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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第四章:新たな旅立ち ー 守るという覚悟 ー

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白銀の剣姫 ー 街道の襲撃と再会の馬車 ー

エリスは“境界の子”、別名――聖女。

そして同時に、元・魔族の女王。

誰も辿らなかった第三の道を、彼女は選ぶ。

セントポルへ続く街道を、エリス達はゆっくりと進んでいた。

天気は良い。

空は高く、街道には商人の荷馬車の姿も時折見える。


「もう少しでセントポルかぁ」


マリンが少し楽しそうに言う。


「大きい街なんだよね?」


「ああ。この辺りじゃ最大級だ」


ルシアンが周囲を警戒しながら答える。

そんな穏やかな空気の中――

不意に。


『……エリス』


腕輪の中から、セラの声が低く響いた。

いつもの軽さがない。

エリスの表情が僅かに変わる。


(どうしたの?)


『前の方。嫌な気配がする』


エリスは自然に視線を前方へ向けた。


『多分、人』


『隠れてる』


その言葉を聞き、エリスも意識を集中する。

風の流れ。

木々の揺れ。

街道脇の森。


すると――


(……いる)


確かに感じる。

息を潜めている複数の気配。

待ち伏せ。


その瞬間だった。

クラリスが足を止める。


「……待って」


同時に、ガルドも周囲へ視線を向けていた。


「気づいたか」


低い声。


クラリスは小さく頷く。


「ええ。おそらく盗賊か、それに類する連中ね」


その言葉に、一気に空気が引き締まった。

マリンも杖を握り直す。


「盗賊……」


カイルは既に周囲の射線を確認している。

ルシアンも静かに前方を見据えた。


「数は不明か」


『……ん?』


その時だった。

セラが再び声を上げる。


『後ろから何か来る』


(え?)


エリスが振り返る。


すると――

街道の奥から、一台の豪華な馬車が近づいてきていた。


深い紺と金で装飾された車体。

護衛らしき騎士達も同行している。


一目で分かる。

ただの商人ではない。


「かなり身分の高い相手みたいね……」


ミリアが静かに呟く。

ガルドも眉を寄せた。


「タイミングが悪いな」


このまま進めば。

あの馬車は、盗賊達の待ち伏せ地点へ入る。

ルシアンが短く言う。


「一旦端へ寄るぞ」


エリス達は街道の脇へ避け、馬車へ道を譲った。

馬車は速度を落とさない。

そのまま、待ち伏せが潜む前方へと進んでいく。


クラリスの表情が険しくなる。


「……気づいてない?」


「いや」


カイルが低く言った。


「気づいてても止まれない可能性がある」


貴族か、それに近い立場。

護衛への自信もあるのだろう。


『来るよ』


セラの声が鋭くなる。


その直後――


――バンッ!!

前方の森から何かが炸裂した。

同時に、武器を持った人影達が一斉に街道へ飛び出してくる。


「止まれぇぇ!!」


怒号が響き、馬車の前方へ丸太が倒された。

護衛騎士達が即座に馬を止める。


「襲撃だ!」


「馬車を守れ!」


金属音が響き、戦闘が始まった。

森の中から次々と現れる武装集団。

その数は異常だった。

エリス達も思わず表情を引き締める。


だが、その瞬間――

クラリスは、馬車の側面に刻まれた紋章を見ていた。


(……レインハルト辺境伯家?)


見覚えのある家紋。

見間違えるはずがない。

中までは見えなかった。


だが――


(まさか……)


一瞬、ある人物の顔が脳裏を過る。

すると前方では、既に激しい戦闘が始まっていた。

護衛達もかなりの実力者らしく応戦している。


しかし――数が多い。


「くっ、数が多すぎる!」


「馬車へ近づけるな!」


護衛の怒声が飛ぶ。

クラリスは即座に決断した。


「皆、手を貸して!」


そう叫ぶと同時に駆け出す。

迷いは一切なかった。


「クラリス!?」


ミリアが驚きながらも後を追う。

ガルドも大剣を担ぎ直した。


「仕方ねぇな!」


ルシアンも小さく息を吐く。


「全員、援護するぞ!」


エリス達も当然のように駆け出した。



戦場へ近づくにつれ、その異様さがはっきりと見えてくる。


「多っ……!」


マリンが思わず声を上げた。

百はいる。

しかも。


「……装備がおかしい」


カイルが鋭く呟く。

野盗にしては統一感がありすぎる。

粗雑ではあるが、どこか騎士団を思わせる装備。

ルシアンも眉を寄せた。


「崩れた騎士団か……あるいは私兵上がりか」


完全な素人集団ではない。

だからこそ厄介だった。

一方で、馬車側の護衛達もかなりの手練れらしい。

数で押されながらも、まだ崩れてはいない。


「馬車を守れ!」


「突破させるな!」


どう見ても、ただの貴族ではない。

中にいる人物が相当重要なのだと分かる。


だが――

エリスとマリンは僅かに動きを止めていた。

目の前にいるのは、人間。

今まで戦ってきた魔物とは違う。


「……人」


マリンが小さく呟く。

エリスも剣を握る手に力が入った。

その時。

クラリスが振り返る。


「無理して殺す必要はないわ!」


鋭い声だった。


「戦闘不能にすればいい!」


その言葉に、二人の表情が少しだけ変わる。


「……っ、うん!」


マリンが頷く。

エリスも静かに息を吸った。

完全に迷いが消えたわけではない。


それでも。

守るために動かなければならない。


「行くよ!」


エリスが地面を蹴った。

一瞬で間合いを詰め、野盗の剣を弾き飛ばした。


「なっ!?」


そのまま足払い。

体勢を崩した相手を柄で打ち抜き、気絶させる。

マリンも風魔法を放つ。


「エアブラスト!」


突風が数人まとめて吹き飛ばした。

ルシアンは魔法で敵陣を分断。

カイルの矢が正確に武器だけを射抜く。


そして――


「どけぇぇぇ!!」


ガルドの大剣が地面ごと敵を薙ぎ払った。


圧倒的だった。

数では負けている。

だが、質が違いすぎる。

元Sランク冒険者達。

さらにエリスとマリン。

少人数とは思えない戦闘力に、野盗側は一気に崩れ始めた。


「くっ……!」


「なんだこいつら!?」


「増援じゃねぇのか!?」


動揺が広がる。


クラリスが鋭く叫ぶ。


「押し切るわよ!」


その声を合図に、一行は一気に制圧へ動いた。


戦況は完全に覆っていた。

数では勝っていても、実力差が違いすぎる。


やがて野盗達は完全に崩れ始め、武器を落とす者も増えていった。

戦況が落ち着き始めると、馬車側の護衛騎士達が素早く動き出す。


「拘束しろ!」


「逃がすな!」


騎士達は拘束具を使い、倒れた野盗達を次々と捕縛していった。


だが――


「数が多すぎるな……」


途中から拘束具が足りなくなり、後半は縄で縛るしかなくなっていた。

街道のあちこちに転がる野盗達。


ようやく周囲の空気が落ち着き始める。

すると、護衛騎士の一人がエリス達の方へ歩み寄ってきた。

年配の騎士だった。

鎧にはレインハルト辺境伯家の紋章が刻まれている。


「助太刀、感謝する」


深く頭を下げる。


「貴殿らが来なければ、かなり危険だった」


ルシアンが軽く頷いた。


「たまたま居合わせただけだ」


だが騎士は首を横に振る。


「それでもだ」


「この御恩、レインハルト辺境伯家は忘れない」


その時だった。

馬車の扉が静かに開く。

中から、一人の女性が姿を現した。

思わず、その場の空気が変わる。

淡い金色の髪。


落ち着いた気品ある佇まい。

纏う衣服も一目で上質と分かる。


そして何より――


護衛騎士達が即座にその女性の周囲へ位置取ったことで、その立場が明白だった。

高貴な人物。

誰の目にもそう分かる。


女性は静かに周囲を見渡し――

やがて、クラリスの姿を見つけた。


その瞬間。

女性の表情が大きく揺れる。

驚き。

そして、懐かしさ。


「……まさか」


思わず漏れた声。

女性は目を見開いたまま、一歩前へ出る。


「白銀の剣姫のクラリスでは……?」


その場の空気が、一瞬止まった。

護衛騎士達も驚いたようにクラリスを見る。


「白銀の剣姫……?」


「まさか、あの白銀の聖剣団の……?」


ざわめきが広がる。

クラリスは静かに一礼した。


「お久しぶりでございます、セレフィーナ様」


丁寧な口調。

だが、その表情にはどこか柔らかな懐かしさも浮かんでいる。


「まさか、このような場所でお会いするとは思いませんでした」


セレフィーナも小さく微笑む。


「こちらこそです」


「貴女が旅に出てから、随分経ちましたものね」


その言葉には、昔を知る者同士の空気があった。

エリスとマリンは思わず顔を見合わせる。


(王族関係の人っぽい……)


(お母さん、本当にどんな人だったの……?)


改めて、クラリス達の過去の大きさを実感する二人だった。

最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は、6月5日18時を予定してます

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