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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第四章:新たな旅立ち ー 守るという覚悟 ー

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新たな恐怖 ー 隠された核 ー

エリスは“境界の子”、別名――聖女。

そして同時に、元・魔族の女王。

誰も辿らなかった第三の道を、彼女は選ぶ。

その彼女達に新たな影が忍び寄る

その夜は、特に大きな襲撃もなく静かに過ぎていった。


森を揺らす風の音。

焚き火の爆ぜる音。


交代で見張りを行いながら、エリス達は無事に朝を迎える。



翌朝。


薄く差し込む朝日で、エリスはゆっくりと目を覚ました。

まだ少し眠気が残る中、周囲を見回す。

だが、隣にいるはずのマリンの姿がない。

代わりに、テントの外から小さな話し声が聞こえていた。


エリスは軽く身だしなみを整えると、静かにテントの外へ出る。

朝の空気はひんやりとしていた。

焚き火の残り火の近くでは、マリンとルシアンが話をしている。


「それで、お母さん本当にそんな無茶してたの?」


「してたな。

 あいつら、昔から勢いだけは凄かった」


ルシアンが苦笑混じりに答える。

どうやら、マリンは母――ミリア達の冒険者時代の話を聞いていたらしい。


エリスは二人へ近づく。


「おはよう」


「あ、エリス! おはよう!」


マリンが明るく手を振る。

ルシアンも軽く頷いた。


「早いな」


「ん……なんとなく目が覚めた」


短く挨拶を交わすと、エリスは桶を手に取った。


「水、汲んでくるね」


そう言って、一人川の方へ向かう。



朝靄の残る川辺。

静かな水面を見つめながら、エリスは桶へ水を汲む。

その時だった。


『エリス』


頭の中へ、セラの声が響く。


「セラ?」


『遠くに、薄いけど気配がある』


エリスの表情が僅かに引き締まる。


『ずっとこっちを見てる感じ。

 でも……今のところ敵意は強くないかな』


監視。


恐らく、まだ続いている。


エリスは小さく息を吐いた。


「やっぱり……」


セラは少し間を置いてから言う。


『僕、見に行ってみようか?』


だが、エリスはすぐに首を横へ振った。


「駄目」


即答だった。


「もし相手がそれを待ってたら危ない」


『……だよねぇ』


セラも納得したように返す。


『今はまだ距離もあるし、様子見って感じかな』


エリスは静かに周囲へ視線を巡らせる。


だが、朝靄の向こうには何も見えない。


ただ、“見られている感覚”だけが残っていた。



水汲みを終えて野営地へ戻ると、今度はマリンの姿が見当たらなかった。


「あれ、マリンは?」


エリスが尋ねると、ルシアンが答える。


「カイルと一緒に野草を探しに行った」


どうやら、エリスが水を汲みに行っている間に、カイルも起きてきたらしい。


「さっき起きてな。

 そのまま二人で行った」


エリスは小さく頷き、焚き火の近くへ腰を下ろした。


「それで、どんな話してたの?」


ルシアンは少しだけ遠い目をする。


「昔の話だよ。

 お前達の母親がまだ若かった頃のな」


「お母さん達って、昔からあんな感じだったの?」


エリスが尋ねると、ルシアンは苦笑した。


「ああ。

 特にクラリスは酷かった」


「お母さんが?」


少し意外そうにエリスが目を瞬かせる。


「昔に騎士をやってたからか、

 仲間を庇う時、自分のことを全く考えなくなる」


エリスは小さく苦笑した。


「……なんか想像できる」


「だろうな」


ルシアンも小さく笑う。


「昔から、危ないと思ったら真っ先に飛び出してた。

 止める側は毎回大変だったぞ」


「やっぱり……」


エリスが少し苦笑する。


その後もしばらく、ルシアンは昔の冒険譚を語っていた。


若い頃のミリア。

クラリスとの喧嘩。

無茶な依頼。

失敗談。


危険な話のはずなのに、どこか温かさがあった。


やがて。


「ただいまー!」


元気な声と共に、マリンとカイルが戻ってくる。


マリンは嬉しそうに採ってきた野草を見せた。


「いっぱい採れたよ!」


「取りすぎるなって言ったんだがな」


カイルが呆れ気味に言う。


そんなやり取りをしながら、四人は朝食の準備を始めた。



食事を終えると、今日の予定を確認する。


ルシアンが地図を広げた。


「今日中には分岐点へ到着できるはずだ」


王都方面とセントポル方面へ分かれる中継地。


そこへ辿り着けば、進路も本格的に定まる。


「引き続き警戒は怠るな」


その言葉に、全員が頷いた。

やがて後片付けも終わり、野営の痕跡を簡単に整える。


そして――。

エリス達は再び、目的地へ向けて歩き始めた。



ーー数時間経って

中継地へ向け、エリス達は街道を何事もなく進んでいた。

昨日までと変わらない森道。


だが――。


『……エリス』


セラの声が、ふいに低くなる。

ほぼ同時だった。

エリスも足を止める。


「……何、この気配」


胸の奥をざわつかせるような感覚。

魔物の気配に近い。

だが、どこか違う。


隣を歩いていたマリンが不思議そうに振り返る。


「エリス?」


その瞬間。


――ズゴォッ!!


地面が大きく盛り上がった。


「っ!?」


土を撒き散らしながら、“それ”が地中から姿を現す。

挿絵(By みてみん)


「なんだ、あれは……!」


カイルが即座に弓を構えた。

現れたのは、樹木型の魔物。

見た目だけなら、トレントに近い。


だが――異様だった。


全身は黒ずんだ樹皮に覆われ、枝の至る所からサボテンのような鋭い棘が突き出している。

幹の内部では、赤黒い脈動が不気味に蠢いていた。


そして何より。

普通のトレントにある自然な生命感が、一切ない。

まるで“何か”を無理矢理繋ぎ合わせたような不快感。


「また新種か……!」


ルシアンが険しい顔をする。

その時だった。


『……おかしい』


セラの声。


『核が見えない』


エリスの表情が変わる。


「え……?」


『探ってるけど、どこにもない!

 核反応そのものが感じられないんだ!』


普通のキメラなら、必ず核がある。


前回は二重核。

昨日は循環移動型。


だが今回は違う。

“核そのものが存在しない”。


「そんなの……あり得るの?」


マリンが不安げに呟く。

その瞬間。

トレント型の魔物が腕を振り上げた。

無数の棘が射出される。


「散れ!」


カイルが叫ぶ。

四人が即座に飛び退いた。

棘が地面へ突き刺さる。


直後――。

ドゴォッ!!

突き刺さった場所が爆ぜた。


「爆発した!?」


マリンが息を呑む。

ルシアンが即座に魔法陣を展開する。


「〈フレアランス〉!」


炎槍が魔物の胴体を撃ち抜いた。

樹皮が焼け、幹が大きく崩れる。


だが――。

焼けた部分から赤黒い蔦が蠢き、瞬く間に再生していく。


「また再生か……!」


エリスが舌打ちする。

すぐさま剣を抜き、一気に間合いへ踏み込む。

横薙ぎ。

黒い樹皮ごと両断。


だが。


切断面から赤黒い組織が伸び、即座に繋がり直る。


「っ……!」


『やっぱり核がない!』


セラの声にも焦りが混じる。


『これ、どうなってるの!?』


マリンが炎魔法を放つ。


「ファイアボール!」


爆炎が魔物を包み込む。

木の魔物なら本来有効なはず。


だが――。

炎の中でさえ、赤黒い蔦が蠢いていた。

燃えながら再生している。


「嘘でしょ……」


マリンの顔が青ざめる。

カイルも険しい顔で呟く。


「核がないなら、どう止める」


誰も答えられなかった。

これまでのキメラとは根本から違う。

核破壊という攻略法そのものが、通用しない。


目の前の異形が、不気味な軋み声を上げる。


『待って、エリス!』


セラの声が響く。


『まだ探る!』


トレント型の魔物は、不気味な軋み音を立てながら枝を振るう。

無数の棘が飛来する中、エリス達は回避を続けていた。

その最中も、セラは感覚を集中させている。


『核がないなんて、おかしい……!

 絶対どこかにあるはずなんだ!』


エリスも魔物を観察する。


その時だった。


「……根?」


エリスが目を細める。

魔物の足元。

黒ずんだ幹の下から、赤黒い根のようなものが地中へ伸びていた。


しかも。

戦闘中も僅かに脈動している。


『……っ!』


セラも同時に気づく。


『地中!』


エリスは即座に叫ぶ。


「セラ、地下を探れる!?」


『やってみる!』


セラの意識が一気に地面の奥へ潜っていく。

その間にも、魔物が再び枝を振り上げた。


「来るぞ!」


カイルの矢が飛ぶ。

枝を撃ち落とすが、即座に再生。

ルシアンの炎魔法も、完全には止められない。


『……あった!』


セラが叫んだ。


『地下二メートルくらい!

 根の先に、核っぽい反応がある!』


エリスの表情が変わる。


やはり。


本体ではなく、地中側に核を隠していた。


(でも、どうやって……)


地中二メートル。

剣では届かない。


その時、エリスはハッと顔を上げた。


『マリンの土魔法!』


「……それだ!」


エリスはすぐに振り返る。


「……マリン!」


突然呼ばれ、マリンが振り返る。


「えっ?」


「土魔法で地面を掘れる!?」


その言葉だけで、マリンも察した。


「地下に核があるの!?」


「うん!

 掘り起こして!」


マリンの表情が一気に引き締まる。


「分かった!」


すぐに杖を構える。


足元へ魔法陣が展開された。


「〈アースブレイク〉!」


地面が激しく揺れる。


直後――。


ドゴォッ!!


土が一気に吹き飛び、地面が大きく抉れた。

地下へ伸びていた根が露出する。

その中心。

赤黒く脈動する球体が、地中から姿を現した。


『核だ!!』


セラが叫ぶ。

その瞬間、魔物本体が激しく暴れ始める。

まるで核を守ろうとしているようだった。


だが――遅い。


エリスは既に踏み込んでいた。


「はぁっ!!」


銀閃。

振り下ろされた剣が、露出した核を正確に捉える。


――パキィン!!

硬質な音と共に、赤黒い核が砕け散った。


次の瞬間。

暴れていたトレント型の魔物が、不自然に動きを止める。

赤黒い脈動が崩壊していく。


全身の棘が次々と砕け落ち、巨大な身体が黒い粒子となって崩れていった。


静寂。

最後に残ったのは、砕けた黒い魔石の破片だけだった。


『……隠してたんだ』


セラが低く呟く。


『核そのものを、本体の外に』

最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は、5月29日18時を予定してます

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