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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第四章:新たな旅立ち ー 守るという覚悟 ー

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分岐点へ ー 静かな予兆 ー

エリスは“境界の子”、別名――聖女。

そして同時に、元・魔族の女王。

誰も辿らなかった第三の道を、彼女は選ぶ。

今度のキメラは、核そのものを地中へ隠していた。

以前は二重核。

その次は移動型。


そして今回は、本体の外へ核を退避させる構造。


まるで――。

こちらの戦い方に合わせるように、次々と姿を変えてくる。


「……本当に毎回違うね」


マリンが疲れたように息を吐く。

カイルも険しい表情のまま頷いた。


「ああ。

 完全に対策され始めてる」


ルシアンも静かに周囲を警戒していた。


「次はもっと厄介なのが来てもおかしくないな」


その言葉に、誰も否定できなかった。

エリスも小さく視線を落とす。


(次は、どんなのが来るんだろう……)


自然と胸の奥に不安が広がる。

敵は、自分達を観察している。

そして学習している。

それが分かるからこそ、不気味だった。



戦闘を終えた後、四人は周囲の安全を確認してから少し休憩を取った。

消耗は決して軽くない。


だが、いつまでも留まるわけにもいかない。

やがて準備を整えると、再び分岐点へ向けて歩き始めた。


道中も警戒は続けている。

森の気配。

地面の揺れ。

周囲の魔力。


誰も気を抜いていない。


だが――幸い、その後は何事も起こらなかった。

静かな森道を進みながら、エリスはふと頭の中へ響いた声に意識を向ける。


『……だんだん厳しくなってきたね』


セラだった。


『そろそろ、僕を表に出してもいいんじゃない?』


以前より明らかに敵は強くなっている。

このままでは、いずれエリス達だけでは対応しきれなくなる可能性もある。

エリスは少しだけ考え込む。


だが、やがて静かに首を横へ振った。


「……まだ駄目」


『えー』


少し不満そうな声。

エリスは小さく苦笑しながら続ける。


「できるだけ、セラの存在は隠しておきたいの」


『どうして?』


「向こうは、まだセラのことを知らないから」


エリスは静かに前を見る。

監視している何者か。

キメラを改良し続けるグリムヴァル。

相手は、こちらを観察して学習している。


だからこそ――。


「いざって時の切り札は、知られてない方が有利になれる」


セラはしばらく黙っていた。

やがて、小さく笑う。


『……なるほどね』


どこか納得したような声だった。


『でも、本当に危なくなったら我慢しないからね?』


「うん。

 その時は頼る」


エリスが静かに返す。

そのやり取りを終えると、再び視線を前へ向けた。


森の先。

分岐点までは、もうそれほど遠くない。


その後は、大きな襲撃もなく旅は進んでいった。


森を抜け、街道を進み続ける。


周囲への警戒は解いていない。


だが、不気味なほど何も起こらなかった。


そして――。


「見えてきたな」


前を歩いていたルシアンが小さく呟く。


エリス達も視線を前へ向けた。


遠く。


街道が左右へ分かれている場所が見える。


「……あれが分岐点?」


マリンが尋ねる。


「ああ」


ルシアンが頷いた。


「あそこから、王都方面とセントポル方面へ道が分かれる」


ようやくここまで来た。


エリスは小さく息を吐く。


だが、日もかなり傾き始めている。


ルシアンは周囲を見渡しながら言った。


「この近くに野営に使える場所がある。

 今日はそこで休むぞ」


無理に夜道を進む必要はない。


特に今は、何が起きてもおかしくない状況だった。



しばらく進むと、街道から少し外れた場所に開けた空間が見えてきた。

近くに水場もあり、周囲の見通しも悪くない。


野営には丁度良い場所だった。

四人は手慣れた様子で準備を始める。


エリスは水汲み。

マリンとカイルは薪集め。

ルシアンは周囲の警戒。


いつの間にか、それが自然な役割になっていた。

やがて焚き火が灯り、簡単な夕食が出来上がる。


今日だけでも、何度も気を張り続けていた。

地中へ核を隠したキメラ。

次々と変化していく敵。

その不気味さは、まだ全員の胸に残っている。

だからこそ、こうして無事に野営へ入れたことに、僅かな安堵もあった。


食事を終えると、ルシアンが焚き火の前で地図を広げた。


「明日の予定を確認しておく」


全員の視線が集まる。


「分岐点を越えて少し進んだ先に、注意しなきゃいけない場所がある」


ルシアンの声音が少し低くなる。


「地形的に待ち伏せしやすい場所だ。

 魔物だけじゃない。

 野盗が出ることもある」


その言葉に、マリンの表情が少し強張った。


「野盗……」


エリスも僅かに表情を曇らせる。


魔物とは違う。

人間相手の危険。

それはまた別の怖さがあった。


「とはいえ、毎回出るわけじゃない」


ルシアンは落ち着いた声で続ける。


「だが、警戒は必要だ」


カイルも静かに頷く。


「特に分岐点周辺は人の流れも多い。

 狙う側からすれば都合がいい」


エリスとマリンは顔を見合わせる。


少し不安はある。


だが――。


ルシアンとカイルがいる。

それだけで、どこか安心感もあった。

漠然とではあるが、“この二人がいれば大丈夫”と思えた。

やがて話も終わり、見張りの順番を決める。


順番はいつも通り。


最初はマリン。

次がエリス。

その後にカイル、最後がルシアン。


準備を終えると、それぞれ寝袋へ入っていく。


「おやすみ」


小さく挨拶を交わし、静かな夜が始まる。


そして――。


焚き火の前には、最初の見張り役となったマリンだけが残っていた。

揺れる炎が、静かな森を淡く照らしている。



その日の夜は、特に何事もなく過ぎていった。


森を揺らす風の音。

遠くで鳴く小動物の気配。


交代で見張りを続けながら、エリス達は静かに朝を迎える。



小鳥のさえずりが、遠くから聞こえてくる。


エリスはゆっくりと目を開けた。


薄く差し込む朝日。

まだ少し冷たい空気。


隣を見ると、マリンが静かな寝息を立てていた。


昨日の戦闘――。

地中へ核を隠した新たなキメラとの戦いもあり、かなり疲れていたのだろう。

エリスは小さく微笑む。


「……まだ寝てる」


起こすのも悪い。

そう思い、なるべく音を立てないよう静かに身支度を整える。

そして、そっとテントの外へ出た。


朝靄の残る野営地。

焚き火の前では、ルシアンが一人見張りを続けていた。

エリスに気づくと、小さく視線を向ける。


「起きたか」


「おはよう」


「ああ、おはよう」


短く朝の挨拶を交わす。

エリスは周囲を見渡した。


「夜は何もなかった?」


「異常なしだ。

 妙な気配もなかった」


その言葉に、エリスも小さく安堵する。


「そっか」


ルシアンは軽く頷いた。


「水か?」


「うん、汲んでくる」


エリスは桶を手に取り、川の方へ向かった。



朝の川辺は静かだった。

澄んだ水面を見つめながら、エリスは桶へ水を汲む。


その時だった。


『……エリス』


頭の中へ、セラの声が響く。


「セラ?」


『なんか、嫌な予感する』


珍しく、少し真面目な声音だった。

エリスは思わず苦笑する。


「……もうキメラはたくさんだよ」


『だよねぇ』


セラもげんなりしたように返す。

だが次の瞬間、少しだけ楽しそうな声になった。


『じゃあ今度は僕にやらせてよ』


「まだ駄目」


エリスは即答する。


『えぇー』


不満そうな声。


「セラのことは、まだ隠しておきたいの」


『分かってるけどさぁ……』


セラは露骨につまらなそうだった。

エリスは小さく笑いながら、水を汲み終える。



野営地へ戻る頃には、空もかなり明るくなっていた。

すると、ちょうどマリンとカイルが戻ってくるところだった。

マリンは両手に野草を抱えている。


「あ、エリス! おはよー!」


「おはよう」


カイルも軽く手を上げた。


「ちょうど戻るところだった」


どうやら、起きてすぐに野草を採りに行っていたらしい。

そのまま四人は朝食の準備を始める。

温かいスープの匂いが、朝の森へ静かに広がっていった。



食事を終えると、改めて今日の予定を確認する。

ルシアンが地図を広げた。


「今日中には分岐点を越える。

 その先の街道は、昨日話した通り注意が必要だ」


待ち伏せしやすい地形。

魔物だけでなく、野盗が現れる可能性もある場所。

全員が真剣な表情で頷いた。

やがて後片付けも終わり、野営地の痕跡を簡単に整える。


そして――。


エリス達は再び、分岐点へ向けて歩き始めた。


最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は、6月1日18時を予定してます

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