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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第四章:新たな旅立ち ー 守るという覚悟 ー

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魔界 ー それぞれの動き ー

エリスは“境界の子”、別名――聖女。

そして同時に、元・魔族の女王。

誰も辿らなかった第三の道を、彼女は選ぶ。

少し離れた森の奥。


今までの戦いを、ノクスは静かに見届けていた。

四重核型キメラ。

グリムヴァルが調整を重ねた個体。


だが――。


「……厄介なのが増えたな」


低く呟く。

想定外だったのは、クラリス達の介入だった。

しかも、ただ人数が増えただけではない。

核破壊に必要な火力を持つ者が追加されたことで、“同時破壊”という弱点そのものを攻略されてしまった。

地下核型を突破された時点で危険視はしていた。

だが今回、四重核まで破壊されたことで状況は変わった。


「これは、一度報告する必要がある」


幸い、進路も判明している。

目的地はセントポル方面。

ノクスは懐から転移用の呪符を取り出した。

次の瞬間、その姿が森の中から掻き消える。



――魔界。


薄暗い空間。

静寂の中へ、ノクスの姿が現れる。


その先には、気配を感じさせない存在――シャドウウォーカー。


ノクスが戻った瞬間。

空間が微かに揺らいだ。


「……戻ったか」


低い声。

そして同時に、別方向からゆっくりと歩いてくる男がいた。

グリムヴァル。

どうやら、ノクスの帰還を察知して来たらしい。


「四重核型はどうだった?」


開口一番、それを聞いてくる。

ノクスは淡々と報告を始めた。


「地下核型同様、核構造は即座に看破された」


グリムヴァルの眉が僅かに動く。


「……早いな」


「加えて、新たな戦力が合流」


ノクスは続ける。


「クラリス、ミリア、ガルド。

 三名が途中介入した」


その瞬間、シャドウウォーカーの目が僅かに細くなる。


「クラリス達、か」


以前、交戦経験のある相手。

だがノクスはさらに続けた。


「四つの核は、同時に破壊された」


短い沈黙。

グリムヴァルの表情から笑みが消える。


「……四重核を?」


「はい」


「しかも、短時間で役割分担まで完了していた」


ノクスは冷静に分析を続ける。


「地下核型への対応速度も含め、戦闘中の適応能力が高い」


グリムヴァルは黙り込んだ。


四重核。


それだけでも制御は極めて困難だった。

核同士の同期。

再生との連動。

暴走抑制。


どれも調整に時間を要した。


「……これ以上、核を増やすのは現実的じゃないか」


低く呟く。


数を増やせば制御難易度も跳ね上がる。

単純な強化では、既に限界が見え始めていた。

グリムヴァルは腕を組み、深く考え込む。


「別方向から組み立て直す必要があるな……」


研究者としての思考が高速で巡っていた。

一方。

シャドウウォーカーは静かに目を閉じる。


「クラリスとミリア……」


低い声。


「以前戦った時より、明らかに能力が上がっているようだな」


ノクスも頷いた。


「少なくとも、四重核型への対応力は想定以上でした」


シャドウウォーカーは静かに考える。

エリス達だけではない。

周囲の戦力まで成長している。


「……こちらも、一度仕切り直す必要があるか」


監視。

観察。


試験投入。

その段階は終わりつつある。


次は、より本格的な対応が必要になる。

薄暗い魔界の空間で、静かに空気だけが重く沈んでいた。



――魔界の別な一角。


薄暗い岩場の上に、二つの影が立っていた。

銀髪の女騎士――レオネリア。

そして、紫紺のローブを纏う魔法使い――メルキオラ。


二人は先ほどまでのやり取りを遠目に見届け、ようやく小さく息を吐いた。


「……まさか、本当に返り討ちにするとはね」


レオネリアが呟く。

その声音には呆れではなく、どこか誇らしさが混じっていた。

メルキオラも静かに頷く。


「ええ」


「グリムヴァルのキメラを、あの短時間で」


脳裏に浮かぶのは、戦闘映像の中のエリス。


迷いなく核を見抜き、消滅させた姿。


レオネリアが小さく笑う。


「流石です、エルシア様」


その名を口にする時だけ、自然と表情が柔らかくなる。


だが――


すぐに、その顔は険しくなった。


「……でも、このままじゃ済まないわね」


メルキオラも同じ考えだった。


「ええ。グリムヴァルは確実に次を用意する」


しかも今度は。


今回の戦闘データを反映した上で。


沈黙が落ちる。


魔界の冷たい風だけが吹き抜けていった。


やがて、レオネリアがぽつりと呟く。


「そろそろ……合流も考えるべきかもしれないわね」


その言葉に、メルキオラの視線が向く。


「エルシア様達と?」


「ええ」


レオネリアは静かに頷いた。


「シャドウウォーカーまで本格的に動いてる」


「この先、今までみたいに見守るだけじゃ危険かもしれない」


メルキオラも否定しなかった。


むしろ、同じ結論に至っていた。


「ただ……問題は見た目ね」


二人は揃って、自分達の姿を見る。


魔族特有の特徴。


人族の街へそのまま入れる姿ではない。


レオネリアが真剣な顔で言った。


「変装、必要よね……」


「ええ」


メルキオラも珍しく真面目に頷く。


「かなり本格的に」


しばし沈黙。


そして。


「角、どうする?」


「隠すしかないわ」


「尻尾は?」


「……収納魔法」


「完璧じゃない?」


「問題は魔力反応ね」


二人とも大真面目だった。


だが、話している内容だけ聞けばどこかずれている。


レオネリアが腕を組む。


「服装も変えないと駄目ね」


「鎧は目立つわ」


「じゃあ普通の旅人?」


「……あなた、絶対浮くわよ」


「なんでよ」


そんなやり取りをしながらも。


二人の表情は決して軽くない。

エリスを守るため。

その考えだけは一致していた。

やがてメルキオラが静かに言う。


「急いだ方がいいわね」


「グリムヴァル、次は確実に変えてくる」


レオネリアも真剣な表情に戻る。


「ああいう男は、“対策された”だけじゃ止まらない」


「むしろ、喜ぶタイプよ」


二人とも、それをよく知っていた。

だからこそ。


静かに決意する。

今度は、遠くから見守るだけではない。


必要ならば。

再び、エルシアの剣となるために。





――魔界、魔王城。


漆黒の柱が並ぶ広大な玉座の間。

重苦しい静寂の中、その玉座に座る男がゆっくりと口を開いた。


ゼルヴァーク。


かつて宰相として魔界を支え、今や実質的な支配者として君臨する存在。

その赤い瞳が、玉座の下に立つディアゼルを静かに見下ろしていた。


「……シャドウウォーカーの動きが鈍いな」


低い声。

感情は薄い。


だが、それだけで空気が張り詰める。

ディアゼルは微動だにせず答えた。


「現在、進路の特定を優先しております

 王都へ向かうか、セントポルへ向かうかで、その後の対応が変わるためです」


ゼルヴァークは指先で玉座を軽く叩く。


「監視は理解している」


「だが、結果が遅い」


短い言葉。


それだけで圧力になる。

ディアゼルも視線を逸らさない。


「対象が予想以上に警戒能力を持っています

 シャドウウォーカーですら完全な潜伏を維持できていない」


その言葉に、ゼルヴァークの目がわずかに細まった。


「……境界の子、か」


静かな呟き。

その存在を、改めて測るような声音だった。

ディアゼルが続ける。


「加えて、同行者も想定以上です

 特に風属性の少女

 戦闘補助能力の成長が早い」


ゼルヴァークはしばし沈黙する。


やがて、低く問うた。


「グリムヴァルは?」


「既に次の調整へ入っています」


「……そうか」


玉座の間に静寂が落ちる。

やがてゼルヴァークがゆっくりと口を開いた。


「ディアゼル」


「は」


「このまま様子を見るつもりか?」


その問いに、ディアゼルは即答しなかった。

数秒の沈黙。


そして。


「……もう少し、現状を観察します」


落ち着いた声。


「進路が確定すれば、より効果的な手が打てる

 それでも成果が出ない場合は――」


そこで言葉を切る。

ゼルヴァークの視線が静かに向けられた。

ディアゼルは続ける。


「別の手段を取ります」


その瞬間。


空気が、わずかに重くなった。

ゼルヴァークは何も言わない。

ただ静かに、玉座からディアゼルを見下ろしている。


やがて――


「好きにしろ」


短い一言。


だが、それは許可だった。

ディアゼルは深く頭を下げる。


「御意」


そのまま踵を返し、静かに玉座の間を後にした。

一人残されたゼルヴァークは、薄暗い天井を見上げる。


「……境界の子」


その言葉を、ゆっくりと反芻する。

かつて世界を揺るがした存在。


そして今。

再び動き始めた、不確定な“境界”。

ゼルヴァークの瞳が、静かに細められた。


「さて……どこまで抗う」


誰に向けたでもない呟きだけが、広い玉座の間に静かに響いていた。


最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は、6月3日18時を予定してます

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