真剣なものへ変わった。


「既に気付いているとは思いますが」


その一言で空気が変わる。


「魔族が本格的に動き始めています」


エリスも真剣な表情になった。


「やっぱり……」


セレネは静かに頷く。


「これまでの出来事は、まだ序章に過ぎません」


「今後は今まで以上に警戒してください」


隣ではアテナも頷いている。


「特に今回の件は重要よ」


その言葉にエリスは眉をひそめた。


「今回の件?」


「ええ」


アテナは真っ直ぐエリスを見つめる。


「これから訪れる出来事は、一つの大きな山場になるわ」


「乗り越えられるかどうかで、今後の流れが大きく変わる」


エリスは無意識に拳を握った。

セントポルで何かが起きる。

それだけは確かだった。

だが、何が起こるのかまでは分からない。


「私に何ができるんでしょうか……」


思わず漏れた言葉。

するとセレネは優しく微笑んだ。


「あなたは、あなたの信じる道を進めば良いのです」


アテナも続ける。


「一人で抱え込まないこと」


「それが今のあなたの強さなんだから」


その言葉に、エリスは静かに頷いた。

やがて周囲の光景が薄れていく。


「そろそろ時間ですね」


セレネの声が遠ざかる。


「気を付けてください、エリス」


「頑張りなさい」


アテナが笑顔で手を振る。


その瞬間――


世界が白い光に包まれた。



そして天界。

エリスの姿が消えた後も、セレネとアテナは静かに下界を見つめていた。

二人の視線の先には、セントポルの街が映し出されている。


「始まりますね……」


セレネが小さく呟く。

アテナも真剣な表情で頷いた。


「ここを抑えられるかどうか」


「それが今後に大きく影響するわ」


本来なら手を貸したい。

力になりたい。

だが、それは許されない。

天界の者は見守ることしかできない。

その事実が、二人にはもどかしかった。


それでも――


「信じましょう」


セレネが静かに言う。

アテナも微笑んだ。


「ええ」


「今のあの子なら、きっと乗り越える」


二人はそう信じながら、静かにエリス達の行く末を見守るのだった。


お読みいただきありがとうございます。


今回は久しぶりに、セレネとアテナが登場する夢の回となりました。


これまでエリスの旅を見守ってきた二人ですが、今回はこれまで以上に切迫した雰囲気で警告を残しています。

タイトルにもある通り、今のセントポルは「嵐の前の静寂」。

平和に見える日常の裏では、魔族達の思惑が着実に進行しています。


次回からは、いよいよ第五章の大きな山場へ向けて物語が動き始めます。

これからもエリス達の旅を見守っていただけると嬉しいです。


次回の更新は、6月12日18時を予定してます

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