表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第四章:新たな旅立ち ー 守るという覚悟 ー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/71

束の間の休息 ー 戦いを終えて ー

エリスは“境界の子”、別名――聖女。

そして同時に、元・魔族の女王。

誰も辿らなかった第三の道を、彼女は選ぶ。

戦いを終えたエリス達は、街道から少し離れた場所で休憩を取っていた。


周囲を警戒しながらも、ひとまず戦闘の緊張は解けている。


だが、空気は重かった。


先ほど倒したキメラ――。

あの異常な魔物について、四人は情報を整理していた。


「……前の個体より、明らかに厄介だったな」


ルシアンが低く呟く。


カイルも静かに頷いた。


「ああ。

 再生だけじゃない。

 核そのものが動いていた」


普通の魔物ではあり得ない。


以前戦った個体は、二つの核を同時に破壊しなければならなかった。


だが今回の個体は違う。


核そのものが体内を巡回し、狙いを定めさせない構造になっていた。


マリンも不安げな表情を浮かべる。


「次は、また違うのが出てくるかもしれないってことだよね……?」


その言葉に、誰もすぐには返せなかった。


エリスは静かに俯く。


(……間違いなく、私達に合わせてきてる)


あのキメラは偶然ではない。


前回の戦闘を踏まえた上で、改良されていた。


それが意味することは一つだった。


誰かが、自分達を観察している。


『しかも、まだ試作段階っぽいんだよねぇ……』


頭の中で、セラが小さく呟く。


その声にも珍しく軽さがなかった。


ルシアンは地図を広げながら息を吐く。


「予定では、今日中に分岐点へ着くはずだった」


王都方面とセントポル方面へ分かれる中継地点。


順調なら、夕方頃には到着できる距離だった。


だが――。


ルシアンは仲間達を見る。


マリンは魔力消費が激しい。

カイルも連続射撃で消耗している。


そしてエリスも、表情こそ変わらないが、確実に疲弊していた。


「この状態で進むのは危険すぎるな」


カイルが短く言う。


ルシアンも頷いた。


「多少時間がかかっても、安全を優先する」


そう言って地図を折りたたむ。


「今日はもう少しだけ進んだら野営にする」


マリンが少しだけ安堵したように息を吐いた。


「……それがいいと思う」


エリスも静かに頷く。


正直、今は誰も“次が来ない”とは思えていなかった。

森を吹き抜ける風が、不気味なほど静かに木々を揺らしていた。


エリス達は休憩を終えると、再び街道を進み始めた。

空は少しずつ赤く染まり始めている。


本来なら、今日中に分岐点へ到着する予定だった。

だが、先ほどの戦闘での消耗は大きい。


無理に進めば、次に何かあった時の対応が遅れる。

そのため、ルシアンは早めに野営を行う判断を下していた。


しばらく進んだ後。

街道から少し外れた場所に、小さく開けた平地を見つける。


近くには川もあり、周囲の見通しも悪くない。


「……ここなら野営に使えそうだな」


ルシアンの言葉に、全員が頷いた。


手慣れた様子で、それぞれ役割に分かれる。


エリスは水汲み。


マリンとカイルは食材と薪探し。


そしてルシアンは周囲の警戒。


既に自然と役割が定着していた。



川辺。


夕日に照らされた水面が静かに揺れている。


エリスは桶へ水を汲みながら、小さく息を吐いた。


(今日は、本当に色々あったな……)


移動する核を持つキメラ。


誰かに監視されている感覚。


そして、確実に強くなっていく敵。


考えがまとまりきらない。


その時だった。


――ブルッ。


腰のポーチの中で、微かな振動が走る。


エリスはすぐに気づいた。


「……通信機?」


メルキオラから渡された小型の魔導通信機。


取り出すと、中央のボタンが淡く光っている。


エリスは周囲を確認してから、静かにボタンへ触れた。


「……はい」


次の瞬間。


『――エルシア様』


通信機から、落ち着いた女性の声が響く。


レオネリアだった。


「レオネリア?」


『今、お時間よろしいでしょうか』


その声音はいつも通り冷静だった。


だが、どこか張り詰めている。


エリスの表情も自然と引き締まる。


「何かあったの?」


短い沈黙。


そしてレオネリアが低く告げた。


『……グリムヴァルが、本格的に動き始めています』


エリスの目が細くなる。


予想していた。


だが、実際に言葉として聞くと重みが違う。


『今回のキメラ。

 恐らく、エルシア様が“核”を認識できているかを確認する目的だったと思われます』


エリスは静かに息を呑む。


やはり――。


『敵側は、既に核の存在が看破されたことを察知しています』


レオネリアの声が続く。


『そのため、次は何らかの対策を施してくる可能性が高い、と』


エリスは黙って耳を傾ける。


川の水音だけが静かに響いていた。


『先ほど、グリムヴァル本人の発言も確認しました』


レオネリアの声が、わずかに低くなる。


『“核そのものを変質させる”

 あるいは、“消滅”への耐性を持たせる可能性があります』


その瞬間。


エリスの表情が僅かに曇った。


(……やっぱり、来る)


ただ強い敵ではない。


こちらの戦い方を観察し、学習し、改良してくる相手。


それは今までの敵とは明らかに違っていた。


『こちらでも引き続き情報収集を行います』


レオネリアは静かに続ける。


『ですが、これまで以上に警戒してください。

 グリムヴァルは、確実にエルシア様を研究対象として見始めています』


その言葉だけ、妙に冷たく響いた。


エリスはしばらく黙ったまま、水面を見つめる。


やがて、小さく頷いた。


「……分かった。

 知らせてくれてありがとう」


『はい。

 どうか、お気をつけて』


通信が途切れる。

淡い光が消え、再び静寂が戻った。


エリスは通信機を静かに握りしめる。

夕暮れの風が、川辺を静かに吹き抜けていた。


エリスは通信を終えると、静かに息を吐いた。

まだ胸の奥に重い感覚は残っている。


だが、今は考え込みすぎても仕方がない。

エリスは桶へ改めて水を汲むと、そのまま野営地へ戻っていった。



しばらくして。

茂みをかき分ける音と共に、マリンとカイルが戻ってくる。


「ただいまー!」


マリンは両手いっぱいに薪を抱えていた。

カイルの方も、採取した野草やキノコを袋へ詰めている。


「結構採れたな」


「キノコいっぱいあったよ!」


嬉しそうに見せてくるマリンに、ルシアンが少し目を細めた。


「毒は?」


「ちゃんとカイルが確認した!」


「当たり前だ」


カイルが呆れたように返す。

そんなやり取りをしながら、四人は夕食の準備を始めた。

簡素ではあるが、温かいスープの匂いが広がっていく。



夜。


焚き火を囲みながら、四人は夕食を取っていた。

採ってきた野草とキノコを使ったスープは悪くない。


だが――。


「……やっぱりリンデンのご飯、美味しかったよね」


マリンがぽつりと呟く。

エリスも小さく頷いた。


「分かる。

 あのお肉料理、また食べたい……」


「あと甘いのも!」


「ケーキ美味しかったなぁ……」


二人して少し遠い目になる。

すると、向かい側でカイルが小さく鼻で笑った。


「お前ら、完全に食べ物の話ばっかりだな」


「だって美味しかったんだもん」


マリンが即座に返す。

エリスも真面目な顔で頷いた。


「旅の楽しみは大事」


「はいはい」


カイルは肩を竦める。


「子供か」


その一言に、エリスとマリンが同時に反応した。


「子供じゃない!」


「失礼だよね!?」


二人揃って口を尖らせる。

その様子を見て、カイルがさらに笑った。


「ほら、そういうところが子供なんだよ」


「むぅ……!」


「カイルさんひどい!」


ますます不満そうになる二人を見て、ルシアンが呆れ半分に溜息を吐く。

だが、その表情は少しだけ柔らかかった。


先ほどまでの重苦しい空気が、少しだけ和らいでいた。



食事を終えると、焚き火の傍で温かい茶を飲みながら今後の予定を確認する。

ルシアンが地図を広げた。


「順調なら、明日には分岐点へ着く」


王都方面とセントポル方面へ分かれる中継地。

そこまで行けば、ひとまず大きな街道から外れることはない。


「ただ、今日みたいな襲撃がまたある可能性は高い」


ルシアンの声に、全員の表情が引き締まる。


「警戒は今まで以上に必要だな」


カイルも頷いた。


その後、見張りの順番を決める。


「前回と同じでいくか」


ルシアンの言葉に、全員が頷く。

最初はマリン。

次がエリス。


その後にカイル、最後がルシアン。

順番が決まると、四人は手早く後片付けを済ませていく。

やがて準備が終わり、それぞれ寝袋へ入っていった。


「おやすみ」


「おやすみなさい」


小さく挨拶を交わす。


そして――。


最初の見張りとして、マリンが焚き火の傍へ腰を下ろした。

静かな夜風が、森をゆっくりと揺らしていた。

最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は、5月28日18時を予定してます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://ncode.syosetu.com/n5658ly/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ