白銀の聖剣団 ー 語られる伝説とセントポルへの道 ー
エリスは“境界の子”、別名――聖女。
そして同時に、元・魔族の女王。
誰も辿らなかった第三の道を、彼女は選ぶ。
クラリスは、どこか困ったように微笑みながらセレフィーナの前へ歩み寄った。
そして静かに片膝をつく。
「お久しぶりでございます、セレフィーナ様」
その姿に、周囲の騎士達も思わず姿勢を正した。
クラリスは少し照れたように苦笑する。
「“白銀の剣姫”など、もう昔の話です
今はただの冒険者であり……母親ですよ」
そう言って、後ろにいるエリスへ視線を向ける。
その柔らかな表情は、先ほどまで戦場を駆けていた剣士の顔とはまるで違っていた。
だがセレフィーナは、小さく首を横に振る。
「そんなことありません」
静かに微笑みながら続けた。
「貴女は今でも、私にとって憧れの剣士です」
そして。
「どうか立ち上がってください
昔のように、もっと気軽に話してくださって構いませんよ?」
その言葉に、クラリスは流石に困ったような表情になる。
「いえ……流石にそれは」
苦笑交じりの返答。
昔は確かに違った。
まだセレフィーナが幼かった頃。
クラリス達が王都へ滞在していた時期もあり、その頃は今ほどかしこまった話し方ではなかったのだ。
だが今は立場が違う。
流石に昔のようにはいかない。
そんな空気が、二人の間にはあった。
一方で――
周囲の護衛騎士達は、未だ動揺を隠せずにいた。
「本当に……白銀の剣姫なのか……?」
「まさかこんな場所で……」
特に年配の騎士達ほど、その衝撃は大きかった。
騎士団時代は、白銀の剣姫。
そして、冒険者時代は、白銀の聖剣団。
その名は、今なお武勇伝として語り継がれている。
魔物討伐。
戦場での逸話。
一騎で戦況を覆した話まで残っていた。
だからこそ。
先ほどの圧倒的な戦闘にも納得がいったのだった。
そんな中、セレフィーナがふと視線をエリス達へ向ける。
「紹介していただけますか?」
その言葉に、クラリスは「あっ」と小さく声を漏らした。
流石に話に意識が向きすぎていた。
「申し訳ありません」
クラリスはすぐに立ち上がり、一人ずつ紹介を始める。
「こちらは娘のエリスです
そして、エリスの友人のマリン
ルシアン、カイル、ミリア、ガルド」
紹介されるたび、エリス達は軽く頭を下げる。
セレフィーナは穏やかに微笑みながら、それぞれへ視線を向けた。
だが、ルシアンとカイルの名を聞いた瞬間。
護衛騎士達の間に再びざわめきが走る。
「ルシアン……?」
「まさか、“蒼導”のルシアンか?」
「それに、“鷹の目”のカイルまで……?」
どう考えても、普通の旅人ではない。
セレフィーナも小さく目を見開いていた。
「白銀の聖剣団の方々が、これほど揃っているなんて……」
そしてクラリスが続ける。
「私達も、目的地はセントポルです」
その言葉を聞いたセレフィーナの表情が少し真剣になる。
先ほどの襲撃を思い出したのだろう。
「……でしたら、お願いがあります」
護衛騎士達も静かに耳を傾ける。
「今回の襲撃の件もあります
どうか、セントポルまで護衛をお願いできないでしょうか
もちろん、正式な依頼として報酬もお支払いします」
クラリスはすぐには返答せず、ルシアン達へ視線を向けた。
ルシアンは小さく肩をすくめる。
「俺は構わん」
「異論なし」
カイルも短く答える。
ミリアとガルドも頷いた。
それを確認すると、クラリスは改めてセレフィーナへ向き直る。
「分かりました
その依頼、お受けいたします」
その言葉に、セレフィーナは心から安堵したように微笑んだ。
「ありがとうございます」
こうして――
エリス達は、レインハルト辺境伯家の護衛として共にセントポルへ向かうことになった。
⸻
一連の会話を聞いていたエリスとマリンは、完全に呆気に取られていた。
「……ねぇ」
マリンが小声でエリスへ耳打ちする。
「お母さん達、思ってたより凄い人達じゃない?」
「……うん」
エリスもまだ少し信じ切れていなかった。
白銀の剣姫。
白銀の聖剣団。
護衛騎士達の反応を見る限り、ただ有名というレベルではない。
特にクラリス。
年配の騎士達の表情には、明確な“畏れ”すら混じっていた。
(お母さんって……そんなに有名だったんだ)
今まで見てきたのは、優しくて、少し厳しくて、料理もできる母親としての姿。
だが今目の前にいるのは。
かつて名を轟かせた英雄の一人だった。
マリンも小さく苦笑する。
「ミリアおばさん達も普通じゃないとは思ってたけど……」
「想像以上だったね……」
そんな二人の様子を見て、ルシアンが少しだけ笑った。
「今更気づいたのか」
「いや、だって……」
マリンが言い返そうとするが、否定材料がない。
実際、百人規模の野盗相手に押し返していたのだ。
普通なわけがなかった。
⸻
その後。
護衛騎士達は素早く動き始めていた。
野盗達の数が多すぎる。
この場だけでは処理しきれない。
「先行してセントポルへ向かえ!」
年配の騎士が指示を飛ばす。
「衛兵隊へ状況を報告!回収部隊を要請しろ!」
「はっ!」
数名の騎士がすぐに馬へ乗り、セントポルへ向けて駆け出していった。
一方で、現場には最低限の見張り役だけを残す。
「お前達はここで監視を続けろ
回収部隊が来るまで、絶対に逃がすな」
「了解!」
残ったのは二名ほど。
拘束された野盗達の監視役としてその場へ残る。
そして、それ以外の護衛騎士達は再び隊列を整え始めた。
「セレフィーナ様をお守りしろ!」
護衛対象を失うわけにはいかない。
むしろ、襲撃直後だからこそ護衛戦力は必要だった。
そして――
セレフィーナの一行は、再びセントポルへ向けて進み始める。
エリス達も同行することになった。
「こちらへどうぞ」
護衛騎士に案内され、エリス達は騎士達が使っていた馬車へ乗り込む。
「うわ……広い」
マリンが素直に感心する。
今までの旅とは違う。
座席もしっかりしていて、揺れも少ない。
そんな中。
クラリスも乗り込もうとした時だった。
「クラリス」
セレフィーナが馬車の窓から声を掛ける。
「こちらへ」
クラリスが少し困ったような顔になる。
「いえ、流石にそれは……」
「駄目です」
思った以上に即答だった。
セレフィーナはどこか楽しそうに微笑む。
「久しぶりなのですから
少しくらい昔話に付き合ってください」
クラリスは完全に困った表情になる。
「ですが、護衛対象と同じ馬車というのは……」
「護衛なら、むしろ近い方が安心です」
言い切られた。
周囲の護衛騎士達も、どこか微笑ましそうに見ている。
完全に逃げ道がない。
やがてクラリスは観念したように小さく息を吐いた。
「……分かりました」
そうして、クラリスはセレフィーナの馬車へ乗り込むことになった。
⸻
馬車の中では、久しぶりの再会に話が弾んでいた。
「本当に変わりませんね、クラリスは」
「セレフィーナ様こそ、立派になられました」
「昔は、剣の稽古で泣いていたのに」
「そ、それは忘れてください……!」
外からでも、時折そんな会話が漏れ聞こえてくる。
一方で。
エリス達の馬車の中でも、別の意味で盛り上がっていた。
「で?白銀の剣姫って何?」
マリンが興味津々で聞く。
「昔、王都周辺じゃかなり有名だったぞ」
ルシアンが淡々と答える。
「魔物討伐の速度が異常だった」
「単独で戦況を変えたこともある」
「母さんって、そんなに凄かったんだ……」
エリスは驚きを隠せない様子で呟いた。
カイルも静かに補足する。
「二つ名が付く時点で普通じゃない」
「ちなみにミリアも有名だったぞ」
「えっ」
今度はマリンが固まった。
「なんで誰も教えてくれなかったの……」
「聞かれなかったからな」
ルシアンがさらっと返す。
納得できるような、できないような返答だった。
そんな和やかな空気のまま、一行は街道を進んでいく。
やがて。
遠くの先に、大きな城壁が見え始めた。
「あれが……」
マリンが目を輝かせる。
巨大な城壁。
無数の建物。
人と荷馬車が絶えず行き交う大都市。
セントポル。
こうして一行は、無事にセントポルへ到着したのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございます
次回の更新は、6月8日18時を予定してます
また、第四章のまとめをこの後、19時から公開を予定しています




