↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第四章:新たな旅立ち ー 守るという覚悟 ー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/154

境界へ続く道 ー セントポル前夜、交差する思惑 ー

エリスは“境界の子”、別名――聖女。

そして同時に、元・魔族の女王。

誰も辿らなかった第三の道を、彼女は選ぶ。

母親達と合流したエリス達は、その日は無理に進まず、近くの安全な場所でしばらく休息を取っていた。

久しぶりの再会ということもあり、マリンはミリアに旅の出来事を次々と話している。


「それでね、リンデンの串焼きがすっごく美味しくて!」


「あなた、ちゃんと買い出ししてたのよね?」


ミリアが半ば呆れながら言うと、マリンは視線を逸らした。


「……一応?」


「食べ歩きがメインだった気がするが」


カイルの追撃に、周囲から小さな笑いが漏れる。

そんな穏やかな時間を挟みながら、一行は再びセントポルを目指して進み始めた。


⸻


旅路そのものは、比較的順調だった。

途中、街道脇の森でトレントと遭遇したり。

夜行性のシルバーウルフの群れに襲われたりもした


以前遭遇したキメラのような異様さはなく、ルシアン達も比較的落ち着いて対処していた。

それでもエリスは、完全には気を抜けずにいた。


(あれ以来、出てこない……)


『でも、消えた感じもしない』


腕輪の中から、セラの声が静かに響く。


『まだ見られてる感じはあるよ』


エリスは小さく頷いた。


それは、エリス自身も感じていた。


距離はある。


だが、“何か”がまだ追ってきている。


そんな感覚だけが残っている。


⸻


そして翌日にはセントポルへ到着できる、という場所まで来た頃。

一行は街道から少し外れた開けた場所で、最後の野営準備を始めていた。


ただ――

以前までとは、野営の空気がかなり違っていた。


クラリス、ミリア、そしてガルド。


新たな戦力が加わったことで、準備の役割も変わっていたのだ。


「水汲みはエリスとマリンお願い」


クラリスが手際よく指示を出す。


「はーい!」


マリンが元気よく返事をした。


「私達は食材を見てくるわ」


ミリアも荷物を確認しながら続ける。


「ガルド、薪集め頼める?」


「ああ」


低く短い返答。

その隣で、カイルも静かに頷いた。


「行くぞ」


こうして、


* エリス&マリン → 水汲み

* クラリス&ミリア → 食材探し

* ガルド&カイル → 薪集め


と自然に役割が分かれていく。

ルシアンは野営地の設営と周囲警戒を担当していた。


人数が増えた分、役割分担にも余裕がある。

以前までとは違う安心感があった。


⸻


川辺へ向かいながら、マリンがぽつりと呟く。


「なんか、ちゃんとした旅って感じになったね」


「前は余裕なかったもんね……」


エリスも苦笑する。

実際、ここまでの旅はかなり慌ただしかった。


特に食事。

実際、ここまでの旅でも食事自体はちゃんと作っていた。


簡単なスープや焼いた肉。

保存食だけ、ということは流石になかった。


ただ――

味付けはかなり簡素だった。

塩を入れて煮込むだけ。

香草も最低限。


「腹に入れば問題ない」


というのが、ルシアンとカイルの基本方針だったのだ。

その話を聞いたクラリスとミリアは――


「……あなた達、それで育ち盛りの子供に旅させてたの?」


呆れたようにクラリスが言う。


「栄養自体は問題ないはずだが」


ルシアンは本気で答えていた。

ミリアは深いため息をつく。


「そういう問題じゃないのよ……」


「せめて、もう少し味を考えなさい」


「旅って、食事も大事なの」


その横で、マリンがうんうんと頷いていた。


「ほんとそれ」


「お母さん達来てから、スープめっちゃ美味しくなったもん」


エリスも苦笑しながら頷く。


「……前は薄味だったよね」


「素材の味を活かしていたと言え」


カイルが真顔で返す。


「言い方の問題でしょ、それ」


思わずマリンが笑った。

少し賑やかになった野営地。

以前より、ずっと“旅の空気”が柔らかくなっていた。


そして今、この場には。

元Sランク冒険者が四人。

さらに元騎士団所属のガルドまでいる。


普通なら、これだけで一つの最上級パーティと言っていい戦力だった。


だからこそ。

今はまだ、穏やかな時間が保たれている。

焚火の準備が進み、食材の香りが漂い始める。


⸻

だが、その平穏の裏で。

森のさらに奥。

ノクスは静かにその様子を見つめていた。


「……戦力、増加」


低く呟く。

想定以上。

それでも、その視線は冷静だった。


「だが――」


進路は、ほぼ確定した。

セントポル。


そこから先で、すべてが変わり始める。

ノクスは静かに気配を消し、再び闇の中へと溶け込んでいった。


⸻


食事を終えた頃には、空はすっかり夜の色へと変わっていた。

焚火の火が静かに揺れ、周囲を暖かな橙色で照らしている。

食後の片付けを終えると、ルシアンが全員を見回した。


「明日の予定を確認する」


自然と空気が引き締まる。


「予定通り進めば、明日の昼頃にはセントポルへ到着できるはずだ」


その言葉に、マリンの顔がぱっと明るくなった。


「いよいよ大都市かぁ……!」


エリスもどこか楽しそうに頷く。


「ちょっと緊張するかも」


今まで立ち寄った街より遥かに大きい都市。

人も多く、物も集まり、王都へ向かう重要な中継地点。

二人とも自然と気持ちが昂っていた。

そしてそこには、クラリスやミリア達が一緒にいる安心感も大きかった。


「迷子になるなよ」


カイルが静かに言う。


「ならないって!」


即座に返すマリン。

その様子に、小さな笑いが起こる。

ルシアンも少しだけ口元を緩めてから続けた。


「それと、見張りも変更する」


人数が増えたことで、これまでの四人体制ではなくなっていた。


「最初はエリスとマリン」


「次がクラリスとミリア」


「その次がガルド」


「四番手がカイル」


「最後を俺がやる」


五組体制。

その分、一人あたりの時間も短くなる。


「最初ならまだ元気な時間だね」


マリンが少し嬉しそうに言う。


「後半だと絶対眠くなってたかも」


「それは否定できないわね」


ミリアが苦笑する。


「……確かに」


エリスも小さく頷いた。

そんな穏やかなやり取りの後。


「じゃあ、先に休む」


「おやすみなさい」


それぞれ短く挨拶を交わし、クラリス達は順番にテントへ入っていった。

やがて残ったのは――

エリスとマリンの二人だけ。

焚火の音だけが静かに響いている。


「なんか、不思議だね」


マリンが空を見上げながら呟いた。


「最初は二人だけだったのに」


エリスも同じように夜空を見上げる。

無数の星が広がっていた。


「……うん」


旅に出たばかりの頃。

不安だらけだった。

キメラに襲われ、知らない街へ行き、追われるように進んできた。

でも今は違う。

仲間が増えた。

守ってくれる人達もいる。


「お母さん達いると安心するよね」


「分かる」


マリンが笑う。


「なんか、“大丈夫”って思える」


その言葉に、エリスも小さく頷いた。

しばらく二人は静かな夜空を見上げていた。

風が草を揺らし、焚火がぱちりと音を立てる。


『……今は近くにいないみたい』


不意に、セラの声が腕輪の中から響いた。

エリスだけが小さく反応する。


(そうなんだ)


『うん。でも、完全に消えたわけじゃない』


やはり、まだ追われている。

その感覚だけは消えない。


だが――


今だけは。

この穏やかな時間を大事にしたかった。


「セントポル、どんな街なんだろうね」


マリンが少し楽しそうに言う。


「美味しいものいっぱいあるかな」


思わずエリスが苦笑した。


「そればっかり」


「大事だよ?」


真顔で返され、エリスは小さく笑う。

そんな穏やかな声が、静かな夜へ溶けていった。


⸻


朝。


木々の間から差し込む柔らかな朝日と、鳥達の囀りが静かな森に響いていた。

その音で、エリスはゆっくりと目を開ける。


「……朝か」


まだ少し眠気の残る頭で身体を起こす。

隣ではマリンが気持ちよさそうに眠っていた。

エリスは小さく苦笑しながら、音を立てないように身支度を始める。


だが――

荷物を整える小さな音で、マリンがもぞりと動いた。


「んん……」


ゆっくり目を擦る。


「おはよ、エリス……」


「おはよう」


まだ少し眠そうな声に、エリスは小さく笑った。

マリンは欠伸をしながら身体を起こす。


「もう朝かぁ……」


外から聞こえる鳥の囀りに耳を傾けながら、ぼんやり呟く。


「そろそろ起きないとね……」


「うん。みんなもう起きてるかも」


「うぅ……もうちょっと寝たい……」


そう言いながらも、マリンはしっかりと身支度を始めた。

その間、エリスは外の様子へ耳を澄ませる。

昨夜の不穏な気配は、今は感じなかった。


『今のところ大丈夫そう』


腕輪の中から、セラの声が静かに響く。


(そっか)


少しだけ安心する。

やがて準備を終えた二人は、揃ってテントの外へ出た。

朝の空気はひんやりとして気持ちいい。

焚火の火はまだ小さく残っていた。

そのそばでは、ルシアンが静かに周囲を警戒している。


「おはようございます」


エリスが声を掛けると、ルシアンも軽く頷いた。


「おはよう」


「おはよーございます……」


マリンはまだ少し眠そうだった。

ルシアンはそんな二人を見て、僅かに口元を緩める。


「クラリス達なら、もう食材探しに行ったぞ」


「早いね……」


マリンが驚いたように言う。


「慣れてるからな」


実際、元Sランク冒険者達は朝の行動も早い。


「じゃあ、私達は水汲み行ってきます」


「ああ、頼む」


二人は桶を持ち、近くの川へ向かった。


⸻


川辺へ着くと、朝日が水面に反射してきらきらと輝いていた。


「なんか、今日すごく天気いいね」


マリンが空を見上げながら言う。


「うん。旅しやすそう」


二人は水を汲みながら、今日にはセントポルへ着くという話をしていた。


「どんな街なんだろうね」


「ルシアンさん達の話だと、かなり大きいみたい」


「楽しみだなぁ」


そんな会話を交わしながら野営地へ戻ると――

既にクラリス達が朝食の準備を始めていた。

鍋からはいい匂いが漂っている。


「おかえり」


クラリスが振り返る。

その横ではミリアが手際よく調理を進めていた。

そして。


「……卵?」


マリンが目を丸くする。

そこには鳥の卵まで並んでいた。


「どこで見つけたの?」


「近くに巣があったのよ」


ミリアがさらりと答える。


「流石に全部は取ってないけどね」


「すご……」


マリンが感心したように呟いた。

以前までの旅では、こんな朝食はなかった。

焼いた卵に、香草入りのスープ。

簡単な料理ではあるが、それでもかなり豪華に感じる。


「やっぱり、お母さん達来てから食事すごいよね……」


マリンがしみじみと言う。


「否定はできない」


エリスも苦笑した。

やがて全員揃って朝食を取り終えると、ルシアンが改めて今日の予定を確認する。


「予定通り進めば、昼頃にはセントポルへ到着する」


「街へ入った後は、まず宿の確保と情報収集」


「単独行動は極力避けるように」


全員が頷いた。

キメラの件もある。

警戒を解くわけにはいかなかった。

食器を片付け終えると、それぞれ荷物をまとめ始める。


やがて準備が整い――


一行は、セントポルへ向けて歩き出した。

街道の先。


その向こうに、大都市セントポルが待っていた。


最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は、6月4日18時を予定してます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[[魔族の女王が転生したら聖女になっていた>https://ncode.syosetu.com/n5658ly/]] [[作者のX>https://x.com/shirokamieru?s=11]]
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。