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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第四章:新たな旅立ち ー 守るという覚悟 ー

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もう一つの旅

エリスは“境界の子”、別名――聖女。

そして同時に、元・魔族の女王。

誰も辿らなかった第三の道を、彼女は選ぶ。

エリス達が旅立って3日後のリンドルの南門。


早朝の空気はまだ冷たく、

街も完全には目覚めきっていない。


そんな静かな街道の前に、三人の姿があった。


クラリス。

ミリア。

そしてガルド。


旅装を整えた三人は、それぞれ門の外を見つめていた。


「……まさか、また旅に出ることになるとはね」


クラリスが小さく笑う。


その隣で、ミリアもどこか懐かしそうに目を細めた。


「昔は、依頼を受けて各地を回ってましたからね」


「ええ。

 あの頃は落ち着いて町にいる方が珍しかったわ」


二人のやり取りを聞きながら、ガルドが腕を組む。


「お前ら、本当に昔と変わらねぇな」


呆れ半分の声。


だが、その口元にはわずかに笑みもあった。


クラリスは肩をすくめる。


「そっちは?

 騎士団を辞めてからも、相変わらず一人旅ばかり?」


「ああ。

 気楽で性に合ってる」


短く答えるガルド。


クラリスとは、かつて王国騎士団で肩を並べて戦った仲だった。

だが——こうして同じパーティとして旅をするのは初めてだった。


「しかし妙な感じだな」


ガルドが言う。


「騎士団で一緒だったお前と、

 元冒険者のお前が並んで、

 今さら三人で旅とはな」


「私とミリアは昔、同じパーティだったのよ」


「へぇ?」


ガルドが少し意外そうな顔をする。


ミリアが柔らかく笑った。


「短い間でしたけどね。

 でも、クラリスは当時から無茶ばかりでした」


「ちょっと、変なこと言わないでくれる?」


「事実でしょう?」


即座に返され、

ガルドが思わず吹き出す。


「ははっ、なるほどな。

 昔のお前が想像できる」


「笑わないで」


クラリスは呆れたようにため息をついた。


だが、その空気はどこか心地よかった。


昔とは違う。

けれど、確かに懐かしい空気。


そして——今回の旅の理由は、依頼ではない。


娘たちだ。


ミリアは街道の先を見つめながら、小さく呟く。


「……もう、かなり先に進んでるでしょうね」


「エリスのことだから、

 あちこち気になって寄り道してそうだけどね」


クラリスの言葉に、少しだけ笑みが混じる。


だが、その後すぐに表情を引き締めた。


「それでも急ぎましょう。

 ギルドの話が本当なら、今の街道は危険だわ」


ガルドも頷く。


リンドルのギルドに入っていた報告。


通常より凶暴化した魔物。

群れ方がおかしい個体。

本来現れない場所への出現。


どれも見過ごせない内容だった。


「普通の旅じゃ済まなそうだ」


「だからこそ、私たちが行くのよ」


クラリスは迷いなく言った。


親として。

そして、かつて前線を生き抜いた者として。


娘たちを放ってはおけなかった。


やがて——


開門の鐘が鳴る。


重い門がゆっくりと開き、

朝日が街道を照らした。


三人は顔を見合わせる。


そして自然と、小さく笑った。


「じゃあ行きましょうか」


クラリスの言葉に、

ミリアとガルドが頷く。


こうして——


三人の旅が始まった。


娘たちを追う、

少し遅れて始まるもう一つの旅が。


クラリスたちは、エリスたちを追うために通常の街道ではなく、森を抜ける最短ルートを選んでいた。


本来なら、あまり使われない道だ。


魔物の遭遇率も高く、

護衛依頼でも避けられることが多い。


だが——


「街道を進んでたら追いつくのに時間がかかりすぎるわ」


クラリスの言葉に、ガルドも異論はなかった。


「多少危険でも、今の俺たちなら問題ねぇだろ」


ミリアも頷く。


三人とも、かつて前線を潜り抜けてきた実力者だ。

並の魔物程度なら脅威にはならない。


森の中は薄暗く、

木々の隙間から差し込む光が地面をまだらに照らしていた。


風が揺れるたび、枝葉がざわめく。


その中を、三人は慎重に進んでいく。


すると——


「……止まって」


先頭を歩いていたクラリスが足を止めた。


同時に、ガルドも周囲へ視線を走らせる。


「気配か?」


「ええ。

 近いわ」


空気が妙だった。


森の魔物特有の気配。

だが、どこか荒れている。


次の瞬間——


バキバキッ!!


木をへし折る音と共に、

巨大な影が姿を現した。


「……トレント!?」


ミリアが目を見開く。


樹木型の魔物、トレント。


本来は縄張りに入らない限り、

自分から人を襲うことは滅多にない魔物だ。


だが目の前の個体は違った。


枝を大きく振り上げ、

一直線にクラリスたちへ襲いかかってくる。


「様子がおかしい!」


クラリスが即座に横へ跳ぶ。


直後、叩きつけられた枝が地面を砕いた。


「いきなりかよ!」


ガルドが大剣を抜き放つ。


だが——


「ガルド、下がって!」


ミリアが前へ出た。


杖を構え、

魔力を一気に練り上げる。


「――ファイヤーウォール!」


轟っ!!


炎の壁が一瞬で広がる。


灼熱の炎がトレントを包み込み、

乾いた木の身体を激しく燃やしていった。


ギィィィィッ!!


耳障りな悲鳴。


暴れるように枝を振り回すが、

炎は止まらない。


やがて——


巨体は音を立てて崩れ落ちた。


森に静寂が戻る。


「……終わったか」


ガルドが剣を下ろす。


クラリスは燃え残ったトレントへ近づき、

魔石を拾い上げた。


そして——眉をひそめる。


「……何これ」


その魔石は、

黒く濁っていた。


本来のトレントの魔石なら、

もっと淡い緑色をしているはずだった。


ミリアも覗き込み、表情を曇らせる。


「こんな魔石……見たことありません」


ガルドも腕を組む。


「変異種か?」


「かもしれないわね……」


クラリスは黒く濁った魔石を見つめる。


確かに異常だった。


だが——


この時の三人は、

まだ知らなかった。


これが単なる変異ではなく、

何者かの手によって生み出された異常だということを。


トレントとの戦闘を終えた後——


クラリスたちは森の開けた場所で短く休憩を取っていた。


とはいえ、長居をするつもりはない。


「……そろそろ行きましょう」


クラリスが立ち上がる。


ミリアも杖を手に取り、

ガルドは肩に大剣を担ぎ直した。


目指すのはセントポル。


この森を抜けた先にある中継都市だ。

そしてエリスたちも、必ずそこを通る。


ミリアが教皇へ頼み、

王都での謁見に必要な書簡を受け取る場所として指定されていたからだ。


「急げば、追いつけるかもしれねぇな」


ガルドが言う。


だが三人の表情は、

どこか晴れきってはいなかった。


原因は、先ほどのトレントだ。


本来、人を積極的に襲わない魔物。

その魔石の異常。


あれが偶然とは思えなかった。


「……嫌な感じがするわね」


クラリスが小さく呟く。


ミリアも静かに頷いた。


「ええ。

 森全体の空気が、少し荒れてる気がします」


三人は警戒を強めながら、

森の中を足早に進んでいく。


すると——


ガサッ!!


前方の茂みが揺れた。


次々と現れる銀色の毛並み。


「……シルバーウルフか」


ガルドが低く呟く。


現れたのは十頭ほどの群れ。


通常でも連携力が高く、

油断できない魔物だ。


だが——


その目は妙に濁り、

低く唸る姿には明らかな殺気があった。


「こいつらも様子がおかしいな」


ガルドが大剣を構える。


一頭のシルバーウルフが、

地面を蹴って飛びかかってきた。


「来るぞ!」


ガルドは大剣を大きく振り上げ、

そのまま叩き潰すように振り下ろす。


だが——


シルバーウルフは身軽に回避した。


「チッ、速ぇな!」


その瞬間。


クラリスが地面を蹴った。


「私が行く!」


剣を抜くと同時に、

シルバーウルフの群れへ飛び込む。


鋭い斬撃が閃いた。


一瞬。


本当に一瞬のうちに——


三頭のシルバーウルフが倒れる。


「相変わらず速ぇ……!」


ガルドが思わず漏らす。


クラリスは止まらない。


翻るように次の一頭へ迫り、

喉元を正確に斬り裂いた。


同時に——


「――ファイヤーボール!」


ミリアの魔法が放たれる。


炎の球が一直線に飛び、

シルバーウルフを飲み込んだ。


爆ぜる炎。


悲鳴。


群れが一気に乱れる。


「押し切るぞ!」


ガルドが踏み込み、

大剣を横薙ぎに振るう。


凄まじい膂力。


直撃したシルバーウルフが吹き飛び、

木へ叩きつけられた。


そこからは早かった。


クラリスの剣技。

ミリアの魔法。

ガルドの圧倒的な前衛火力。


三人の連携は、

初めて組んだとは思えないほど噛み合っていた。


そして——


程なくして、

最後の一頭が地面へ倒れ伏す。


森に再び静寂が戻った。


「……終わったわね」


クラリスが剣を払う。


ミリアは倒れたシルバーウルフへ近づき、

魔石を取り出した。


その瞬間——


表情が曇る。


「……やっぱり」


黒く濁った魔石。


トレントの時と同じだった。


ガルドも眉をひそめる。


「ただの変異じゃ片付けたくねぇな、これは」


クラリスは無言で、

黒い魔石を見つめる。


胸の奥に広がる不吉な感覚。


森の異変は、

確実に広がっていた。

最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は、5月26日18時を予定してます

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