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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第四章:新たな旅立ち ー 守るという覚悟 ー

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最大の危機 ー その時 ー

エリスは“境界の子”、別名――聖女。

そして同時に、元・魔族の女王。

誰も辿らなかった第三の道を、彼女は選ぶ。

分岐点近くで野営していたこともあり、エリス達は朝からしばらく進むだけで目的の場所へ到着した。

街道はそこで大きく二つに分かれている。

左は王都方面。


そして右が――セントポル方面への街道。


「こっちだな」


ルシアンが右側の道へ視線を向ける。

全員が頷き、そのままセントポル方面へ進み始めた。

周囲は比較的開けている。


だが、ルシアンの言っていた“要注意地点”はまだ少し先のはずだった。


だからこそ――。


『……エリス』


セラの声が低くなる。


ほぼ同時に、エリスも足を止めた。


「……何か変」


胸の奥がざわつく。


空気が妙に重い。

周囲には何も見えない。


だが、確かに“いる”。

その瞬間だった。


――ズズズッ!!

地面が大きく揺れた。


「っ!?」


マリンが息を呑む。

直後、森の奥から巨大な影が飛び出した。


「またか……!」


カイルが即座に弓を構える。

現れたのは、以前遭遇したものと酷似した異形。


三つ首のキメラ。


獅子の頭。

狼の頭。

そして蛇の頭。


赤黒い肉が全身を覆い、異様な脈動を繰り返している。


だが――以前と圧が違った。


明らかに魔力が濃い。


「前の個体より強いぞ……!」


ルシアンが険しい声を上げる。

その間にも、セラが必死に探っていた


『……っ!?』


突然、セラの声が強張る。


『エリス、まずい!』


「何!?」


『核が四つある!』


エリスの表情が凍る。


『各頭に一つずつ!

 それと、腹部にももう一つ!』


「……っ!」


以前の個体は二重核だった。

しかも同時破壊が必要だった。

それが今回は四つ。

エリスは即座に叫ぶ。


「みんな聞いて!

 核が四つある!」


「なに!?」


ルシアンの表情が変わる。


「頭に三つ!

 それとお腹に一つ!」


マリンの顔が青ざめた。


「四つも……!?」


その瞬間、キメラが咆哮を上げる。


三つの頭が同時に魔力を膨れ上がらせた。


「散開しろ!」


ルシアンの叫び。


次の瞬間。


炎。

毒液。

衝撃波。


三方向から同時攻撃が放たれる。


「きゃあっ!?」


マリンが風魔法で辛うじて防ぐ。


カイルの矢が飛ぶが、キメラは強引に突進してきた。


『どうするの!?』


セラの声にも焦りが混じる。


『僕が出ても、核を壊せるのは三人!

 一つ足りないよ!』


エリスも歯を食いしばる。


エリス。

マリン。

そしてセラ。


セラを表へ出したとしても、核破壊役は三人。


四つ同時破壊には届かない。


(どうする……!?)


エリスが必死に思考を巡らせる。

四つの核。

同時破壊。

誰がどこを担当する。

どう動けば、一瞬で仕留められる。


だが――。

考えへ集中しすぎた。


「っ――!」


反応が遅れる。

気づいた時には、キメラの蛇頭が目前まで迫っていた。

避けるには間に合わない。

鋭い牙が、エリスへ向けて振り下ろされる。

その瞬間だった。


――ザンッ!!

鋭い斬撃音。

迫っていた蛇頭が、一瞬で両断された。


「……え?」


エリスが目を見開く。

そのまま、エリスの前へ一人の女性が滑り込むように立った。

長い髪を揺らしながら剣を構える、その背中。

見間違えるはずがない。


「お母さん……!」


クラリスだった。


「考え込みすぎよ、エリス」


振り返らずに言う声。

だが、その声音には確かな安心感があった。

直後。


「うわっ、相変わらずデカいの来てるわねぇ!」


聞き慣れた明るい声。

街道側から駆け込んできたミリアが、杖を構える。

その後ろには、大剣を担いだガルドの姿もあった。


「間に合ったみてぇだな」


ガルドが不敵に笑う。

突然の増援。

だが、その姿を見た瞬間。

エリスの胸に重くのしかかっていた不安が、一気に軽くなった。


(……いける)


四つの核。


エリス。

マリン。

そしてセラだけでは足りなかった。


だが――。

今なら。


「お母さん達……!」


希望が見えた。


クラリスが静かにキメラを睨む。


「詳しい話は後。

 まずはアレを片付けるわよ」


ミリアも杖へ魔力を集めながら周囲を見回した。


「エリス達、かなり厄介なのと戦ってるじゃない」


ガルドも大剣を肩へ担ぎ、不敵に笑う。


「面白ぇ。

 久々に暴れ甲斐がありそうだな」


突然の増援。


その姿を見た瞬間、エリス達の胸にあった重苦しい焦りが少しだけ薄れる。


(……いける)


四つの核。


エリスとマリンだけでは足りなかった。


だが今なら――。


「助かった」


ルシアンが小さく息を吐く。

だが次の瞬間、その表情がすぐに引き締まった。


「……いや、待て」


クラリスが一歩踏み込もうとしたところで、ルシアンが鋭く声を上げる。


「待て、クラリス!」


その声に、クラリスが動きを止めた。


「……何?」


すると――。


先ほどクラリスが斬り落としたはずの蛇頭。

その断面から赤黒い肉が蠢き始める。


「……っ」


ミリアが目を細めた。


肉が増殖し、骨格が形成され、瞬く間に蛇頭が再生していく。


数秒後には、完全に元の姿へ戻っていた。


「何これ……」


さすがのクラリスも眉をひそめる。


ルシアンは油断なくキメラを睨みながら口を開いた。


「説明は簡単だ。

 あのキメラには核が四つある」


「四つ?」


「頭に三つ。

 それと腹部に一つだ」


クラリスの表情が引き締まる。

ルシアンは続けた。


「しかも、四つ同時に破壊しないと再生する」


その説明に、クラリスは一瞬だけ目を丸くした。


「……だったら、四人いるなら同時にやればよかったんじゃないの?」


だが、ルシアンは首を横へ振る。


「俺とカイルじゃ、核を破壊できる火力が足りない」


「っ……」


クラリスもすぐに理解した。

普通の部位なら斬れる。

だが、核だけは別。

確実に破壊し切れるだけの力が必要だった。

ルシアンが素早く戦力を整理する。


「破壊役は、クラリスとガルド。

 それと実際に核破壊の実績があるエリスとマリンだ」


ガルドが大剣を肩へ担ぎながら笑う。


「なるほどな。

 単純に数合わせじゃねぇってことか」


ミリアも状況を理解すると、すぐに杖を構えた。


「なら、少しでも成功率を上げるわよ」


足元へ大きな魔法陣が展開される。


「〈グランブレス〉!」


淡い光が一斉に全員を包み込んだ。

身体が軽くなる。

同時に、魔力と力が底上げされていく感覚。


「攻撃強化と魔力補助よ!

 長くは持たないから、一回で決めなさい!」


キメラが咆哮を上げる。

三つの頭が一斉に魔力を膨れ上がらせた。


「配置を決める!」


ルシアンが即座に指示を飛ばす。


「獅子頭はクラリス!」


「了解!」


「狼頭をガルド!」


「任せろ!」


「蛇頭はマリン!」


「う、うん!」


「そして腹部の核をエリス!」


エリスは静かに頷く。


「分かった」


全員が同時に構えた。


キメラも危険を察したのか、激しく暴れ始める。


だが、もう遅い。


「行くぞ!!」


ルシアンの声と同時。

全員が一斉に踏み込んだ。

クラリスの斬撃が獅子頭を断つ。

ガルドの大剣が狼頭を粉砕する。

マリンの極大風刃が蛇頭ごと核を切り裂いた。


そして――。

エリスは腹部へ手を向ける。


「――消えて」


腹部が音もなく消失する。

露出した最後の核。

その瞬間。

エリスの剣が閃いた。


――パキィン!!

四つの核が、ほぼ同時に破壊される。


次の瞬間。

キメラ全身を巡っていた赤黒い脈動が、一斉に崩壊した。


「ギ、ァァアアアア!!」


断末魔。

巨大な身体が黒い粒子となって崩れていく。

やがて完全に消滅すると、その場には砕けた魔石だけが残った。

静寂。


そして――。

ガルドが大きく息を吐く。


「……とんでもねぇ化け物と戦ってたんだな、お前ら」



キメラとの戦いを終えると、その場には重い静寂が残った。

黒い粒子となって崩れた肉体。

そして地面に転がる、砕けた魔石。


クラリスはその魔石を拾い上げると、眉をひそめた。


「……やっぱり、同じね」


普通の魔石とは明らかに違う。


黒く濁り、

赤黒い亀裂のようなものが内部に浮かんでいる。


ミリアも覗き込み、静かに頷いた。


「ええ……トレントの時と同じだわ」


ガルドが腕を組みながら低く唸る。

ルシアンが小さく息を吐く。


「今まで出てきた奴らも、ほとんど同じだった」


「同じ?」


ガルドが眉を上げる。

カイルも静かに口を開いた。


「普通の魔物じゃない。

 誰かが、人為的に作ってる可能性が高い」


その言葉に、クラリス達の空気も変わる。

ミリアが真剣な表情で魔石を見る。


「……魔物改造ってこと?」


「恐らくな」


ルシアンが頷いた。


「しかも、戦う度に構造が変わってる」


二重核。

移動核。

地中核。

そして今回の四重核。


明らかに、エリス達への対策として変化していた。


「厄介どころじゃないわね……」


クラリスが低く呟く。



その後、七人は周囲を警戒しつつ、戦闘場所から少し離れた場所で一旦休憩を取ることになった。

緊張が解けたことで、マリンがふと疑問を口にする。


「そういえば、お母さん達ってなんでここが分かったの?」


エリスも頷いた。


「確かに……」


かなり離れていたはずだ。

偶然通りかかったにしては、到着が早すぎる。

すると、ミリアが少し気まずそうに笑った。


「あー……それね」


マリンの鞄を指差す。

そこには、小さなお守りが付けられていた。


「それ、位置を知らせる魔道具なのよ」


「えっ!?」


マリンが目を丸くする。

慌ててお守りを手に取った。


「ぜ、全然気づかなかったんだけど!?」


「普段は反応しないようにしてたからね。

 一定以上の魔力反応とか、危険な戦闘が起きた時だけ場所が分かるようになってたの」


ミリアが苦笑する。

マリンはしばらく呆然としていたが、やがて小さく笑った。


「……でも、これのおかげで助かったんだよね」


「まあね」


ミリアも優しく笑う。


「今回ばっかりは付けといて正解だったわ」


マリンは、自分でも気づかないところまで先を読んで準備していた母親に、改めて凄さを感じていた。


その後、七人は近くで休憩を取りながら、これまでの情報を共有していく。

話題の中心になるのは、やはり今まで遭遇してきたキメラ達だった。


最初に現れた二重核型。

核が体内を巡回していた移動核型。

さらに、地中へ核を隠していた個体。

そして今回の四重核型。


話を聞くほど、クラリス達の表情も険しくなっていく。


「……完全に、戦う度に変わってるじゃない」


ミリアが小さく呟く。

ルシアンも頷いた。


「ああ。

 明らかに、こちらへの対策を進めてる」


再生能力。

異常な核構造。

そして、人為的に作られたような濁った魔石。

どれも普通の魔物では説明がつかない。

ガルドが腕を組みながら低く唸る。


「厄介なのに目ぇ付けられたな」


エリスは静かに視線を落とした。

敵は、自分達を観察している。


そして、学習している。

その不気味さが、改めて全員へ重くのしかかっていた。

森を吹き抜ける風だけが、静かに木々を揺らしていた。

最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は、6月2日18時を予定してます

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