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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第四章:新たな旅立ち ー 守るという覚悟 ー

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境界へ続く道 ー セントポル前夜、交差する思惑 ー

エリスは“境界の子”、別名――聖女。

そして同時に、元・魔族の女王。

誰も辿らなかった第三の道を、彼女は選ぶ。

母親達と合流したエリス達は、その日は無理に進まず、近くの安全な場所でしばらく休息を取っていた。

久しぶりの再会ということもあり、マリンはミリアに旅の出来事を次々と話している。


「それでね、リンデンの串焼きがすっごく美味しくて!」


「あなた、ちゃんと買い出ししてたのよね?」


ミリアが半ば呆れながら言うと、マリンは視線を逸らした。


「……一応?」


「食べ歩きがメインだった気がするが」


カイルの追撃に、周囲から小さな笑いが漏れる。

そんな穏やかな時間を挟みながら、一行は再びセントポルを目指して進み始めた。



旅路そのものは、比較的順調だった。

途中、街道脇の森でトレントと遭遇したり。

夜行性のシルバーウルフの群れに襲われたりもした


以前遭遇したキメラのような異様さはなく、ルシアン達も比較的落ち着いて対処していた。

それでもエリスは、完全には気を抜けずにいた。


(あれ以来、出てこない……)


『でも、消えた感じもしない』


腕輪の中から、セラの声が静かに響く。


『まだ見られてる感じはあるよ』


エリスは小さく頷いた。


それは、エリス自身も感じていた。


距離はある。


だが、“何か”がまだ追ってきている。


そんな感覚だけが残っている。



そして翌日にはセントポルへ到着できる、という場所まで来た頃。

一行は街道から少し外れた開けた場所で、最後の野営準備を始めていた。


ただ――

以前までとは、野営の空気がかなり違っていた。


クラリス、ミリア、そしてガルド。


新たな戦力が加わったことで、準備の役割も変わっていたのだ。


「水汲みはエリスとマリンお願い」


クラリスが手際よく指示を出す。


「はーい!」


マリンが元気よく返事をした。


「私達は食材を見てくるわ」


ミリアも荷物を確認しながら続ける。


「ガルド、薪集め頼める?」


「ああ」


低く短い返答。

その隣で、カイルも静かに頷いた。


「行くぞ」


こうして、


* エリス&マリン → 水汲み

* クラリス&ミリア → 食材探し

* ガルド&カイル → 薪集め


と自然に役割が分かれていく。

ルシアンは野営地の設営と周囲警戒を担当していた。


人数が増えた分、役割分担にも余裕がある。

以前までとは違う安心感があった。



川辺へ向かいながら、マリンがぽつりと呟く。


「なんか、ちゃんとした旅って感じになったね」


「前は余裕なかったもんね……」


エリスも苦笑する。

実際、ここまでの旅はかなり慌ただしかった。


特に食事。

実際、ここまでの旅でも食事自体はちゃんと作っていた。


簡単なスープや焼いた肉。

保存食だけ、ということは流石になかった。


ただ――

味付けはかなり簡素だった。

塩を入れて煮込むだけ。

香草も最低限。


「腹に入れば問題ない」


というのが、ルシアンとカイルの基本方針だったのだ。

その話を聞いたクラリスとミリアは――


「……あなた達、それで育ち盛りの子供に旅させてたの?」


呆れたようにクラリスが言う。


「栄養自体は問題ないはずだが」


ルシアンは本気で答えていた。

ミリアは深いため息をつく。


「そういう問題じゃないのよ……」


「せめて、もう少し味を考えなさい」


「旅って、食事も大事なの」


その横で、マリンがうんうんと頷いていた。


「ほんとそれ」


「お母さん達来てから、スープめっちゃ美味しくなったもん」


エリスも苦笑しながら頷く。


「……前は薄味だったよね」


「素材の味を活かしていたと言え」


カイルが真顔で返す。


「言い方の問題でしょ、それ」


思わずマリンが笑った。

少し賑やかになった野営地。

以前より、ずっと“旅の空気”が柔らかくなっていた。


そして今、この場には。

元Sランク冒険者が四人。

さらに元騎士団所属のガルドまでいる。


普通なら、これだけで一つの最上級パーティと言っていい戦力だった。


だからこそ。

今はまだ、穏やかな時間が保たれている。

焚火の準備が進み、食材の香りが漂い始める。


だが、その平穏の裏で。

森のさらに奥。

ノクスは静かにその様子を見つめていた。


「……戦力、増加」


低く呟く。

想定以上。

それでも、その視線は冷静だった。


「だが――」


進路は、ほぼ確定した。

セントポル。


そこから先で、すべてが変わり始める。

ノクスは静かに気配を消し、再び闇の中へと溶け込んでいった。



食事を終えた頃には、空はすっかり夜の色へと変わっていた。

焚火の火が静かに揺れ、周囲を暖かな橙色で照らしている。

食後の片付けを終えると、ルシアンが全員を見回した。


「明日の予定を確認する」


自然と空気が引き締まる。


「予定通り進めば、明日の昼頃にはセントポルへ到着できるはずだ」


その言葉に、マリンの顔がぱっと明るくなった。


「いよいよ大都市かぁ……!」


エリスもどこか楽しそうに頷く。


「ちょっと緊張するかも」


今まで立ち寄った街より遥かに大きい都市。

人も多く、物も集まり、王都へ向かう重要な中継地点。

二人とも自然と気持ちが昂っていた。

そしてそこには、クラリスやミリア達が一緒にいる安心感も大きかった。


「迷子になるなよ」


カイルが静かに言う。


「ならないって!」


即座に返すマリン。

その様子に、小さな笑いが起こる。

ルシアンも少しだけ口元を緩めてから続けた。


「それと、見張りも変更する」


人数が増えたことで、これまでの四人体制ではなくなっていた。


「最初はエリスとマリン」


「次がクラリスとミリア」


「その次がガルド」


「四番手がカイル」


「最後を俺がやる」


五組体制。

その分、一人あたりの時間も短くなる。


「最初ならまだ元気な時間だね」


マリンが少し嬉しそうに言う。


「後半だと絶対眠くなってたかも」


「それは否定できないわね」


ミリアが苦笑する。


「……確かに」


エリスも小さく頷いた。

そんな穏やかなやり取りの後。


「じゃあ、先に休む」


「おやすみなさい」


それぞれ短く挨拶を交わし、クラリス達は順番にテントへ入っていった。

やがて残ったのは――

エリスとマリンの二人だけ。

焚火の音だけが静かに響いている。


「なんか、不思議だね」


マリンが空を見上げながら呟いた。


「最初は二人だけだったのに」


エリスも同じように夜空を見上げる。

無数の星が広がっていた。


「……うん」


旅に出たばかりの頃。

不安だらけだった。

キメラに襲われ、知らない街へ行き、追われるように進んできた。

でも今は違う。

仲間が増えた。

守ってくれる人達もいる。


「お母さん達いると安心するよね」


「分かる」


マリンが笑う。


「なんか、“大丈夫”って思える」


その言葉に、エリスも小さく頷いた。

しばらく二人は静かな夜空を見上げていた。

風が草を揺らし、焚火がぱちりと音を立てる。


『……今は近くにいないみたい』


不意に、セラの声が腕輪の中から響いた。

エリスだけが小さく反応する。


(そうなんだ)


『うん。でも、完全に消えたわけじゃない』


やはり、まだ追われている。

その感覚だけは消えない。


だが――


今だけは。

この穏やかな時間を大事にしたかった。


「セントポル、どんな街なんだろうね」


マリンが少し楽しそうに言う。


「美味しいものいっぱいあるかな」


思わずエリスが苦笑した。


「そればっかり」


「大事だよ?」


真顔で返され、エリスは小さく笑う。

そんな穏やかな声が、静かな夜へ溶けていった。



朝。


木々の間から差し込む柔らかな朝日と、鳥達の囀りが静かな森に響いていた。

その音で、エリスはゆっくりと目を開ける。


「……朝か」


まだ少し眠気の残る頭で身体を起こす。

隣ではマリンが気持ちよさそうに眠っていた。

エリスは小さく苦笑しながら、音を立てないように身支度を始める。


だが――

荷物を整える小さな音で、マリンがもぞりと動いた。


「んん……」


ゆっくり目を擦る。


「おはよ、エリス……」


「おはよう」


まだ少し眠そうな声に、エリスは小さく笑った。

マリンは欠伸をしながら身体を起こす。


「もう朝かぁ……」


外から聞こえる鳥の囀りに耳を傾けながら、ぼんやり呟く。


「そろそろ起きないとね……」


「うん。みんなもう起きてるかも」


「うぅ……もうちょっと寝たい……」


そう言いながらも、マリンはしっかりと身支度を始めた。

その間、エリスは外の様子へ耳を澄ませる。

昨夜の不穏な気配は、今は感じなかった。


『今のところ大丈夫そう』


腕輪の中から、セラの声が静かに響く。


(そっか)


少しだけ安心する。

やがて準備を終えた二人は、揃ってテントの外へ出た。

朝の空気はひんやりとして気持ちいい。

焚火の火はまだ小さく残っていた。

そのそばでは、ルシアンが静かに周囲を警戒している。


「おはようございます」


エリスが声を掛けると、ルシアンも軽く頷いた。


「おはよう」


「おはよーございます……」


マリンはまだ少し眠そうだった。

ルシアンはそんな二人を見て、僅かに口元を緩める。


「クラリス達なら、もう食材探しに行ったぞ」


「早いね……」


マリンが驚いたように言う。


「慣れてるからな」


実際、元Sランク冒険者達は朝の行動も早い。


「じゃあ、私達は水汲み行ってきます」


「ああ、頼む」


二人は桶を持ち、近くの川へ向かった。



川辺へ着くと、朝日が水面に反射してきらきらと輝いていた。


「なんか、今日すごく天気いいね」


マリンが空を見上げながら言う。


「うん。旅しやすそう」


二人は水を汲みながら、今日にはセントポルへ着くという話をしていた。


「どんな街なんだろうね」


「ルシアンさん達の話だと、かなり大きいみたい」


「楽しみだなぁ」


そんな会話を交わしながら野営地へ戻ると――

既にクラリス達が朝食の準備を始めていた。

鍋からはいい匂いが漂っている。


「おかえり」


クラリスが振り返る。

その横ではミリアが手際よく調理を進めていた。

そして。


「……卵?」


マリンが目を丸くする。

そこには鳥の卵まで並んでいた。


「どこで見つけたの?」


「近くに巣があったのよ」


ミリアがさらりと答える。


「流石に全部は取ってないけどね」


「すご……」


マリンが感心したように呟いた。

以前までの旅では、こんな朝食はなかった。

焼いた卵に、香草入りのスープ。

簡単な料理ではあるが、それでもかなり豪華に感じる。


「やっぱり、お母さん達来てから食事すごいよね……」


マリンがしみじみと言う。


「否定はできない」


エリスも苦笑した。

やがて全員揃って朝食を取り終えると、ルシアンが改めて今日の予定を確認する。


「予定通り進めば、昼頃にはセントポルへ到着する」


「街へ入った後は、まず宿の確保と情報収集」


「単独行動は極力避けるように」


全員が頷いた。

キメラの件もある。

警戒を解くわけにはいかなかった。

食器を片付け終えると、それぞれ荷物をまとめ始める。


やがて準備が整い――


一行は、セントポルへ向けて歩き出した。

街道の先。


その向こうに、大都市セントポルが待っていた。


最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は、6月4日18時を予定してます

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